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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第七章 転生者、政争に巻き込まれる

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シーン1

 カルネスは、メルガンより少し大きな街だった。


 城壁が見えてきたのは、昼を少し過ぎた頃だった。街道の丘を越えると、盆地の中にカルネスが広がっていた。石造りの城壁が街を囲んでいて、その中に整然と建物が並んでいる。遠目にも、メルガンより規模が大きいことが分かった。街の中心部には、ひときわ大きな建物がある。領主館だろう。


 馬車が城壁の門に近づくと、衛兵が二人、槍を持って立っていた。通常の検問だろうが、その目つきが鋭かった。旅人一人一人を、じっくりと見ている。


「何事ですか」とセラが馬車の窓から声をかけた。


「最近、不審な人物の出入りがありまして」と衛兵が答えた。「念のための確認です。ご用件は?」


「ガーランド侯爵からの依頼で来ました。セラ・エルヴェインです」


 衛兵が名前を聞いて、少し表情が変わった。上司に何かを伝えるような仕草をして、すぐに通してくれた。


 街門をくぐった瞬間、俺は何かが違うと感じた。


 大通りには人が行き交っていた。商人が荷物を運び、露天商が声を張り上げ、子供が走り回っている。表向きは、活気のある街の風景だった。


 しかし人々の表情が、硬い。


 荷物を運ぶ商人の足が、普段より速い。露天商の声に、どこか力がない。子供が走り回っているが、路地の奥ではなく、親の見える場所だけだ。笑い声も少ない。


 大通りの端に、酒場があった。昼間から何人かの男が外に立っていて、通りを眺めていた。目が、行き交う人々の顔色を窺っている。


 ——何かに怯えている。


 魔獣を怖れる人間は外を見る。しかし今ここにいる人々は、互いの顔色を窺っている。街の中に、見えない緊張の糸が張り巡らされているような感覚だった。


「活気はあるけれど、なんか変ね」とセラが言った。馬車の窓から大通りを眺めながら。


「緊張している」と俺は言った。「魔獣だけが理由ではないかもしれない」


「貴族間の争いが、街にも影響しているということ?」


「おそらく」


 馬車は大通りを進んだ。市場の前を通り過ぎると、野菜を売る露天商が客と値段を交渉していた。客が値引きを求めて、露天商が渋い顔をしている。


「最近、物の値段が上がっているんですよ」と露天商が言った。「街道が魔獣で封鎖されて、荷物が入ってこないんです。こっちだって仕入れ値が上がっているのに、そんな値段では——」


 馬車が通り過ぎて、声が遠ざかった。


 街道の封鎖が、物資の流通に影響を与えている。食料の値段が上がれば、街の人々の不満が積もる。それが政治的な圧力になる。誰かが意図してそういう状況を作っているとしたら、相当に計算された戦略だ。


 領主館は街の中心部にあった。石造りの立派な建物で、二階建ての正面に紋章が刻まれている。入口には衛兵が四人立っていた。門前で馬車を降りて名前を告げると、すぐに中に通された。


 待合室で少し待つと、ガーランド侯爵が現れた。


 五十がらみの、温厚そうな男だった。体格は中程度で、白髪が混じり始めた髪を丁寧に整えている。服装は質素だが上等な素材で、貴族としての格式を保ちながら、あまり着飾らない人間だということが伝わった。目元に疲労の色がある。口元に笑みを浮かべているが、目の奥は笑っていなかった。最近、よく眠れていないのかもしれない。


 俺たちを見た瞬間、侯爵はほっとしたような表情をした。すぐに表情を引き締めて、深々と頭を下げた。


「セラ・エルヴェイン様、遠路はるばるありがとうございます」と侯爵は言った。「このような事態に、お越しいただけるとは、本当に助かります。エルヴェイン家のご息女に——」


「エルヴェイン家は関係ありません」とセラは静かに、しかしはっきりと言った。


 侯爵が少し驚いた顔をした。


「私はセラ・エルヴェインとして、個人的に依頼を受けました。家名ではなく、私自身として来ています」


「あ、も、もちろんです」と侯爵は慌てて言い直した。「セラ様のご活躍は、遠くまで聞こえております。ぜひお力をお貸しいただければ」


 俺は一歩後ろで、その場の空気を観察していた。侯爵の「エルヴェイン家の」という言い方に、セラが即座に反応した。想定していた反応だったのかもしれないが、セラが自分から否定したのは興味深かった。


 侯爵は俺を一瞥したが、特に何も言わなかった。従者、という認識で処理されたらしい。俺としては好都合だ。


 挨拶が終わって、応接室に通された。


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