No.95活動記録:包囲網を穿つ足音! 一対一の最終決戦
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No.95活動記録:包囲網を穿つ足音! 一対一の最終決戦
マズいマズいマズいッ!!
まさか本当に『僕っ娘同盟』のメンバー全員を一度に相手することになるなんてッ!
集団戦において、コナタさんのスキル『エアハンド』はあまりにも凶悪すぎる脅威だ。
射程がどれだけあるのかは分からないけれど、目視できる距離内であれば、彼女が両手で包み込むような仕草をするだけで見えない巨大な手が襲いかかり、まとめて捻り潰されてしまう。
フウカさんも集団戦や撹乱戦のスペシャリストだ。あの未だにギミックが分からない狐火をどうにかしないと、虚と実が合わさった翻弄攻撃で陣形をズタズタに引き裂かれる。
マオさんは言わずもがな。あの圧倒的なスピードを活かした戦術で、こちらの一瞬の隙や死角を逃さず的確に狩りにくる。
そして何より恐ろしい……というか、本当に意味が分からないのはレイさんだ。
レイさんのガーディアンである『コロネ』とスキル『武装転換』によって、特撮ヒーロースーツのような装甲に身を包んだレイさんは、言葉通り特撮ヒーローさながらの理不尽な強さを発揮してくる。
あれで身体能力系のスキルを一切持っておらず「素の筋肉と力」だけで戦っているというのだから、本当にレイさんだけ戦っている世界の物理法則が別物なのだ。
「スイちゃんどうするのよぉッ!?」
エリカさんが「どう戦えばいいの!?」と悲鳴のような声をあげる。
「全員まとめてぶちのめしゃあ良いのよッ!!」
アイリスはアイリスで、本当に物怖じすることなく『僕っ娘同盟』の四人に向かって二丁拳銃を撃ちまくった。
放たれた光弾に対し、四人は申し合わせたようにすっと散開して軽々と回避する。
(……スケルトンを一箇所に密集させちゃダメだ。集まった瞬間にコナタさんの『エアハンド』で一網打尽にされる……!)
「エリカさん! スケルトンを各個に割り当てることはできますか!?」
「ええっ!? マオちゃんたち一人ひとりにあてがえってこと!? やってみるわよッ! さあ! 私の可愛い下僕たち! あそこにいる四人をやっちゃいなさ~いッ!」
エリカさんの必死の号令のもと、骨の兵士たちがワラワラと動き出す。
けれど、素の普通のスケルトンではマオさんたちにとって防波堤の役にすら立たない。
(ここでアイママの『オーバーレイズ』を使うべき……? はっきり言って、僕っ娘同盟の四人と同時に戦う以上、どこで切り札を切っても同じな気がする。なら――!)
「アイママ! エリカさんのスケルトンにッ!」
「はぁい。スケルトンの皆さん――『強制存在進化』」
アイママは私の要請を即座に汲み取ると、すぐさまスケルトンたちへ『オーバーレイズ』をかけてくれた。
光に包まれたスケルトンたちが、その存在を劇的なものへと進化させていく。
輝きが収まった時、そこに立っていたのは今までと全く違う姿の骸骨兵だった。
隙間なく固められた完全なる重鎧甲冑。その手には鋭い剣と重厚な盾を構えた「騎士」の佇まい。
「今回は『スケルトンナイト』ですね」
アイママが進化した姿を見届けて優しくそう答える。
「あいつらって強いの、ママ!?」
「強いというか――」
一糸乱れぬ精錬された動きで、『僕っ娘同盟』に向かってズシンズシンと突き進むスケルトンナイトたち。
絶好のカモが向かってきたと言わんばかりに、コナタさんがその両手で空間を包み込むような仕草をした。
途端、進軍していたスケルトンナイトたちに不可侵の圧力が襲いかかる。
押し潰され、みし、みし……と重厚な装甲が鈍い音を立てた。
「……ぐっ……ぐぐぐっ……!」
しかし、コナタさんの両手は完全に閉じきることができず、空間に隙間を開けたまま震えている。
「すっごく『防御力』が高い子たちよ」
アイママの言葉通り、スケルトンナイトたちはコナタさんの『エアハンド』の圧力に屈することなく、じりじりと前進を続けていた。
「へぇ……コナタのエアハンドに押し潰されないなんて、かなり堅いスケルトンだねぇ」
「ちょっとマオ。感心してるのは良いんだけど……話し合った通りの『手加減』で良いんだよね?」
コナタさんは両手に目一杯の力を込めながら、マオさんにルールを確認していた。
「悪いけど、話し合った以上の本気は出さないでね。じゃあ皆の方もよろしく~! あ、レイはタガを外さないようにね?」
「ぼ、僕だってそれくらい理解してるよッ!」
「どうかなぁ~? レイは大好物が目の前に来ると真っ先に飛びつくタイプだからねぇ」
「フウカまで言うかー!」
向こうのやり取りには、まだまだ圧倒的な余裕が漂っている。
実際、本当に余裕があるのだから手厳しい。……けれど、それはそれでなんだか無性に腹が立つ状況だ。
(……一泡くらいは、絶対に食らわせてやりたいわね……!)
本当にそんなことができるのかは分からないけれど、私の心の中にふつふつと対抗心が燃え上がっていた。
「エリカさん! 各個撃破じゃなく、全員を押し留める『壁』として展開させてくださいッ!」
「か、壁ぇ!? と、とにかくやってみるわよッ! さあ下僕たち! その生意気な小娘どもを囲い込みなさいッ!」
エリカさんの号令に即座に応え、分散していたスケルトンナイトたちが一斉に動きを変える。彼らは巨大な盾を並べ立て、『僕っ娘同盟』の四人を一人ずつ分断して包囲するように強固な壁を形成し始めた。
「おいッ! あれじゃ私が銃を撃ち込めないでしょうがッ!」
「アイリスは少し待って! あの包囲から抜けてくるのは――」
私が言葉を言い終わるのとほぼ同時に、重装の包囲網を力ずく、あるいは圧倒的な速度で破って飛び出してきた影が二つ。
マオさんとレイさんだ。
(……やっぱり、圧倒的な突破力を持つ前衛タイプの二人が抜けてくるか……!)
「アイリス! ウサギさんをレイさんに当ててッ!」
「あぁん!? ったく、しょうがないわねぇッ! オラ出て来なさいッ! 『脳筋ウサギ(アジテージ・ラビット)』ッ!」
アイリスの叫びに応え、天からの光と共に天使さながら、アジテージ・ラビットが姿を現す。
「ウサギさん、申し訳ないけれどレイさんの相手をお願いしますッ!」
アジテージ・ラビットは「自分が……?」と己の太い腕を指さす仕草を見せたが、すぐさま戦況を理解してコクりと頷いた。そして、レイさんに向かってどこか歌舞伎のようなど大袈裟な構えをバシッと決めてみせる。
それを見た瞬間、レイさんの肩がびくっと跳ね上がった。
「……ふふふ、また君と相対することになるとはね。今日こそ覚悟するんだ! 怪人ウサギ男ッ!!」
アジテージ・ラビットが「かかってこい」と手招きしながら戦場を離れると、レイさんも特撮ヒーローさながらの熱い叫びを上げながら、その後を全力で追っていった。
「……まったく、レイったら言ったそばからヒーロー病が発症しちゃってるよ」
マオさんは「困ったもんだ」とため息をつくものの、その表情には全く困っている様子など見られなかった。
「いやぁスイちゃん。パーティー戦だって言ったのを上手く利用して、状況を『個人戦』に持ち込むなんてねぇ。今回の訓練の甲斐があったというものだよ」
「だったら、この辺で合格にして終わってくれると大変助かるんですが……!」
「ええ~? ダメに決まってるでしょ、分かってるくせに~」
(くっ……言ってみただけだけど、やっぱり予想通りの返答しか来ないわね……!)
「エリカさん! レイさんに割り当てていたスケルトンたちを、そのままマオさんへ集中させてくださいッ!」
「分かったわ! 手が余ってる子たち! あのメス猫をやっちゃいなさーいッ!」
「んー、だんだんエリカちゃんのボクへの評価がエロ方面に向けられてるんだよねぇ。ボクはエリカちゃんほどじゃないと思うんだけど?」
「私とあんたじゃ質が違うでしょうがッ、質が! 例えて言うなら、私が『セクハラ系』だとしたら、あんたは『発情系』でしょうがッ!」
「……わかるような、わからないような……」
(……ちょっと、私には全く口を挟めない話題なので、戦局中にそういう会話をするのはやめてもらいたいなぁ……!)
「まあ、ともかく。これでボクとのタイマン……実質個人戦と変わらなくなったねぇ。さて……スイちゃん、どうするのかな?」
マオさんはダガーナイフをシャキンと抜き放ち、楽しそうな笑みを深めるのだった。
私は旗槍を構えたものの、この状況でマオさんと純粋な一対一を行う気は一切なかった。
「アイリス! 撃ってッ!」
「ったく! 命令すんなッ!」
口ではそう文句を言いながらも、アイリスは私の言葉に従い、二丁拳銃を構えて怒涛の連射を放つ。
それに対し、マオさんは、
「それ、前にも言ったけど効かないよ?」
と、ダガーナイフで光弾を淡々と叩き落とそうとする。
「エリカさん! スケルトンたちで刃の軌道を邪魔してッ!」
「OKッ! そこのメス猫に、あんたたちのご自慢のぶっとい大剣を刺してあげなさいッ!」
エリカさんの号令を受け、スケルトンナイトたちが一斉に大剣を振り下ろす。
左右上下、逃げ場のない角度から迫る重厚な刃の群れ。
「よっ! ……っと、これは流石に……ッ!」
隙間なく迫る攻撃に、さしものマオさんもその場から跳んで逃げるように脱出を試みた。
「させませんッ!」
動かずにマオさんの回避行動をじっと観察していた私は、ここぞとばかりに踏み出す。
マオさんが着地し、逃げ出そうとするその先へと先回りし、旗槍を豪快に振り抜いた。
「げっ!?」
あのマオさんが、一瞬だけ明確に焦りの色を浮かべた。
そして次の瞬間――マオさんの身体が急速に変化する。
スキル『獣化』による巨大なネコ科の肉食動物の姿へ。
私が知る元の世界の動物で例えるなら、「チーター」が最も適切かもしれない。スレンダーでありながらしなやかな体つき、そしてスラリと伸びた長い足は、まさにチーターそのものだった。
「あーあ……この姿にはなるつもりはなかったんだけどなぁ」
チーターの姿となったマオさんが私の攻撃をスルリと回避し、口元を歪めてニヤリと笑う。
「さて……この姿になった以上は、ちょ~っと『本気』で相手するよ?」
「エリカさん! 再度包囲をッ!」
「みんなー! そのでかいメス猫をもう一度囲みなさいッ!」
エリカさんは私の意図を即座に汲み取り、スケルトンナイトたちに指示を出してマオさんを再び包囲しようとする。
「この姿のボクを包囲するの? ちょっとそれは難しいんじゃないかい?」
圧倒的な高速移動。瞬間、マオさんの姿が視界から完全に消失した。
「アイリス! 乱射ッ!」
「撃ちゃいいのねッ!!」
アイリスは二丁拳銃を構え、狙いを定めずに周囲一帯へとデタラメに光弾を撒き散らした。
「とっと……危ないなぁ。当たったら痛いんだけど?」
乱射された光弾の壁に接触しそうになり、一瞬だけ動きを止めたマオさんの姿が空中に浮かび上がる。
「エリカさんッ!」
「要領は分かってきたわ! 囲みなさいッ!」
エリカさんの指示で、スケルトンナイトたちが群がるようにマオさんへ集肉迫する。
「うわぁ……これは本当にキツいなぁ」
そう口にしながらも、その声にはまだまだ余裕が感じられた。
マオさんは再び左右上下から襲いかかってくるスケルトンナイトたちの攻撃に対し、
「こういう時はね――『一点突破』が有効なんだよッ!」
包囲していたスケルトンナイトの一体の隙をスルリと受け流すように通り抜け、一瞬で包囲網を破ってみせた。
「バーカ! こっちももう分かってんだよッ!」
脱出したマオさんに向かい、アイリスが二丁拳銃の銃口を向けて狙い撃ちする。
「でもそれ、さっきの『乱射』じゃなくて、ボクを『狙いを定めた射撃』だから動きは止められないよ」
マオさんは直線的に飛んでくる光弾に対し、最小限の体さばきで軽々と回避していく。
(やられた……! 今度はこっちの作戦を逆手に取られた……!)
私たちが『僕っ娘同盟』のメンバーを分断して個人戦に持ち込んだように、マオさんはこちらの拘束・牽制行動の隙を逆利用し、包囲網を力ずくで突破してきたのだ。
「ギャッ!?」
包囲を抜けたマオさんは、真っ先に後方のスケルトンナイトの指示役であるエリカさんを急襲。一瞬で意識を刈り取る。
「来んじゃねぇッ!」
乱射しようとするアイリスだったが、
「さっきみたいにデタラメに撃たれたら危ないけど、それも撃つ範囲(射角)が分かってるなら、ボクのスピードなら余裕で避けられるよ」
あっさりと懐に潜り込まれ、アイリスも連鎖的に沈んでしまった。
「さて……あとはスイちゃんだけだね」
戦場にはまだスケルトンナイトたちが残っているけれど、司令塔であるエリカさんが倒れた以上、彼らはこれ以上自律的な指示で動いてはくれない。
傍らに佇むアイママへ縋るように視線を送ってみたものの、彼女は静かに首を横に振った。自身は直接的な戦闘能力を持たない、という意思表示だ。
――実質、私一人の個人戦。
「さあ、最後の勝負をやろうか、スイちゃん」
チーターの姿のまま、マオさんは低く身構えるような姿勢を取る。
鋭い肉食獣の瞳が、真っ直ぐに私を射抜いていた。
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