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転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第六章 転生者、旅に出る

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シーン3

 出発前夜、俺が部屋に戻ろうとすると、廊下でセラと鉢合わせた。


 珍しいことに、セラの方から声をかけてきた。廊下の壁に背を預けるようにして立っていて、俺に気づくと少し背筋を伸ばした。


「ヴァン」


「なんだ」


「少し、いい?」


 廊下に他の宿泊客はいなかった。夜の宿は静かで、どこかの部屋から寝息が聞こえていた。


「お父様が、私の活動を知ったらしいわ」


 俺は立ち止まった。


「いつ」


「最近よ。メルガンでの件が伝わったみたい。炎竜の話も、どこかから聞いたらしい」セラは廊下の壁をぼんやりと見ながら言った。「まだ何も言ってきていない。手紙も来ていないし、使いも来ていない。ただ、知っている、ということだけは分かった」


「どこから分かった」


「エルヴェイン家と付き合いのある商人から、それとなく聞いた。父が私の動向を聞き回っているらしいと」セラはため息をついた。「父は、直接聞くより、先に情報を集める人なの。何かを言ってくるとしたら、十分に状況を把握してからよ」


 俺はその情報を整理した。


「カルネスは、エルヴェイン家と縁がある街なんだったな」


「そう。向こうの貴族と、父は昔から付き合いがあるわ。ということは、今回の依頼を受けることは、父の耳に確実に入る。もう入っているかもしれない」


「それで、断るか?」


「断らない」セラは即座に言った。声に迷いはなかった。「ただ……面倒なことになるかもしれないと思って。あなたには言っておこうと思っただけ」


「なぜ俺に」


 セラは少し間を置いた。


「……あなたは私の従者だから。一緒に動く人間には、知っておいてほしかった」


 それだけか、と思ったが、口には出さなかった。


「分かった」と俺は言った。


「それだけ?」


「それだけだ」


「……何か言いなさいよ」


「何を言えばいい」


「例えば、大丈夫とか、何とかなるとか」


「大丈夫かどうかは分からない。何とかなるかどうかも分からない」


 セラはしばらく俺を見ていた。それから、小さく笑った。


「あなたって、本当に嘘をつかないわね」


「つく必要がない」


「……まあ、いいわ。おやすみなさい」


 セラは部屋に戻った。


 廊下に一人残された俺は、しばらくその場に立っていた。


 セラが自分から話しかけてくるのは珍しい。しかも、家族の話を。何かを整理したかったのか、あるいは誰かに話を聞いてほしかったのか。それとも、単純に不安だったのか。


 どれかは分からなかった。ただ、俺に話してきたということに、何かしら意味があるような気がした。


 自分の部屋に入って、窓を開けた。夜風が入ってきた。街の夜の音が聞こえる。酒場の喧噪が遠くにあって、どこかで犬が吠えた。


 前世では、誰かに話しかけられることが少なかった。仕事の連絡はあった。でも、こういう話——悩んでいることや、不安に思っていること、誰かに聞いてほしいこと——を話しかけられることは、ほとんどなかった。


 それが今は、ある。


 ——悪くない。


 誰に言うでもなく、そう思った。

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