No.84活動記録:押しかけハンターたちと、千客万来のフリースペース
No.84活動記録:押しかけハンターたちと、千客万来のフリースペース
「ふぁ~っふぁっふぁっ! 渡りに船とはまさにこのことね! それなら私たちが、あんた達のパーティーに入ってあげてもいいわよ!」
私たちが一斉に声の方へと振り向くと、そこには二人の女性が立っていた。
一人はシュッとした大人っぽいスタイルの成人女性。もう一人は私たちと同年代か、ほんの少し年下くらいに見える女の子だ。
はっきり言って、どちらも私服の見た目や服装だけでは全く見覚えがない二人なのだが――
「あら、こんにちはアイちゃん。今日はダンジョンに来ていたのですね」
ヒマリちゃんだけは、その声と人物を熟知していたが故に、ごく自然に挨拶を返した。
「ごきげんようヒマリさん! そうなんです……って、違うわよっ! 挨拶を交わすために出てきたんじゃないのよっ!」
「……あんた、普段はごきげんようとか言ってお上品な挨拶してるの?」
「くっ、仕方がないでしょう!? うちの親が格式高いお嬢様学校に入れたもんだから、普段着だとつい癖で出ちゃうのよっ!」
……あ、この勢いだけのノリとツッコミのやり取りで一瞬で誰だか分かった。
地味めな服装のせいで一瞬ピンと来なかったけれど、彼女は和泉愛。ヒマリの従姉妹で、ダンジョン内では白いロリータファションに身を包み『アイリス』という配信名でお宝ハンターを自称しているトラベラーだ。
「なんだ、アイリスだったのね。急に誰かと思ったわ。……ということは、隣の人は――」
「はぁい♪ お久しぶり~、エリカよ」
アイリスから「オバサンオバサン」と散々言われていたから、勝手にもっと上の年齢の人だと思い込んでいたけれど……バッチリギャル風ファッションに身を包んだ、五十里恵梨香さんだ。
こちらもアイリス同様に黒いゴシックロリータファッションに身を包んでお宝ハンターを自称し、よく二人組で活動している。
この二人、一時は私たちのゴークくんを力ずくで奪い取ろうとして、無茶な決闘(?)を仕掛けてきたこともあったけれど……まあ、知り合いと言えば知り合いな間柄ではある。
けれど――
「それで、さっきなんか『入ってあげる』とか言ってたけど、どういうこと?」
「だ・か・ら! 私たちが、あんた達のパーティーに入ってあげるって言って差し上げたのよ! 光栄に思いなさいな!」
アイリスはそれが当然とばかりに誇らしげに胸を張り、盛大に上から目線で言い放ってきた。
「あ、そうですか。人手は今のところ間に合ってますので、お出口はあちらとなっております。お気をつけてお帰りください」
私も負けじと、完璧な営業用スマイルで慇懃無礼な態度を返してやった。
「ちょっ……待ちなさいよ!? 即答で断るんじゃないわよ!」
「え? だって『入ってあげる』って言われたから、丁重にお断りしただけだけど?」
「普通そこは『お願いします!』でしょうが!」
「普通、パーティーに入りたい人は『入れてください』って下手に出るものじゃないの?」
「ぐっ……!」
アイリスは悔しそうに顔を歪めると、隣のエリカさんをチラリと見た。
「だから最初からその言い方じゃダメだって言ったじゃない……」
エリカさんはやれやれと言わばかりに大きなため息を吐き、それから私に向かってふっと微笑んだ。
「まあ、アイリスの物言いはこの際ごめんなさいってことで許してね♥」
エリカさんは体をくねらせながら、謝罪しているのか色気を振りまいているのかよく分からない仕草をしてくる。本当にマイペースな人だ。
「はあ……。で、いったいなんで私たちのパーティーになんて入りたくなったんです?」
「それね。あなたも配信者だから分かると思うんだけどさ、個人勢ってホントにお金の出入りが激しいのよ」
「まあ、それは……痛いほどによく分かりますけど」
「さっきギルドのロビーで、あなたが盛大に喜んでいる姿を見てさ。『もしかして、とびきり美味しい狩り場を見つけたのかなぁ』って思ったわけよ」
「……って、あれ見られてたんですか!?」
たしかロッカーを出てすぐの通路だったはず……! 恥ずかしいところをモロに見られていたらしい。
「うん。すっごい嬉しそうだったから、きっと今までで一番稼げたんだろうなって思って、思わず声かけさせてもらったのよ」
くぅっ、誰もいないと思って油断していたのに、まさか知り合いに見られていたなんて!
「……別に狩り場の情報を教えるのは構わないですけど、そんなに大したことじゃないですよ」
「はんっ! 私たちを見くびらないことね! 私たちは今や、十二階層まで安定して行けるようになったんだからね!」
アイリスが威張るように胸を張って言ってきたが――
「……あのさ、私たちが今いる階層って、二十階層なんだけど」
私が淡々と真実を告げると、アイリスは目を見開いて硬直した。
「う、嘘よっ! あんた達、この間は私たちとそう変わらないところにいたじゃない!? なんでそんなのが二十階層になんているわけ!? なによ、もしかして何かズルでもしたの!?」
「してないわよ! 普通に私たちの実力で、ここまで上がってきただけよ。はい、狩り場の情報が欲しかったんならもう用はないでしょ? 回れ右して帰りなさい」
私がぞんざいにあしらうと、アイリスは少し涙目になりながら地団駄を踏み始めた。
「嘘だ嘘だ! 私たちに教えたくないからって、そんな嘘吐いてるんだぁっ!」
……うぅわぁ、完全に駄々をこね出しちゃったよこの子!
私はたまらず、従姉妹であるヒマリの方へ視線を送った。するとヒマリは「やれやれ」とばかりに困ったような表情を浮かべ、アイリスを宥めようとする。
「アイちゃん、落ち着いてください。スイちゃんが仰っていることは事実ですから。だからそうやって駄々をこねないの」
「いーやーだーーっ! 教えてくれるまで、ここで絶対にてこでも動かないからねっ!」
ヒマリがお手上げと言わばかりの表情をしている。あの穏やかなヒマリでこうなら、私にどうしろって言うのよ!
レストラン街の隅っこに響き渡るアイリスの駄々っ子ボイスに、周囲の視線が集まり始めたその時――。
「あれあれ~? なになに? スイちゃん、女の子を泣かせてるの?」
聞き覚えのある、どこか人を食ったような明るい声。
「違いますっ! ……って、あれ?」
私は反射的に否定しながら振り返った。
そこに立っていた人物の顔を見た瞬間、思わず目を丸くする。
「マオさん!? それにレイさんも!?」
「やあ! スイちゃん、サクラちゃん、ヒマリちゃん、久しぶり~!」
「こんにちは、みんな」
私に声をかけてきたのは、猫神真央さん。そして、大上嶺さんだ。さらに後ろには見知らぬ二人の女の子も控えているけれど、マオさんとレイさんは紛れもなく知り合いだった。
この二人との出会いは、スズカが私たちのパーティーに加入したばかりの頃だ。
ダンジョン内でスズカが新しい愛用のランスを試そうとした時、いつの間にかレイさんのガーディアンである犬型モンスター『ココ』が足元に迷い込んできて、それを探しにきたレイさんと知り合ったのが最初だった。
その後、レベルアップのためにモンスターと戦っていた私たちを「襲われている!」と盛大に勘違いしたレイさんが乱入。誤解が解けた後は、二人が私たちのために特訓として対人戦を買って出てくれたのだが……結果は文字通りボコボコに返り討ちに遭ったという経緯がある。
「あはは、ごめんごめん! なんか遠くで騒いでるのが見えたからさ。レイがまた『正義感の暴走』っていう持病を発動させる前に、ボクから声をかけたんだよ」
「ちょっとマオ! 病気みたいに言わないでよ!?」
(あはは……レイさんの過剰な正義感を『病気』と言い切るのはどうなんだろう……)と、私は正直ちょっと引きつった曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
「それで、一体何があったの? ……あ、そうだ。一応うちの新メンバーを紹介しとくよ! ボクたち『僕っ娘同盟』のイカれたパーティーメンバー――天地こなたと、黒下風花の二人だよ!」
「「誰がイカれたメンバーだよっ!?」」
後ろの二人が見事なハモりで即座にツッコミを入れた。
「まったく、マオは相変わらずまともな紹介もしないんだから……。改めて、ぼくは天地こなた。コナタって呼んでくれればいいよ」
ボーイッシュな雰囲気のコナタさんが、笑顔で手差し伸べてくる。私は「スイです、よろしくお願いします」と受け取り、握手を交わした――ッ!?
「ぎ、ぎぎぎ……っ!?」
「ああっ! ごめんごめんっ! 力強かった!? ぼく、普通の人よりちょっと握力が強いらしくてさ……加減はしてるつもりなんだけど!」
「ちょっとコナタ! 相手の手を潰す気!? 彼女、素手でリンゴを軽く握り潰せるくらいの超絶握力だから気をつけてね。……やっほ〜! 僕は黒下風花。フウカって呼んでね!」
フウカさんからもニコニコと握手を求められるが、私は右手の痺れに耐えつつ、完全に疑心暗鬼になって恐る恐ると手を差し伸べた。
「ほら見なよ! コナタが彼女の手を握り潰そうとしたから、僕の握手にまで怯えちゃってるじゃん!」
「握り潰そうなんて思ってないってば!? 普通にそっと握っただけだよっ!」
ギャーギャーと楽しそうに言い合いを始めるコナタさんとフウカさん。
急に現れた強烈な『お宝ハンターコンビ』に、さらに賑やかな『僕っ娘同盟』の面々まで加わり、テーブル周辺はすっかり大騒ぎだ。
「……なんか今日は、千客万来にもほどがあるわね……」
私は痺れる右手をおさえながら、遠い目をしてポツリと独り言を漏らすのだった。
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