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No.98活動記録:一週間ぶりの戦場と、念願の旗騎士

【お知らせ】

今回、作品に挿し絵を追加してあります!

よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです




No.98活動記録:一週間ぶりの戦場と、念願の旗騎士




 私のパーティーメンバーであるサクラ、ヒマリ、スズカの三人の用事も、この一週間で無事に終わりを迎えたようだった。


 「悪かったなスイ。親父の方もどうにか腰の方は落ち着いたみたいでよ」


 「おじさん、もう大丈夫なの?」


 「まあ、身体を慣らしながらだろうがな。ったく親父のやつ、横になってる間『俺を年寄り扱いするんじゃねぇ!』って言って、言うこと聞かなくて大変だったぜ」


 「ふふ、おじさんらしいわね。……それで、サクラの方は無事に補習を終えたのよね?」


 話を振られたサクラは、昨日の爆走狼に揺られていたアイリスやエリカさんとはまた違ったベクトルで、激しく憔悴しきった顔をしていた。


 「……うん。終わったよ……。何度も何度も、悪夢みたいにテストが出てくるの。最後には先生が『この算数の問題が解けたら補習終わりにするから』って……」


 「そう……算数のテストを、ね……」


 (高校生のサクラに、小学生レベルの算数の問題まで難易度を落とさせないと解けなかったなんて……。今後は二度と補習を受けさせないように、私の方でもしっかりと勉強を見ておかないとダメかしらね……)


 私がそんな親心のような思考を巡らせていると、サクラの方に何か嫌な予感でも走ったのか、ぞくっと肩をすくめて身震いし、辺りを見回していた。


 「ヒマリの方も、ご家庭の方……で良いのよね? 問題なく終わったの?」


 「はい。この度は私事で探索の方をお休みしてしまい、大変申し訳ありませんでした」


 ヒマリは深々と、真面目に頭を下げる。


 「ああもう、頭を上げて。ヒマリのせいじゃないんだから」


 相変わらず律儀というか何というか。……まあ、こうしてみんな一週間で無事に用事が済んで良かったと、私は密かに胸を撫で下ろしていた。


 「スイの方はどうしてたんだ? この一週間。のんびり休んでたのか?」


 スズカの何気ない問いかけに、私の脳裏へと一瞬でリフレインする地獄の七日間の記憶。僕っ娘同盟による過酷すぎるしごきの光景が怒涛のように駆け巡り、私の顔色はスッと青ざめた(ブルーになる)。


 「えっ!? なに!? オレ何か変なこと言ったか!?」


 「う、ううん。スズカが悪い訳じゃないのよ。ただ、ちょっとこの一週間は濃密……ううん、超濃密な訓練をさせられてただけで……あはは……」


 自分でも引きつっているのが分かるくらい、乾いた笑いが口から漏れた。


 「お、おう……。良くわかんねぇけど、スイはスイで色々と大変なことがあったんだな」


 スズカに罪はないのは確かだし、私はパッと頬を叩いて気持ちを切り替えると、集まってくれたみんなへ今後の予定を切り出した。


 「こうしてみんなに集まってもらったけれど。今後の予定は一週間前に話した通り、マオさんたちのパーティー『僕っ娘同盟』と、アイリスとエリカさんの二人組『お宝ハンター組』、そして私たち『みどりの葉っぱ隊』の三パーティー合同で、二十階層にある移動遺跡を見つけながら探索を進めるわ」


 「いよいよか……!」


 「お空に浮いてるんだよね?」


 「実際に浮いているかどうかは分からないけれど。少なくともおっさんAIの話だと『地面を自走するタイプじゃない』とは言っていたわね」


 「でもそれだけの人数がいらっしゃれば、探索の方も随分と楽になるのでは?」


 「そうね。マオさんたちは言わずもがなの実力だし、アイリスとエリカさんの方も二十階層で十分に戦えるだけの力を持ったって太鼓判を押されたから、大丈夫だとは思うけれど……油断はしないでいきましょう」


 私の言葉に、三人が深く頷く。


 「それでスイ、すぐに向かうのか?」


 「そうしたいのは山々なんだけど、ちょっとした事情で一日遅らせて、明日から行くことになったの」


 (……なにせ、アイリスとエリカさんが『超特急の爆走狼』に乗せられて二十階層まで行ったせいで、心身ともにボロ生霊みたいに疲れ果てちゃったからね……)


 同じ地獄の訓練を共にした仲間として可哀想だったし、流石に一日のお休みをあげたのだ。


 「そっか。んじゃ、今日はこれで解散か?」


 「それでも良いけれど……みんな、この一週間でダンジョン探索の勘、鈍ってないかしら?」


 少ない時間とはいえ、以前はほぼ毎日ダンジョンに潜っていたのだ。明日からの二十階層で勘が鈍っていて怪我をした、なんてことになったら冗談にもならない。


 私はそんな心配から口にしたのだけれど――。


 「ははっ、一週間かそこらで勘が鈍るかよ! でも身体をほぐすのには丁度いいな。これからダンジョン行こうぜ!」


 『ちょっとコンビニ行ってくる』くらいの軽いノリでスズカがそう言うと、


 「サクラ行きたい! ずっと勉強ばっかりだったから、ダンジョンでうっぷん晴らすー!」


 「ふふ、皆さんが行かれるのでしたら、私もお供しますね」


 相変わらず頼もしい(たくましい)仲間たちの反応に、私は嬉しくなって口元を緩めた。


 「なら、ギルドでおっさんAIをレンタルして、リハビリがてらダンジョン探索へ行きましょうか!」


 「「「おー!!」」」


 こうして私たちは、一週間ぶりに『みどりの葉っぱ隊』のパーティーを組み、元気いっぱいにダンジョンへと繰り出したのでした。


 『これはこれは。わて抜きでなんか面白い企画を立てたスイはんやおまへんか。わてのような頼りにならんサポートAIになんぞ、一体何の用でっしゃろ?』


 ギルドでレンタルした途端、出会い頭におっさんAIは凄まじく卑屈な嫌味を言ってきた。……本当に、AIの癖にどこまでも根に持つおっさんである。


 「合同探索の話なら、私のせいじゃないわよ。二十階層で移動遺跡の話をしていたところにアイリスとエリカさんがやって来て『私たちも連れてけー!』って騒ぎ出して。そこにマオさんたちがやって来て、あれよあれよと言う間に三パーティーでの二十階層合同探索が決まっちゃったのよ」


 『さようでっか~?』


 おっさんAIは疑わしそうに、ジト目でカメラレンズをこちらへ向けてくる。


 「本当よ」


 私が揺るぎない真実だと伝えると、おっさんAIは『まっ、そう言うこともあるでっしゃろ』と、微妙に納得しきれていない風な態度で丸く収めた。


 『そんで、今回わてを呼び出したのは、その三パーティーでの探索ちゅうわけですな』


 「残念だけど、それは明日。今回はこの一週間、スズカたちが用事でダンジョンに入っていなかったから、その勘を取り戻すためのリハビリ探索ね」


 『ほう、スズカはんたち一週間もダンジョン行かれへんかったんか。そら一回潜っといた方がエエな。プロのアスリートだって「一日休んだら勘を取り戻すのに三日かかる」なんて言いますからな』


 「二十階層へ行くのは明日にして……今日は十六階層辺りが良いかしら? あの階層から恐竜型のモンスターの出現が増えたわよね?」


 『せやな。特に二十階層までは恐竜型がメインやからな。慣らし運転って意味なら、十六階層が無難やろ』


 おっさんAIの的確なアドバイスを受け入れ、私たちは十六階層へと向かうことに決めた。


 地上の次元門を潜り抜け、光の束と共に十六階層へと転移する。


 「おお~っ! なんかひっさしぶりな景色だな!」


 スズカは愛用のランスを豪快に肩に担ぎ、眼前に広がるダンジョンの雄大なロケーションに感嘆の声を上げた。


 「今回はモンスター討伐を主目的としたリハビリ探索で良いわよね、みんな?」


 「おう! オレは構わねぇぞ!」


 「サクラも良いよーっ!」


 「はい、私はそれで差し支えありません」


 「じゃあそういうことで、おっさんAI」


 『分かってますがな。スイはんの苦手な『虫系統』のモンスターは全力で回避ルートを取りまっせ』


 慣れた手つきでナビゲートしようとするおっさんAIに対し、私は意を決して待ったをかけた。


 「……いいわ。今回は、虫系のモンスターとも戦いましょう」


 その一言が放たれた瞬間――私以外の全員の間に、落雷でも落ちたかのような激震が走った。


 「ス、スイ!? どうしたんだお前!? 頭でも打ったのか!?」


 「ス、スイちゃんどうしたの!? あんなに虫大嫌いだったのにー!?」


 「ス、スイちゃん……! 無理はお体によくありませんよ……!?」


 『ス、スイはんが虫系統のモンスターと戦うやと……!? えらいこっちゃで!! 天変地異か天災の前触れやでぇ!!』


 「……私が『虫系と戦う』って言っただけで、みんなして酷すぎない!?」


 「だってなぁ……?」


 「う、うん……スイちゃんの虫嫌いって、もうトラウマレベルじゃない……」


 「スイちゃんの虫嫌いは相当なものだと認識しておりましたが……」


 「そ、そりゃあ……私だってできれば出会いたくも、戦いたくなんてないわよ! ……でもね、明日の二十階層探索には、私たち以外のパーティーメンバーがいるのよ? 私が『あれは苦手だから回避して進みましょう』なんてワガママを言っていたら、移動遺跡を見つけることだって出来なくなっちゃうじゃない……!」


 吐露した私の本音に、みんながハッとしたように目を見開く。


 『……スイはんが、そないなパーティー全体のことを考えて……なんや、見ない間にスイはんがえらい大きくなった気がしますわな……』


 「そりゃあ……この一週間、地獄を見ましたからね……」


 私だって、少しは成長するし考え方だって変わる。……まあ、できれば変えたくなかった譲れないポリシーではあるんだけれど!



 「ヒマリ! 『桜花乱舞』でモンスターの行動範囲を狭めて!」


 「承知いたしました! 桜梅桃李――桜の型。『桜花乱舞』――郡舞ッ!」


 ヒマリは二本の和傘とビニール傘を投擲し、左右から畳みかけるような範囲攻撃を繰り出してモンスターたちの退路と逃げ場を完全に制限する。


 「スズカ! ヒマリの攻撃を掻い潜って出てくる個体を、チャージランスで仕留めて!」


 「了解だ! ウラァッ!!」


 スズカは重厚なランスをビシッと構えると、一瞬の踏み込みからモンスター群に向かって豪快に突進した。


 「サクラ! 貫通の魔導書を主軸にして! 新必殺技があるなら使って良いわ! 無ければ強化の魔導書を!」


 「らじゃった~! 補習時間中に必死で考えた新必殺技、いっくよー!」


 サクラは魔道書だけでなく自前のメモ帳まで広げ、怒濤の勢いで魔法を行使していく。


 私たちの洗練された一連の連携をつぶさに観察し、記録していたおっさんAIのカメラレンズが、カチカチと頻繁に焦点を合わせて動いていた。


 『……』


 「なんだ? 今回の戦闘、随分と楽だったな。あれか? オレたちが二十階層を経験してから十六階層に降りてきたからか?」


 あまりにあっさりと終わった戦闘の容易さに、スズカは驚きを隠せない様子だ。


 「なんだかね、みんなシュビビビッてすごくスムーズに動けてたよ!」


 「ふふ、そうですね。それもこれも、スイちゃんの的確すぎる指示のお陰だと思いますよ」


 「そんなことないよ」


 ヒマリに面と向かって褒められ、照れくさくなって打ち消そうとした私の横から――。


 『いや……スイはん。オタク、わてが見てない一週間の間に何してました? どう見てもスキルが増えとるやろ。しかも一個や二個やあらへんな?』


 おっさんAIが極めて鋭い指摘を飛ばしてきた。


 「うっ……流石におっさんAIの目は誤魔化せないか……」


 『当たり前や! わてのこの高度な光学レンズを誤魔化すなんて、十年早いんだよ!』


 なぜかドヤ顔(レンズ)で、謎のキレをかますおっさんAI。


 「なんだ? スイ、もしかしてオレたちがいない間、一人でダンジョンに入ってたのか?」


 「一人じゃないけれど、ダンジョンには入っていたわよ。……訓練をするためにね」


 「訓練ですか?」


 「そう。アイリスとエリカさんの二人が二十階層へ行くには実力不足だってマオさんたちに指摘されて、二人が訓練を受けることになったの。そこにみんなが一週間ダンジョンに来られないって話をしたら、『じゃあスイちゃんも参加したら?』って話になって」


 「それでスイちゃんも訓練してたのー?」


 「そうね。……ただ、あれは『訓練』なんて生易しいものじゃなかったけれど……」


 思い出すだけで背筋が寒くなり、遠い目をして語る私。


 『……あのマオはんとレイはんか。なるほどな、あの二人から直々に手ほどきを受けたんやったら、スイはんが強ぉなったのも納得がいきますわ』


 「あいつら、そんなに強いのか?」


 『そうやなぁ……今のお嬢さんらが二十階層まで行くのがやっととしたら、マオはんたちは四十、いや……あの雰囲気からすると五十階層くらいは行けるレベルやったな』


 「オレたちの倍以上かよ!?」


 『まあ、あくまでわてが見た時に測定した客観的な見立てや。もしかしたらもう少し上かもしれんし下かもしれん。あのお嬢さんらも隠し球の一つや二つ持ってそうやしな。……んで、スイはんが新たに発現したスキルは『戦術眼』と、戦術に関するやつやな? となると……『戦術予報』か?』


 「『戦術予測』ね。でも流石ね、さっきの戦闘を見ただけで二つも言い当てるなんて」


 『そりゃあわて、ギルド公認のサポートAIやからな。ギルドに登録されとるスキルなら大方予想がつきますわ。……しかし、その口ぶりからすると、発現したのはこの二つだけやあらへんな? 何が発現したんや?』


 「……スキルって個人情報じゃないの? 前におっさんAI自身がそんなこと言ってなかった?」


 『そら、他の探索者にむやみに話すんなら黙っておいた方がエエ。けど、わてはお嬢さんらをサポートするAIやで? お嬢さんらの持っとる能力を知らんで、どないして完璧なサポートができるっちゅうねん』


 「そう言われると……確かにそうかも。……う~ん、まあ知られたからって困る訳じゃないしね。今回マオさんたちの訓練で得たスキルは、全部で『四つ』。おっさんAIが予想した通り『戦術眼』と『戦術予測』。それに『斧槍棒術』と『鼓舞奮闘』っていうスキルよ」


 『ほうほう……『斧槍棒術』か。珍しい複合スキルと言えばそうやが、スイはんならではの能力ちゅう感じがしますな』


 「旗槍を振るう時の感覚が、劇的に良くなった気がするのよね」


 『その通りやろ。『斧槍棒術』は斧槍、槍、棒術の三つの熟練度が統合された稀有な技能やからな。……そんで『鼓舞奮闘』か。はは……っ!』


 おっさんAIが、突如として低い笑い声を漏らし始めた。


 「お、おっさんAI……?」


 『あ、いやぁスマンスマン! スイはんにもようやく『旗騎士(バネレット)』に必要なスキルが発現したんやなぁと思ったら、ちょいと感慨深くて笑えてきてしまってな』


 「感慨深くなって、なんで笑うのよ……」


 相変わらず独特すぎるおっさんAIの感性に、私は思わず引いてしまうのだった。







挿絵(By みてみん)

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