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永い終焉の始まりの日⋯⋯夏休み八月 三二日 二二時 二五分



「昇ってくる」


 エレベーターのデジタル表示は、地上側へ『40』を越えた。


「ど、どうする? 上?」

「一度、外へ出る。玄関。エントランス」


 業務用通路を走り、停止しているエスカレーターで地上一階へ。

 エスカレーターから玄関扉まで一〇メートル。玄関扉からオベリスクまで二メートル。オベリスクの高さは三メートル。

 そこにオベリスクより少し低い身長の、誰かが立っていた。なぜか逃げる経路へモンスターが先まわりしているB級ホラー映画のようなクソ展開だった。

 与魅子はキャリーバッグを段ボール箱の代わりにして、とっさに身を隠した。美沙希は与魅子の背中に隠れ、ショタコン氏はエスカレーターの一部となった。無理がある。


「八尺?」

「いや、あれ鎧……」


 オベリスクから振り向いた女の顔を、赤い光が照らす。日本人ではない。黒人でも、肌は蒼白だが白人でもない。あえて印象を述べるなら秋葉原で売っているお高い系の人形に似ていた。


「開けて」


 異様にでかい女が、一蹴りで玄関扉との距離をつめた。

 よく通る女の声がガラス越しに響く。


「入れて」

「アクロバティックサラサラ?」

「きょ、今日は閉館です!」

「関係ない。開けろ」


 でかい女の下半身は、ヒトのそれではなかった。ゴツゴツと石畳を打つ槍状のものが何本も動いている。

 ウカツにも応答した美沙希の口をショタコン氏が片手で塞ぎ、もう片手で抱えあげてエスカレーターまで退いた。与魅子にも「カモン。カモーン!」と呼びかけて、地下一階へ戻るのではなく、地上二階とつながるエスカレーターを昇る。

 与魅子は商店街の奥を見て、地下からの話し声を聞き、一階の他の出入口をあきらめ二人を追った。

 そちらから外へ出られる経路を、ショタコン氏が御存じないことはないだろう。元ネタを知りもせずに『アキラメロン』とカキコするバカ女とは違う。わかる人にしかわからない酒吞童子コスでアキバ観光を楽しむ粋人を信じる。

 与魅子が追いつくと、二人は二階内壁の扉を開こうとしていた。脳缶喫茶は石門閣の地上二階から地下一階、奥側半分を占める。機械室などを省いて描かれていた案内板の店舗では、最も広い。

 仁香からのメールには、ここの番号鍵らしき一列もある。地下の避難所へ行くか、ロサンゼルスのように爆撃されてビルごと吹き飛ぶかもしれないが喫茶店にいるか、選択肢をくれたのだ。

 出入口の錠をタブレットで照らしながら押す美沙希に警告。


「グレッグ! 下から来るぞ!」

「グレッグ?」

「誰がグレッグだ……開いた!」


 店内は本棚が並ぶ、古き良き漫画喫茶だった。

 本棚迷路は入り組んで狭く、喫茶店内の案内板があった。二階は本棚とオープン席と無料飲食物。非常階段やエスカレーターとは別の階段もある。

 玄関の女だと♡つっかえて歩けそうにない狭さが最高です☆☆☆☆☆(ゝω・)vキャピ と今なら五つ星レビューできる。

 本棚迷路を抜けると、飲食物が置かれていたらしい駄菓子屋のような店内屋台があり、その奥に業務員室。屋台の横には、かのアキラメロンされたネオ東京で見た感じのCDミュージックボックス。レトロな革張りのマッサージ椅子。黒い有線電話。壁には二〇世紀の看板。店内階段。


「なるほど、ここを一階裏口……なぜ事務室? そこ台所」


 ショタコン氏が業務員室へ突進。アコーディオンドアを開けて入ってしまった。


「モニター。モニターがある」


 屋台の売り手側まで進んだ美沙希が言った。業務員室にショタコン氏のヘッドライトとは別の明かりが点く。


「監視カメラ?」


 与魅子は店内階段から屋台へ戻った。


「映像出ました」

「よくやった、曹長」


 美沙希の背を押して屋台の横を通り、アコーディオンドアを閉めて業務員室へ入ると、ショタコン氏がモニター映像を切り替えていた。壁いっぱいに一六面が設置されている。


「店の外も見えるっていいの?」

「ビルオーナーの店だからねえ」


 モニターの一つは地下一階の業務用通路を映していた。もう一つは地上一階の玄関。さらにもう一つが正面通路エスカレーター。

 数人が暗い地下一階通路へ、明るい〝業務用エレベーター〟内から台車を出している。台車には箱がいくつも積まれていた。

 地上一階エスカレーター前に武装した歩兵が五~六人。将軍が一人。


「自衛隊? こんなときにコスプレ?」

「アーミー、……それに……書記長か」


 ロサンゼルスを焼き払うと宣告した動画の男が、秋葉原の雑居ビルへ来ている。涅黎財閥の避難所を経由してだ。

 どこからか? 荒川の謎廃墟に違いない。

 いそがしさのあまりだったのか、つい仁香は「荒川方向にアーミーがいる」と口を滑らせた。ウカツ!

 涅黎財閥とネオソビエトの鬼女板的関係が現在はどうこじれているにせよ、これで二者が同じ穴の狢であることは、アノンQ億人とUFOの出現映像と仁香の言葉をボンヤリとつなげただけの推測ではなくなった。


「知ってるの? 誰?」

「今日のビンラディンみたいな……今日の、基地司令?」


 歩兵が玄関扉を開錠し、敬礼でモン娘を迎え入れる。

 モン娘は与魅子が想像していた『身長八尺の女』より何倍もでかい。全長五メートルはある、サソリ型ロボットに乗っていた。


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