No.92活動記録:強制存在進化! 重装骨兵(スケルトンランサー)誕生
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作品に挿し絵を追加してあります。
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです
No.92活動記録:強制存在進化! 重装骨兵誕生
パーティー戦での模擬戦――。
はっきり言って、個人戦で戦っていた時よりも圧倒的かつあっさりとやられてしまった。
こちらの準備が整うまで、わざわざ待っていてくれたマオさん。
それが彼女なりの優しさだったのか、それとも何か別の狙いがあったのかは定かではないけれど……間違いなくその「待ち時間」こそが、私たちにとっての致命的な決定打となっていたことは確かだった。
まず、アイリスにギャーギャーと言われてエリカさんがスケルトンを大量召喚。
私の視界の前に埋め尽くされた、夥しい数の人骨の群れ。
(……あれは大丈夫。あれは大丈夫。あれは大丈夫……ッ!)
私はエリカさんが呼び出したスケルトンへの恐怖でパニックを起こしかけ、自分を必死に奮い立たせるように念仏を唱えるのに精一杯で、敵であるマオさんの姿なんて微塵も視界に入っていなかった。
――ワンアウト。
「ちょっ、バカじゃないの!? 呼び出しゃあ良いってもんじゃないでしょうがッ!」
「あんたが早く呼び出せって言ったんだろうがッ!」
以降、眼前の脅威を放置して再び罵り合いを始める二人。
――ツーアウト。
「……これじゃ、模擬戦の意味がないなぁ」
マオさんの心底呆れた声が聞こえた……と思ったその直後。
私、エリカさん、アイリスの三人は一瞬で背後を取られ、首筋に衝撃を受けてあっさりと意識を刈り取られていたのだった。
――スリーアウト。チェンジ。
☆★☆★☆
意識を取り戻した私たちは今、マオさんの前で並んで正座をさせられていた。
「君たちさぁ。もう少し真面目にやった方がいいよ?」
いつものやる気のない声で放たれる、マオさんのガチ説教。
「二十階層にまで行ってるスイちゃんなら少しは分かってると思うけどさ。あの階層は群れで行動するモンスターがすごく多いんだよ。そんな場所に行って今みたいにボケ漫才なんてやってたら、命がいくつあっても足りないよ?」
ぐうの音も出ない。あまりにも正論すぎて、私たちは全員肩をすぼめて黙り込むしかなかった。
「……はぁ。もう一回やるから。今度は三人でしっかり話し合って、どうすれば良いかを考えるんだよ」
マオさんはそう言い残すと、私たちに作戦会議の時間をくれるためにすっと距離を取ってくれた。
「……ふぅ。とりあえず、三人で話し合ってみましょうか」
私は正座を崩しながら、二人に提案するように声をかけたのだった。
「まず確認なんですが……お二人は私の指示に従って――」
「いーや! なんで私があんたの指示に従わなきゃいけないのよッ!」
「私は別に構わないけど? だってスイちゃんが一番まともに戦えてたじゃない」
「うぐっ……そ、そうだけど! 人の指示に従うなんて真っ平ごめんよ!」
アイリスはぷいっと顔を横に背けてしまった。
エリカさんはともかく、アイリスは人の言うことを素直に聞いてくれるようなタイプではない。なら、アイリスには自由に動いてもらうポジションにいてもらった方が良さそうだ。
あとはエリカさんの方だけど――。
「エリカさんのスケルトンって、ただ呼び出して突撃させることしかできないんですか?」
「一応、簡単な指示には従うわよ。『あっち行って』とか『これ持ってて』とか、単純なことなら」
「なるほど……」
ひとつの命令のみを実行する機械みたいな感じかな。
「それと、マオさんが言っていたスケルトンの使い方ですけど……何か思いつくことはありますか?」
「それねぇ。骨が部位によっては硬いとか結構な重さに耐えられるって言われても、何をどうすればいいのやらさっぱり……」
エリカさんは「お手上げ」とばかりに肩をすくめる。
「……年寄りだから想像力が貧弱なんじゃないの?」
またしてもアイリスが余計な一言を挟んだ。
「誰が年寄りだッ! 誰がッ!」
「はい、二人とも落ち着いて! 喧嘩は後! 今は次の模擬戦でどう戦うかを考えなきゃダメでしょう!」
「くっ……そうね。お子様の口車に乗ってる場合じゃないわよね」
エリカさんは発散できないストレスを溜め込むように、悔しそうに唇を噛んでいた。
……あのやり取りって、エリカさんにとっては一種のストレス発散法なのかな? まあ、そんな考察は今は後回しだ。
あと確認しておかなきゃいけないのは――。
「……アイリス」
「なに寄り添ってきてんのよ」
「想像召喚で、もう一度アイリスのお母さんを呼び出してほしいんだけど」
「はぁ!? イヤなんですけどッ!」
「と言われても、今は手札が一枚でも多い方がいいのよ。恥ずかしいのは分かるけど……」
「恥ずかしくなんてねぇーし! 勘違いすんなッ!」
アイリスが怒鳴るように拒絶した、その時だった。
後ろからポンっと、ふさふさの筋肉質の手がアイリスの肩に置かれた。
「……なによ、あんた」
アジテージ・ラビットが、アイリスに向かって身振り手振りで何かを訴えかけている。
「あんたまで呼び出せって!? なんの意味があって――」
アイリスはどうしても呼び出したくはないと言い張るが、さらにアジテージ・ラビットが何事かを真剣な顔で告げた。
「……マジなの、それ?」
アイリスの問いに、アジテージ・ラビットは力強く頷く。
「……何か理由があるの?」
私が確認するために問い詰めると、アイリスは渋々といった様子で口を開いた。
「なんか……私が呼び出すママは、皆の力を『ひとつ上の段階』に引き上げる力があるっていうのよ」
「ひとつ上に引き上げる……? それって、バフ効果でステータスが上昇するのとは違うの?」
私の言葉に、アジテージ・ラビットは首を横に振った。
そして、なぜ今それをやるのか全く分からないが、突然キレキレのポージングを決めて己の筋肉を見せつけてきた。
「……ごめん。それが何の意味を持つのか全く分からないわ。アイリス、通訳してくれない?」
「通訳って言われても、こいつ時々ワケ分からない言葉で言うから通訳のしようがないのよ! 今だって『トレーニングによる筋肥大じゃなくて、ステロイドホルモンによる筋肥大だ』とか言ってるし!」
……本当に何を言っているのか分からない。
と、とにかく。このウサギの主張から、アイリスのお母さんには何か私たちの助けになる特殊な力がある、ということだけは理解できた。
私はエリカさんと協力し、嫌がるアイリスをどうにか説き伏せて、再びアイリスのお母さんを呼び出してもらうことにしたのだった。
☆★☆★☆
「んー? 準備は整った? 今度同じような負け方をしたら、アイリスちゃんとエリカちゃんは二十階層の探索メンバーからは外すからね」
(……私のパーティー主体だったはずなのに、いつの間にかマオさんたちの主導権に置き換わってる……。まあ、マオさんたちの方が圧倒的に強いから、意見としてはそちらの方が筋が通っているけれど)
「きゃっきゃっきゃっ! なら、こっちが勝ったらあんたは何をしてくれるのよッ!」
アイリスはアイリスで、一体どこからそんな自信が湧いてくるのか。
「そうだね~、ボクができる範囲だったら何でも聞いてあげるよ」
「言ったなー! 吐いた言葉は取り消せねぇからなッ!」
アイリスは愛用の二丁拳銃を取り出し、マオさんへ向けて構えた。
マオさんはマオさんで相変わらずやる気のない表情をしているが――その瞳は、獲物を狙う肉食動物のように鋭く光っていた。
マオさんがすっと距離を詰め、こちらへと向かってくる。
「アイリス! エリカさん! 召喚を! その間に私がマオさんを押さえます!」
それだけ叫ぶと、私は旗槍を素早く構え、個人戦の時のようにマオさんへ肉薄して近接戦へと持ち込んだ。
「へえ、少しは考えたのかな? スイちゃんがボクを押さえている間に、後ろの二人は何をするのかなぁ?」
余裕たっぷりに楽しむような声を出すマオさん。
私はそれには答えず、旗槍のエネルギー刃の形状を「十文字」から「薙刀」へと変化させた。
「おっと! 何それ、刃の形が変わるの? スイちゃん、さっきの模擬戦では全力じゃなかったのかな?」
「全力でしたよ! 今もですッ!」
思わず叫び返してしまう。
旗槍の刃の形状を変えて戦うスタイルは、今の私にはまだ到底使いこなせていない。基本形である十文字で戦うのが精一杯なのだ。
「……アイリス。スイちゃんがあんなに頑張ってるんだから、ここで女を魅せなきゃ廃るわよッ!」
「うっさいわね! そんなこと分かってるわよッ!」
エリカさんはスケルトンの召喚呪文の詠唱に入り、アイリスは天に向けて手を高く掲げた。
「来なさい! 私の下僕たち――!! 『冥界より這い出ずる白銀の軍勢』!!」
「来て! ママーーッ!!」
ひとつは地より。ひとつは天より。
二人の呼び声に応えるように、それぞれの召喚が空間を切り開く。
地からは蠢くようにスケルトンの軍勢が這い出し、天からは温かな光を放ちながら一人の女性が舞い降りた。
「さて……呼び出したはいいけれど、どうすればいいのよ?」
目の前に現れた骨の群れを前に、エリカさんは運用の仕方が分からず頭を悩ませる。
そこに、アイリスがお母さんへ声をかけた。
「ママ」
「なあに、アイちゃん?」
「この腐れウサギがさ、ママには何かすごい力があるって言ってるんだけど」
相変わらずアジテージ・ラビットは、アイリスのお母さんの前では忠誠を誓う騎士のように恭しく膝をついていた。
「ええ。みんなの潜在的な力を、一時的に引き上げることができるのよ。……ただ、この力で強化できるのは『一日に一人のみ』なのだけれど」
「一人って……おいッ! クソウサギ! これでどうしろって言うんだよッ!」
アイリス自身もこの後どう動かせばいいのか分からず、「お前が知ってんならどうにかしろ!」とばかりにアジテージ・ラビットへ蹴りを叩き込んだ。
「もう、アイちゃん。ウサギさんをいじめちゃダメって言ったでしょう?」
アイリスのお母さんは「メッ」と人差し指を立ててアイリスを叱る。
叱られたアイリスは首をすくめ、
「……べ、別にいじめてねぇし」
と、罰の悪そうな顔でぼそっと呟いた。
そんな二人のやり取りを見届けると、アジテージ・ラビットはすっと立ち上がり、アイリスのお母さんの元へ歩み寄ってひそひそと耳打ちを始めた。
アイリスのお母さんは「うん、うん」と優しく頷き、
「そうすれば良いのね?」
とアジテージ・ラビットに確認する。ウサギは力強くサムズアップ(親指を立てる)してみせた。
「エリカさん」
「は、はい! なんでしょうか……!?」
アイリスのお母さんに突然名前を呼ばれ、少し緊張した面持ちで返事をするエリカさん。
「貴女の呼び出したスケルトンさんたちに、私の力を施してもよろしいかしら?」
「え? それは構わないですけど……え? でも、強化できるのは一体だけなんじゃ……?」
「ふふ、あの子たちはね、あれである種の『群体』なんです。一体一体に見えるのは、まだエリカさんの力が足りなくて、あの子たちの本来の姿を引き出せていないから。……今回は私が、その力の可能性の型をひとつ、引き出してあげますね」
エリカさんは「群体……? どういうこと……?」と困惑していたが、そんな彼女をよそに、アイリスのお母さんは胸の前でそっと両手を組んだ。
「――『強制存在進化』」
祈りを捧げるような静かな仕草。しかしそこから紡がれたのは、私たちトラベラーが使うスキルのような力強い言葉だった。
瞬く間に、天から眩い光の柱がスケルトンたちへ降り注ぐ。
光に包まれたスケルトンたちは、まるで激しい変化に苦しむかのようにその身を激しくよじらせた。
「ちょっ!? だ、大丈夫なんでしょうね、ママ!?」
「ええ、大丈夫よ。ほら見てごらんなさい。あの子たちが今、ひとつの進化を遂げます」
アイリスのお母さんが優しく指し示す。
そこへ目をやると――先ほどまで苦しそうに身をよじらせていたスケルトンたちは影を潜め、完全に沈黙していた。
ただ漫然と突っ立っているだけだった弱々しいスケルトンたちが、一斉に背筋をピンと伸ばす。
その片手には鋭い槍、もう片手には重厚な盾。さらにはその骨の身体に、頑丈な鎧と兜をバッチリと身につけていた。
「どうやらあの子たち、スケルトンの上位種である『スケルトンランサー』に進化してくれたようですね」
「「はぁぁぁぁあああ!? どういうことよぉぉぉおおおおッ!?」」
アイリスのお母さんがいともあっさりとやってのけた超常現象に、アイリスとエリカは理解は全く追いつかず、盛大な悲鳴が訓練場に響き渡るのだった。
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