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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第三章 転生者、名案を思いつく

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9/12

シーン1

季節が一巡りする頃には、俺たちの日常は最初の頃とは随分違うものになっていた。


 依頼の格が上がっていた。


 最初の頃は薬草店の蜥蜴退治や井戸の小型魔獣駆除だったものが、今では隣街からの応援要請や、貴族からの直接依頼まで舞い込むようになっていた。セラの評判は、もう街の中だけに収まらなくなっている。冒険者ギルドの受付嬢は俺たちの顔を見るだけで、わざわざ奥から上等な依頼票を持ってくるようになっていた。


「次は南の街道の警護依頼よ」とセラが依頼票を見ながら言った。


「商隊が魔獣の被害に遭っているらしいわ。三日がかりの仕事になるけれど」


「分かった」


 俺たちはすでに、合図のやり取りに無駄がなくなっていた。杖が縦になれば準備、横に振られれば実行。詠唱の長さに合わせて魔力を調整するタイミングも、体に染み付いてきている。最初の頃は微妙にずれていたタイミングも、今ではほとんど誤差がない。


「最近、息が合ってきたわね」とセラが珍しく素直に言った。


「そうだな」


「勘違いしないで。仕事の効率の話よ」


「分かっている」


 セラはふん、と鼻を鳴らして前を向いた。耳の先が少し赤い。最近気づいたが、セラは照れると耳が赤くなる。本人はまったく気づいていないようだった。指摘したことはない。指摘すれば、もっと意地を張るだけだと分かっていたからだ。


 大通りを歩いていると、路地の隅で何かが倒れる音がした。


 振り返らなくても分かる。黒装束の二人組だ。今日は荷馬車の荷台に隠れていたらしいが、女性の方が荷台の縁に頭をぶつけたようだった。小さな呻き声と、男性の方が慌てて何かを支える気配がした。


「今の音、なに?」とセラが眉をひそめた。


「荷馬車の事故じゃないか」


 俺は素知らぬ顔で答えた。


 正直に言えば、彼らの尾行は最初の頃よりも明らかに下手になっている気がする。最初は多少なりとも緊張感があったはずなのに、今では完全に「いつものこと」として油断しているように見えた。先週は屋根から布が落ちてきたこともあったし、一昨日は明らかに変装が下手な行商人の格好で近づいてきたこともあった。


 それはそれで、悪い気はしなかった。


 誰かに見られているという緊張感は、案外、悪くないものらしい。前世では誰にも見られていない人生だった。今は少なくとも、二人組だけは俺を見ている。気づかれないように気を使われている、というのも妙な話だが。


 ——変な感慨だな、と自分でも思った。


 南の街道の依頼は三日かかった。商隊を襲っていたのは中型の魔獣の群れで、規模としては大したことはなかったが、移動を伴う仕事だった分、セラとの会話の時間が増えた。


 野営の夜、焚き火を挟んでセラがぽつりと言ったことがあった。


「私の実家、知ってる?」


「いや」


「いいわ。今は」


 それ以上は語らなかった。俺もそれ以上は聞かなかった。聞かれたくないことは、聞かれたくないなりの理由がある。前世でもそうだった。誰かの過去に土足で踏み込むのは、得意でも好きでもなかった。


 ただ、セラが珍しく自分から何かを話そうとした、ということだけは記憶に残った。


 街に戻った日の夕方、商隊の代表が深々と頭を下げて礼を言った。セラはいつも通り、鷹揚に受け取っていた。


 その夜、宿の部屋に戻ったセラが、ふと窓の外を見ながら呟いた。


「最近、視線を感じるのよね」


 俺は内心で、ああ、と思った。あの二人組のことだろう。


「気のせいじゃないか」


「そうかしら」


 セラは納得していない顔だったが、それ以上は追及しなかった。


 その視線の正体が、実はもっと別の方向からも向けられ始めていることに、俺たちはまだ気づいていなかった。


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