No.93活動記録:一閃の獣化! 届かなかった刃
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No.93活動記録:一閃の獣化! 届かなかった刃
「「はぁぁぁぁあああ!? どういうことよぉぉぉおおおおッ!?」」
背後から響き渡る、アイリスとエリカさんの絶叫にも似た大困惑の声。
マオさんと激しい打撃戦を繰り広げていた私は、直接後ろを見る余裕こそなかったものの、何かしら決定的な『変化』が起きたことだけは察していた。
私は旗槍を受け止めながら、すぐさま背後のエリカさんに向かって叫ぶ。
「エリカさん! スケルトンたちに指示をッ!」
「え? ええ!? ど、どどどうすればいいのよッ!?」
予想外の展開にパニックを起こしているエリカさんに、私はさらに畳みかけた。
「マオさんへの『波状攻撃』を仕掛けてくださいッ!」
「りょ、了解ッ! みんな! 聞いたわね! あそこのやる気のなさそうな顔しながら、私たちのことを獲物みたいに舌舐めずりしてるエロ猫に攻撃よッ!」
「え~、ひどいなぁエリカちゃんは、ボクはエロくないよ?」
「うっさい! とーつーげーきーッ!」
エリカさんの切羽詰まった号令と同時に、背後からズシン、ズシンと地面を揺らす凄まじい行軍の足音が押し寄せてくる。
私は間一髪のタイミングでマオさんとの間合いを潰し、サイドへと跳んでその場を離脱した。
その直後――私の目の前を、無言で整然と突撃していく『骸骨兵』たちの姿が通り過ぎていった。
(……えっと……どういうこと……?)
全身を重厚な鎧で包み、片手に槍、もう片手に盾を構えた重装兵の群れ。
ことの真相(アイリスのお母さんのスキル)を知らない私は、自分の横を恐ろしい威圧感で走り抜けていくスケルトンたちを前に、ただただ目を丸くして呆然とするしかなかった。
「前のスケルトンとはちょっと姿が違うねぇ。……でも、姿が変わったとしても――」
密集体勢を組み、一糸乱れぬ精錬された動きで突き進む骸骨兵たち。
その統率された兵隊としての動きを目にした瞬間、マオさんのいつもの飄々とした表情が一瞬だけ真顔に変わる。
「こういう相手には――ねッ!」
マオさんはすかさず、真横へと素早く身を翻した。
それに釣られるように、一直線に突撃していたスケルトンたちも即座に横へと方向転換を試みる。しかし、お互いの巨大な盾や鎧が干渉し合い、密集陣形が災いして横方向へのスムーズな移動が思うようにいかない。
「アイリスッ!」
「なによッ!」
私が前線の状況を見極めて怒鳴るように声をあげるのと同時に、アイリスも負けじと大声で返してくる。
「スケルトンたちは密接しすぎて横の移動が下手! マオさんはそれを理解して誘導しようとしてる! アイリスはマオさんを自由に動かさせないよう、銃で牽制して! お願いッ!」
私は状況を的確かつ簡潔に伝え、アイリスに指示を――ううん、必死に『お願い』を投げかけた。
「ったく! しょうがないわねぇッ!」
「ふふ、アイちゃん。お友達のお願いはちゃんと聞いてあげましょうね?」
「と、友達じゃねぇしッ!」
降臨していたお母さんに茶化され、アイリスは顔を真っ赤にしながら勢いよく駆け出した。
「オラぁッ! そこから動くんじゃねぇよッ!!」
二丁拳銃を構え、マオさんの退路を塞ぐように怒涛の連射を繰り出す。
放たれた無数の光弾が、空気を切り裂いて直線的にマオさんへ肉薄した。
「ありゃりゃ……今度は上手く連携できてる、か……なっ、と……!」
飛んでくる光弾に対し、マオさんは手に持ったダガーナイフを振るい、まるで羽虫でも払うかのように巧みに撃ち落としていく。
「……なっ、なんで弾丸をナイフで撃ち落とせるのよッ!?」
「弾丸と言っても、実弾みたいに音速で飛んでくるわけじゃないからねぇ。せいぜい180キロのピッチングマシンからボールが飛んでくるようなもんかい」
「それが打てる方がおかしいだろうがッ! どんな反射神経してんのよッ!?」
「え~? ただ真っ直ぐ飛んでくるだけの玉だよ? タイミングさえ掴めば打てる打てる~」
(……いえ、普通は絶対に打てないと思います……!)
心の中で激しく突っ込まずにはいられない。
マオさんは軽々とした身のこなしで、二丁拳銃から次々と放たれる高密度の弾丸を、刃先一つで淡々と払い落とし続けていたのだった。
「エリカさん! スケルトンたちを密集陣形から『包囲陣形』へと転換させてくださいッ!」
「ほ、包囲陣形!? ど、どう指示すればいいのよッ!? っていうかスイちゃんどこよ!? 声は聞こえるけど骸骨が邪魔で姿が見えないから、巻き込んじゃうわよッ!」
混乱して悲鳴をあげるエリカさんの問いかけに、私はすぐさま旗槍のもうひとつの機能を起動させた。
先端から溢れ出した眩い光が、私たち『みどりの葉っぱ隊』のエンブレムを光の帯として空中に描き出す。
「私はここですッ!」
その光の目印を高く、高く掲げた。
「私ごと巻き込んでも構いません! マオさん共々スケルトンで囲んでくださいッ!」
「わ、分かったわ! みんなッ! 輪を作ってあのエロ猫を囲んでぇぇえッ!」
エリカさんの必死の号令を受け、重装兵と化したスケルトンたちは素早く左右へと散開。私とマオさんを中心に逃げ場を塞ぐようにして、一斉に大きな円陣を組み上げた。
「おお~! さっきとは打って変わって、随分と連携できてるじゃん」
「……及第点くらいには、届きましたか?」
「んー、まだまだ、かなぁ?」
「厳しすぎませんか……?」
「ふふ、こんなの序の口だよ」
そう笑うマオさんの表情には、依然として底知れない余裕が漂っている。
いや……実際、本当にまだまだ余裕なのだ。マオさんはまだ、あの真の戦闘形態である『獣化』のスキルすら使っていないのだから。
「それで? ここからどうするのかなぁ、スイちゃん?」
周囲を取り囲んだ無数のスケルトンたちが、円陣の内側へと向けて一斉に鋭い槍の穂先を向けた。
その中央には私もいるため、文字通りの完全な袋の鼠――のはずなのだが、この人の場合、この絶望的な状況からでもあっさりと逃げ出してしまいそうな不気味な気配があった。
(どうにかして、決定的な一撃の隙を作らないと……!)
私が思考を巡らせていた、その時だった。
頭上から破空音が響き、直後――ズドーッン!! と豪快な轟音とともに激しい土煙が巻き上がった。
地面に深くクレーターを穿ち、爆心地に立っていたのは――筋肉ムキムキの巨大ウサギ。
アジテージ・ラビットが両足と片手を地面に叩きつけ、完璧な三点着地を決めていた。
「おお……レイが見ていたら、確実に大喜びしそうな凄まじい着地の仕方だねぇ。ウサギの君まで乱入してくるなんて、ボクもそろそろ年貢の納め時かな?」
次は何を見せてくれるんだい、とでも言いたげに、マオさんはどこまでも飄々とした態度を崩さない。
「……ウサギさん。私と共闘してもらえますか?」
マオさんから片時も目を離さず、私は隣のアジテージ・ラビットへ低く問いかけた。
私には彼の言葉(鳴き声?)は理解できないけれど、ウサギの彼(?)はこちらの言葉を完璧に理解しているはずだ。
私の問いに応えるように、アジテージ・ラビットは太い腕を突き出し、グッと力強く親指を立ててみせた。
「ありがとう。……それじゃ、いきますッ!」
私は旗槍から伸ばしていた光の帯を解き。
そして、代わりにエネルギー刃をさらなる形態――三つ目の形態である『ハルバード(斧槍)型』へと一気に変形させた。
「ワァオ! スイちゃん、まだそんな隠し玉があったんだ?」
本当に驚いているのか分からない軽快なリアクションをとるマオさんに向かって、私は右から、アジテージ・ラビットは左から同時に地を蹴り、夾撃の体勢で襲いかかる。
「ふむ……急造のコンビプレイか。さて、どう料理しようかなぁ――」
「やあぁあああッ!」
遠心力を乗せ、ハルバードを豪快に振り抜く。
旗槍自体の長さや重さが変わっているわけでもないのに、刃の形状が違うだけで振るう感覚は十文字槍とも薙刀とも全く異なって感じられた。
反対側からは、アジテージ・ラビットがその凶悪な筋肉から放たれる豪腕をマオさん目掛けて叩き込む。
「考えは良いんだけどさぁ……まだちょっと足りないかなッ!」
マオさんはそう吐き捨てると、薙ぐように振るわれた私のハルバードと、アジテージ・ラビットの拳の軌道を見極め、ぐにゃりと背中を曲げてスルリと回避してみせた。
「えっ!? あ、ダメぇええッ!?」
マオさんを通り過ぎたハルバードは勢いを殺しきれず、その向こう側にいたアジテージ・ラビット目掛けて一直線に飛び込んでいく。
迫り来る斧槍の刃にアジテージ・ラビットも目を見開き、強引に拳の軌道を捻じ曲げた。そして私の旗槍の刃のない柄の部分を間一髪で殴り飛ばし、刃が身体に直撃するのを力技で阻止する。
マオさんは華麗にバク転を決めながら、私たちからスッと距離を取った。
「ご、ごめんなさいッ! 怪我してない!?」
青ざめて心配する私に、アジテージ・ラビットは「問題ない」とばかりに手で応えてくれた。
「……急造の連携じゃ、やっぱりマオさんを捕らえきれない。私が前線でマオさんを攻め立てます。あなたは逃げ道を塞ぐことに集中して!」
アジテージ・ラビットは大きく頷き、私から少し距離を取って散開した。
「スイちゃん、良い感じになってきたねぇ。でも、まだ行けそうだよね?」
「本当に厳しいですね……手心をもっと加えてくれても良いんですよ?」
「それはスイちゃんのためにならないでしょう? 『試練』とか『訓練』とかは、キツければキツいほど良いらしいよ。……まっ、ボクは楽な方が好きだけどねぇ」
(自分に甘くて他人に厳しいってやつですか……!?)
言葉だけ聞くとすっごくはた迷惑な論理である。
私は短く息を整え、旗槍の刃をハルバード形態から基本の『十文字槍形態』へと戻した。
「あれ? それに戻すの?」
「どれも扱いは慣れていないので!」
「そっか。で……次は何を見せてくれるのかな?」
(……本当にやりづらい……!)
こちらが何かを狙っているのが、完全に読まれている。
私は旗槍を大きく振り回し、遠心力を極限まで高めてマオさんへと一気に薙ぎ払った。
当然、マオさんはそれを身軽に回避する。だが――その避けた先にはすでにアジテージ・ラビットが回り込んでおり、巨大な拳を上空から振り下ろした。
しかしマオさんは、振り下ろされた拳の威勢を利用するかのように身体を極限まで回転させ、あろうことかアジテージ・ラビットの太い腕を回転しながらスルスルと登っていく。
「器用すぎませんかッ!?」
「あはは! 何事も慣れだよ慣れッ!」
アジテージ・ラビットの背後に蛇のようにぬるりと回り込んだマオさんは、手に持ったダガーナイフを彼の首元へぴたりと突きつけた。
「君はこれで終わりかな?」
「させませんッ!」
私は即座にアジテージ・ラビットの背後に回り込み、刃を薙刀形態へ変化させながらマオさんに向かって一気に振り上げる。
寸前のところで、マオさんは腕の力だけで己の身体を持ち上げ、アジテージ・ラビットの肩の上で逆立ちするようにして避けた。
「危ないなぁスイちゃん! 今のは当たってたよ?」
「避けてるじゃないですかッ!」
「痛いのは嫌だからねぇ――おっとッ!」
アジテージ・ラビットが肩の上のマオさんを捕まえようと、両サイドから挟み込むように万力の如き巨大な手を叩きつける。
だが、その圧迫さえもマオさんは滑り出すように通り抜けてしまった。
再び距離を取られたものの、マオさんはスケルトンたちの包囲網の円内からは出ずに踏みとどまっている。
「ちょっとぉッ! そっちはどうなってんのよッ!? いい加減倒したんでしょうねッ!?」
囲いの外側から、アイリスが痺れを切らしたような怒鳴り声を上げてくる。
「残念だけど、まだボクは倒されてないよ~」
「なッ!? 何やってんのよあんたッ! さっさと倒しなさいよぉぉッ!!」
(……無茶言わないでよ……!)
マオさんをここまで追い詰めても、まだ指一本掠めることすらできていないのだ。
それでも諦めるわけにはいかない。私は息を吐き出し、再び旗槍を大きく振り回し始めた。
「うーん……そろそろネタ切れかな? だったら最後は――ボクの『本気』で行こうか」
その瞬間、マオさんから発せられる雰囲気が一変した。
飄々とした空気は影を潜め、階層で遭遇する凶悪なモンスターと対峙した時のような、肌を刺す刺烈な圧力が周囲を支配する。
「この姿って、あんまり好きじゃないんだよね。……だから、一瞬ね」
マオさんの身体が、人から獣へと変化していく。
それは――しなやかで圧倒的な威容を誇る、大型のネコ科動物の姿。
マオさんの姿が完全に獣へと変わった、まさにその瞬間――。
世界から彼女の姿が掻き消えた。
何かが視界の端を横切った。
そう認識した次の瞬間には、ドサドサドサッ!! と、周囲を囲んでいた重装スケルトンたちが吹き飛んでいた。
アジテージ・ラビットは何かに上空から叩き潰されたように、無残にも地に伏せられた。
そして――。
「――はい。スイちゃんの負けね」
気がついた時には、私のすぐ背後から、マオさんの静かな声が響いていた。
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