No.99活動記録:覚醒の旗騎士と、裏方(サポート)の事情
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今回、作品に挿し絵を追加してあります!
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです
No.99活動記録:覚醒の旗騎士と、裏方の事情
感慨深くなって笑う、というおっさんAIの独特すぎる行動に私が思わず身を引いていると――。
『そらそうやろ! いっちゃん最初に【騎士】のスキルが発現してやな? パーティーに火力が足らんから言うて【暗黒騎士】を目指そうとしたら、単体超火力のスズカはんが加入して。広範囲殲滅ができるようなったサクラはんで、【暗黒騎士】を目指さんでもエエようになったら、今度はパーティー全体を見渡して指揮する【旗騎士】を目指す……と。まさに二転三転の路線変更やったわけや。普通ならスキル構成が滅茶苦茶なキメラになって破綻するところを、スイはんはうま~いことスキルを発現せんで回避してきよった。そんで今回、ようやく目指しとった【旗騎士】の核になるスキルがドンピシャで発現したんやで? これで感慨深くならんかったら、一体何に感動すんねんっちゅう話やで!』
「いや……まあ、言われてみればそうかもしれないけれど……」
『それだけやあらへん。【旗騎士】に真に必要とされるんは、仲間への『全体ステータスバフ』と、戦場の『状況把握・予測』ができるスキルが必須条件なんや』
「あ! つまりスイちゃんは【戦術眼】と【戦術予測】、そして【鼓舞奮闘】という、旗騎士に必要不可欠な三つの必須スキルを同時に発現させた、ということですか!?」
『せや! ヒマリはん。何がどう作用してそないに都合良く必要なスキルが一気に揃ったんかは知らんけどな。……しかしこれで、スイはんは名実ともに完全にパーティーの中心、揺るぎない司令塔へと腰を据えられるようになったちゅうわけや』
「ん?でもよ、 それって前からやってなかったか? 指示出したり、前衛で身体張ったり、後ろに下がって援護したりよ」
スズカがランスを肩に乗せながら不思議そうに首を傾げる。
『スズカはん。役割(立ち回り)としては前からやっとったんは確かや。せやけどな、今度はその『効果』が段違いに跳ね上がってくるんや。さっきの戦闘、ちょいと思い出してみぃ? 思った以上にサクサクと楽に戦えてたやろ?』
「あー……確かに。なんか敵の動きに合わせやすかったな」
「うん! スイちゃんの指示、すっごく分かりやすくて凄かったよ!」
「そうですね。まるでモンスターが次にどう動くのかを、一手先まで完全に先読みしているかのようでした」
『その辺は【戦術眼】と【戦術予測】のスキルによる恩恵やろな。そこに、もう一つのスキル【鼓舞奮闘】を上乗せしてみぃ? 劇的……とまでは言わんまでも、さっきとはまた一段と違った全能感が得られるはずやで』
「そんなに凄いの? 【鼓舞奮闘】って。発現したばかりでまだ使ったことがないから、実感が湧かないんだけど……」
『せやな、効果だけ先に説明しとこか。【鼓舞奮闘】はな、ヒマリはんの持つバフスキル【焔の火種】とほぼ同系統の効果を持っとるんや。しかもヒマリはんの場合は一人ひとりに個別で付与せなアカンけど、スイはんの【鼓舞奮闘】は『パーティー全体』に一瞬で同時展開できる』
「えっ!? それ、めちゃくちゃ凄くない!?」
ヒマリの【焔の火種】といえば、大幅なステータス上昇に加えて精神の高揚・恐怖耐性など、数々の恩恵をもたらす超強力なバフだ。
欠点としては、おっさんAIが言った通り「一回の行使につき一人しか対象にできないこと」と「詠唱する呪文がちょっと長いこと」くらいである。
『まあ、瞬間的な上昇率単体で見ればヒマリはんのバフ程やないかもしれへん。せやけど、ノータイムでパーティー全体に即座に撒けるんや。さらに、スイはんの全体バフの上にヒマリはんの【焔の火種】を重ねがけ(重複付与)することかて可能やろ。そうなれば理論的には『二倍から二・五倍』くらいのステータス上昇が見込めるはずや。……そんでもってサクラはんの持つ【防御力アップ】の魔導書を使ってガチガチに身を固めてみなはれ。二十階層の探索なんぞ、鼻くそほじりながらでも鼻歌まじりに突破できるようになりまっせ!』
「ほじらないわよッ! ったく……。でも……私のスキルが加わるだけで、そこまで劇的に変わるものなのね」
おっさんAIの分かりやすくも下品な解説を聞きながら、私は訓練で手に入れた自身の成長の大きさを、ようやく肌で実感し始めていた。
「へぇ……そこまで変わるって言うなら、ちょっと試してみようぜ!」
スズカの好奇心旺盛な提案により、私たちはもう一戦、今度は私の新スキル【鼓舞奮闘】を組み込んだ実戦検証を行うことになった。
『そんなら、効果を確かめるにはちょいとモンスターが密集しとるエリアが良さそうやな。今すぐ探すさかいに、ちょいと待っとってや……』
おっさんAIのカメラが周囲をスキャンし、索敵を開始する。
数秒の後、ピコーンと探知音が鳴った。
『見つけたで! 距離的にはここから三キロほど先や!』
「ならサクラ、【敏捷性アップ】の魔導書と【強化】の魔導書を使って!」
「わかったー!」
サクラが二冊の魔導書のページを手早く捲ると、淡い光が私たちを包み込み、脚力の力が一気に引き上げられる。
「じゃあおっさんAI、案内よろしく!」
『任されなはれ! こっちやでぇ!』
おっさんAIの先導のもと、私たちは原付バイク並みの快足を飛ばしてダンジョンの大地を駆け抜け、目的地へと急行する。
『あそこや! 居るのは恐竜型の小型モンスターやな。小型とは言え、群れをなして波状攻撃を仕掛けてくるから気ぃつけるんやで!』
「わかったわ! みんな、いくわよッ!」
「「「おー!!」」」
「ヒマリはまずスズカに【焔の火種】を付与して!」
「承知いたしました。――夜の底、静寂が支配する森で、一本の枯れ木が、ひそかに息をのむ。星たちの冷たいまたたきを浴びて、心に宿る小さな赤が、かすかに震えた」
ヒマリの紡ぐ、まるで現代詩のように美しく長い詠唱が紡ぎ出される。
それに合わせ、私も士気を極限まで高めるべく、旗槍の『光の帯』モードを起動した。
宙に揺らめく光の帯が、私たちの象徴である『みどりの葉っぱ隊』のパーティーエンブレムを鮮やかに形作り、風になびくように誇らしく掲げられる。
「――【鼓舞奮闘】ッ!」
私の場合、長々とした詠唱を必要とせず即座に発動できるのが何よりの強みだ。
スキルを発動した瞬間、温かな力の波動が波紋のように広がり、パーティー全員の全身へと一挙にバフ効果が付与された。
「―――あなたの歩む道は、やがて美しく揺らめく、光の川になるから―――【焔の火種】ッ!」
ヒマリの詠唱が重なるように完了し、膨大な赤き力の奔流がスズカへと注ぎ込まれる。
そしてさらに畳み掛ける!
「サクラ! スズカに【防御力アップ】の魔導書を! 【強化】の魔導書も一緒に重ねて!」
「わかった! スーちゃん、いっくよー!」
サクラの手元から放たれた幾重もの魔法がスズカを包み込む。
私の全体バフ、ヒマリの超絶単体バフ、サクラの魔導書のバフ――。
今、スズカのステータスは間違いなく過去最高値まで跳ね上がっているはずだ。
「スズカ! チャージランスでひと当てしてきてッ!」
「了解だッ! ウララララァッ!!」
スズカはランスを構え直すと、地響きを立てながら小型恐竜の群れへと猛然と突っ込んでいった。
本来の騎乗しての一撃離脱的な突撃スキルの使い方を完全に無視し、もはや走る重戦車と化したスズカは、分厚いモンスターの群れに真正面から巨大な風穴を穿ち抜いていく。
「ヒマリ! 『桜花乱舞』で撃ち漏らしたモンスターを食い止めて!」
「了解しました!」
ヒマリは即座に二本の仕込み傘を旋回させながら投擲し、逃げ出そうとするモンスターたちの群れを完全にその場へ縫い止めた。
「サクラ! 残りのモンスターをまとめて仕留めちゃいなさい!」
「わーい! 新必殺技、いっくよー! ――ドッカーンッ!!」
サクラがメモ帳のページを勢いよく捲る。
小さな花火の様な火種が展開され、そこに【強化】の魔導書によるブーストが乗っかった結果、発生したのはもはや爆撃のような高火力だった。
残されていたモンスターの群れが、悲鳴をあげる暇もなくあっという間に光の粒子へと還っていく。
「…………」
あまりのオーバーキルぶりに、私は旗槍を握ったまま目をパチクリとさせた。
(……スズカとサクラの単体・範囲火力が元々高すぎて、【鼓舞奮闘】の厳密な効果測定はちょっと判断が難しいけれど……)
けれど、このすさまじい連鎖を見届けて、私の頭の中に一つの強烈な戦術の閃きが走った。
(これ……私の全体バフ【鼓舞奮闘】と、エリカさんのスケルトン軍団、そしてアイママの『オーバーレイズ(強制存在進化)』が組み合わさったら……一つの強固な『軍隊』として機能するんじゃないかしら……!?)
自身のスキルの純粋な検証としては派手に吹き飛びすぎてよく分からなかったものの、私は明日から始まる三パーティー合同探索で猛威を振るいそうな、とんでもない連携戦術の手応えを確かに掴んでいたのだった。
今回のリハビリを兼ねたダンジョン探索は、結果として効果があったのか無かったのかイマイチ判断がつかなかったけれど、とりあえずみんな大満足でスッキリした様子だったので、本日はこれで切り上げることにした。
「じゃあ、今日の活動はここまでね! 明日からは、いよいよ二十階層の本格探索よ! みんな、頑張っていきましょう!」
「「「おー!!」」」
明日に備えての決起を交わし、私たちは笑顔で解散となったのだった。
☆★☆★☆
――ダンジョンギルド十王市支部、最下層・特別研究室。
目まぐるしく数値が変動し続ける無数のモニターを観察しながら、一つの画面をじっと注視する男がいた。
ギルド特別研究員・大文字(おっさんAIの本体)は、そこに映し出されたスイたちの戦闘データを見ながら、ひとりニヤリと口元を歪ませていた。
「……この一週間、学校のテスト期間でダンジョンに来られんのかと思っとったら、まさか自主鍛錬をしとったとはな。スイはんはこれで漸く、固定した明確な役目が出来るようになった。パーティーとして、やっと『型』にはまったって感じやな」
大文字は手元のキーボードを叩き、画面を切り替える。
「……報告されとる話やと、今回の移動遺跡は空中浮遊タイプ。二十階層は広大な森林地帯があるから、茂る木々に遮られて上空を見逃す可能性が高いな……」
大文字は徐に古めかし黒電話の受話器を取り上げると、どこかへ連絡を入れ始めた。
「あー、わてやけど。オタクのところで高性能探査機能の試作機を扱っとったやろ。あれな、悪いけど大至急こっちに持ってきてくれへんか? ……はあ? 無茶言うな? 無茶なもんかいな! オタクのところに足の速いが居るやろうが! そいつに今すぐ持ってこさせぇ! ……何に使う、やと? アホかいな! ダンジョンギルドが要請しとるんやで、ダンジョンで使う以外何がある言うねん。分かったんなら至急や! 二時間で大至急持ってくるんやで!」
大文字はガチャリと強引に受話器を置くと、息をつく間もなく再び手にして別の部署へと回線をつなぐ。
「技術局か? 悪いんやけど、いま他所から高性能探査機能のブツを取り寄せたんで、明日朝一番までに例のサポートドローン(おっさんAI)に組み込んでおいてや。……無理です? やってもいない内に無理言うなや! やって出来んのなら、やれるように徹夜で仕上げ! 分かったな!」
それだけ一気に捲し立てると、またしてもガチャリと受話器を叩きつけた。
「……後、なんかやっておくべきことはあるか……」
広大な研究室には大文字一人しかいないため、独り言が多くなるのは仕方のないことだったが――今回はそれを背後で冷やややかに聞いている者がいた。
「……とりあえず大文字さんは、その時代錯誤なパワハラを今すぐやめるべきですね」
「うおっ!? だ、誰や! ……ってお前かいな。ビビらせるなや!」
研究室の頑丈な扉を開けて立っていたのは、ギルド地上班のスタッフの一人であった。
「例の観察しているという少女たちへの支援ですか? あまりやり過ぎると、機材の私的流用で上に怒られますよ」
「言わせたい奴には言わせとけ。これも全部、ダンジョンの将来のためや」
「どんな将来ですか……まったく」
大文字の豪快すぎる言い分に呆れながら、スタッフは持参したファイル資料を大文字のデスクへ手渡す。
そこに書かれた記載を見た瞬間、大文字の顔が苦々しく歪んだ。
「……テーマパークみたいに観光地化した影響で、トラベラー達の質の低下、か。下層階層がトラベラー達のぬるま湯の溜まり場になって、リスクを冒して中層以上に進むトラベラーが激減したってワケやな」
「ギルドの方でも、下層域から産出するドロップアイテムの供給が過多になりすぎて、買取価格を大幅に抑える話が出てきています」
「そんなことしてみぃ、嫌気がさしてトラベラーそのものが居なくなるで」
「上層部は『何とかしろ』と現場に丸投げしてきていますが」
「何とか出来たら苦労はせんわ!」
「……それ、さっき自分が技術局に言った言葉の盛大なブーメランだって分かってます?」
「知るかボケッ!」
大文字は八つ当たり気味にキーボードをッターン! と打ち付けるように叩く。
「……これ、一応上に通してみぃ。ダメなら知らんと言っておけ」
大文字が今突貫で作ったデータをスタッフの端末へと送信する。データを確認したスタッフは、眼鏡の奥の目を丸くした。
「……『中層以上にいる熟練トラベラーによる、下層トラベラーへのレクチャー指導制度』ですか……」
「少なくとも効果はある。後は上が首を縦に振るかどうかや」
「分かりました。一応、上の企画会議に上げておきます」
スタッフがデータを確認して研究室を出ていくのを、大文字は見送ることもなく、再びモニターの数値とスイたちの戦闘データを見つめ続けた。
「……まっ、わてが出来ることなんぞ、精々裏でちょっとしたお膳立てとアドバイスをする程度なもんやからな……」
自分にできるサポートには限界があると、ポツリと独りごちる大文字であった。
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