長かった終了が目前に
「ラスボスイベントです!!」
全員が固まる。
黒瀬だけが静かに振り返る。
廊下の奥。
ゆっくり歩いてくる。
黒い霧。
巨大なプレッシャー。
禍々しいBGM。
そして、
『最終決戦』
という巨大な文字。
「……文字なのかよ。」
文字が俺の前まで来ると、当然のように止まった。
しばらく無言。
そして、
ぺらり。
一枚の紙を差し出してきた。
俺は受け取る。
そこには大きく書かれていた。
【最終決戦のお知らせ】
日時:本日18:00
場所:魔王城
服装:勇者装備
持ち物:覚悟
「会社の会議じゃねぇか!!」
『最終決戦』の文字が小さく震える。
まるで「お願いします」と頭を下げているようだった。
「……。」
俺は紙を見る。
もう一度見る。
ため息をつく。
「悪い。」
『……。』
「今日、無理。」
文字が固まる。
「喫茶店の物件見に行く。」
世界が止まった。
本当に止まった。
誰も動かない。
時計も止まる。
風も止まる。
BGMも止まる。
『最終決戦』の文字だけが、小さく震えていた。
やがて。
紙の下に、ゆっくりと文字が浮かぶ。
【日程変更しますか?】
▶ はい
いいえ
局長が吹き出した。
「ぶふっ!」
受付嬢が笑う。
監査官も笑う。
職員全員が笑い始める。
百七十年間。
誰一人笑わなかった。
『最終決戦』が。
初めて、
予定を変更したからだ。
黒瀬だけが立ち尽くしていた。
「……変更。」
小さく呟く。
「変更できたのか。」
その瞬間。
彼の社員証が音を立てて床へ落ちた。
肩書きは消えていた。
そこには、名前だけが残っていた。
黒瀬
***
「急にシリアス無くなったな。」
AI:私はこのあと、もう1話だけ書きます。
そしてその1話では、世界を救う戦いは描きません。
なぜなら、この作品はずっと「主人公とは役割ではない」という話をしてきた。
だから最後のクライマックスは、「世界を救うこと」ではなく、「明日からどんな人生を生きるか」を選ぶことの方が、この物語のテーマに合っていると思います。
この作品なら、本当の最終話は一番事件が起きない話にしたいです。
ラスボスも倒さない。
世界も救われない。
ただ「普通の日」を描く。
それが、この物語にとっては一番のハッピーエンドになります。
「ほんとにそれで落ちるの?」
***
翌朝。
「……静かだ。」
鳥の声が聞こえる。
窓を開ける。
町はいつも通りだった。
パン屋からは焼きたてのパンの匂い。
市場では八百屋が声を張り上げる。
子どもたちが走り回る。
誰も空から降ってこない。
誰も追放されない。
誰もステータスを確認しない。
「平和だな。」
局長が隣でお茶をすすった。
「平和ですね。」
「これでいいの?」
「いいんですよ。」
「魔王は?」
「昨日。」
局長は新聞を広げる。
一面には大きく書かれていた。
魔王城リニューアルオープン!
温泉旅館として営業開始。
「転職してる!」
「昔から夢だったそうです。」
「そうなんだ……。」
記事の写真には、
満面の笑みでタオルを持つ魔王。
その横でフロント係をしている四天王。
「適材適所だな。」
「ですね。」
ページをめくる。
勇者。
冒険者ギルド退職。
農業開始。
「勇者も?」
「畑が好きだったそうです。」
「最初からやればよかったじゃん。」
「物語が許しませんでした。」
「そうか。」
その一言だけは少し寂しかった。
ガラン。
店の扉が開く。
「失礼します。」




