最初のノリが懐かしい
巨大なスクリーンが切り替わる。
映し出されたのは、見渡す限りの白い空間。
山もない。
海もない。
空もない。
ただ白い。
「ここは?」
局長が小さく答える。
「第十二世界です。」
「第十二?」
「主人公が物語を拒否した世界。」
「……。」
「だから途中までしか存在しません。」
俺はその白い世界を見つめる。
風も吹かない。
音もない。
命もない。
黒瀬が静かに続けた。
「彼は最後まで自由を望みました。」
「それで?」
「自由は手に入りました。」
一拍置く。
「誰もいない世界で。」
部屋中が沈黙した。
そのときだった。
頭の中で、あの声が笑う。
『……嘘だ。』
俺は顔を上げる。
「え?」
『あいつらは、まだ嘘をついてる。』
「何を。」
『第十二世界は消えてなんかいない。』
「じゃあ?」
少しだけ、寂しそうな声だった。
『あそこには、今も一人だけ住んでる。』
「誰が。」
長い沈黙。
そして、
『最初に"嫌だ"って言った主人公が。』
俺は思わず黒瀬を見る。
黒瀬は相変わらず無表情だった。
だが、その右手だけが、ほんのわずかに震えていた。
***
「笑いで始まったら笑いで終わるって雰囲気じゃなくなってきてるけど大丈夫?」
***
本当に一瞬だった。
だが、俺は見逃さなかった。
「……今、動いたよな。」
「何がですか。」
「右手。」
「気のせいです。」
「いや絶対。」
黒瀬は静かに手を背中へ回した。
その仕草だけで、局長が小さく目を伏せる。
「主任。」
「はい。」
「嘘は、ほどほどに。」
部屋の空気が凍った。
職員たちが一斉に局長を見る。
黒瀬は初めて小さく笑った。
「……困りますね。」
「何が。」
「局長は退職が近いので、口が軽くなりました。」
「退職でそんな変わる?」
「終身守秘契約が切れますので。」
「そこだけリアル!」
局長は苦笑した。
「百年勤めましたから。」
「百年!?」
「定年です。」
「長寿企業だな!」
黒瀬は静かに眼鏡を外した。
「局長。」
「はい。」
「どこまで話しました?」
「七十二人いたこと。」
「……。」
「世界になること。」
「……。」
「第十二世界のこと。」
「そこまでですか。」
黒瀬はため息をついた。
「では、もう隠す意味もありませんね。」
職員たちがざわつく。




