シーン2
その日が来たのは、何の前触れもない、ただの昼下がりだった。
大通りのちょうど中心、人通りの最も多い時間帯に、その存在は唐突に現れた。
赤みがかった金髪が陽光を受けて燃えるように輝いていた。吊り目がちな瞳には、最初から相手を見下すような色が浮かんでいる。豪奢な刺繍が施された衣装は、セラのものより明らかに格上だと一目で分かった。立ち姿だけで、周囲の視線を独占する存在感があった。すれ違う人々が、思わず足を止めて振り返るほどだった。
通行人たちのざわめきが、波のように広がっていく。
「……あれは」とセラが呟いた。声に、わずかな緊張があった。
「知り合いか」
「……」
セラは答えなかった。答えられなかった、という方が正しいかもしれない。表情が、わずかに強張っていた。
その存在は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。歩き方からして堂々としている。自分が注目される側であることに、一切の疑いを持っていない歩き方だった。周囲の人々が、自然と道を空けていく。
セラの隣に立つ俺にも分かった。これは、ただの通行人ではない。
「あら」とその少女は言った。第一声からして、明らかに見下した響きだった。「本当にいたのね、セラ。噂は聞いていたけれど、まさかと思っていたわ」
「……久しぶりね」とセラが言った。
「久しぶり、ね」少女は形だけの笑みを浮かべた。
「モンスターの大軍を単独で殲滅した、街の英雄様。その噂、私の耳にも届いているわよ」
「事実よ」
「そう」少女は興味なさげに視線を流した。
「信じられないとは言わないわ。でも——」
少女の目が、わずかに細められた。
「昔から、あなたは何をやらせても二番手だったでしょう。エルヴェイン家の落ちこぼれが、いきなり大魔法使い? 何かの間違いとしか思えないけれど」
セラの表情が、一瞬だけ強張った。
すぐに取り繕われたが、俺には分かった。今のは効いている。深く、確実に効いている。
「間違いじゃないわ」とセラは言った。声は揺れていなかった。少なくとも表面上は。
「実際に見たでしょう、私の評判を」
「噂は噂よ。この目で見たわけじゃない」
少女はそこで、ようやく俺の方に視線を向けた。
その視線は一瞬で通り過ぎた。
「あなたの従者?」と少女は興味なさげに言った。
「ふうん」
それだけだった。値踏みするほどの価値もない、とでも言いたげな視線だった。頭の先からつま先まで一瞬で評価して、価値なしと判断された。そんな感覚だった。
俺としては、それでまったく構わない。むしろ好都合だ。注目すべき相手として認識されない方が動きやすい。
むしろ、ありがたいと言ってもいい。
「噂が本当かどうか」と少女は続けた。視線をセラに戻して「確かめてみたいわ」
その言葉には、確認という以上の何かが滲んでいた。
挑戦、というよりは、品定め。あるいは、これまで積み重ねてきた力関係を確認するための、儀式のようなもの。
セラの拳が、ローブの裾の下でわずかに握られているのが見えた。




