シーン1
ガーランド侯爵への中間報告は、カルネスに来て四日目の午前中に行った。
侯爵館の応接室は、最初に通されたときと同じ部屋だった。窓から街の大通りが見えて、行き交う人々の様子が分かる。今日も、人々の足が速かった。街の緊張感は、一日経っても変わっていなかった。
侯爵は俺たちを迎えると、すぐに椅子を勧めた。今日は側近のガーナルも同席していた。昨日市場で声をかけてきた人物だ。俺と目が合ったとき、ガーナルは小さく頷いた。
「早速ですが」とセラが口を開いた。「調査の中間報告をさせていただきます」
「はい、ぜひ」
「街を囲む四箇所に、魔獣誘導の術式の痕跡を確認しました。いずれも一ヶ月ほど前に発動されたもので、方向はいずれもヴェルナー伯爵領の方角に向いています」
侯爵の顔が、わずかに引き締まった。
「確証はありますか」
「術式の残滓という形での証拠はあります。ただ、誰が発動したかまでは特定できていません」とセラは言った。「ただ、術式の高度さから見て、相当な実力を持つ術師が関わっていることは間違いありません」
「…………」
侯爵は黙った。ガーナルが侯爵の様子を横目で確認した。
「侯爵」とセラは静かに続けた。「昨日、ガーナル様から、ヴェルナー家が最近新しい術師を雇ったという話を聞きました。素性不明の、外部から来た術師が一人いると」
「ガーナルが……」侯爵はガーナルを見た。
「申し訳ありません」とガーナルは言った。「私の判断で、お伝えしました」
侯爵はしばらく黙っていた。それから、ため息をついた。
「……実は」と侯爵は言いにくそうに切り出した。「その術師について、私も少し情報を持っています」
「最初から知っていたのですか」とセラは静かに聞いた。
侯爵が口ごもった。
「知っていた、というより……疑っていました。確証がなかったので、お伝えするべきか迷っていた次第で」
「確証がなければ言えない、という判断は分かります」とセラは言った。「ただ、今後は情報を共有してください。私たちが動くためには、できるだけ多くの情報が必要です」
「……はい。おっしゃる通りです」
侯爵が話してくれた内容は、ガーナルから聞いた話より少し詳しかった。
ヴェルナー家が雇った術師は三人。そのうち二人はこの地域でも名の知れた術師で、素性ははっきりしている。問題は三人目だ。二ヶ月ほど前に突然現れて、ヴェルナー家に雇われた。年齢も出身地も不明。ただ、その術師が来てから、ヴェルナー家の術式の質が格段に上がったと、侯爵のスパイが報告してきたという。
「その術師の外見は分かりますか」とセラが聞いた。
「背は中程度、フードを被っていることが多いと……」
俺とセラは、一瞬だけ目を合わせた。
フード。
昨日路地で会った人物と、一致する可能性があった。ただ、あの人物はヴェルナー家と繋がっているとは思えない動きをしていた。あるいは、複数のフードを被った人物がいるのか。
「参考になりました」とセラは言った。「引き続き調査します。何か新しい情報があれば、すぐにお伝えください」
館を出てから、セラが俺に小声で言った。
「フードの件、どう思う?」
「昨日の人物と同一人物かどうかは分からない。ただ」
「ただ?」
「昨日の人物は、俺たちに気をつけろと言った。ヴェルナー家の内部にいる人間なら、そういう言い方はしないかもしれない」
「二重スパイの可能性もあるけれど」
「ある。ただ、今は決めつけない方がいい」
セラは頷いた。
「慎重にいきましょう」




