No.82活動記録:桜吹雪の舞と、古代のミステリー
No.82活動記録:桜吹雪の舞と、古代のミステリー
ショウコさんに新しく『強靭付与』を施してもらった服を身に纏い。サクラは新しい魔道書、ヒマリちゃんは和傘と扇子という新たな装備を手に、私たちは目的の移動遺跡が存在するという『二十階層』へと次元門をくぐりやってきた。
「よっしゃあッ! ついに来たぜ、二十階層!」
「やってきた~っ!」
「はいはい、元気が良いのは分かったから。まずは周囲の状況確認が先よ。おっさんAI!」
『はいな。ちょい待ってな……ふむふむ。次元門の周りにはモンスターはおらんで。まあ、この次元門の周囲はセーフティエリアみたいなもんやからな。モンスターも近寄っては来うへんさかい』
「セーフティエリアとはいえ、油断は禁物ね。……それで、ブランジュさんから聞いた『移動する遺跡』の話だけど、ギルドの方にはまだ詳しい情報は上がってないの?」
『いや、目撃事例自体はチラホラと出てきておる。ただ、やっぱり直接その遺跡に足を踏み入れた奴はまだおらんようやな』
「移動するって話だけど……まさか脚が生えて足音を立てながら歩いてるとかじゃないわよね?」
つい最近、サクラと一緒にそんな巨大な歩く城が登場する物語を見たせいか、疑心暗鬼……というわけではないけれど、念のためおっさんAIに確認を取ってみる。
『いくら魔法文明の魔道遺跡とは言え、そないなおもろい感じで作る奴はおらんと思うで。安心しいや……とは言い切れんかもしれんが、今回の移動遺跡は『空中を飛んでる』タイプやな』
「空中か……。仮に見つけたとしても、空を移動する何らかの手段が必要になるわね」
どうやってアプローチしたものかと私が思案していると、スズカが何か閃いたように声を上げた。
「おおっ!? オレ、いまスゲェこと思いついたぜ! これ、イケるんじゃないか!?」
スズカが思いついたこと……?
私はうろん気な視線を向けつつ、一応話だけは聞いてみることにした。
「……一体何を思いついたのよ?」
「ストームとサンダーの、あの『ズバッと一瞬で移動できる』手があるじゃんかよ!」
『ああ、なるほど。空間航行能力による移動やな』
「あ、案外まともそう……」
「なんだよ『まともそう』って!?」
「いや、スズカのことだから『見つかるまで飛び跳ねて探そうぜ!』みたいな、脳筋な方法かと思って」
「そこまでバカじゃねぇぞ、オレは!?」
思いついたら即行動の暴走特急スズカなら、それくらい言い出しかねないと思ったのだけれど……口に出すと本気で凹みそうなので、心の中に留めておくことにする。
「で、おっさんAI。スズカの案はどうなの?」
『そやなぁ。あの神霊の力がどこまで作用するか計り知れんところがあるからな。仮に『目標物がこの階層に実在している時』ならええけど……もし別階層に移動していた時に突っ込んでみ? お嬢さん方が辿り着いた先がトンデモナイ場所になって、シャレにならんことになりかねん』
「ん? どういうことだ?」
スズカはおっさんAIの難解な説明に首を傾げる。見かねたヒマリが、分かりやすく噛み砕いて説明に入った。
「つまり私たちは『竜宮城』という場所を探していますが……スズカさんのストームさんとサンダーさんのお力で行こうとした場合、その竜宮城が地上にあれば良いですが、もし『海の中』に移動していた場合は――」
『全員、海の底に投げ出されて溺れ死んで終わりやな』
「うおぉっ!? マジかよ!? やべぇところだったじゃん!」
『まあ、全く使えんわけやあらへんよ。要は目標物が『目視でハッキリ確認できる場所』にいる時にショートカットとして使えばええねんから』
「そうね。無理してリスクを冒す必要はないわ。二十階層を地道に歩いていれば、そのうち見つかるかもしれないし」
『そんなら、移動遺跡とは別の『目印』があった方がモチベーションも下がらんやろう。ここに本来ある『常設の遺跡』にでも行ってみるか? もっとも『遺跡』と呼ぶには語弊がありそうな場所やけどな』
「目印があるならただ歩くよりはマシよ。そこに行ってみましょう。十階層以降は、あんまり遺跡に立ち寄ってなかったしね」
「そうだな! 暇潰しにはちょうどいいぜ!」
「サクラも別にいいよ~」
「はい。私も異論はありません」
私の提案に、みんな快く賛成してくれた。
「じゃあおっさんAI、申し訳ないけれど……」
『みなまで言わんでも分かっとりますがな。『虫系統』のモンスターは全力回避やろう? 索敵モード全開にしてルート選びさせてもらいますわ。……ちゅうわけで、ここからはおしゃべりモードはOFFになるさかい、お嬢さん方はわての後ろをしっかりついてきてや!』
おっさんAIの軽妙な関西弁が止まると、その場でくるくると本体を旋回させ、周囲の広域索敵を開始した。
そして最適な安全ルートの算出が終わると、ゆっくりと宙を滑るように進み始める。
私たちは新装備の感触を確かめながら、おっさんAIの背中に続くように慎重に歩みを進めたのだった。
「桜梅桃李──桜の型。『桜花乱舞』――郡舞!」
ヒマリちゃんが元々持っていた藍色の魔道傘と、新しく購入した和傘の二本を同時に大きく広げ、迫り来るモンスター群に向かって旋回するように投げ放つ。
二本の傘は左右対称の美しい軌道を描きながらくるくると回り、そこから舞い散る鋭利なエネルギー刃が、暴風となってモンスターへ降り注いだ。
「一本の時でも舞い散る花びらのようで綺麗だったけれど、二本になると圧巻ね……! まるで本物の桜吹雪だわ」
「ああ、スゲェな! モンスター共が蜂の巣みたいにズタズタに切り裂かれてやがる! えげつなさにさらに磨きがかかったな!」
「……」
……いや、うん。確かにそうなんだけど。
私とスズカでは、見ているポイントが根本からズレている気がする。
「すごーい! ヒマリちゃん! 二本で強さが倍々になったー!」
「ふふ、ありがとうございます。頭の中で描いていたイメージ通りになってくれて良かったです」
ブーメランのように弧を描いて手元へと戻ってきた二本の傘を、ヒマリは両手でしなやかに受け止めた。
「ヒマリ、傘でできるんなら、扇子でもスキルが乗るんじゃねぇか?」
スズカのひらめきに、ヒマリはポンと手を打つように深く納得した。
「確かに……! ありがとうございます、スズカさん。早速試してみますね」
「おう! アドバイスになったんなら良かったぜ!」
「むむむっ……! サクラも何か新必殺技を考えなきゃ~っ!」
「サクラ、別に無理して考える必要はないのよ? ヒマリは元々あるスキルを応用して使いこなしているだけなんだから。サクラだって今ある魔法を無理に変えるんじゃなくて、しっかりと使いこなせればそれで十分よ」
「えーっ! それじゃ面白みがないよ、スイちゃん!」
「……モンスターとの命懸けの戦闘に面白みを求めないの」
どこか戦闘民族のようなノリになりつつあるサクラに呆れつつ、私たちは新装備の試運転と検証を兼ねて探索を続けていった。そして――
「桜梅桃李――李の型。『李花白刃』!」
ヒマリが突然、腰に差していた扇子を抜き放ち、美しい所作で空を振るった。
振るわれた扇子は眩い光のエネルギーを纏い、巨大な白い刃となって、近くに幹に深々と白い斬撃が走り、巨木がゆっくりと倒れていく。
「スズカさんのおっしゃった通り、扇子でもしっかりとスキルが発動しましたね。ただ……扇子ですと、エネルギー刃の届くリーチがこの扇面(扇子の大きさ)までに限られてしまうようです」
「そうなると、ちと間合いが足りねぇな。さっきの傘みたいに、投げて遠距離武器として使えるかも試しておいた方が良くねぇか?」
「そうですね! そちらのパターンも早速試してみますね」
「……」
……これが良いことなのか悪いことなのかは、一旦脇に置くとして。
なんだか着々と、私の周りのパーティメンバーたちがガチの「戦闘民族」へと洗練されていっている気がして、私は一人静かに遠い目をするのだった。
そんな感じで私たちは二十階層の移動遺跡を探しつつ、新装備の性能を検証しながら、本来この階層に存在するという『常設の遺跡』へとやって来たのだが――
『……だから言うたやろ? 「遺跡」言うのは語弊がある場所やって』
目的地に到着し、おしゃべりモードがONになったおっさんAIが開口一番に呆れ顔で言ったのがこれだ。
私たちの目の前には、ただの石ころや岩の破片がそこら中に転がっているようにしか見えない。はっきり言って「どこが遺跡なの!?」と叫びたい気分だ。
これまで見てきた地下遺跡やストーンヘンジ、立派な神社や未来的な軌道エレベーターなんかと比べたら、本当に「……なにこれ?」と言いたくなる代物だった。
『まあ、お嬢さん方がそないな顔になるのも分かりますわ。ただここはな、昔『人が住んでいた形跡』があるような建物やなくて……『人が存在していた形跡』が残されていた場所なんですわ』
「つまり……どういうこと?」
『十六階層からこの二十階層までは、地球で言うところの『ジュラ紀』と呼ばれる時代の古生物群が多いエリアとなっておるねん』
「ああっ……!? そういうことですか……っ!」
おっさんAIの説明を聞いた瞬間、ヒマリが何かピンと来たらしく、ハッと目を見開いて声を上げた。
『おお! さすがはヒマリはんやな。いの一番に理解しよるとは』
「何よ何よ? ヒマリはおっさんAIの言いたいことが分かったの?」
「はい! AIさんが仰りたいのは……もし十六階層から二十階層までが『ジュラ紀』と同じ時代背景を持つエリアであるならば、地球の歴史上、約二億から一億数千年前の恐竜の時代には『人類はまだ存在していない』はずなのです」
「ん? でもここは『遺跡』なんでしょう? 人がいたっていう形跡があるのよね?」
「はい! だからこそおかしいのです! 私たちの歴史では、約三十万年前にようやく現生人類が誕生したと言われているのに、それよりも遥か古代の地層から『人がいた形跡』が見つかるなんて……これこそが超古代の歴史的ミステリーなんですよ!」
目を輝かせて熱弁するヒマリに対し、私とスズカ、そしてサクラの三人は、揃って頭の上に「?」を浮かべて首をかしげるばかりだった。
『あー……そこの想像力がちと足りんお嬢さん方、よう考えてみぃ? 人類がおるはずのない時代・場所に『人の形跡』があったんやで? 例えて言うなら、誰も住んでへん無人島のはずなのに『誰かが使った新しい生活痕』が見つかったようなもんや。冷静に考えたらかなりのミステリーであり、都市伝説的なホラーやろ?』
「そう……言われれば、確かにゾッとするわね。……え? なんでここに人がいた形跡があるの? もしかして、ダンジョンが発見された直後の初期のトラベラーたちが探索した時の名残とか?」
『いや、それはない。初期のトラベラーたちがここを初めて発見した時にな、最初は「自分たち以外にも先行したトラベラーがおるんか?」と考えたんや。せやけど科学調査の結果、明らかに自分たちが地球上でダンジョンを発見する『遥か昔』に刻まれた形跡やったと判明したんや』
「じゃあ……ダンジョンとして取り込まれる前の、元の世界の話ってこと?」
『そういう仮説もある。まあ、真相はいまだに解明されてへんねんけどな』
「……ねぇ、おっさんAI。このダンジョンって、本当に『異世界』や『並行世界』って言われる場所なのよね?」
とぽつりと呟き。
『……それを知っとる奴がおったら、とっくにノーベル賞どころやあらへんで、スイはん』
明らかに自然物ではない人工物な加工が施された石ころの群れを見つめながら、私はダンジョンが秘める計り知れない底深さに、静かに思いを馳せるのだった。
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