No.96活動記録:相打ちの軌跡と、芽吹く四大スキル
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No.96活動記録:相打ちの軌跡と、芽吹く四大スキル
「さあ、最後の勝負をやろうか、スイちゃん」
チーターの姿で低く身構えるマオさんに対し、私も静かに旗槍を構え直した。
以前の私なら、迷わずエネルギー刃を全開にして真正面から泥臭く迎え撃っていただろう。けれど――今回は違う。
私は口元にすっと微笑を浮かべた。
「……はい。お願いします」
そう答えると同時に、私は旗槍の機能の一つである『光の帯』を作動させ、槍先の周りに眩い光の旗をゆらゆらと作り出した。
「んん~? どういうことかな? スイちゃんの事だから、まさかふざけてる訳じゃないと思うけど」
「さあ? もしかしたら、本当にふざけているのかもしれませんよ?」
私がどこか挑発するように返すと、マオさんの鋭い表情が少しだけ楽しそうに歪んだ。
私はその場で旗槍を大きく回転させ始める。
ブン、ブン、と重厚な空気を切り裂く鋭い音が周囲に響き渡る。
光の旗がゆらゆらと私の全身を微妙に隠し、残像を生み出しながら、私は少しずつ立ち位置を横へと移動させていく。
マオさんはその光の揺らめきをじっと見つめ、目を細めた。
旗槍の回転速度が、段々と増していく。
私が自力で回しているのか、それとも加速の勢いに引っ張られて回っているのかすら分からなくなるほど、回転速度が極限に達した――その瞬間。
光の旗の隙間から、突然何かが目にも留まらぬ速さで射出された。
「あぶなッ!? 何を飛ばして――」
マオさんは咄嗟に身を捻り、頬を掠めて飛んでいった『それ』――私の腕の盾籠手に収納されているプッシュナイフを目で追った。
「……そう言えばあったねぇ、そんな武器も。で……隠し球はこれだけ――なッ!?」
マオさんが言い終わるよりも早く、私は手にしていた旗槍そのものを、マオさんの胸元目掛けて全力で投げつけていた。
まさか私が、大切な主武装を含む武器を二連続で投げ捨ててくるとは夢にも思わなかったのだろう。さしものマオさんも、明確に驚愕の表情を浮かべながら横へと回避した。
そして――武器を失い、完全に無手となった私は、回避したマオさんに向かって一直線に走り出していた。
「スイちゃんとは思えない、随分と思い切った行動だねぇッ!」
確かに、これは今までの私が見せてきた堅実な行動パターンとは正反対のものだ。
だからこそ――マオさんの思考に、一瞬の付け入る隙(予想外)が生まれるはず。
「でも! いくらなんでも無手で飛び込んでくるのは無謀だよ、スイちゃんッ!」
そう叫ぶマオさんの言う通りだ。
『獣化』し、獣そのものの圧倒的な筋力と圧倒的なスピードを持つマオさんに対して、素手で突っ込むなんて無謀以外の何物でもない。
でも――。
「アイママッ!!」
私は前線から叫んだ。
アイママなら、私のこの突拍子もない意図を絶対に理解してくれていると信じている。
だって――さっき投げ飛ばした旗槍の落下点には、アイママが立っているのだから!
そして、その期待を裏切ることなく、アイママは落下してきた旗槍を優雅に受け止めており、それを走る私の手元へ向かって正確に放り投げてくれた。
「……そう来るかぁッ! やるねぇ、スイちゃんッ!!」
空中を舞い、私の手元へと戻ってくる旗槍。
それを見たマオさんの表情に、今日一番の焦りの色が浮かんだのを、私は決して見逃さなかった。
(考えろ。考えろ。考えろ……ッ! マオさんなら、私が攻撃した時どういう風に動く――!?)
私は今、「マオさんにどう攻撃を当てるか」ではなく、「私がこう攻撃を仕掛けたら、マオさんはどう回避行動を取るか」の予測だけに思考を全振りしていた。
この思考プロセスは、奇しくもアイママのスキルによって体感させてもらった『未来予測』の経験から導き出されたものだった。
これまでの幾度にも及ぶ模擬戦の記憶を高速で反芻し、マオさんが最も取りやすい、かつ最も確実だと判断するであろう戦術面での行動パターンを土壇場で導き出す。
マオさんが一番取りやすい回避運動は――これだッ!
私は空中から受け取った旗槍のエネルギー刃を即座に『十文字槍モード』へと切り替え、直線的にマオさんの胸元へ向けて突き出した。
「甘いよ、スイちゃんッ!」
マオさんは私が繰り出した必殺の一撃を、高速移動で空間から姿を掻き消すようにして回避してみせた。
――けれど。その瞬間に、私はすでに手の中の旗槍を手放していた。
代わりに、腰のホルダーに格納されていた『もうひとつの武器』へと素早く手を伸ばす。
それを握りしめた私は、振り返ることすら外さず、自身の背後目掛けてその武器を思い切り『伸ばして』いた。
「…………」
「…………」
重苦しい沈黙が、一瞬にして周囲の空間を支配した。
「……そう言えば、もう一つあったねぇ。スイちゃんの武器」
私の背後から、吐息が届くほどの至近距離でマオさんの声が聞こえた。
「……はい。最近ではこの武器を使う機会もすっかり減ってしまいましたが……私にとっては、今でも一番頼りになる相棒なんです」
私の首元には、マオさんの鋭い獣の爪がピタリと突きつけられている。
そして――私の手元から放たれたのは、奇しくもマオさんと初めて模擬戦をした際、最後に彼女を追い詰める切り札として使ったあの武器。
勢いよく伸び切った『伸縮棒』の先端が、マオさんの喉元を寸分の狂いもなく捉えていた。
「……うん。今回は……『相打ち』、かな」
マオさんの口から、ついにその言葉が漏れ聞こえたのだった。
「いやぁ~、相打ちかぁ。まさかまた二度、三度と隠し球を使っての攻防になるとはねぇ」
マオさんは獣形態から元の人の姿へと戻り、私の背後から踊るような身のこなしで前に躍り出た。
「……じゃあ、これで『合格』ですか?」
「うん。まあ……合格、かな?」
「どっちなんですかッ!?」
どこか曖昧な生殺しの答えを返すマオさんに、私は思わず叫ぶように突っ込んでいた。
そんな私を見て、マオさんはケラケラと楽しそうに笑う。
「冗談冗談! もちろん合格だよッ!」
「じゃあ、これで二十階層へ……」
と言いかけて、ふと私は「はて?」と首をかしげた。
……私自身は、すでに二十階層へは到達しているのだ。この過酷すぎる地獄訓練の本来の目的は、アイリスとエリカさんの二人が二十階層でも戦えるようにするためのものだったはず。
(……私、ここまで命がけで頑張る必要……あったのかな……?)
疑問の上にさらなる疑問が重なり、脳内で一種のゲシュタルト崩壊を起こしかけている私に対し、マオさんはあははと能天気な声を上げた。
「あはは! アイリスちゃんとエリカちゃんの二人は、二日目の時点でアイママの力を見せてもらったことで、二十階層行き自体は問題なくなってたからねぇ。二人に継続してやってもらっていたのは地力をつけてもらうため。……で、なんでスイちゃんまで一緒にしごかれてたか、だって?」
マオさんは私の方へ顔を寄せると、ニッコリと笑った。
「それはねぇ、スイちゃん。――強くなるのに理由は要らないんだよッ!」
「……つまり私、最初から参加しなくても良かったってことですよね!?」
「え~? そんなことはないよぉ、スイちゃん強くなったよぉ? ステータス確認してごらん。その証拠がきっと出てるからさぁ」
なんだか上手いこと煙に巻かれたような気しかしないが、言われるがままに自分のステータス画面を呼び出してみる。
半透明の画面を開き――そこに記載されていた内容を目にした瞬間、私は激しい衝撃で目を限界まで見開いた。
「え……ッ!? ど、どういうことですかこれッ!?」
今までなら、厳しい戦いを経てスキルが発現するにしても一つずつだった。
それなのに、現在の私のステータス画面には――いつの間にか『四つ』もの新たなスキルがズラリと並んで発現していたのだ。
「んー、その様子だとかなり多くのスキルが発現したみたいだねぇ。まあ、そりゃあそうだよね。この七日間、自分で言うのもなんだけどボクらみたいな圧倒的格上を相手にずっと訓練してたんだから。そこで得られた経験値と刺激はとんでもない量だと思うよ」
「だ、だからって一度にこんな――ッ!」
「おっと、ストップ。スイちゃん、いくら親しくなったとはいえ自分のスキル内容を安易に口走るのはマナー違反みたいなものだよ? 自分から教えるか、相手が見抜くなら別だけどね」
「あ……はい……」
マオさんに手で制され、私はハッと口を噤んだ。嬉しさと混乱のあまり、危うく新スキルをそのまま叫んでしまうところだった。
私は静かに息を整えながら、マオさんの言葉を頭の中で反芻する。
確かに、今回手に入ったスキルたちは、マオさんたち『僕っ娘同盟』との容赦ない模擬戦がなければ、口が裂けても発現しなかったものばかりだろう。
……マオさんの最初の思惑が単なる悪ノリだったのかどうかはともかく、私の成長とスキル発現の大きな手助けをしてくれたことだけは紛れもない事実なのだ。
「……マオさん、ありがとうございました」
私は改めて、目の前の師匠とも言える存在に心からの感謝の言葉を述べた。
そして――私のステータス画面に新しく刻まれた、これからの探索の大きな糧となる四つの新たなスキル。
【戦術眼】【戦術予測】【斧槍棒術】
そして――【鼓舞奮闘】。
地獄の七日間を経て、私は確実に、次のステージへと足を踏み出していた。
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