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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第八章 転生者、黙って待つ

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シーン4

 夜、食堂でセラと夕食を取りながら、今日の調査結果と収集した情報を整理した。


「発生源が四箇所」とセラは言った。「全部、街を囲む位置に配置されている。明らかに意図的よ」


「ガーナルの話では、新しい術師が来てから魔獣が増えた。時期と一致する」


「素性不明の術師——転生者の可能性がある。そして昨日のフードの人物も転生者かもしれない」セラは眉をひそめた。「複数の転生者が、この街に絡んでいるの?」


「今のところ、そう考えるのが自然だ」


 しばらく沈黙が続いた。


「複雑ね」とセラが言った。


「そうだな」


「あなたは……怖くないの? 同じ転生者が、敵側にいるかもしれないのに」


 俺は少し考えた。


「怖い、とは少し違う」と俺は言った。「ただ、慎重にはなる。転生者だからといって、目的や考え方が同じとは限らない。この世界でどう生きるかは、それぞれが選んだことだ」


「あなたは、目立たずに生きることを選んだ」


「そうだ」


「ヴェルナー家の術師は、権力者に仕えることを選んだ」


「おそらくそうだ」


「昨日のフードの人物は?」


 俺はしばらく考えた。


「まだ分からない。ただ、俺たちに気をつけろと言った。少なくとも、俺たちを敵とは思っていない」


「敵の敵は味方、ということ?」


「そうとも限らない。ただ、利害が一致している部分があるかもしれない」


 セラはワインを一口飲んだ。


「あなたって、こういうことを考えるのが得意なのね」


「前世で、誰かと競い合う仕事をしていたわけでもないんだが」


「でも、状況を整理するのが上手い」


「観察しているだけだ」


「観察、ね」セラは少し笑った。「あなたがいつも一歩後ろを歩いているのは、従者だからだけじゃないのかもしれないわ」


「そうかもしれない」


 食事を終えて、食堂を出た。廊下を歩きながら、セラが言った。


「ヴァン」


「なんだ」


「昨日の手紙の件、やっぱり少し引っ張られているわ。正直に言うと」


「知っている」


「知っていたの?」


「今日の調査中、詠唱が少し遅かった」


 セラは少し黙った。


「……気づいていたの」


「気づいていた」


「指摘しなかったじゃない」


「仕事に影響は出なかった。指摘する必要はなかった」


 セラはため息をついた。


「……ありがとう」


「なんのことだ」


「気づいていて、黙っていてくれたことよ」


 セラは自分の部屋の前で立ち止まった。ドアを開ける前に、俺に向き直った。


「ヴァン、一つだけ聞いていいか」


「なんだ」


「あなたは……なんで、私のことをそんなに気にかけるの? 契約だから?」


 俺はしばらく考えた。


「最初は契約だった」


「今は?」


「……放っておけないから」


 セラはしばらく俺を見ていた。それから、小さく笑った。


「また同じ答えね」


「それが正直な答えだ」


「分かった」セラはドアを開けた。「おやすみ」


「おやすみ」


 セラの部屋のドアが閉まった。廊下に一人残って、俺はしばらくそのまま立っていた。


 ——放っておけない。


 それが、本当に全部の理由なのかどうか、自分でも分からなくなってきていた。ただ、それ以上の言葉を俺は持っていなかった。前世でも、感情を言語化するのが苦手だった。今世でも、それは変わっていない。


 自分の部屋に入って、窓を開けた。夜風が入ってきた。


 その頃、宿の裏手の路地では、黒装束の二人組が向かい合っていた。


「今日の報告をまとめました」と女性が言った。手帳を開いて、男性に差し出す。


 男性が受け取って、内容を確認した。


「ガーナル氏がセラ・エルヴェインに接触した件、書いてあるな」


「はい。内容はおおよそ聞き取れました。素性不明の術師については、我々も別途調査が必要かと」


「同意する」男性は手帳を返した。「本部への報告書を——」


「あの」と女性が言いにくそうに口を開いた。


「なんだ」


「今日、市場で木箱を蹴ってしまいまして……」


 男性は少し間を置いた。


「知っている」


「ありがとうございました」


 男性は額に手を当てた。


「報告書を書け」


「はい。そのことで一つ気になることがあって」


「なんだ」


「ヴァンさんが、私たちのことに気づいているような気がするんです」


 男性は黙った。


「根拠は」


「木箱が崩れたとき、彼が一瞬こちらを見た気がして……でも、すぐに視線を戻したんです。気づいていて、気づかないフリをしているような」


 男性はしばらく考えた。


「……その可能性は、以前から頭にあった」


「え、そうなんですか」


「ただ、気づかれていたとしても、彼は動かない。それがこれまでの観察から分かっている」


「動かない、というのは?」


「気づいていても、俺たちを追い払おうとしない。むしろ、さりげなくフォローしている節がある」


 女性は驚いた顔をした。


「フォローって……木箱のことですか?」


「それも含めて」男性は窓の外を見た。「リストの調査対象であるセラ・エルヴェインの従者が、俺たちを助けている。面白い状況だ」


「どういうことでしょう……」


「今はまだ、観察を続けるだけでいい」男性は言った。「ただ、報告書には書くな。本部に伝えると、余計な指示が来る」


「……分かりました」


 女性は手帳を開いて、報告書を書き始めた。ペンを走らせながら、ふと手が止まった。


「あの、インクが——」


「分かった」男性が先に言った。「俺が補充してくる」


 路地に、小さなため息が残った。


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