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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第四章 転生者、詠唱する

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13/21

シーン1

 リネットが共同依頼を提案してきたのは、公開実演の翌朝のことだった。


 宿の食堂で朝食を取っていた俺たちのテーブルに、リネットは断りもなく向かいの椅子を引いて座った。給仕が慌てて飲み物を持ってくる。リネットはそれを当然のように受け取って、テーブルの上に両手を組んだ。


「一つ、提案があるわ」


「聞く気はないけれど」とセラは言った。パンを千切る手を止めずに。


「聞きなさい」


 セラは黙った。リネットの声には、有無を言わせない響きがある。昨日の実演で「噂は本当だった」と認めたくせに、それでもどこか納得していない顔をしているのが、俺には分かった。昨日から一晩置いて、また考えが変わったのかもしれない。あるいは、認めたくないから別の方法で確かめようとしているのか。


「街外れの森に、魔獣が出ているらしいわ」とリネットは続けた。「ギルドに調査依頼が出ているけれど、受け手がいない。私とあなたで行きましょう」


「なぜあなたと一緒に」


「昨日の実演は広場の中だった」リネットは淡々と言った。「制御された環境での魔術と、実戦での動きは別物よ。本当の実力を見たい。それだけよ」


 セラは俺を一瞥した。


 俺は小さく頷いた。断れる状況ではない、という意味だ。それに、断れば「実戦は自信がない」と認めることになる。リネットはそれを分かって提案している。昨日の実演で一歩引いた分を、別の形で取り返そうとしているのだろう。


「……いいわ」とセラは言った。「ただし、私のやり方に口を挟まないで」


「それはお互い様ね」


 こうして、三人での依頼が決まった。


 街外れの森までの道中、リネットはほとんどセラとだけ話した。俺は二人の一歩後ろを歩きながら、状況を観察していた。従者の立ち位置は、こういうとき都合がいい。話の輪に加わる必要もなく、ただ見ていればいい。


 リネットの会話には、随所に棘がある。直接的な悪口ではない。むしろ丁寧な言葉遣いで、しかし確実に相手の自信を削るような言い方をする。昔から比べられてきた相手への、長年の習慣なのかもしれない。本人は意識していないのかもしれないし、意識してやっているのかもしれない。どちらにしても、効果的だった。


「エルヴェイン家は最近、どう?」とリネットが聞いた。


「別に」


「お父様は相変わらず厳しいのかしら」


「関係ない話ね」


「そう」リネットは少し間を置いた。「ただ、あなたがこんな地方都市で活動しているのが不思議で。エルヴェイン家の令嬢が実績を積むなら、王都の方が舞台として適切でしょうに。わざわざここに来る理由が、私には分からないわ」


 セラの肩が、わずかに強張った。


 俺は何も言わなかった。これは俺が口を挟む話ではない。


 ただ、リネットの「家の期待」という言葉が、セラにとってどれだけの重さを持つのかは、なんとなく分かった。野営の夜に「私の実家、知ってる?」と言いかけて、「いいわ、今は」と引っ込めた話と、おそらく繋がっている。


 セラは「関係ないでしょう」とだけ言って、前を向いた。


 それ以上の追及はなかった。リネットは別の話題に切り替えた。しかし、一度植え付けられた棘は、そう簡単には抜けない。セラの歩き方が、少しだけ硬くなっていた。


 その頃、街道の脇の茂みで、黒装束の二人組が身を潜めていた。今日も尾行は続いている。木々の間から覗いて、三人の様子を窺っている。女性の方が枝を踏んでパキッと音を立てたが、ちょうどリネットが声を上げたタイミングと重なってかき消された。男性の方が小さくため息をついているのが、遠目にも分かった。今日は三人になったせいで、観察対象が増えて混乱しているのかもしれない。


 ご苦労なことだ、と俺は思った。


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