表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第三章 転生者、名案を思いつく

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/19

シーン4

夜、宿に戻ったセラは、珍しく口数が少なかった。


 俺が夕食の片付けを終えて部屋に戻ると、セラは窓際の椅子に座って、ぼんやりと外を眺めていた。蝋燭の灯りが、横顔に淡い陰影を作っている。


「……今日のあれ」とセラが、振り返らずに言った。「何をしたの」


「構成を見せかけた」


「見せかけた?」


「あなたの詠唱に合わせて、それらしい構成式を後から組んだ。本物の構成より精巧に見えるように」


 セラは少しの間、黙っていた。


「……そんなこと、できるの」


「できる、と分かった。今日初めてやった」


「初めて?」セラは振り返った。目を見開いている。「ぶっつけ本番だったということ?」


「そうだ」


 セラは何か言いたそうな顔をしたが、結局、深いため息をついただけだった。


「……あなたの規格外さ、いい加減に怖くなってきたわ」


「悪い意味で?」


「分からない」セラは正直に言った。「分からないから、余計に厄介よ」


 しばらく沈黙が落ちた。


「リネットのこと」と俺は話を変えた。「昔からの知り合いか」


 セラの肩が、わずかに強張った。


「……同じ家系よ。遠縁にあたるけれど、社交の場ではよく顔を合わせていたわ」


「優秀なんだろう」


「優秀すぎるくらいに」セラは窓の外に視線を戻した。「物心ついた頃から、何をやっても比べられてきたわ。詠唱の正確さ、構成の速さ、魔力の総量。全部、彼女の方が上だった」


「全部?」


「全部よ」セラの声に、自嘲が混じった。「私が唯一勝てたことなんて、一つもなかった」


 俺はその横顔を見ていた。


 夜の窓辺で語られる声は、いつもの強がりとは違う響きを持っていた。


「だから、今日のあれは」セラは続けた。「悔しいけど、助かったわ。あなたがいなければ、私は今頃、また負けを認めることになっていた」


「礼を言っているのか」


「言ってない」セラは即座に否定した。「事実を述べているだけ」


 それでも、その声には、いつもの刺々しさがなかった。


 俺は何も言わずに、窓辺の椅子に座るセラの横顔を見ていた。明日からは、もう少し面倒なことになりそうだ。そんな予感があった。


 その夜遅く、街はずれの宿の一室では、黒装束の二人組がまた地図を広げていた。


「リネット・ファルケンレイ」と女性が呟いた。「あのファルケンレイ家の令嬢が、わざわざこんな地方都市に」


「セラ・エルヴェインの噂を聞きつけたんでしょう」と男性が言った。「目立った分だけ、注目も集まる」


「厄介ですね」


「厄介ですが」男性は窓の外を見た。遠くに、宿の灯りが見える。「目立てば目立つほど、観察はしやすくなります。リネットが乗り込んできてくれたのは、むしろ好都合かもしれません」


 女性は何も言わず、報告書に何かを書き加えた。


 その手元では、古びた羊皮紙が一枚、また鞄の隙間から半分はみ出していた。今度は誰も気づかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ