いつ突っ込めばいいのかわからない
「誰?」
男は社員証を裏返し、名刺を差し出した。
物語運営部
主任執行官 黒瀬
「会社員だった。」
「はい。」
「神とかじゃないの?」
「違います。」
「魔王?」
「違います。」
「ラスボス?」
「部署が違います。」
「部署があるの!?」
黒瀬は真面目な顔で説明を始める。
「魔王課。」
「あるんだ。」
「勇者課。」
「うん。」
「悪役令嬢調整室。」
「あるんだ……。」
「ハーレム監査課。」
後ろの監査官が敬礼した。
「いつもお世話になっております。」
「世話になりたくない。」
黒瀬は一枚の組織図を広げる。
そこには巨大なピラミッドが描かれていた。
世界管理本部
物語運営部 歴史管理部 時間調整部
勇者課 魔王課 恋愛課 学園課 配信課……
「配信課まであるのか。」
「近年急成長しております。」
「業績いいんだ。」
「若年層に人気です。」
「マーケティング資料みたいに言うな。」
黒瀬は書類を閉じる。
「では、本題に入りましょう。」
部屋の空気が変わった。
「小林……じゃなかった。」
「いつ俺の名前を知った?」
「失礼。」
黒瀬は書類をめくる。
「主人公コードNo.73。」
「コード?」
「あなたは本日をもって、世界管理候補者となりました。」
「断ります。」
「却下します。」
「いや俺が断ってる。」
「規定ですので。」
「規定万能すぎるだろ。」
黒瀬はまったく表情を変えない。
「あなたには二つの選択肢があります。」
「選べるのか。」
「はい。」
職員たちが息を呑む。
局長は目を閉じる。
黒瀬が指を二本立てた。
「第一。」
「物語を最後まで演じる。」
「……。」
「その場合、あなたは七十三番目の世界になります。」
俺は黙った。
「第二。」
「?」
「途中で物語を放棄する。」
「それなら。」
「世界は消滅します。」
部屋が静まり返る。
誰も冗談だとは思っていない。
「脅しか?」
「いいえ。」
黒瀬は静かに首を振る。
「過去に一人だけいました。」
「……。」
「最後まで演じなかった主人公が。」
俺は思わず前のめりになる。
「どうなった。」
黒瀬は少しだけ目を伏せた。
「世界が半分消えました。」
巨大なスクリーンが切り替わる。




