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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第七章 転生者、政争に巻き込まれる

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シーン4

 宿に戻ってから、セラはしばらく黙っていた。夕食の間も、普段より口数が少なかった。食事を終えて、お茶を飲みながら、やがて口を開いた。


「あの人、転生者と言ったの?」


「そういう可能性がある」


「あなた、感じ取れた?」


「魔力の気配が、俺と似ていた。詠唱も構成も使わない感じが」


 セラはしばらく黙っていた。


「転生者って、この街にも来るのね」


「この世界に転生者は複数いる。俺だけではない。転生者リストというものが存在するくらいだから、それなりの数がいるはずだ」


「……そうよね」セラはお茶を一口飲んだ。「ヴェルナー家と関係があると思う? あのフードの人」


「分からない。ただ、敵意はなかった。今日のところは」


「今日のところは、ね」セラは窓の外を見た。「つまり、明日以降は分からない、ということ」


「そういうことだ」


 セラはため息をついた。


「魔獣の件だけでも面倒なのに、転生者まで絡んでくるの?」


「面倒ではある」


「慰めなさいよ」


「面倒だが、何とかなると思っている」


「根拠は?」


「今までも何とかなってきた」


 セラはしばらく俺を見ていた。それから、少し口角を上げた。


「……まあ、そうね」


 しばらく沈黙が続いた。お茶の湯気が、ゆっくりと立ち上っている。


「ヴァン」とセラが言った。


「なんだ」


「この依頼、思ったより複雑になりそうね」


「そうだな」


「後悔していない?」


「何を」


「ついてきたことを」


 俺は少し考えた。


「後悔はしていない」


「理由は?」


「お前が選んだ依頼だから」


 セラは俺を見た。しばらく黙っていた。


「……あなたって、たまに変なことを言うわね」


「そうか」


「褒めているのよ」


「そうか」


 窓の外で、街の灯りが一つ、また一つと増えていった。夜になっていた。


 その夜、宿の裏手の路地で、黒装束の二人組が向かい合っていた。女性が手帳を開いて、何かを書き込んでいた。男性が壁に背をつけて、周囲を確認している。


「今日の報告はこれでいいですか」と女性が言った。


「確認する」


 男性が手帳を受け取って、目を通した。


「フードの人物について、もう少し詳しく書けないか」


「暗くて、顔が見えなかったので……」


「声は? 特徴は?」


「性別が分からないような声でした。背はヴァンさんと同じくらいで、立ち方が——」女性は少し考えた。「なんというか、隙がない感じでした」


「隙がない」男性は繰り返した。「訓練を積んだ人間か」


「はい。それと」女性は手帳をめくった。「今日、市場で面白いことを聞きました。街の人たちが、ヴェルナー家が魔獣を操っていると噂しているようで」


「証拠はないが、街の人間はもうそう思っているということか」


「そうみたいです」


 男性はため息をついた。


「本部への報告をまとめろ。今夜中に送る」


「はい。あと——」女性が言いにくそうにした。「インクが切れてしまったんですが」


 男性は天を仰いだ。


「昨日補充しなかったのか」


「買いに行こうとしたんですが、変装がうまくいかなくて……市場で目立ってしまって」


「目立った?」


「布が……ずり落ちてしまって」


 男性は額に手を当てた。


「分かった。俺が買ってくる」


「すみません」


 男性が路地を出て行った。女性は一人残って、手帳をめくった。今日見た出来事を、記憶を辿りながら書き留めようとして、ペンを持ち上げた。


 インクが出なかった。


 女性は手帳を閉じて、空を見上げた。


 夜の街に、星が出ていた。


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