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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第十章 転生者、再び陰に潜む

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シーン4

 翌朝、俺はセラに昨夜のフードの人物との会話を伝えた。


 セラは黙って聞いていた。


「転生者リストに、転生する仕組みについての情報が載っている可能性がある、ということ?」


「可能性だ。その人物がそう考えている、ということは分かった。実際にそういう情報があるかどうかは別の話だ」


「でも、もしそれが本当なら——」セラは少し考えた。「ヴェルナー家の術師は、それを手に入れるために、街を利用している、ということね」


「そういうことになる」


「……転生者って、みんな、そういうことを知りたいと思うの?」


 俺は少し考えた。


「思うかもしれない。俺は深く考えてこなかったが」


「なんで?」


「考えても、答えが出ないと思っていたから。それより、今をどう生きるかの方が重要だと思っていた」


「……それが、あなたらしいわね」セラは少し笑った。「私だったら、絶対に気になる。なんで自分がここにいるのか、って」


「気になるか?」


「うん。でも——」セラは少し間を置いた。「今は、それより大事なことがある気がする」


「なんだ」


「この街の人たちを、助けること」


 俺は何も言わなかった。


「笑わないの?」とセラが聞いた。


「笑う理由がない」


「なんか、あなたらしくない返し方ね」


「そうか」


 セラは小さく笑って、お茶を飲んだ。


 その日、俺たちはガーランド侯爵に昨夜の報告をした。ヴェルナー家が直接行動に出たことを伝えると、侯爵の表情が変わった。


「これは……もはや、穏便な解決が難しくなってきましたね」と侯爵は言った。


「はい」とセラが言った。「侯爵、一つお聞きしますが、このまま時間が経てば、状況はさらに悪化します。何らかの形で、ヴェルナー家に対して正式な手続きを踏む必要があるのではないですか」


「ただ、証拠が——」


「証拠は集まってきています。魔術の痕跡、ヴェルナー家からの布告、昨夜の直接的な脅し。これらを組み合わせれば、上位の機関に訴え出る根拠になる可能性があります」


 侯爵は難しい顔をした。


「上位の機関、というのは……王都の裁定機関ですか」


「そうです」


「それは、時間がかかります。それまでの間、この街をどう守るかが——」


「私たちがいます」とセラは言った。「少なくとも、この依頼が終わるまでは」


 侯爵が深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 館を出てから、セラが俺に言った。


「ヴァン、今夜もフードの人物が来ると思う?」


「分からない。来るかもしれないし、来ないかもしれない」


「もし来たら、どうするの?」


「話を聞く。それだけだ」


「協力するの?」


「まだ決めていない。信頼できるかどうか、まだ判断がついていない」


「慎重ね」


「慎重でいい」


 セラは少し歩みを速めた。


「ねえ、ヴァン」


「なんだ」


「この依頼、最初は政争に巻き込まれるだけかと思っていたけど——転生者が絡んできて、複雑になってきたわね」


「そうだな」


「でも」セラは前を向いたまま言った。「不思議と、怖くないのよ。なんでかしら」


「なんでだと思う」


「……あなたがいるから、かしら」


 俺は何も言わなかった。


「何か言いなさいよ」


「悪くない」


「それだけ?」


「それだけだ」


 セラはため息をついた。しかし口元には、小さな笑みがあった。


 街の夕暮れが、二人の足元に長い影を作っていた。


 その夜、忍者コンビは珍しく順調に報告書を書き上げていた。


「昨夜の件、まとめました」と女性が言った。「魔獣の群れの対処、ヴェルナー家の手下の撃退、全部書きました」


 男性が受け取って、確認した。


「よく書けている」


「ありがとうございます」女性は少し嬉しそうだった。「あと、今日の侯爵館でのやり取りも書きたかったんですが、中には入れなくて——」


「外から見えた範囲で書けばいい」


「はい。それと」女性は少し声を落とした。「ヴァンさんのことなんですが」


「なんだ」


「昨夜の魔獣の処理が、どう考えても普通じゃなかったんです。あの速さと規模は——」


「書くな」


「え?」


「報告書に書くな。本部が余計な動きをする可能性がある」


 女性はしばらく考えた。


「……書かなくていいんですか」


「今は書かない。俺が判断する」


「分かりました」女性は頷いた。それから、少し間を置いて言った。「あなたって、ヴァンさんのことを、どう思っているんですか」


 男性は窓の外を見たまま答えた。


「厄介な人間だと思っている」


「厄介?」


「報告しにくい。把握しにくい。しかも、俺たちを助けている。どう扱えばいいか、判断に困る」


「それって、嫌いってこと?」


 男性はしばらく黙っていた。


「……嫌いではない」


 女性は少し笑った。男性はそれを見て、すぐに顔を引き締めた。


「報告書を封筒に入れろ。今夜中に送る」


「はい」


 街の夜が、静かに深まっていった。


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