表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者が迫害される世界で  作者: 烏丸三月
第五章 転生者、仲間を得る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/28

シーン2

 リネットが街を去ったのは、炎竜騒動から二日後のことだった。


 朝の大通りで、俺たちはリネットと鉢合わせた。旅支度を整えたリネットが、宿から出てくるところだった。荷物は少ない。従者も連れていない。身一つで来て、身一つで去る。それがリネット・ファルケンレイという人間のやり方なのかもしれない。


 朝の光が、金色がかった赤い髪を照らしていた。いつも通り、堂々とした立ち姿だった。ただ、昨日までとは何かが違った。棘が薄れている、とでも言うか。尖った部分が、少し丸くなっているような気がした。


「出立するの?」とセラが言った。


「ええ」とリネットは答えた。「用事は済んだわ」


「用事って」


「確かめたかったことを、確かめた。それだけよ」


 リネットはセラを見た。昨日までとは少し違う目だった。値踏みする目ではなく、品定めする目でもなく、ただ、見ている目だった。


「セラ」


「なに」


「あなたが思っているより、あなたは強くなっているわよ」


 セラの目が、わずかに見開かれた。


 リネットは続けた。声のトーンが、いつもより低い。長年の習慣で削ってきた棘が、今この瞬間だけ、完全に消えていた。


「魔術の才能の話じゃない。もっと別の話よ。何があっても前に出る、あの足。昔のあなたにはなかったわ」


 セラはしばらく黙っていた。


 何か言いたそうな顔をしていたが、結局、出てきたのはいつものセラだった。


「……別に。あなたに言われるまでもないわ」


「そうね」リネットは少し口角を上げた。「あなたはいつもそう」


 一拍の間があった。


「次に会うときは、もう少し素直になっていなさい」とリネットは言った。「じゃないと、また張り合いがないから」


「張り合いなんて求めていないわ」


「そう言いながら、あなたはいつも張り合ってくる」


 セラが何か言い返そうとした瞬間、リネットの視線が俺に向いた。


 俺は黙って立っていた。従者として、一歩後ろに。


「あなたは」とリネットが言った。


「はい」


「……名前、なんだったかしら」


「ヴァンでございます」


「ヴァン」リネットは俺の名前を繰り返した。一度だけ。「セラをよろしく頼むわ」


 俺は答えなかった。従者が主人を「よろしく頼まれる」というのは、おかしな話だ。しかし、リネットの目は真剣だった。昨日まで俺を「格下の従者」として一瞥すらしなかった人間が、今はこちらをまっすぐ見ている。


「……承知しました」


 リネットはそれだけ聞いて、踵を返した。


 大通りを歩いていくリネットの後ろ姿を、俺たちは黙って見送った。金色がかった赤い髪が、朝の光を受けて輝いていた。人々が自然と道を空けていく。最後まで、その存在感は変わらなかった。すれ違う人々が振り返り、商人が会釈する。それを全部受け流しながら、リネットは歩き続けた。


 角を曲がって、見えなくなった。


 セラはしばらくその場に立っていた。


「……生意気ね」とセラはようやく言った。


「そうだな」


「あんな言い方しなくたっていいじゃない。素直に言えばいいのに」


「あなたも人のことは言えないだろう」


 セラが俺を見た。一瞬、何か言い返そうとした顔をして、やめた。


「……そうね」


 珍しく、素直だった。


 朝の日差しが、二人の足元に長い影を作っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ