シーン1
セラが父親への手紙を書いたのは、カルネスに来て八日目の朝だった。
俺が食堂に下りると、セラはすでにテーブルに向かっていた。羊皮紙とペンを広げて、何かを書いている。朝の光が窓から差し込んで、銀髪を白く照らしていた。集中した横顔だった。
俺は邪魔をしないように、少し離れた席に座ってお茶を頼んだ。
セラが書いているのを、俺は特に見ないようにしていた。見ようとしなくても、横目には入った。羊皮紙はそれほど長くない。何度か書き直しているらしく、丸めた紙がテーブルの端に二枚あった。
三枚目を書き終えて、セラはペンを置いた。羊皮紙を読み返して、折り畳んで、封筒に入れた。封蝋を押した。エルヴェイン家の紋章ではなく、セラ個人の印だった。
「見ていたの」とセラが言った。
「まあな」
セラは封筒を手の中で転がした。テーブルの端の丸まった紙を、少し気まずそうに片付けた。
「何と書いたか、聞くか」と俺は聞いた。
「聞く?」
「聞いてほしそうな顔をしていた」
セラは少し間を置いた。
「……エルヴェイン家の名前ではなく、私自身の名前で依頼を受けました。それが私の答えです、と書いたわ」
「短いな」
「お父様に合わせたの。長い言葉より、短い言葉の方が伝わる人だから」
俺は何も言わなかった。
「……怒るかしら」
「分からない」
「正直ね」
「怒るかもしれないし、怒らないかもしれない。お前の父親のことは知らない」
「そうよね」セラは封筒をテーブルに置いた。「でも、いいの。怒っても怒らなくても、これが私の答えだから」
それは、セラらしくない言い方だった。いつもなら「当然でしょう」とか「間違っていないわ」とか、自信満々に言うところだ。今日は違った。確信はある、でも揺れている。そういう声だった。
「正しい選択だと思う」と俺は言った。
セラが俺を見た。
「……また珍しいわね。そんなにはっきり言うなんて」
「言える根拠があれば言う」
「根拠は?」
「お前が自分で考えて、自分で決めた。それだけで十分だ。父親がどう思うかは、お前の選択の正しさとは別の話だ」
セラはしばらく俺を見ていた。それから、小さく頷いた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「今日は遅くなかったわね」
「練習した」
セラが笑った。今度はちゃんと、声に出して。短い笑い声だったが、朝の食堂に響いた。
隣のテーブルの宿泊客が、ちらりとこちらを見た。セラは少し照れたように視線を逸らした。
朝食が来た。今日もパンとスープと薬草茶だ。
食べながら、セラが言った。
「今日で八日目ね」
「そうだ」
「当初の予定では、五日くらいで片付くと思っていたんだけど」
「複雑な依頼だった」
「そうね」セラはスープを一口飲んだ。「でも、逃げ出したいとは思わない。面白いとも思わないけど、やり遂げたいとは思っている」
「それでいい」
「あなたは?」
「俺も同じだ」
セラは少し意外そうな顔をした。
「同じって、やり遂げたいと思っているの?」
「思っている」
「なんで?」
「放っておけないから」
セラは少し笑った。
「また同じ答えね」
「それが正直なところだ」




