シーン1
事態が動いたのは、カルネスに来て七日目の夜のことだった。
その日の昼間は、比較的穏やかだった。午前中に街の東側の森を調べて、追加の痕跡がないことを確認した。午後は侯爵から提供された情報を整理して、ヴェルナー家の動きのパターンを分析した。夕食を早めに済ませて、二人とも早く休もうとしていた。
調査を始めてから七日。街の人々の顔にも、俺たちの存在が少しずつ浸透してきていた。市場で声をかけられることが増えた。子供が「セラ様だ」と指を差して走ってくることもあった。メルガンでの日常が、別の街でも少しずつ形作られていくような感覚がした。
それが崩れたのは、夜の九時頃だった。
街の北門から警報の鐘が鳴り響いた。
一度ではなく、連続して。緊急を示す打ち方だ。一度聞いたら忘れない音だった。メルガンでモンスターの大軍が来たときと同じ響きだ。
俺とセラが宿を飛び出すと、大通りはすでに騒然としていた。衛兵が走り回り、商人が店の戸を閉めている。子供を抱えた親が路地に駆け込んでいく。遠くに松明の光が揺れていた。
「魔獣か」とセラが言った。
「規模が大きい」
俺には魔力の揺らぎが感じ取れた。複数の、そして強い揺らぎが北の方向から来ている。単なる群れの移動ではなく、意図的に誘導されている気配があった。今まで調べてきた術式が、まだ稼動しているということだ。
「これは、意図的に引き起こされたものね」とセラが言った。
「おそらく。タイミングが悪すぎる」
「どういうこと?」
「俺たちが調査を進めているのを知って、仕掛けてきた可能性がある。あるいは、もともとこの日に計画していたものか」
北門に向かうと、衛兵の隊長が血相を変えて走ってきた。
「セラ様! 北から大規模な群れが来ています。中型が二十体以上、その後ろに大型も数体確認されて——しかも今夜は、普段と動きが違います。統率されているような動きで」
「統率されている?」とセラが言った。
「はい。普通、魔獣は群れでも各自がばらばらに動きます。でも今夜は、まるで誰かが指示を出しているような、一定の方向に向かって整然と動いているんです」
俺とセラは目を合わせた。
術師が、リアルタイムで誘導している。
「対処するわ!」とセラは言った。
隊長が「セラ様、危険です」と言いかけたが、セラはすでに歩き出していた。俺はその一歩後ろについた。
北門を出ると、松明の光の向こうに群れの輪郭が見えてきた。隊長の言う通り、動きが違う。普通の魔獣の動きではなかった。一定のリズムで、一定の方向に向かっている。まるで行軍しているようだ。
俺は状況を素早く分析した。
魔獣を処理するのは難しくない。いつも通りにやれば、すぐに片付く。ただ、今夜は別のことが気になった。
術師が今もどこかで制御しているとすれば、術師の位置を特定できるかもしれない。
「セラ」と俺は小声で言った。
「なんだ」
「魔獣の動きを見ながら、術式の発信源を探せるか。術師が今もどこかで制御しているはずだ」
「試してみる」セラは杖を構えながら言った。「ただ、魔獣の対処も同時にしないといけないわ」
「魔獣は俺がやる。お前は術師を探せ」
「……いつもと逆ね」
「今夜はそれでいい」
セラは頷いた。
そのとき、背後から声が飛んできた。




