No.86活動記録:浮かれる配信裏で、まさかのパーティー崩壊!?
No.86活動記録:浮かれる配信裏で、まさかのパーティー崩壊!?
「――というわけでして! 艱難辛苦を乗り越え、無事に二十階層へと辿り着いた私たちでございます!」
配信トラベラー『元樹みどり』としての私は、定期配信である自身のチャンネルをスタートさせていた。
画面の向こうにいるリスナー――通称『みどりの葉っぱ隊』のみんなと一緒に、おっさんAIが完璧に編集してくれた探索映像を流しながら、「あの時はこうだった」「この時は大変だった」と裏話を交えてトークを進行していく。
『やべぇ、分かってはいたことだけどアネゴ(スズカ)とサクラたんが強すぎる!!』
『いやいやいや! ヒマリお嬢様も相当ヤバいって!? え!? なにあの和傘と扇子!? 傘ってあんな戦闘で使えたっけ!?』
『傘が強いんじゃねぇ! ヒマリお嬢様が強すぎるんだよ! なんだあのスキルの万能性! 打って良し、守って良し、走って良しの三拍子揃った万能選手かよ! 今年のドラフト一位指名確定だわ!』
「……あのー、葉っぱ隊のみなさん? パーティーメンバーだけじゃなくて、配信主である私もちゃんと戦闘に参加してますからね?」
『うん、知ってる。縁の下の力持ち……っていうか日陰の子?』
『後ろに待機してるゴークくんと存在感勝負で良い勝負してるよwww』
『いてもいなくても変わらない存在になりつつある、我らが葉っぱ隊隊長みどり様(笑)』
(こ、こいつら……っ!!)
いつものこととはいえ、リスナーたちの煽りが容赦なさすぎる!
私は眉間を引きつらせつつも、配信者としてのプロ根性で必死に笑顔をキープした。
「ふふふ……そんな失礼なことを言っている人たちには、と~っても大事なお知らせを教えてあげませ~ん」
私が思わせぶりにそう告げると、リアルタイムのコメント欄が一気にザワつき始めた。
『大事なお知らせ……!?』
『何それ!? また何かオフラインイベントでもやるの?』
『コラボか? でもお嬢って交友関係狭そうだし、ぶっちゃけぼっちだろ?』
(くっ……!! 誰がぼっちよ誰がっ!!)
思わず机を盛大に台パンしそうになるのを必死で耐える。
「コメントの中には、鋭い予想を当てた方もいらっしゃいましたね! そうです! 実は――次回のダンジョン探索にて、なんと二つのパーティーとの『合同探索』を行う予定なのですっ!」
私がバーンと効果音付きで発表すると、チャット欄のスクロール速度が爆発的に跳ね上がった。
『コラボ!!?? しかも合同!!??』
『マジかよ……!? ますますお嬢の存在感が背景と化すのでは……!?』
『二パーティーもコラボしてくれるなんて凄すぎだろ! お嬢、まさか裏で偉い人と繋がってんのか!?』
『裏でコネ作ったな!?』
『またわての知らんところでやらかしてるな』
『お嬢にそんな人脈あったの!?』
『スポンサーでも付いたのか!?』
『営業頑張ったんだな!』
「人をなんだと思ってるんですか!? 違いますっ!! ちゃんと対等な合意の上での合同探索ですっ!!あと地元の方たちですがスポンサー様はついてます。営業も頑張ってます!よろしくお願いします!」
『ホントかよ~!?』
『僕らの知らんところで、また凄いこと始めてるなこのお嬢……』
『で、どこのパーティーなの? 配信者仲間?』
『有名、どころじゃないよな。そこまでのコネ無さそうだし』
「どこのパーティーかは、次回の配信の時までのお楽しみです! それではそろそろお時間となりましたので……」
『うわあああ!? まだ聞きてぇぇぇ!』
『ちょっと待って! 終わらないで!』
「ダメで~す! それではみなさん、明日も元気に――ダンジョン~トラベルゥゥゥウウッ!!」
お決まりの締めの挨拶を叫び、エンドカードを画面に流しながら、私は手元のマイクのスイッチをパチリと切った。
「……ふぅ。よし……問題なく伝えられたわね」
コメントへのレスポンスも、概ね用意していた想定の範囲内で返せたはずだ。突飛なコメントにヒヤリとさせられる場面もあったけれど、放送事故になるような発言はしなかった……はず!
私は大きく深呼吸して一息つくと、配信機材をササッと片付け、明日の学校に備えてベッドへと潜り込むのだった。
翌朝、私立姫森高校。
午前中の授業がすべて終わり、待望のお昼休みとなった。私が購買へ行こうと席を立ちかけたその時――教室の廊下側に悲痛な叫び声が響き渡った。
「スイちゃ~~~ん! うえぇぇええんっ!」
教室の扉をガラリと勢いよく開けて飛び込んできたのは、涙目のサクラだった。そのままの勢いで私にガバッと抱きついてくる。
「な、なに!? 一体どうしたのよ!?」
「先生がね……先生がねぇ……っ!」
「うん。先生がどうしたの?」
「サクラ、赤点だから補習を受けなさいってぇぇええ!」
「……」
私は思わずこめかみを押さえた。一気にズキズキと痛みが走り始める。
「……サクラが赤点ってどういうことよ? ダンジョン探索にかまけて勉強がおろそかにならないように、私たちが毎日つきっきりで見てあげてたでしょう?」
「……」
サクラは私と目を合わせようとせず、すーっと視線を斜め上へと逸らした。
「……あんた、まさかとは思うけど。私たちが目を離した隙に、家で遊び呆けてたりしてないわよね?」
「……し、してないです」
はい、嘘確定。幼馴染みでなくとも一瞬で分かる大根役者な反応に、私は思わずサクラの両頬をぐに~っと引っ張った。
「いひゃい、いひゃいよ~っ! スイちゃ~ん!」
「まったくあんたって子は! で、補習っていうのはどういう形式なの? 再テストを受けろってやつ? それとも特別授業に出ろってやつ?」
「……授業に出なさいって……」
「……はぁ。ってことは、放課後に最低一週間は拘束されるってことじゃない」
「スイちゃんどうしよう……サクラ、お勉強するよりダンジョン探索してる方が楽しいから、そっち行きたいなぁ~」
「もっとダメに決まってるでしょうが! トラベラーとして若いうちに稼げる期間なんて人生の中で限られてるの! 高校中退なんてことになったら、あんた卒業したあとどうするつもりなのよ!?」
「えっと……スイちゃんに養ってもらう?」
「おバカ! 真面目に将来を考えなさい!」
「まあまあ、スイちゃん。そのあたりにして差し上げたらどうですか?」
サクラとお説教の押し問答をしていると、同じクラスメイトでもあるヒマリが優しく微笑みながらやってきた。
「だけどヒマリ……っ」
「サクラちゃんも、やりたくなくて勉強をしなかったわけではないのでしょうし」
(いや、この子の場合は周りがどんなに注意しても、目の前に誘惑があると全力で遊び呆ける時があるわよ……)と喉まで出かかったけれど、ヒマリのフォローの腰を折るのも野暮なので、ぐっと言葉を呑み込んだ。
「サクラちゃんには補習へしっかりと出席していただいて、何の憂いもなくダンジョン探索に来ていただければ良いのですから。ね?」
「まあ……そう、なんだけど……」
「ごめんちゃい、スイちゃん……」
今にも泣き出しそうなシュンとしたサクラの顔を見せられると、私も毒気を抜かれてしまう。やれやれと大きなため息を吐き出した。
「いい、サクラ。補習にはきちんと休まず出ること。学業を疎かにしないこと。これからも私と一緒にダンジョン探索を続けたいなら、この約束は絶対に守りなさい」
「……うん! わかった!」
一瞬だけ間があったけれど、サクラはしっかりと私の目を見て頷いた。
(……しかし、これは困ったわね……)
サクラが一時離脱となると、我がパーティーの広域殲滅火力が丸ごと失われるわね。これは実質、戦力半減と言っても過言ではないし、さらに、サクラが抜ければ、群れとの戦い方そのものを組み直さないといけない。
マオさんたちもアイリスたちを引き連れて二十階層へ登ってくると言っていたけれど……できればサクラの補習が終わった後に合流してくれればありがたい。けれど、そればかりは「僕っ娘同盟」の攻略スピード次第だし。
思わぬ主力メンバーの離脱に頭を悩ませながら、私はその後の午後の授業を受けるのだった。
放課後。
私とヒマリは、スズカと合流するためにダンジョンギルドに隣接するレストラン街へと向かった。
いつものフリースペースのテーブル席へ到着すると、すでにスズカが先に来て座っていた。
「よう! ちょっと野用があって先に着いてたんだけどさ。サクラはどうしたんだ? トイレか?」
「違うわよ。あの子、勉強を疎かにしていたせいで、今日から一週間は放課後に補習授業を受けることになったのよ」
「マジかよ!? うわぁ……タイミング悪ぃな……!」
スズカの過剰なまでの驚きと、「タイミングが悪い」という引っかかる一言に、私はすかさず眉をひそめた。
「ちょっと、タイミングが悪いってどういうことよ? もしかして……スズカの方でも何かトラブルでもあったの?」
「ああ……実はさ、うちの親父がギックリ腰をやっちまってよ。しばらく店の方をオレがフルで手伝わなきゃならなくなっちまったんだよ」
「ええっ!? だ、大丈夫なの、おじさん!?」
「まあ、動けないほど重症ではないらしいんだけどさ。医者からは絶対安静って言われてて。ほら、うちの親父ってあんな性格だろ? 動けるんなら無理してでも仕事やり出しそうだからさぁ……。母ちゃんからも『親父に無理させんな』ってキツく言われてて……スイ、ホント悪いっ!」
スズカはバンッ! と音を立てて両手を合わせ、深々と頭を下げた。
「一週間ほどで良いんだ! オレも一時的に探索を抜けても良いか……!?」
「それはもちろん構わないわよ! っていうか、家の事情なんだから当然でしょう。スズカは元々、私の都合でダンジョン探索を手伝ってもらってるんだから」
「いやな、オレとしては『一週間くらい店を臨時休業にしときゃ良いじゃん』って言ったんだけどさ」
「いや、絶対にダメでしょう! スズカの家は食料の配送業務をしてて、このレストラン街にも納品してるんだから、それが止まったら他のお店全部に迷惑がかかるじゃない!」
「スイまでそんな正論言うなよな~……お前はオレの母ちゃんかよ」
「母ちゃんじゃなくて、ごく普通の一般常識を述べただけよ。……まあとにかく、事情は分かったわ。こっちはこっちで何とかしておくから、スズカはおじさんのサポートに集中しなさい」
「ほんと悪いな……。最近じゃ家業の手伝いより、ダンジョンで稼いでた方が圧倒的に割が良かったんだけどよ~」
「スズカまでサクラみたいなこと言わないの!」
どうして私の幼馴染み二人は、こうも思考回路が同じなのかしら……。
スズカは何度も「悪い!」と謝りつつ、すぐに家業の配送作業に戻らなければいけないため、今日はそのままトンボ返りで帰っていった。
「……弱ったわね。スズカまで抜けちゃうなんて……」
戦力半減どころの騒ぎではない。一気に二人離脱だ。
私はマオさんに連絡を入れて、「申し訳ないけれど、二十階層の合同探索は一週間延期にしてもらえませんか」と相談しようかと考えを巡らせていた。
――その時。
「――はい。……はい、分かりました」
少し離れた場所でスマホで電話を受けていたヒマリが、通話を終えたところだった。
最初はいつも通りの落ち着いた応対だったのだが、最後の方になると、明らかに声のトーンが重く沈んでいくのが見て取れた。
……いやな予感がする。猛烈に、嫌な予感が。
「……スイちゃん」
電話を終えて戻ってきたヒマリは、どこか申し訳なさそうに、消え入るような声で私を見つめてきた。
私はこめかみに強烈な偏頭痛を覚え、手で押さえながらヒマリの言葉を片手で制した。
「……みなまで言わないで。ヒマリ、あなたもなのね?」
「……はい。大変申し訳ありません……。私の方も家庭の事情で、一週間ほど『探索部』の活動が行えなくなってしまいました……」
ヒマリの家は、格式高いかなりのお金持ちで厳格なご家庭だ。色々と複雑な家の事情があるのだろう。
私はそれ以上深く理由を追及することはせず、無理に笑顔を作って「気にしないで」と首を振った。
「いいのよ、家のことなんだから。気にしないで」
「本当に申し訳ありません……!」
ヒマリは何度も申し訳なさそうに頭を下げ、今日の探索も無理だということで、引き上げるようにスズカ同様にこの場を去っていった。
一人ぽつんとフリースペースのテーブルに残された私。
「……悪いことっていうのは、本当に立て続けに起きるものね……」
パーティーメンバー四人中、まさかの三人離脱。
もはや「パーティー」としてすら成り立たないこの絶望的な状況に、さすがの私も頭を抱えて深いため息を吐くことしかできないのだった。
少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!
【お知らせ】
作品に挿し絵を追加しています。
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです




