シーン1
セラの父親からの手紙が届いたのは、カルネスに来て三日目の朝のことだった。
その朝は、よく晴れていた。
食堂の窓から差し込む光が、石畳のテーブルに長い影を作っていた。宿の他の宿泊客が何人か、思い思いに朝食を取っていた。俺の隣のテーブルでは、旅の途中らしい商人が地図を広げながらパンをかじっていた。向こうの席では、親子連れが静かに食事をしている。
食堂の扉が開いて、セラが下りてきた。
いつも通りの凛とした立ち姿だった。銀髪を整えて、ローブを羽織って、顎をわずかに上げている。俺が立ち上がりかけると、セラは手で制して、向かいの椅子を引いて座った。
給仕が朝食を持ってきた。パンとスープと、薬草茶。カルネスの宿は、メルガンより料理が少し手が込んでいた。
そこへ、宿の主人が封筒を持ってきた。
「セラ様宛てにお手紙が届いております」と主人は言った。「今朝、使いの者が持ってきまして」
上等な紙の封筒に、エルヴェイン家の封蝋が押されていた。細かい彫刻の入った紋章は、出発前にセラが見せてくれた家の紋章と同じだった。
セラはそれを見た瞬間、表情が変わった。変わった、というより、固まった、という方が正確かもしれない。パンを手に取りかけていた動作が、止まった。封筒を受け取って、しばらくテーブルの上に置いたまま、見ていた。
「後で読むわ」とセラは封筒を懐にしまった。
俺は何も言わなかった。
朝食の間、セラはいつもより口数が少なかった。薬草茶を一口飲んで、パンを少し食べて、スープを半分ほど残した。向かいのテーブルの商人が地図をたたんで立ち上がる音がした。親子連れの子供が、何かを零して親に叱られていた。食堂の日常的な音が、俺たちの席の沈黙を埋めていた。
食事が終わって、セラが立ち上がった。
「依頼に行くわよ」
「分かった」
その日は依頼をこなした。街の南側に出没している魔獣の群れを追って、森の外れまで足を伸ばした。セラが詠唱し、俺が処理する。今日も連携に乱れはなかった。ただ、セラの詠唱がいつもより少しだけ間延びしていた。構成の展開が、わずかに遅い。
気が散っているのだろう。
それでも仕事はこなした。魔獣を三群れ処理して、街道の安全を一部確保した。依頼人の農家の主人が深々と頭を下げて、礼を言った。セラはいつも通り、鷹揚に受け取った。
帰り道、俺はセラの横顔を時折確認した。
凛とした表情は保っている。しかし視線が、少しだけ遠いところを見ていた。考えごとをしているのだろう。何を考えているかは分からないが、封筒を懐にしまったときの顔が、俺の頭から離れなかった。
ギルドに報告を済ませて、宿に戻ったのは夕方だった。
セラは自室に引き上げた。夕食の時間になっても出てこなかった。
俺は食堂で一人で食事を済ませた。いつものことだ。セラが先に食べることもあれば、俺が先のこともある。ただ今日は、いつもと違う理由で席が一つ空いていた。
食事を終えて、俺はしばらく食堂の窓の外を眺めていた。
夜のカルネスの街。灯りが一つ一つ点いていく。遠くで子供が叫ぶ声がした。風が強くなってきていた。
——放っておくと、気になる。
俺は立ち上がって、厨房に戻ってパンとスープを用意してもらい、セラの部屋に向かった。
ドアをノックした。
「夕食を食べていない」
「……お腹が空いていないから」という声が返ってきた。くぐもった声だった。
「食べた方がいい」
「いいって言っているでしょう」
俺は少し考えてから、もう一度ノックした。
「入るぞ」
返事がなかったが、鍵はかかっていなかった。
セラはベッドの端に腰かけて、手紙を膝の上に置いていた。読み終えた後、ずっとそのままにしているらしい。部屋の蝋燭が一本、テーブルの上で揺れていた。窓の外が暗くなっていたので、夕方にはすでに読んだのだろう。それからずっと、この姿勢でいたのかもしれない。
銀髪が肩の上に落ちていた。いつもより、少しだけ疲れた横顔だった。
セラは顔を上げて俺を見たが、何も言わなかった。
俺はテーブルにスープとパンを置いた。
「食え」
「……ありがとう」
珍しく、素直だった。それだけ、余裕がないということだろう。
セラはスープを一口飲んだ。俺は椅子を引いて、少し離れた場所に座った。邪魔をするつもりはなかった。ただ、一人にしておくのも気が引けた。




