No.94活動記録:訓練そう仕上げ絶望のフルメンバー 〜僕っ娘同盟の総力戦〜
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よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです
No.94活動記録:訓練そう仕上げ絶望のフルメンバー 〜僕っ娘同盟の総力戦〜
マオさんとの過酷な模擬戦がようやく幕を閉じた。
その日の「訓練」という名の怒涛のしごきは、どうにかこうにか終わりを告げることとなった。
「まあ、今のはなかなか良かったよ。じゃあ今日の訓練は終わりね。それじゃあまた明日~」
何気ない様子でひょいと手を振るマオさん。
「あ、二十階層へ行きたいっていうんなら、アイリスちゃんとエリカちゃんは明日以降も絶対この訓練に参加だからね? しないんなら連れてかないよ」
その残酷な宣告に、アイリスとエリカさんの顔からはあからさまに絶望の色が覗いていた。
「なんなんよあいつらはッ! 人をなんだと思ってんのよッ!」
「……ねえ、スイちゃん。二十階層って、ここまでしないと行けないような恐ろしい場所なの……?」
苛烈すぎる訓練に理不尽な怒りを覚えるアイリスと、すでに二十階層に到達している私に「ここまでやる必要があるのか」と確認してくるエリカさん。
「ここまでやる必要があるのかと問われれば……私には『分かりません』としか言いようがありません」
「ほら見なさい! あんたがそう言うなら問題ないじゃない! あいつらただ私らをいじめて楽しんでんのよッ!」
私の言葉を都合よく受け取って鼻息を荒くするアイリスに、私は静かに言葉を付け足した。
「――分かりませんが、十五階層を越えた辺りから『恐竜型』のモンスターの群れが頻繁に出てくるようになります。あれを相手にするには、純然たる突破力のある攻撃か、広範囲で一気に薙ぎ払う殲滅力がないと、前に進むことすら困難になります」
「……待って。今なんつったの……? 恐竜……? マジで言ってんの……!?」
愕然とするアイリスに、私は黙って深く頷いた。
「なんでそんなのがダンジョンの中にいんだよッ!?」
「私が聞きたいくらいよ……でも聞いた話だと、このダンジョンの各エリアって、かつて人類が滅んだ形跡がある場所らしいのよ。だからそのエリアに現れるモンスターも、その世界にいた存在なんじゃないかっていう話」
かつておっさんAIから教えてもらった世界観の仮説を二人に話す。
「ん? 待ってスイちゃん。恐竜時代って、人類はまだ存在していなかったはずよね? でもスイちゃんの話だと、人類がいた形跡があるって……」
「なんだよ、フカシ(嘘)の話かよッ!」
エリカさんは歴史知識があるようで、私の話の時代考証的な矛盾にすぐさま気がついた。アイリスは騙されたとばかりに呆れ顔を作る。
私は二人に対して、ゆっくりと首を横に振った。
「……あったんです」
「あったって……何がよ?」
「私たちが二十階層に入った時、各階層に必ずあると言われている『遺跡』……その場所に向かった時、そこには明らかに『人工物』と思われる痕跡があったんです」
「マジで……!?」
「それって……誰かが意図的に作った細工とかじゃなくて……?」
絶絶句するアイリス。エリカさんも、私たちが現地で抱いた疑問をそのまま口にする。
私はそれに対して、おっさんAIから教わった「オーバーテクノロジー」の情報をかみ砕いて伝えた。
「初エリアで見つかって、しかも現代の文明物質とは明らかに違う代物だなんて……ええっ!? どういうことよそれ……!?」
混乱するのも無理はない。でも、その答えを私が提示することはできないのだ。それが解明できたらノーベル賞をもらえる、とおっさんAIにも言われたくらいなのだから。
「まあ、そんなわけでして……二十階層の探索には、継続的な戦闘を行えるだけの戦力がどうしても必要なのよ。現状の私たちだと、一時間くらいで撤退しないと探索不可能になるので、実質三十分が行動限界。それ以上探索をするのは命の危険すらあり得るわ」
「それは確かに人手が欲しいって言いたくなるわね……。でも、さっきの模擬戦で嫌というほど分かったと思うけど、私たちってそこまで強くないのよ? それこそ、初めてスイちゃんたちと会った時から大して変わってないくらいにね」
エリカさんは自分の実力と現状を客観的に理解して話してくれている。
けれど――私は今回の模擬戦で見せてくれた「ある可能性」に希望を見出していた。
「いえ。今回、最後に見せてくれたスケルトンたちの姿……あれを見て、アイリスとエリカさんの二人には、二十階層まで一緒に行けるだけのポテンシャルがあると私は感じています」
でなければ、あのマオさんが「また明日」なんて言うはずがない。本当に見込みがないと分かれば、明日から来なくていいとか、二十階層には連れていかないとはっきり切り捨てる人なのだから。
「アイリスのお母さんのおかげで私のスケルトンたちは確かに姿が変わったけど……でも、見た目通り『骨』よ、あれ?」
「エリカさんのスケルトンって、一度に呼び出せる数の制限とかはあるんですか?」
「んー、どうなのかしら? 呪文を唱えてる時って『いっぱい出てきなさい』とか『少なめでお願い』とか漠然と思いながらやってるから、自分の限界まで出したっていう記憶はないのよねぇ」
「呼び出した後のクールタイム(再使用時間)はありますよね?」
「そりゃあね。呼び出した数に比例してるのかしら? まちまちね。一体くらいならすぐ再呼び出しできるし……んー、百体くらい出すと一時間くらいは置かないとダメかしら」
私は心の中で「なるほど」と深く頷いた。
スケルトンという、私の苦手なお化け系であることを除けば……私のスキルとエリカさんのスキルが合わされば、もの凄く強力な陣形が機能する可能性がある。
「あとは……アイリスのお母さんの力を借りられれば――」
「お前らさ、さっきから私のお母さんと言うのやめろよッ! あれは私が呼び出してる召喚物であって、本物のママじゃないんだからさッ!」
「でもあんた、ママママ言ってるじゃない。似てるんでしょう? 本物のお母さんに」
「ぐっ……見た目も中身も似てるって言えば似てるけどッ! 私の場合はそう言わざるを得ないっていうか……ッ!」
「でしたら、私のことは『アイママ』って呼んでくれたら嬉しいな」
途端、私たちの会話にふわりと割り込んできた声。
「なに言ってんだよッ!? あんたは本当のママじゃないでしょうがッ!」
「……ひどい。アイちゃんは、私のことを『ママ』って思ってくれないなんて……」
アイママ(仮)は、くすんと可哀想に涙ぐみ、ハンカチで目元をぬぐう仕草をしてみせた。
「だあーっ! 脳がバグるッ! 私が呼び出した召喚物って分かってるのにッ!」
「だったら普通にママって呼んでも良いじゃないの?私は『アイママ』で呼ばせてもらうわよ? 良いですよね?」
「ええ。私の方も、エリカさんじゃなくて『ちゃん付け』で呼んだ方が良いかしら?」
「うわぁ、さすがにアイママからちゃん付けで呼ばれるのは……なんだか気恥ずかしさが勝つわねぇ」
「ふふ、じゃあ『さん』のままにしておきますね。でも、こうしてアイちゃんと一緒にダンジョンの探索ができるなんて――」
「もういい! もういいから帰るッ!」
「あらあら。そんなに恥ずかしがらなくても――」
「うるさーい! 帰るったら帰るのッ!」
アイリスに怒鳴られて言葉を遮られたアイママは、「こんな娘ですけれど、皆さんどうぞよろしくお願いいたしますね」
と優しく微笑んで頭を下げ、温かな光となって消えていった。
「……ふぅ……ふぅ……っ! もう絶対、呼び出すもんか……ッ!」
肩で激しく息をしながら、羞恥混じりにそう呟くアイリス。
(いやぁ……それはすごく困るんだけどなぁ……)
私は今後の二十階層の探索プランを頭の中で組み立てながら、アイママのあの規格外なサポート能力はどうしても不可欠だと確信していたのだった。
アイリスとエリカさんは次の日も、文句を(主にアイリスが)怒涛のように撒き散らしながらも、しっかりとマオさんたちの訓練に顔を出した。
まずは個人戦で個々の動きを見直し、次に三対一でのパーティー戦へと移行する。
対戦相手はマオさんの時もあれば、レイさんやフウカさん、コナタさんの時もあった。パターンを固定せず、私たちをいかなる状況にも即座に『適応』させるためにやっているのだろう。
その過酷な訓練の中で、一日一人限定ではあるものの、アイママの放つ『オーバーレイズ・レボリューション』は、まさに破格のチート能力であると思い知らされることになった。
「私自身に、その力をかけてもらってもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。ただ……この力は貴女が本来持っている『可能性の行き先』のひとつを示すだけ、ということは覚えておいてくださいね」
「分かりました」
そして、私がアイママの力を受けた状態で個人戦に臨んだ時――その恩恵の凄まじさを、私は身をもって痛感したのだった。
対戦中、相手の残影のような奇妙な『ブレ』が視界に映り込み始める。
最初は「相手のスピードが早すぎて残像が見えているのか?」あるいは何らかの回避スキルかと思った。だが、交戦しながら注意深く観察してみると……その『ブレ』と、その直後に相手が実際に起こす挙動との間に、明確な『誤差』が生じていることに気づいた。
(……なに、これ……?)
刃を交えながら観察を続けるうち、私は確信に至る。
あの『ブレた動き』は――相手が数秒後に繰り出す『未来の行動』そのものなのだと。
(……未来予測……!?)
あるいは予知の領域なのかもしれない。
とにかく、相手が次にどう動くのかが手に取るように『先読み』できる力だった。
……とは言え。先読みができるからと言って、圧倒的な速さを誇るマオさんや、攻撃のギミック(仕組み)がいまだに解明できていないフウカさん、動きが分かっていても力技で押し切れないレイさんやコナタさん相手には結局勝てるはずもなく――。
「いやぁ、今日のスイちゃんは今までで一番良かったねぇ!」
と、マオさんから感心したような褒め言葉をもらう程度に留まってしまったのだった。
(またあの力をかけてもらったら、同じ『未来予測』ができるのかな……? それとも、全く違う可能性が引き出されるのかな……?)
色々と検証してみたいところではあったけれど、アイママはアイリスの保護者……じゃなかった、召喚物だ。私の個人的な都合や好奇心を押し付けるわけにもいかない。
「ふーん……ママ。私にかけてもらっても、何かしらの『可能性』が得られるってこと?」
「ええ。アイちゃんにも、持っている力の方向性のひとつが現れますよ。ふふ、子供の可能性は無限大ですからね。アイママは、アイちゃんがどんな風に育っても、いつでもずーっと味方ですからね」
「だからッ! そういう恥ずかしいことを人前で言うなッ!」
最近では、エリカさんとの罵り合いに加えて、このアイママとの気恥ずかしいやり取りもまた、アイリスの『日常』と化していたのだった。
☆★☆★☆
そんな怒涛の地獄訓練もあっという間に六日目が過ぎ去り――。
明日で泣いても笑っても最終日。「残り一日で二十階層を踏破するつもりなの……?」と、逆にマオさんたちのスパルタ指導が心配になる中、ついに七日目の朝を迎えるのだった。
「――というわけで。今日は個人戦なしの『パーティー戦』のみを行います!」
ダンジョンに集まり、てっきり今日から二十階層へと向かうのだと思っていた私たちに対し、マオさんは事もなげにそう宣言した。
「ちょっ……待ってください!? 今日って七日目ですよね!? 明日には私の方のパーティーメンバーが戻ってきて、次の日から二十階層の探索を手伝ってくれる予定なんじゃ……!?」
「うん。ボクらは手伝うよ? でも、アイリスちゃんとエリカちゃんが『一緒に 二十階層へ行けるだけのレベルなのか』っていう話だからね。今日はその最終確認。今日までの訓練で学んだことを全部出し切ってください」
「出し切ってくださいって……昨日までの立ち回りを見て判断できないんですか……?」
「え~? それじゃあつまんなくない、スイちゃん?」
「つまるつまらないの話なんですか……っ!?」
思わず額を押さえる私を余所に、隣のアイリスが二丁拳銃をガチャリと構えて前に躍り出た。
「なんでもいいじゃない! 今日こそはあんたら全員のどてっ腹に風穴開けてやるわよッ!」
「お、いつも以上に威勢がいいねぇアイリスちゃん。何か良いことでもあったのかな?」
「ええ! あんたらをギャフンと言わせて吠え面かかせられるっていう、最高に良いことがねッ!」
(……なんでこの子は、毎回こうも自信満々なんだろうか……?)
毎回その威勢で突っ込んでいってはボコボコに負けているというのに。このポジティブさだけは本当に見習いたいような、見習いたくないような気持ちになる。
「おお、それは頼もしい。じゃあ言った通り今日はパーティー戦だよ。作戦の話し合いの時間、必要かな?」
私は即座に思考を巡らせた。
マオさんが出るにしても、レイさんが出るにしても、あるいは他の二人のどちらかだとしても、正面から打ち負かせるだけの力は今の私たちにはない。
マオさんたちがこの土壇場で見ようとしているのは、本当にこの六日間で学んだことが実戦で活かせるのかという『適応力』そのものなのだろう。
私はアイリスとエリカさんに目線を送った。エリカさんは私と目が合うと、意図を汲み取って力強く頷いてくれる。
一方のアイリスは――
「必要ないわッ! あんたらなんて秒でボコボコにしてあげるわよッ!」
(……うーん、全然こっちを見てくれない……)
打合せる余裕すらないのは困りものだが、仕方がない。今回も今まで通り、アイリスの行動に合わせてサポートに回るしかなさそうだ。
私が腹を括って旗槍を構えると、エリカさんもスケルトンを呼び出す詠唱に入った。
「ねえ、ちょっと」
旗槍を構えて集中していた私の背後から、アイリスがぽつりと話しかけてくる。
「なに? アイリスなら自由に動いてくれて構わないわよ?」
「それは助かるけど……今日はママ、どうするの?」
「呼んでくれるの?」
「呼ばなきゃ勝てないでしょうがッ!」
私は思わず目を丸くした。
あのアイリスが、自分からアイママを呼び出すことを躊躇わなくなったこと。そして、他人の力を借りなければ、目の前の壁を越えられないと客観的に理解していたことに。
「……なら、エリカさんにタイミングを合わせて」
「わかった」
アイリスは短く承諾すると、天に向かって力強く手を伸ばした。
「――来てッ! ママッ!!」
アイリスの切実な呼び声に応えるように、天からの温かな光と共にアイママが降臨する。
ほぼ同時にエリカさんの詠唱も完了し、大地から這いずるようにスケルトンたちが勢揃いした。
こちらの準備は完璧に整った。
……というのに。マオさんたちは誰一人として、前に出てくる気配を見せない。
いつもなら、誰か一人が代表して前に出てきて模擬戦が始まるはずなのに。
「……えっと、今日はどなたが相手を……?」
私が恐る恐る尋ねると――。
マオさんはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
レイさんはどこか「ごめんね」と言いたげな申し訳なさそうな表情を浮かべた。
コナタさんは準備運動をするように、楽しそうに手首をグルグルと回した。
フウカさんは「にぱっ」と満面の笑顔をこちらに向けた。
その瞬間――私の背中に、かつてないほどの激しい鳥肌が立った。
「……ま、まさかとは思いますが……」
私の引きつった声を打ち消すように、マオさんが宣告する。
「言ったでしょう? 今日は『パーティー戦』だって。――ボクら『僕っ娘同盟』フルメンバー全員が相手だよ」
マオさんの口から放たれたのは、絶望という言葉すら生ぬるい、完全なる死刑宣告だった。
「「「――か、勝てるわけないでしょうがッ!!!!」」」
ダンジョン内に、私たちの絶望の悲鳴がどこまでも虚しく響き渡ったのだった。
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