永い終焉の始まりの日⋯⋯夏休み八月 三二日 二三時 二〇分
大型モニターの前で左を見たり右を見たりしたリチャードが、カタコトになってしまった日本語を理性的な口調に戻して言った。
「[特典は、今すぐには使いません。だってそれ、一回だけですよね?]」
遠隔通信らしき女の声が答えた。UFOの、サイオニクス・コンピューター?
「[二日間の期間限定で、何度でも使えます]」
「[神運営ぃ~~……と、とにかく、慎重に検討してから、使用します]」
「[わかりました。悔いを残さぬよう、慎重にどうぞ]」
「[はい。えー議会を、これはすぐに集合して、明日にでも、どうにか]」
「[決まるまで〈メサン〉は他の都市を攻撃します]」
「[決まるまで、アタック!? アザー シティ……今から、どこを?]」
大型モニターに表示されていた市街地が縮み、実写あるいは生成映像の北アメリカ大陸となった。青い光点が、ニューヨークから放射状に何十も灯される。
「[え? ここから?]」
「[では、アタックします]」
「[そ……そそそ、そんな待っ][発射しました。標的はノーフォークです][Σ(゜Д゜)ウェイッ!?]」
光点の一つが表示を変えた。〔54〕。
ただちに数字が減り、〔53〕となる。一秒後に〔52〕。ノーフォーク着弾までの秒数だった。
「[次弾、発射しました。標的はボルチ][速いよ!?]」
ニューヨークの南西近く、黒雲の中にある光点が〔46〕に変わる。
「[わかった! 決めたッ決めたぁーッ! 特典は、モスクワ!][モスクワ!?][モス↑クワ! モス↑クワ! 便↑所戦争、決戦だッ!!][ホワイ!?]」
「うろたえるな、インペラートル」
「なに言ってんの? この人」
「[標的 モスクワの指定を却下します。次弾、発射しました。標的はアトランタ]「ナンデ!?」」
「[ネオソビエトはモスクワと上海の破壊を決定しています]「マジデ!?」[大ニューヨーク帝国の興亡において、未来にとって価値ある都市を選びなさい]」
「[いや! 急に! 急すぎ! 選べって!]」
「[次弾、発射しました。標][ゆんやーー!!]」
空耳してしまう野太い声でリチャードが「マイガーー!!」と叫ぶ。
黒雲中の数字が〔0〕となり、生じた輝きに実写的な地表ごと呑まれた。ボルチオとかいうところだ。
「[うぅおぉベイジン……いや! もうあいつらは気にしるなオワタ!\(^o^)/][オタワ!?][ホワイ!?]」
「ねえ、まだ?」
「今、いいとこだから。UFOがニューヨークに応答した」
「UFOが、そこで? テレビ会見?」
放送室が揺れ始め、日本語のやりとりを黙って聞いていた観衆がざわめく。
ニューヨークから東海岸沿いの南、細長い半島の先端が〔0〕となった。先に撃たれたノーフォークだった。
アメリカの地理など知らない与魅子には、原寸大での距離がわからない。
輝きながら黒く濁るノーフォークは、ニューヨーク~ボルチオの(ボルチオも逝っている真っ最中なわけだが)二倍ほどにある。着弾に要する時間が大差なかったことからすると、高度一〇〇〇キロメートルより、ニューヨークとノーフォークとの地表距離のほうが短い。
「[次弾、発射しました。標的はシカゴです][ヨーロッパに一撃……トライデント……ロ、ロンドン、……あーいや]」
「[警告します。そのトライデントが大西洋と太平洋から発射されました]」
「[うがああああッ! どこへッ!]」
「[進路はニューヨーク・シティ、上昇しています]」
大型モニターの北アメリカ大陸がさらに縮み、左右に大洋を映す。赤い光点が、海上の左右それぞれ五~六ヵ所に表示された。
計算中なのか、まだアメリカ製ミサイルなのだろうトライデントの弾道が確定しないのか、秒数表示はない。
「会見というか砲撃というか」
「まだ撃つの……だから歌でコミュってる?」
「なるほど、歌に反応するか試したのか。おやりになるわね、インペラートル」
「[効くんですか!? 〈メサン〉に!?]」
「[核爆弾は効きません]」
「[フヒィッ\(^o^)/ 効かないヤッターー!! ギャハハハハハ!][インペレーター!][アー ユー オケー!?]」
「大丈夫? この人」
「[アイム オッケー! トラスト ミー! トラスト ミー!]」
「[ネオソビエトは降伏した国を保護します。トライデントを撃墜しますか?]」
「[ICBM。チェック アルティ……]」
「[警告、ワイオミング州のMM4からも弾道ミサイルが発射されました][ゆんやーー!!][MM4? ICBMサイロ?][インペラートル、撃墜しますか?]」
「[はッ、はッ、はぁー! ……待ってね!!]」
リチャードが振動でよろめきながら走り、壁際にいたパツキン女を捕まえてモニターのほうへ戻った。
パツキン女の頭から、室内でもかぶっていた帽子が落ちる。髪型がセイ……NR……シニョンだ。そう三つ編みシニョン、凝った髪型とかしないから。
「[ちょっとやめないか!]」
「[速ぁーーく!]」
「さっきからなにを?」
「第三次大戦だ」
「始めてるのはセクハラとしか」
風俗嬢みたいに両手で顔を隠すパツキン女に、リチャードが本格的ガチムチ英会話の勢いでなにか言う。
パツキン女は一言だったが流暢な日本語を喋った。リチャードと愉快な同志たちのマイクでは拾えない小声となり、モニターへ指を向けて、短く応答する。
リチャードが叫んだ。
「[ニューヨークの領域、高度五〇キロまで落ちるミサイルは予測して撃墜!]」
「[わかりました。迎撃開始]」
「オッパイマイスターしながら言え」
「ゾンビ・ポカリに狂乱するガソリンスタンドの暴漢みたいに?」
「悪のインペラートルっぽく」
意を決した声で、さらにリチャードは告げた。
「[それから! 核兵器を持っている国家、軍隊、あらゆる自治体は大ニューヨーク帝国に降伏せよ! 従わなければ攻撃を、インペラートル特典で〈メサン〉に依頼する! 期限は一日……一時間だ! 一時間以内に降伏せよ!]」




