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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第三章 転生者、名案を思いつく

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11/16

シーン3

 翌日、街の広場に人だかりができていた。


 あの少女——後で知った名前はリネット・ファルケンレイといった——が「セラの実力を確かめる」という名目で、公開の場での実演を持ちかけたのだ。断れば「噂は嘘だった」と認めることになる。セラに逃げ場はなかった。


 広場の中央には簡易の結界が張られ、その中で実演が行われることになっていた。観衆は街の住民だけでなく、リネット側が呼んだらしい数人の魔術師の姿もあった。中には明らかに高位の術者と分かる、構成を知覚する目を持った者もいる。装いだけで分かる、相応の地位にある者たちだ。


 俺は内心、少し計算を巡らせていた。


 今回は普段とは事情が違う。


 これまでの依頼は、せいぜい店主や衛兵が見ている程度だった。多少派手な魔術を使っても、構成の有無まで気にする人間はいなかった。街の人々にとって、結果さえ出ればそれでよかった。


 しかし今回は違う。


 リネットだけでなく、彼女が連れてきた術者たちも、間違いなく構成を知覚する目を持っている。セラの「詠唱」に対して「構成」が伴っていなければ、その場で全部バレる。これまでの積み重ねが、一瞬で崩れる。


 ——さて、どうするか。


「お手並み拝見させてもらうわ」とリネットが優雅に言った。広場全体に響くような、よく通る声だった。「課題は、結界内に放たれる中級魔獣三体の殲滅。制限時間は——」


「待って」とセラが言いかけた。


 声が、わずかに震えていた。


 俺はその横顔を見た。


 強がりの仮面の下で、明らかに焦りが見えた。今までの依頼とは規模が違う。観衆の質も違う。何より、リネットという「絶対に負けたくない相手」を前にして、セラの足は微かに震えていた。指先が、杖の柄を強く握りすぎている。


「セラ」と俺は小さく声をかけた。


 セラがこちらを見た。視線が一瞬、すがるような色を帯びた。


「いつも通りでいい」


 それだけ言った。


 セラは少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。表情を整え直して、もう一度前を向く。


 結界内に魔獣が放たれる。中級の角熊型、体長は人間の倍近い。三体が同時に唸り声を上げて、それぞれが違う方向に動き出した。観衆の間に小さなどよめきが起きる。中級魔獣三体同時、というのは、決して軽い課題ではない。


 セラが杖を構えた。詠唱が始まる。


 俺は魔力を集めながら、頭の中で別の作業を進めていた。


 ——構成。


 通常、俺には必要のないものだ。結果だけがあって、過程が存在しない。だが今回は、その「過程」を見せる必要がある。誰かに見られても、それらしく見える過程を。


 考えてみれば、単純な話だった。


 構成というのは、要するに術式の見た目だ。本来は魔力を組み上げる過程そのものを指すが、外側から見える部分だけを再現すればいい。順序が逆なだけだ。結果を先に出して、見た目の過程を後から取り繕う。


 ——名案だ。


 俺はセラの魔力に重ねるようにして、見せかけの構成式を組み上げた。本物の構成よりも精巧に、それらしく。詠唱のリズムに合わせて展開速度も調整する。傍目には、セラが詠唱に応じて構成を組み立てているように見えるはずだ。


 角熊型の一体が結界の縁に突進した。観衆から悲鳴が上がる。


 杖が横に振られた。


 俺は魔力を解放すると同時に、偽の構成式を完成させて見せた。


 三体の角熊型魔獣が、消えた。


 光もなく、音もなく。三体同時に、跡形もなく。


 結界内に、静寂が落ちた。


 観衆が固唾を飲んで見守る中、誰よりも早く反応したのはリネットだった。


「……」


 リネットの目が、わずかに見開かれていた。構成を知覚する目で、何かを捉えたはずだ。眉間にかすかな皺が寄っている。


「今の構成……」とリネットは呟いた。「妙に、精巧すぎない?」


 その呟きは小さく、観衆には届かなかった。隣にいた術者の一人が「何か?」と尋ねたが、リネットは小さく首を振っただけだった。


 しかしリネットは、それ以上深くは追及しなかった。確証がなかったのか、あるいは「まさか」という気持ちが勝ったのか。あの落ちこぼれが、これほど精緻な構成を組めるはずがない——そういう前提が、皮肉にも疑念に蓋をした。


「……認めるわ」とリネットは表情を消して言った。「噂は、本当だったみたいね」


 観衆から歓声が上がった。誰かが拍手を始め、それが広場全体に広がっていく。


 セラは杖を下ろして、肩で小さく息をついていた。表面上は涼しい顔を保っていたが、その手が、わずかに震えていた。


 俺は一歩下がった位置から、その様子を見ていた。


 ——我ながら、悪くない思いつきだった。


 ぶっつけ本番にしては、上出来だ。


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