No.89活動記録:狐火のからくりと、妄執の変身ヒーロー
【お知らせ】
作品に挿し絵を追加してあります。
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです
No.89活動記録:狐火のからくりと、妄執の変身ヒーロー
私は群がる炎の狐たちを追い払うべく、夢中で旗槍を振るった。
けれど、やはり刃は炎を虚しく切り裂き、その身体を陽炎のようにすり抜けるだけだった。
(くっ……! 自由自在に実体化しているわけじゃない。絶対になにかしらの『仕掛け(ギミック)』があるはずなのに……! それを見つけ出さないと!)
一匹が二匹、二匹が三匹……と、まるで増殖するように増えていく炎の狐に翻弄されながら、私は必死に思考を巡らせて対処法を模索していた。
けれど、一向に攻略の糸口が見えてこない。
消えたと思えば目の前に現れ、現れたと思えばその数をさらに増やしていく。出現の法則性がまるで分からなかった。
「コンコンコン♪」
フウカさんは、最初から一歩も動かずにその場で歌を口ずさんでいる。
(……一歩もその場から動かずに、歌を歌い続けてる……? ──待って、まさか!?)
サクラのような極稀な『高速詠唱』能力でも持っていない限り、魔法攻撃はきちんと呪文を詠唱しなければ発動しない。詠唱を中断すれば効果は消える。
そして私の推測が正しいのであれば……フウカさんが使っているこの『狐火』は、効果を持続・強化し続けるための常時詠唱型スキルなのではないだろうか。
そんな連続的なスキルが本当に存在し得るのだろうか。けれど、以前おっさんAIが魔法の理論について語っていたのを思い出していた。
『呪文の詠唱は長くなればなるほど効果や威力が飛躍的に増大する反面、短い詠唱は威力が低い代わりに発動までの隙が小さくなるんや。そして何より、魔法の真理において詠唱とは“言語の形式”ではなく“意志の出力”……正しく構成されてさえいれば、メロディに乗せて歌おうが、発動後に追加の言葉を繋げて展開を変化させようが、何ら問題はない』
つまり――あの「コンコンコン♪」と可愛らしく歌っている言葉こそが、フウカさんの使う召喚スキルの『持続詠唱文』そのものなのだ!
私は瞬時に思考を切り替えた。
私の周りにまとわりつく無数の狐たちを無視し、狐を呼び出してから一歩もその場所から動いていないフウカさん本体を目がけて、一直線にダッシュした。
「あちゃ~、さすがに気がついちゃったかぁ」
フウカさんは襲いかかる私を見ても慌てる様子すら見せない。まるで、隠していたイタズラが友達についに見つかってしまった時の子供のような、どこか楽しげな反応を見せる。
「これでお仕舞いですっ!」
私は立ち尽くすフウカさんへ向け、全力で旗槍を振り下ろした。
――けれど。フウカさんはにこやかに微笑んだまま、微動だにしない。
「えっ……!?」
私の旗槍はフウカさんの身体を何の抵抗もなく通り抜けた。
その身体は陽炎のようにゆらりと揺れ、次の瞬間、音もなく崩れ去る。
(なんで……本体まで幻影……!?)
混乱する私の思考を置き去りにするように――耳元でふわりと髪が揺れ、次の瞬間、首筋へ柔らかな手が添えられた。
それはマオさんの時と同じように。
「今回のスイちゃんの戦いは……及第点、ね」
けれどマオさんのどこか気の抜けた声とは違う、妖艶で艶っぽい囁きが耳元で心地よく鼓膜をくすぐる。
二連敗。
マオさんに続き、フウカさんにまで背後を取られての敗北。
彼女たちが圧倒的な強者であることは重々承知していたけれど、こうも手も足も出ずに負け続けると、なんだか自分が情けなく思えてくる。
そんな私を慰めるかのように、フウカさんがポンと優しく私の肩に手を置いた。
「さっきも言ったけど、スイちゃんの今の戦い方は及第点だよ。ぼくがその場から動かずにキツネさんたちを操っていた……と推測したところまでは良かった。ただ、キツネさんたちの持つ『能力』を見極めきれなかったのが、今回の敗因だね」
「……ちなみに、どういった能力なのか教えていただくことは……」
「それは二十階層に行くまでに、自力で見極めてほしいな。どうしても無理そうだったら教えるけどね?」
無邪気に微笑むフウカさんに、私は少しだけ悔しさが込み上げてきた。
「……絶対に、自分で見つけ出してみせます」
「うんうん! スイちゃんなら、ぼくのキツネさんたちの秘密もきっと見極められるよ」
そう語るフウカさんの表情は、どこか『自分の隠し事を見つけてほしい』と願う子供のようにも見えた。
「マオとぼくで連戦したからね。スイちゃんは少し休憩してて。あっちの二人の戦いは……正直参考にはならないと思うけど、見分を広める分には良いと思うよ」
そうだ。忘れていたけれど、私以外にもアイリスとエリカさんが、レイさんとコナタさんを相手に模擬戦をしていたのだ。
私は視線をそちらへと向けた。
「もうっ! なんなのよその力は!? 一体どういう原理をしてるのよーっ!」
絶叫するエリカさんは、ネクロマンサーらしく大量のスケルトンを召喚して前線へ送り出していた。
(……うっ、やっぱり慣れないなぁ。なんでお化けなんてものを召喚できるようにしてるのかしら……)
ダンジョンのスキルシステムを担当している存在がいるのかは知らないけれど、もしいるなら一言文句を言いたいところだ。
そして、そんなエリカさんが呼び出したスケルトンの大群を前にして、コナタさんは冷静に呟いた。
「それだと、前回と全く一緒だよ。僕はこうするだけ」
コナタさんは両手を『パンッ!』と打ち鳴らすように強く握り合わせた。
すると次の瞬間――コナタさんの視線の先にいたスケルトンたちが、まるで目に見えない巨大な何かに握り潰されたかのように、一瞬でペシャンコにひしゃげたのだ。
(どういう原理……!?)
手を合わせたことで発生する何らかのスキル? でもスキルであることは間違いないはず。
コナタさんは「自分は握力が強い」と言っていたけれど、常人の域を出ていないはずだ。そうでなければ、手を合わせただけで遠くのスケルトンが潰れるはずがないから。
私は凝視し、コナタさんの動作をつぶさに観察し続けた。
コナタさんがスケルトンに向かって手を合わせる。そしてスケルトンが潰れる。――ただそれだけの動作。エリカさんでなくとも、何が起きているのか混乱するだろう。
だが、二度、三度と観察を重ねるうちに、私はある違和感に気がついた。
スケルトンが押し潰される直前、周りの地面に咲いている花が、風も吹いていないのに一瞬だけ強く煽られるように揺れていたのだ。
「……目に見えない『何か』で潰してる……?」
「スゴいね、スイちゃん。初見でコナタのあのスキルを見破るなんて」
いつの間にか隣にいたフウカさんが感心したように言った。
「いえ……でも、どういった仕組みかまでは……」
思考を巡らせるうち、私はふと思い出した。以前、サクラが「新必殺技!」と言って、メモ帳の魔法で巨大な手を作り出してモンスターを握り潰していたことを。
「……まさか、『目に見えない手』なんですか!?」
「おおっと!? ちょっと惜しい!」
「ちょっとフウカ!なんか言おうとしてるでしょう」
慌てるようにコナタさんがこっちに向けて言葉を言うも、フウカさんはまっいっかと言うような表情してから。
「 コナタのあれは空気の圧縮――『エアハンド』っていうスキルなんだよ」
フウカさんはあっさりと解説する――
「こ~ら~っ! フウカ! なんで僕のスキルのことをペラペラと話してるのかな!?」
「あは! ごめんごめん!」
コナタさんがジト目でフウカさんを睨みつけるも、当のフウカさんは悪びれる様子もなくヘラヘラと謝っている。
「く、空気!? 圧縮!? えーっと、とりあえずこの間合いから離れさえすれば――」
私たちのやり取りが聞こえていたエリカさんは、どうにかコナタさんの間合いから逃げ出そうと後退を試みる。けれど――
「僕のエアハンドからは、そうそう逃げられないと思うよ?」
コナタさんは容赦なく残りのスケルトンたちをまとめて一瞬で潰しにかかった。
あっという間に、周りにはエリカさん一人がぽつんと取り残される形となった。
「で、あとはどうするの?」
コナタさんに淡々と問われたエリカさんは、両手を脱力して高く掲げた。
「降参しますぅ~……」
お手上げ、とばかりに速やかに白旗をあげるエリカさんだった。
そしてもう一人――アイリスとレイさんの方はというと。
「チクショウがッ! 当たってんなら少しは痛いフリくらいしろやッ!!」
アイリスは、おっさんAI曰く「孤高の特撮ヒーロー」のような姿に変身したレイさんに向けて、二丁拳銃から光弾を何発も連射していた。
しかし、弾丸を全身に浴びているレイさんは、特撮ヒーローよろしく「全く効いていない」とばかりに、アイリスに向かって重厚な足取りでゆっくりと間合いを詰めていく。
「……あれはあれで、異様に怖いわね……」
「レイのあの姿は、スイちゃんも見たことあるんだっけ?」
またしても解説をしたくてウズウズしているのか、フウカさんが話しかけてきた。
「はい、以前お会いした時に。確かあの姿の時、えーっと……なんとかブラックって……」
「『ウルフ・ザ・ブラック』ね。あの姿の時って、実は基本ステータスの上昇値自体はそんなに大きくないんだよ」
「ああ、はい。うちのギルドから借りているドローン(おっさんAI)も、似たような分析をしていました」
「そうなの? 随分とお喋りなドローンなんだねぇ。まあ、そのドローンが言う通りステータスの上昇は無いに等しいんだけど……」
フウカさんは、ずいずいと突き進む特撮ヒーローなレイさんを見つめた。
「あの姿になったレイは、文字通り変身ヒーローそのものになりきってるの。だから、生半可な攻撃はレイには一切通じないんだよ」
「えっと……それってつまり、強烈な『痩せ我慢』をしてるってことですか?」
「痩せ我慢というか……本人が完全に『自分は無敵のヒーローだ』って思い込んでるのかな? その凄まじい思い込み(プラシーボ)があるから、あの姿の時のレイはぼくらの中でも文句なしに一番強いよ。……あと、すっごく厄介」
私は「どういうこと……!?」と混乱した。
思い込みの力だけで、能力値の補正を受けたトラベラーよりも強くなるなんて、一体どんな精神構造をしているのか。
「そう、あれこそがダンジョンの外でも使える、レイだけが持つ固有スキル――『妄執変身』!」
「いや、普通の人間がそんな固有スキル持ってる方がおかしいですから!?」
そんなバカな話があるかと、思わず私はフウカさんに全力でツッコミを入れてしまった。
「今回もここまでのようだね。なら――決めるよ」
レイさんは重々しく拳を握り締め、大きく振りかぶるようにして腕を高く掲げた。
「ウ~ル~フ・ザ……ッ!」
拳の周囲の大気が歪み、そこにすべての力が収束していくような錯覚に陥る。
「くっ……! 出てきてあたしを守りなさいッ! アジテージ・ビット(脳筋クソウサギ)!!」
死の危険を感じたアイリスは、迫り来るレイさんを前に堪らず叫んだ。
現れたのは、以前十階層の未来遺跡にある錬金釜によって生み出し、契約を結んだというあの召喚物――全身が超絶筋肉モリモリの筋肉トレーナーが出来るだけと言う人形ウサギだ。
「―――パンチッ!!」
振り下ろされたレイさんの必殺の一拳!
しかしその破壊的な拳は、突如召喚されたアジテージ・ビットの極太な両腕によってガシッと受け止められた。
「ッ!?……ふふ、出たね。怪人ウサギ男!」
レイさんは目の前に現れ、拳を止められたアジテージ・ビットに驚くも、そのアジテージ・ビットに対してビシッと力強く指差した。
指を指されたアジテージ・ビットの方は、「えっ? 違いますよ。自分、天使です」と言いたげに、その誇らしげな広大な背筋を見せつけ、背中にちょこんと生えたあるかないか分からない小さな羽をフリフリとアピールしてみせた。
「いくぞッ! 怪人ウサギ男!とうっ!」
レイさんはもうアイリスには見向きもせず、アジテージ・ビットに向かって猛然と襲いかかる。
一方のアジテージ・ビット側も、最初はなんだか訳が分からなさそうな顔をしていたが、レイさんが紛れもない強敵だと理解すると、ニヤリと不敵に笑った。
互いに拳と拳を激しく打ち付け合い、本当に特撮番組のヒーローと怪人のような熱いバトルを繰り広げ始めたのだった。
「あちゃ~……レイの奴、完全にのめり込んじゃったな。こうなったらとしばらくは止まらないや。アイリスちゃん、君の訓練はちょっと一時中断だね」
休憩していたマオさんが、レイさんの暴走状態を見て「もうこれはまともな訓練にならない」と判断した。
アイリスは勝てなかった悔しさと、召喚物が勝手にヒーローごっこを始めた不条理さに歯噛みしている。
そして私はというと――
「……本当に、レイさんだけ一人別次元の戦いをしてるわね……」
あの人だけ、色々な意味で異世界にいってしまっている気がして、遠い目で見つめることしかできないのだった。
少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!




