No.91活動記録:来て! ママー! 〜波乱のパーティー戦開幕〜
【お知らせ】
今回、作品に挿し絵とGIFを追加してあります。
よろしければ、本文と合わせて楽しんでいただけると嬉しいです
No.91活動記録:来て! ママー! 〜波乱のパーティー戦開幕〜
「――一体、『誰』が出てきたの?」
エリカさんのその言葉に、アイリスはぐっと言葉を詰まらせ、完全に押し黙ってしまった。
エリカさんは「やれやれ」と溜息をつき、肩をすくめる。
「……なら、代わりに私が答えてあげようか?」
「なッ!? あ、あんたに私が何を呼び出したかなんて分かるわけ――」
「付き合いはそう長くなくてもね。あんたの隠し事の『ひとつ』くらいの予想は、私にだってつけられるのよ。……アイリス。あんたが呼び出した召喚物って」
「言うなッ!!」
「――あんたの母親でしょう?」
「――――ッ!?」
アイリスの表情が氷のように固まった。
その反応を見て、エリカさんは当てたことを誇るでもなく、どこか聞き分けのない子供を宥めるような、困り果てた表情を浮かべていた。
「やっぱりね。あんた、常日頃から『早く家を出たい』とか『両親が自分の話を聞いてくれない』とかそんなことばかり言ってるけどさ。要は、両親に構ってほしいだけの『構ってちゃん』と変わらないのよ」
「違うっ!!」
「違わないわよ。あんたの両親がどういう風に愛情を注いでいるのか、その細部までは私には分からないけれどね。……ひとつだけはっきり分かるのは、あんたの両親はあんたのこと……アイリスのことを、心底大事にしてるってことだけよ」
「そ、そんなわけないでしょうがッ!」
「そうかしら? 少なくとも、スイちゃんのお友達で、あんたの従姉妹だって言うヒマリちゃん……だっけ? あの子経由で、あんたが今ダンジョントラベラーをやってるっていう情報は、絶対に両親に流れてるはずよ。……それなのに、あんたがトラベラーを続けるのを止めないのは何故?」
「お、教えてないし……ッ! 知らないだけだし……ッ!」
エリカさんはゆっくりと首を横に振った。
「ただの放任主義ならともかく。あんたの行く末を心配して良い学校に入れたり、習い事をさせたりするご両親なんでしょう? テーマパークみたいになったとは言え、危険が伴うダンジョントラベラーになるのを反対も止めもしないっていうのは……それだけ娘のあんたを『信じてる』からでしょうが」
「あ、あんたにうちの親の気持ちの何が分かるっていうのよッ!?」
「そりゃ分からないわよ。私はアイリスの親じゃないんだから。ただ……『親の気持ち』っていうものは、私にだってなんとなく理解できるのよ」
「え……あんた、まさか子持ちなの……?」
「違うわよッ! 結婚すらしてねぇわッ! ……哀しいこと言わせんじゃないわよッ!!」
「知らないわよッ! あんたが勝手に言い出してきたんでしょうがッ!」
「ああん!? この生意気な小娘がッ! 年長者を敬えって教わらなかったのかッ!?」
「はあん!? 年だけ食ったような大人に、敬う気持ちなんてこれっぽっちも湧いてきませんがーッ!?」
(……ああ、ダメだわ。いつもの泥沼の言い合いになっちゃった……)
途中まで、なんだかすごく良い話になりそうだったのに。
私は繰り広げられるいつものキャットファイトを前に、ただただ額を押さえて深々と溜息をつくのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ! 本当に口の減らない子ね……ッ!」
肩で息をしているエリカさん。
壮絶な口喧嘩というか、罵り合いというか……とにかく傍から見ていると凄絶に醜い言い争いだった。
「あ、終わった? ならアイリスちゃん、そのお母さんを召喚して」
まったく空気を読んでいないのか、いつも通りの呑気な調子で話しかけるマオさん。
「イヤよ! なんで呼ばなきゃなんねぇんだよ!」
「だって、アイリスちゃんのお母さんだって言っても結局は『召喚物』だからね。見た目がそうなだけで、中身はまったく違うってこともあるからだよ」
「……それって、見た目は確かにアイリスのお母様でも、中身はアイリスが思い描いた『最強の存在』かもしれないってことですか?」
「まあ、本当に最強かどうかは分からないけどねぇ」
「だってさぁ。どうせあんたのことだから、呼び出した瞬間に母親の姿をしてたから焦ってすぐに送還したんじゃないの?」
「うぐっ……! それは……ッ」
「もしかしたら、アイリスちゃんの召喚したお母さんがボクらより強い可能性も、なきにしもあらずかもねぇ」
(どっちなんですか、とツッコミたいけれど……)
私はあえて場の空気を読み、固く口を閉ざしておいた。
アイリスの方は「う~ん、う~ん」と唸りながら、相当な葛藤を繰り広げている。
「だあーっ! もう分かったわよ! 喚べば良いんでしょう、喚べばッ!!」
さんざん悩み抜いた挙句、アイリスは腹を括ったように叫んだ。
腕を天高く掲げ――
「来てッ! ママーーッ!!」
叫びとともに現れたのは、スズカさんのような神々しく圧倒的な光の魔方陣……ではなく、温かな安らぎに満ちた柔らかな光だった。
光が収まると、そこにはアイリスを数年そのまま大きくしたような一人の女性が立っていた。
閉じられていた瞳がゆっくりと開く。おっとりとした穏やかな雰囲気が、全身から溢れ出ているような女性だ。
「従姉妹っていうだけあって、どことなくヒマリちゃんの雰囲気にも似ている人ね……」
「皆さんこんにちは。アイちゃんのママです」
「あ、あれ……? 普通に声が聞こえる……!?」
アイリスのお母さんの言葉が、私の耳にもはっきりと、日本語として理解できたのだ。
召喚物が発する言葉なんて、普通は契約者にしか理解できないはずなのに。
「……ボクの言葉も理解できます?」
マオさんが尋ねると、お母さんは優しく微笑んだ。
「はい、できますよ。ごめんなさいねぇ、うちのアイちゃんがわがままで。お友達がせっかくお手伝いしてくれるっていうのに、この子はもう……。ああ、それからエリカさん」
「え? あ、はい! なんでしょう!?」
「いつもアイちゃんと遊んでくれてありがとうございます。この子、学校ではひとりぼっちだと――」
「だあーっ!! それ以上言うなッ! もう良いでしょう! はい帰る! もう用は済んだから帰るのッ!」
「ええ~? でも、まだご挨拶が……あら? ウサギさん、どうしたの?」
先ほどまで黙々と筋トレをしていたアジテージ・ラビットが、なんと片膝をつき、アイリスのお母さんの前で騎士のごとく敬意を表す仕草をしていた。
「お前……ッ! 私にはそんなこと一回もしたことないのに、なんでママにはしてんだよッ!?」
アジテージ・ラビットはアイリスに向かって何かを言っている。こちらはいつもの召喚物の鳴き声(?)なので聞こえないが――
「はぁ!? 『美しい女性に心を惹かれるのは男として当然』……!?」
「あらあら、うふふ」
アイリスのお母さんが照れたように頬に手を当てる横で、アイリスは完全に汚物を見るような目つきでウサギを睨みつけた。
「人妻を邪な目で見てんじゃねぇ! このクソウサギがぁッ!」
バシッ! バシッ! と、容赦なくアジテージ・ラビットに蹴りを入れるアイリス。
「ダメよアイちゃん、ウサギさんをいじめちゃ」
「いじめてねぇです! しつけですぅ! ……ってお前もなにママの後ろに隠れてんだ! ママは帰るんだよ! ああん!? 『帰らない』……!? いいえ帰ります! 『ママは残って私が帰れ』だと!? 上等だこの腐れウサギがぁっ! 誰が主人だか思い出させてやるよッ!」
怒髪天を突いたアイリスは二丁拳銃を引っ張り出すと、アジテージ・ラビットに向かって猛連射を始めた。
それを楽々と回避しながら跳び跳ねるアジテージ・ラビット。
「逃げんなこらーっ!」
銃声を響かせながら追いかけるアイリス。
そのバタバタとした様子を、アイリスのお母さんは困ったように見つめていたが、やがてこちらに向き直った。
「あの子のこと、よろしくお願いしますね」
深々と頭を下げると、お母さんの姿は温かな光となって、静かに消えていった。
「……あれがアイリスのお母さんか……。すっごく良いお母さんだと思うんだけどなぁ」
エリカさんは「あれに反抗する方がおかしいでしょう」と言いたげな表情で、光が消え去った空間を見つめているのだった。
「ねえ、あれを見てどう思った?」
マオさんは消えていったアイリスのお母さんのことを言っているのだろう。
レイさんたち『僕っ娘同盟』のメンバーに何かを確認するように問いかけていた。
「……僕は専門じゃないからな。意見はパスさせてもらうよ」
呆気にとられていたレイさんがそう返すと、
「そもそも機材も何もない状態で、見た目だけで判断しろっていう方が難しいと思うけどね」
と、コナタさんが淡々と続く。
「まあ、マオの言いたいことはなんとなく分かるけどさ。ぼくの意見としては……あれは支援系の『精霊種』と同じカテゴリだと思うよ」
最後にフウカさんがそう結論づけた。
「……フウカがそう言うなら、そうなのかな。あの様子からすると、回復系か味方に対するステータス上昇系だよねぇ」
「だね。どう見ても直接戦闘系には見えなかったし」
「あれでむしろ戦闘系だったら、ぼくの方が驚くよ」
(……なんだか、すごくガチな分析が始まってる……。私、ここに入った方がいいのかな……?)
四人の間で何かが決定づけられたのか、彼女たちは顔を見合わせて揃って深く頷き合った。
「よーしっ! 休憩はこれでおしまい! 今度はスイちゃん、エリカちゃん、アイリスちゃんの三人でパーティーを組んでの模擬戦をやってみようか!」
「はあ!? あんたら何言っちゃってんの!? まだやるって言ってるわけ!?」
アジテージ・ラビットを追い回していたアイリスが、マオさんの言葉を聞いて「信じられない」とばかりに大声を張り上げた。
「そりゃあそうだよ。二十階層で行動するには、今の君たちはまだまだ課題が多すぎるんだから。ほ~ら、早く戻ってくる!」
「イヤだ! あんたらの狂った訓練なんて付き合ってられるか! 私は帰るッ!」
アイリスは背を向けてそのまま逃げ出そうと走り出したが――
「コナタ」
マオさんが名前を呼ぶと、コナタさんは逃げていくアイリスに向かってすっと手を伸ばした。
「手加減できなかったらごめんね?」
親指と人差し指、中指の三本でつまむような仕草をする。
すると、逃走していたアイリスは、離れた場所で突如として何もない空間で首根っこをつままれたかのようにピタリと足止めを食らった。
「ちょっ……!? 何これぇぇぇーッ!?」
じたばたと空中で暴れるアイリス。
誰かが掴んでいるわけでもないのに、まさに巨大な何かに「つまみ上げられた」状態で、そのままズルズルとこちらへ引き戻されていく。
「お帰り~」
「帰ってきたんじゃない、連れ戻されたんだよッ!」
マオさんの気の抜けた出迎えに、不貞腐れたアイリスは地面にペタンと座り込んだ。
「ほら、あんたがママ大好きっ子だって、皆に知られて恥ずかしいのは分かるけどさぁ」
「ちっがうからッ!!」
エリカさんに茶化されて大きな否定の声をあげるアイリスだが、その顔は真っ赤に染まり、隠しきれない羞恥に包まれていた。
「はいはい~、お喋りはそこまで! そっちの三人と……こっちはそうだね。とりあえず様子見で、ボク『一人』で相手をしようか」
「はぁ? 三対一とか、バカにしすぎじゃないの!?」
「……アイリス。私はその『三対一』でボコボコに負けてるんだけど」
言いたくはないけれど、後で「なんで隠してたの」なんて言われても困るので事実を突きつけておく。
「……それ、いつの話よ」
「二階層にいた時の話。つまりアイリスたちと出会って間もない頃の……」
……十二階層までどうにか自力で行っているとはいえ、実質的な戦闘経験がほとんどない二人と、司令塔をやっているとはいえ、本来はタンク(防衛役)である私。
そんな手探り状態のパーティーで、マオさんたちの中の一人を相手にしたところで……勝てる見込みは微塵も湧いてこない。
「まあまあ、やってみるまで分からないよ? それじゃあ一回、やってみようか!」
こうして、再び模擬戦が始まった。
今度は個人戦ではなく、パーティー戦。しかも、連携の打合せすら一切していない状態の二人を抱えたままで――。
(……勝つ、以前の問題よね……これ)
後ろを振り返れば――
「ほらオバサン! さっさと骨出しなさいよ、骨をッ!」
「だからオバサンって言うなこの甘えん坊の構ってちゃんがッ!」
「構ってちゃんじゃないし! 何度も言わせんなッ!」
「……お願いだから二人とも、喧嘩は模擬戦が終わってからにして……」
私はどうすればいいの、と深く肩を落とすのだった。
少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!




