シーン4
宿に戻ると、セラが廊下で待っていた。
「遅かったわね」
「少し話が長くなった」
「何の話?」
俺は食堂に移動して、セラに今夜聞いたことを全部話した。フードの人物の目的、かつての仲間であるヴェルナー家の術師のこと、転生リストの話、そして守りたかった相手のこと。
セラは黙って聞いていた。
「複雑な事情があるのね」とセラはやがて言った。
「そうだ」
「協力することについては、どう思う?」
「情報を共有するだけなら、俺は構わない。ただ、お前がどう判断するかによる」
「私の判断?」
「この依頼はお前が受けたものだ。関係する判断は、お前がする」
セラはしばらく考えた。
「……協力しましょう」とセラは言った。「あの人の目的と、私たちの目的は重なっている。街を助けるという点では、同じ方向を向いている」
「それでいいか」
「それでいいわ」セラはお茶を一口飲んだ。「ただし、全面的に信頼するわけじゃない。情報を共有しながら、こちらも独自に判断する」
「賢い判断だ」
「あなたに褒められると、なんか複雑な気分ね」
「なぜ」
「あなたが褒めるときは、本当に思っているときだけでしょう。だから嬉しいんだけど、素直に嬉しいとも言いにくくて」
「言えばいい」
「うるさいわね」
セラは窓の外を見た。夜の街が静かだった。
「ヴァン」
「なんだ」
「あの人、守りたかった相手がいたって言ったのね」
「そうだ」
「過去形だった」
「そうだ」
セラはしばらく黙っていた。
「……辛いわね」
「そうかもしれない」
「あなたは、守りたい相手がいる?」
俺は少し考えた。
「いる」
「誰?」
「今ここにいる」
セラが俺を見た。しばらく、何も言わなかった。
耳の先が、少し赤くなっていた。
「……そういうこと、急に言わないでほしいわ」
「聞いたから答えた」
「それはそうだけど」
「嫌だったか」
「嫌じゃないけど」セラは窓の外を見た。「なんか、ずるいわよ」
「どこが」
「あなたって、普段は何も言わないくせに、たまにそういうことを言うじゃない。心の準備ができていないのよ」
「準備が必要か」
「必要よ」
俺は何も言わなかった。
セラも何も言わなかった。
食堂に、静かな時間が流れた。
翌朝、フードの人物からの情報を基に、最終的な作戦を立てた。
ヴェルナー家の術師が、もう一度大規模な魔獣を仕掛けてくる。今度は昨夜より規模が大きく、街の複数の方向から同時に来る予定だという。目的は、ガーランド侯爵が自ら降伏を申し出るほどの打撃を与えること。
「タイミングは今夜か明日の夜だ」とフードの人物の情報では言っていた。
「準備が必要ね」とセラが言った。「衛兵の配置を変えてもらって、私たちが最も効果的に動ける場所を確保する」
「侯爵に話すか」
「今から行きましょう」
侯爵館で、俺たちは作戦を伝えた。侯爵は真剣な顔で聞いて、衛兵隊長に指示を出した。
「準備します」と隊長が言った。「ただ、セラ様と従者の方だけでは、複数の方向への対処は難しいのでは——」
「私たちのやり方があります」とセラは言った。「信じてください」
隊長が頷いた。
館を出てから、セラが俺に言った。
「ヴァン」
「なんだ」
「今夜で、決着をつけましょう」
「合意だ」
「あなたがいれば、大丈夫よね」
「大丈夫だ」
「……強がりじゃないの?」
「強がりじゃない。根拠がある」
「どんな根拠?」
「今まで何とかなってきた。今回も何とかなる」
セラは少し笑った。
「それを根拠と言うのは、あなただけよ」
「十分な根拠だ」
セラはため息をついた。しかし、その顔には笑みがあった。
カルネスの夕暮れが、街を橙色に染めていた。今夜、全てが決まる。
俺は静かに、その夕暮れを眺めていた。
——悪くない。
誰に言うでもなく、そう思った。




