シーン4
夜、食堂でセラと夕食を取りながら、今日の調査結果と収集した情報を整理した。
「発生源が四箇所」とセラは言った。「全部、街を囲む位置に配置されている。明らかに意図的よ」
「ガーナルの話では、新しい術師が来てから魔獣が増えた。時期と一致する」
「素性不明の術師——転生者の可能性がある。そして昨日のフードの人物も転生者かもしれない」セラは眉をひそめた。「複数の転生者が、この街に絡んでいるの?」
「今のところ、そう考えるのが自然だ」
しばらく沈黙が続いた。
「複雑ね」とセラが言った。
「そうだな」
「あなたは……怖くないの? 同じ転生者が、敵側にいるかもしれないのに」
俺は少し考えた。
「怖い、とは少し違う」と俺は言った。「ただ、慎重にはなる。転生者だからといって、目的や考え方が同じとは限らない。この世界でどう生きるかは、それぞれが選んだことだ」
「あなたは、目立たずに生きることを選んだ」
「そうだ」
「ヴェルナー家の術師は、権力者に仕えることを選んだ」
「おそらくそうだ」
「昨日のフードの人物は?」
俺はしばらく考えた。
「まだ分からない。ただ、俺たちに気をつけろと言った。少なくとも、俺たちを敵とは思っていない」
「敵の敵は味方、ということ?」
「そうとも限らない。ただ、利害が一致している部分があるかもしれない」
セラはワインを一口飲んだ。
「あなたって、こういうことを考えるのが得意なのね」
「前世で、誰かと競い合う仕事をしていたわけでもないんだが」
「でも、状況を整理するのが上手い」
「観察しているだけだ」
「観察、ね」セラは少し笑った。「あなたがいつも一歩後ろを歩いているのは、従者だからだけじゃないのかもしれないわ」
「そうかもしれない」
食事を終えて、食堂を出た。廊下を歩きながら、セラが言った。
「ヴァン」
「なんだ」
「昨日の手紙の件、やっぱり少し引っ張られているわ。正直に言うと」
「知っている」
「知っていたの?」
「今日の調査中、詠唱が少し遅かった」
セラは少し黙った。
「……気づいていたの」
「気づいていた」
「指摘しなかったじゃない」
「仕事に影響は出なかった。指摘する必要はなかった」
セラはため息をついた。
「……ありがとう」
「なんのことだ」
「気づいていて、黙っていてくれたことよ」
セラは自分の部屋の前で立ち止まった。ドアを開ける前に、俺に向き直った。
「ヴァン、一つだけ聞いていいか」
「なんだ」
「あなたは……なんで、私のことをそんなに気にかけるの? 契約だから?」
俺はしばらく考えた。
「最初は契約だった」
「今は?」
「……放っておけないから」
セラはしばらく俺を見ていた。それから、小さく笑った。
「また同じ答えね」
「それが正直な答えだ」
「分かった」セラはドアを開けた。「おやすみ」
「おやすみ」
セラの部屋のドアが閉まった。廊下に一人残って、俺はしばらくそのまま立っていた。
——放っておけない。
それが、本当に全部の理由なのかどうか、自分でも分からなくなってきていた。ただ、それ以上の言葉を俺は持っていなかった。前世でも、感情を言語化するのが苦手だった。今世でも、それは変わっていない。
自分の部屋に入って、窓を開けた。夜風が入ってきた。
その頃、宿の裏手の路地では、黒装束の二人組が向かい合っていた。
「今日の報告をまとめました」と女性が言った。手帳を開いて、男性に差し出す。
男性が受け取って、内容を確認した。
「ガーナル氏がセラ・エルヴェインに接触した件、書いてあるな」
「はい。内容はおおよそ聞き取れました。素性不明の術師については、我々も別途調査が必要かと」
「同意する」男性は手帳を返した。「本部への報告書を——」
「あの」と女性が言いにくそうに口を開いた。
「なんだ」
「今日、市場で木箱を蹴ってしまいまして……」
男性は少し間を置いた。
「知っている」
「ありがとうございました」
男性は額に手を当てた。
「報告書を書け」
「はい。そのことで一つ気になることがあって」
「なんだ」
「ヴァンさんが、私たちのことに気づいているような気がするんです」
男性は黙った。
「根拠は」
「木箱が崩れたとき、彼が一瞬こちらを見た気がして……でも、すぐに視線を戻したんです。気づいていて、気づかないフリをしているような」
男性はしばらく考えた。
「……その可能性は、以前から頭にあった」
「え、そうなんですか」
「ただ、気づかれていたとしても、彼は動かない。それがこれまでの観察から分かっている」
「動かない、というのは?」
「気づいていても、俺たちを追い払おうとしない。むしろ、さりげなくフォローしている節がある」
女性は驚いた顔をした。
「フォローって……木箱のことですか?」
「それも含めて」男性は窓の外を見た。「リストの調査対象であるセラ・エルヴェインの従者が、俺たちを助けている。面白い状況だ」
「どういうことでしょう……」
「今はまだ、観察を続けるだけでいい」男性は言った。「ただ、報告書には書くな。本部に伝えると、余計な指示が来る」
「……分かりました」
女性は手帳を開いて、報告書を書き始めた。ペンを走らせながら、ふと手が止まった。
「あの、インクが——」
「分かった」男性が先に言った。「俺が補充してくる」
路地に、小さなため息が残った。




