シーン2
午後、俺は一人で街の南側を歩いた。
セラは宿で父親への返事の下書きを書くと言った。俺は情報収集を続けることにした。
南の大通りを歩きながら、街の様子を観察した。昨日より人出が少ない気がした。商人の数が減っている。街道封鎖の影響で、行商人が来なくなっているのかもしれない。
路地の入口に、小さな掲示板があった。近づいて見ると、ヴェルナー家からの布告が貼られていた。
「カルネスの住民へ。現在のガーランド侯爵の統治に問題があると判断した場合、ヴェルナー伯爵家は住民の保護を行う用意がある」
俺はその文面を読んで、内心で少し感心した。
直接的な脅しではない。あくまで「保護の用意がある」という形を取っている。しかし意味するところは明確だ。「ガーランド家がこのまま機能しなければ、ヴェルナー家が代わりに支配する」ということだ。
魔獣を発生させて、経済を圧迫して、布告で揺さぶる。段階的に、じわじわと。焦らず、確実に。
計算されている。
そして、この計画に転生者が絡んでいるとすれば——単純な権力争いではなく、もっと別の目的がある可能性も出てくる。
考えながら歩いていると、路地の奥に人影が見えた。
黒いフードだった。
俺は足を止めた。
フードの人物も止まった。今日は昨日と違って、セラがいない。二人きりだ。
「また会ったな」と俺は言った。
「ああ」とフードの人物は言った。今日も、性別が判別しにくい声だ。「少し時間があるか」
「ある」
路地の奥に入って、人目を避けた場所で向かい合った。
「名前を教えてくれるか」と俺は聞いた。
「今は言えない」
「理由は」
「安全のためだ。お互いに」
俺は少し考えた。それは理解できる答えだった。
「昨日、俺たちに気をつけろと言った。具体的に、何を気をつけるべきだ」
「この街には、三つの思惑が絡み合っている」とフードの人物は言った。「一つはガーランド家。一つはヴェルナー家。そしてもう一つ」
「もう一つ?」
「外から来た存在だ。ガーランドでもヴェルナーでもない、第三の勢力」
「お前がその第三の勢力か」
「……今は言えない」
俺は黙っていた。
「転生者について、聞いていいか」
「何を」
「ヴェルナー家に、転生者がいる。お前はそれを知っているか」
フードの人物は少し間を置いた。
「知っている」
「どんな人間だ」
「かつての仲間だ」フードの人物は静かに言った。「転生者として、この世界でどう生きるかを、長く話し合った仲間だ。ただ、選んだ道が違った」
「お前は目立たずに生きることを選んだ。その仲間は権力者に仕えることを選んだ」
「……お前の観察は鋭いな」
「経験から来るものだ」
しばらく沈黙が落ちた。
「その転生者は、今回の魔獣の件に関わっているか」
「直接ではない。術式を組んだのは別の術師だ。ただ、指示を出したのは——」フードの人物は少し間を置いた。「関係していないとは言えない」
「なぜ、その仲間がヴェルナー家のために動くんだ」
「目的がある。ヴェルナー家を利用して、何かを手に入れようとしている。何かは、俺にも分からない。ただ、単純な権力争いには興味がない人間だ。もっと別の何かを求めている」
「転生者リストか」
フードの人物の動きが、一瞬止まった。
「……どこでその話を聞いた」
「知っている人間がいる」
「そうか」フードの人物は少し考えた。「リストが絡んでいる可能性は、否定できない」
それ以上は言わなかった。
「もう一つだけ聞いていいか」と俺は言った。
「なんだ」
「お前の目的は何だ」
長い沈黙が落ちた。
「……今は言えない」とフードの人物はやがて言った。「ただ、お前たちを敵とは思っていない。それだけは言える」
「信じる根拠がない」
「そうだな」フードの人物は静かに言った。「それでも、俺はお前たちに気をつけてほしかった。それは本当のことだ」
フードの人物は路地の奥に消えた。
俺はしばらくその場に立っていた。
——第三の勢力。かつての仲間。転生者リスト。
情報が増えるほど、構図が複雑になっていく。




