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No.83活動記録:過去最高の換金にスイのホクホク顔と、高らかな高笑いは強力な助っ人か?





No.83活動記録:過去最高の換金にスイのホクホク顔と、高らかな高笑いは強力な助っ人か?




 その日の二十階層の探索は、ドロップアイテムを入れるマジックバッグがパンパンになってしまったため、無理をせずそこで打ち切ることにした。


 「ちぇ~、結局『移動する遺跡』ってやつは見つからなかったな」


 「ねー! どこにあるんだろう?」


 スズカとサクラは、巨木の隙間から覗く空を見上げながら「空飛ぶ移動遺跡」を探そうと目を凝らしているが、そう簡単に見つかる品物でもないと思う。


 だって、超絶レアだと言われるあの『星海クジラ』でさえ、運良く二回遭遇できたこと自体が、かなりの強運だ。配信者としても、トラベラーとしても活動期間がそこまで長くないのに二回も遭遇できたなんて、普通じゃ考えられない。


 (……もしかして私、実はかなりの幸運の持ち主なのかしら?)


 ふとそんな調子のいいことを思い立ち、私も二人につられて木々の隙間から青空を見上げてみる。


 「……うん、何もないわね」


 そう都合よく奇跡なんて起きないらしい。


 私たちは時間も時間ということもあり、本日の探索を終えることにした。次元門へと戻り、そのまま一気に地上へと帰還する。


 「じゃあ私、ギルドでドロップアイテムの換金をしてくるから」


 「おう! オレらは着替えたら、外のレストラン街にあるフリースペースのところで待ってるわ」


 ダンジョン専用の防護服を着たまま地上へ出ることはできないため、スズカたちはロッカールームで装備を預け、改札口のようなセキュリティゲートを通ってギルドの表へと出ていく。


 「さて、私の方も換金とおっさんAIの返却をしてこなくちゃね」


 『そうなると、わてもここで一旦返却となりますかいな?』


 「そうね。特に今回は大きなトラブルもなかったし、反省点もなさそうでしょう?」


 『せやな。移動遺跡の方も影も形も見当たらんかったし、まあ気長に行くのが一番ですわ』


 「そうするわ」


 私はまずギルドの総合受付に向かい、おっさんAIを返却するためにカウンターへ差し出した。


 「お世話になりました。レンタルドローンの返却をお願いします」


 「はい、お預かりいたします。機体の損傷などを確認いたしますので、少々お待ちくださいね」


 『ほなな、スイはん! 今回の探索映像も後でササッと編集して、スイはんのサーバーに転送させてもらうさかい』


 「毎回本当に助かるわ。編集作業も地味に大変だから」


 受付の職員さんがおっさんAIを専用の検品デバイスの上に置くと、先ほどまで軽快にお喋りしていたドローンはパタリと音を止め、ただの無機質な丸いドローンへと戻った。


 検品機が瞬時に機体の損傷やバッテリー状態をスキャンしていく。職員さんはパソコンのモニターを確認し、特に問題がないことを確かめると、丁寧な笑みを浮かべた。


 「……はい、機体・データ共に問題ありません。レンタル料も通常料金となります。お支払いはどうされますか?」


 「こちらのダンパス(ダンジョンパスポート)から引き落としでお願いします」


 「かしこまりました」

 

 専用の読み取り機にダンパスをかざすと、ピッと短い電子音が響く。


 「はい、もうお取りいただいて大丈夫です。手続きは以上となりますが、他に何かございますか?」


 「あ、はい……大丈夫です。あ、あの……毎回思うんですけど」


 「はい? なんでしょうか?」


 「このおっさんAI……あ、いえ、このドローンって、妙に人間くさいというか、意志があるように感じることがあるんですけど……そういう学習型AIプログラムみたいなのが組み込まれてるんでしょうか?」


 私の素朴な疑問に対し、受付の職員さんは一瞬間を置き、引きつったような笑みを浮かべた。


 「……えっと、わ、私はそういったプログラム関係に関しては素人ですので、正確なお答えはできかねますが……当ギルドの技術部が誇る『自信作』だと伺っておりますよ」


 心なしか額に微かな冷や汗を浮かべつつ答える職員さん。


 (へぇ……今の技術って本当に凄いのねぇ)と感心しながら、私は「ありがとうございました」と告げて受付カウンターを後にした。


 ――スイが完全に立ち去ったことを確認した受付の職員さんは、小さく深いため息をつき、独り言のように毒を吐いた。


 「……まったく。自分の趣味か何だか知らないけど、いたいけな女子高生相手に何やってるんだか……。こんなの事が露見したら大騒ぎになるんだからね」


 カウンターの下で小さく恨み言を呟いていると――検品機の上にあるはずのドローンから、スピーカー越しに忍び声が響いた。


 『そないなヘマ起こすかいな。そないな心配しとらんでええから、オタクは今回のお嬢さん方の探索映像の編集をしといてや』


 「……大文字主任。私は今、絶賛受付業務中なんですけど?」


 『他の奴に交代頼めばええやろが』


 「大体なんで私が編集しなきゃならないんですか!? 大文字主任が彼女から頼まれたんでしょう!?」


 『わてがやっても面白味がないねん。それよかオタクがやった方が、お嬢さん方の面白さを十全に引き出せとる。さすがは昔、アイドルトラベラーとしてデビューしようとして――』


 「ああああっ!? ひ、人の黒歴史を勝手に暴露しようとしないでくださいっ!!」


 『ええやん別に。あれはあれでわてはおもろいと思ったで? ダンジョンで何をとち狂ったか、歌とダンスでモンスターと戦おうとしたあの無茶なコンセプトは――』


 「やめて~! 話さないで~! 黒歴史を思い出させないでぇ~っ!」


 受付の職員さんは頭を抱え、カウンターの陰で耳を塞いで丸くなった。


 『……まあ、そこまで言うならこの話はここまでにしたるわ。そんなら編集の方、頼みましたで~』


 ドローンからの声がぷつりと途切れると、受付の女性はのそのそと惨めそうに起き上がった。


 「……これ、パワハラで上に訴えたら勝てるかしら……」


 心底憔悴した様子で呟きつつも、彼女は言われた通り、その場でスイたちの今回の探索映像の編集作業を渋々始めるのだった。


 「――以上が、今回の査定額になります」


 換金所の窓口でドロップアイテムの査定結果を提示され、私は提示された金額を見て思わず目を丸くした。


 「……えっと、あの……これ、桁の間違いとかじゃないですよね?」


 「はい。間違いございませんよ。何かご納得いただけない点でもございましたか?」


 「あ、いえいえいえ! そういうことではなくて! 思っていた以上に大きな金額だったので、ちょっと驚いてしまって……!」


 「ああ、そういうことですか。今回お持ち込みになられたのは、二十階層のアイテムですよね?」


 「はい、そうです」


 「ダンジョンのドロップアイテムは、十階層ごとに提示額のベースが跳ね上がる仕組みになっておりましてね。二十階層ともなりますと、十階層の頃と比べても一気にランクが一つ上がることになりますので」


 「はぁ……そう、なんですね……」


 私は渡された明細表の数字を凝視しながら、窓口の担当者さんの説明を半分上の空で聞いていた。


 (……えっ、嘘でしょ!? 今までの最高月収レベルの金額が、たった一日で……!?) 


 「ご提示額にご納得いただけましたら、すべて買い取りということでお手続きを進めてよろしいでしょうか?」


 「あ、はい! お願いします!」


 「買取金額のお支払いは、現金でしょうか? それとも口座への直接お振り込みでしょうか?」


 「こちらに振り込みでお願いします!」


 私がダンパスを差し出すと、担当者さんは手際よく受け取って読み取り機にかざした。


 「ただいまお振り込みが完了いたしました。またのご利用をお待ちしておりますね」


 「ありがとうございました!」


 返却されたダンパスをしっかりと受け取り、私は夢心地のままロッカールームへと向かった。


 私服に着替え、ロッカーの鍵を閉めて外へ出たあたりで、ようやく脳内に現実感が追いついてくる。私の口元が、だらしなくニヤリと歪んだ。


 「……こ、こんなに稼げちゃうの……っ!? や、やった―――っ! 過去最高の稼ぎだ―――っ!!」


 私は思わずガッツポーズをしてその場で跳ね回った。


 ……が、周囲にいた他のトラベラーたちの視線が一斉にこちらへ向けられたことに気づき、顔を一瞬で真っ赤にして慌ててそそくさとその場を離れた。


 ――そして、私が去ったあとのロッカールームの影から、ひょっこりと二つの人影が現れる。


 「ねえ、今の聞いた……? あの子たち、どうやらかなり美味しい狩り場を見つけたみたいよ。……ねえ、聞いてる?」


 一つの影が相方に声をかけるが、返事がないため振り返る。


 「ちょっと、聞いてた?」


 「あ、はい……聞いてました。凄いですね……私たちなんて、まだまだです……」


 「……あんた、本当に『普段』と『ダンジョン内』だと性格がガラリと変わるわよねぇ」


 「……へっ、性格が変わってるんじゃないわよ……っ! 大人しくしてるの! 家じゃ大人しくしてないと『うるさい』って怒られるのよ! ここで大人しい自分に慣らしておかないと、家でもガサツな自分が出てきちゃうんだから……っ!」


 「ああ、うん。その威勢の良さの方が、あんたらしくて私は安心するわ。……で、どう思う?」


 「そんなの決まってるでしょう……? 『独り占めイクナイ』、よ!」


 「ふふ、あんたならそう言うと思ったわ。それじゃあ――」


 「あいつらに話しかけても教えてくれるとは限らないわ」


 「だったら先に場所だけ確認しましょう」


 「賛成。尾行して、その美味しい場所を聞き出すわよ!」


 二つの影は不敵に頷き合うと、気配を殺しながらスイの背後をそっと追いかけていくのだった。


 「おっ待たせ~~~っ! みんなっ!」


 思わず声に嬉しさが漏れ出てしまった私の登場に、レストラン街のフリースペースで待っていたみんなは、一斉に「……誰だお前?」と言いたげな視線を向けてきた。


 「……なによ。そんなに変?」


 「……変っちゅうか、ぶっちゃけ気持ち悪いぞ」


 「……スイちゃんが配信の時だけじゃなくて、ついに普段からおかしくなっちゃったのかと思った」


 「え、ええっと、大丈夫ですよ! 私は、はい……スイちゃんならきっとなにか深いご事情があるのではと思ってますので……!」


 ……くっ、そんなに浮かれた私が珍しいのか!?


 「なによ! せっかく換金してきたお金で、今日のここのお会計を奢ってあげようと思ったのに!」


 「さすがはスイ様だな! 奢ってくれるなんて、よっ! 太っ腹!」


 「スイちゃんの、三段腹!」


 「誰が三段腹よっ! 太ってないわ!」


 スズカとサクラの掌返しすぎる胡麻すりにキレッキレのツッコミを入れつつ、私はみんなの待つテーブル席へと着いた。


 「それで、スイがそんなにデレデレ喜んでるところを見ると、今回の探索はかなり儲かったのか?」


 「まあね! 十階層でコツコツ稼いでいた時と比べたら、もう天と地の差よ。同じアイテム量でもドロップ品の質が全然違うらしくて、倍以上の査定額になってたの! あまりの金額に、一瞬桁の間違いじゃないかって確認しちゃったくらいなんだから」


 「ほーん。それって今回の二十階層へ上がったからなのか? それとも二十階層で探索しながらのモンスター討伐に切り替えたからなのか?」


 「両方ね。今までは二十階層への到達を優先してて、途中のモンスターとはほとんど戦わなかったから実感が出なかったけど……二十階層で本格的に戦うようになってからは、短時間で質のいいドロップ品がどんどん手に入るようになったのよ。……これはアレね、もっと大容量の高級マジックバッグを買わなきゃダメね!」


 「……スイちゃんのお目目が『¥』マークになってる」


 「……言ってやるなサクラ。スイだって好きで守銭奴になった訳じゃないんだからよ……」


 ……まったく、この幼馴染み連中は好き放題言いおって!


 「ちょっと! 好き放題言わないでくれる!? 私だって好きでお金に執着してる訳じゃないんだからね! ねぇ、ヒマリそうよね!?」


 私は唯一の良心であるヒマリに助けを求め、同意を得ようと話を振った。


 「はい! スイちゃんはお金『も』大好きな女の子ですから、何も問題ないですよ!」


 「そうじゃない! そういうことじゃないのよヒマリ!?」


 それじゃあ本当に私がただの欲望に忠実な守銭奴になっちゃうでしょうが!


 ヒマリの天然(?)なフォローに撃沈しつつも、私は気を取り直して、解散までの議題として今後のダンジョン探索の方向性を持ち出した。


 「……コホン! とりあえず私の話は置いといて、今後のことよ」


 「うん? 二十階層で『移動遺跡』を見つけるんじゃないのか?」


 「それは最終的な目標ね。移動遺跡はどこに現れるか分かってないから、『行き当たりばったりで探す』か、『移動遺跡を見つけることだけに特化して探す』かの二択ね」


 「その二つにそんな違いがあるんか?」


 「『行き当たりばったり』の方は、道中で遭遇したモンスターを片っ端から倒して稼ぎながら探す方法ね。私としてはお金も稼げるからこっちの案を押したいんだけど……。もう片方の『移動遺跡特化』は、モンスターとの戦闘を極力避けて、遺跡探しだけに全注力する探索スタイルよ」


 「双方にメリットとデメリットがあるってことですね」


 「そっ。モンスターを倒しながらだと、もし移動遺跡が私たちの頭上にあったとしても、目の前の戦闘に集中しすぎて見落としちゃう可能性があるわ。逆に移動遺跡を探すのに躍起になりすぎると、今度はお金が稼げなくて、装備のメンテナンス費用すら出なくなって探索自体が行き詰まるリスクがあるってことね」


 「ああ、なるほどな。つまりスイが前に言ってた『手数が足りない』って問題か」


 「そうなのよ。いくら戦闘を回避していても、どこかで必ず戦わなきゃいけない場面は出てくるからね。その戦闘中に周囲の状況をしっかり観察できる余裕がないと、いざという時に動けないのよねぇ……」

 

 私が腕を組んで考え込んでいる、その時だった。


 「ふぁっふぁっふぁっ! 渡りに船とはまさにこのことね! それなら私たちが、あんた達のパーティーに入ってあげてもいいわよ!」


 「……え?」


 あまりにも唐突な宣言に、私たちは揃って声のした方を振り向く。


 ――そこに立っていたのは、つい先ほどまで私の後を尾行していた二人組だった






挿絵(By みてみん)

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作品に挿し絵を入れました。

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