No.81活動記録:ごちゃ混ぜ駒遊びと、いざ二十階層へ!
No.81活動記録:ごちゃ混ぜ駒遊びと、いざ二十階層へ!
トアさんのお店でヒマリの武器として和傘と扇子を購入した後、私たちはもう一つの目的地であるフリーマーケットエリアへと足を延ばしていた。
目的は、私たちが着ている防護服へ更なる属性付与を施してもらえるか、ショウコさんに確認するためだ。
「ショウコさん、今日居るかしら……?」
「二日にいっぺんくらいのペースで来るって言ってたからな。今日がちょうど来ない日になってるかもしれねぇぞ」
「……そういう時って、連絡とかはどうしてるの?」
前回の時も「この日に来るから」と言われただけで、連絡先などの交換はしていなかったのだ。
「待ってりゃそのうち来るんだから、別に良いんじゃねぇか?」
「変なところでおおらかよね、スズカって……」
まあ、今日来ていなければ明日また来れば会えるだろうし……そう考えると、私も大概大雑把かもしれない。
フリーマーケットエリアへと入っていき、ショウコさんがいつも露店を出している場所へと向かう。すると幸運なことに、ショウコさんはそこに居てくれていた。
「よう、ショウコ! 儲かってるか?」
「全然だよ、スズカ」
二人のそんな大雑把な挨拶に、待ったをかける存在がいた。
『アカンアカン! いまのやり取りは「儲かりまっか?」「ぼちぼちでんな」か「あきまへんわ」ちゅう伝統芸能をかまさんとアカンやろうが、お二人さん!』
「……どこに怒ってるのよ、このおっさんAIは」
私は呆れ果てながらおっさんAIにツッコミを入れた。
「相変わらずよく喋るドローンだな。鬱陶しくねぇのか?」
「いやぁ、これはこれでクセになるぞ? 喋らなくなると途端に場が静かに……ならねぇが、それはそれって感じだな!」
『どないな感じやねん! そこは「わてが喋らんと寂しい」と言うたってや、スズカはん!』
「はいはい、おっさんAIは少し黙っていましょうね。話が進まないから」
私は空中に浮いているおっさんAIを手でひょいと捕まえると、サクラへと手渡した。
「おっちゃんAI、ダメだよ。大事なお話しするときは、お口チャックなんだよ?」
『……いや、うん。分かってんねんけどな? わての「中の人」がそれじゃアカン言うてくるんや。わての責任やないんや……』
何やらおっさんAIがワケの分からない言い訳を呟いているけれど、今はスルー一択だ。
私は本来の用件を伝えるため、ショウコさんへ向き直った。
「すみませんショウコさん。また私たちの装備品への付与をお願いしたいのですが……」
「私にか? まあ、依頼があるなら請け負うが……私はトラベラーとしてはほとんど活躍してない露店商だぞ。付与できる能力の範囲もさほど広くないが、それでも良いのか?」
「はい。信頼できる方にお願いしたいですから」
私の言葉に、ショウコさんは少し驚いたように目を見開いた。それからスズカの方へと視線を向ける。
スズカはスズカで、ニカリと、どうだこれがオレの妹分だと誇らしげな笑みを返していた。
ショウコさんは参ったなというように苦笑しながら、ぽりぽりと頭を掻いた。
「……分かったよ。付与を施すのは以前と同じものか? それとも新しいやつか?」
「えっと……」
私は一旦みんなを見回し。
「誰か、新しい装備品に付け直したい人っている?」
「私は和傘と扇子を買わせていただきましたので、服はこのままで十分です」
「サクラもご本いっぱい買ってもらったから大丈夫!」
「オレはもとからいらねぇ」
そう尋ねると、全員が首を横に振ってくれた。
「……ということですので、以前の服に追加の付与をお願いします」
「はいよ。急ぎか?」
「可能であれば、早めだと助かります」
「別にヒマしてるからな。……おい、ちょっと留守にするからここ頼むぞ」
ショウコさんは以前と同じように隣の露店主に声をかけると、その場から立ち上がった。
「じゃあ、ギルドの作業場の方へ行くか」
「あ、はい!」
ショウコさんはギルドの建物に向かって歩き出し、私たちもその背中に続くのだった。
ダンジョンギルドへやって来ると、私たち預け所で自分たちの装備品を受け取り、前回と同じギルド専用の加工施設へと足を運んだ。
カラオケボックスのように防音扉がずらりと並ぶ通路の奥。ショウコさんは手際よく専用ルームの鍵を開けると、私たちから装備品と付与時に必要なアイテムをまとめて受け取った。
「悪いけど、二度目の付与となると一段と作業が細かくなるんで少し時間がかかる。とは言っても、三十分かそこらだ。出来上がるまで、そっちのソファーにでも座って待っててくれ」
「わかりました。よろしくお願いしますね、ショウコさん」
ショウコさんは短く頷くと扉を閉じ、カチャリと内側から鍵をかけた。
前回はスズカとサクラの二人が興味津々にドアの隙間から覗き込もうとしていたが、今回は二人とも素直にソファーの方へ歩いていく。
「ふふ、今回は二人とも大人しく座っているのね」
私が感心して声をかけると、スズカが長い脚を組んで深く背もたれに倒れ込んだ。
「どんな風に作業してるか興味はあるけどなー。それより三十分か……なんか暇潰しになるようなことってねぇか?」
「どこか他のお店に行っているほどの時間もないしね。素直にここでじっと待っていなさい」
「うわぁ……マジか。オレ、じっとしてたら暇で死んじまうぞ……」
「死なないわよ、まったく……」
体を動かしたくてウズウズしている様子のスズカは、ソファーから立ち上がると、通路の端で軽くストレッチや屈伸を始め出した。
一方、もう一人の「大人しくしていられない」サクラはというと、ソファーの上にポシェットの中身を広げ始めていた。
「あれ? サクラ、その人形って……確かこの前買ったやつ、数が揃っていなかったんじゃないの?」
テーブルに並べられたのは、先日魔道具のセール品で買った、手のひらサイズの人型駒たちだ。だが、その隣には露骨に質感の違う、新しい駒がいくつか追加されている。
「こっちはねぇ、サクラが見よう見まねで作ったの!」
「サクラの手作りのコマ……? 相変わらず手先が器用ねぇ」
セール品で買った元々の駒が「着物や甲冑」を纏った和風の姿であるのに対し、サクラが粘土や木切れで自作したと思われる駒は「西洋の甲冑やドレス」を纏った西洋風の姿をしている。
「それで、その駒でどうするの?」
「んーとね、こうやって置いたら対戦できるかなって!」
サクラはポシェットから、これまた自分でマス目を描いた大きめのハンカチを取り出し、ソファーの上のテーブルに広げた。
『ほうほう、サクラはんは器用でんなぁ! これなら音声認識機能が動かせんでも、自分の手で動かせばええわけやからな。……で、サクラはん、これどうやって遊ぶんや? 将棋やチェスの盤面とは随分と違う形やけど』
手渡されたおっさんAIがカメラレンズを画面へと向ける。
確かにサクラが描いた陣形図は独特だった。グリッド状のマス目ではなく、いくつかの「丸い円」が散らばっており、その円同士を繋ぐように複数の「線」が伸びている。
「これはね、こっちの陣地とこっちの陣地に分かれて、相手の陣地を目指して進むの!」
サクラは両サイドの円の中に、和風と西洋風の駒をそれぞれ並べて配置した。
『ほうほう! それはもしかして、お互いに交互に駒を一個ずつ動かしていくタイプのゲームか?』
「うん! そう!」
「何よおっさんAI、この遊びのこと知ってるの?」
『こう言った似たり寄ったりのボードゲームは世の中にいっぱいありますからな。……でもサクラはん、ただ一本道に駒を進めるだけやとおもろないやろ? なんぞ駒に役割とかはあるんか?』
「あるよ! この子はね『歩』ちゃん!」
サクラは和風の足軽のような駒を指差し、誇らしげに胸を張った。
「自分の陣地にいるときは前にしか進めないんだけどね、敵の陣地に入ったら前後左右どこにでも進めるようになるの!」
『まんま将棋の「成金(と金)」のルールやな!』
「サクラ、もしかしてそのルール、サクラのおじいちゃんのところで思いついたの?」
「うん! おじいちゃんが将棋やってたから『このコマなに?』って聞いて、名前とルールを教えてもらったの」
『なるほどなぁ! そしたら、こっちの元々の魔道具の駒は将棋に由来する名前で……サクラはんが作った洋風の駒は、形からしてチェスに由来する名前か?』
「うん! こっちの子は『ポーン』ちゃんで、こっちの馬に乗ってる子は『ナイト』ちゃん!」
「……こう言ったのって、いわゆる『異種遊戯』って言うのかしら……?」
『ま、まあ、こういう独自のルールで遊ぶやり方もありますからなぁ。さすがサクラはんの自由な発想力ちゅうところですわ』
「まだまだあるよ! 駒を動かすときはね、このカードを引くの!」
サクラはポシェットの奥から、トランプのように束になった手作りのカードを取り出した。
「スイちゃん一枚引いて」
サクラが言うので、私は一番上にあるカードを一枚引く。
「なんて書いてある?」
サクラが催促するとで、私はカードに書かれている文字を読み上げてみる。
「……『地雷原に突っ込んだ。駒ひとつが消滅する』……なにこれ? 恐ろしいこと書いてあるんだけど!?」
「そのカードはね、トラップカードだよ! 書かれているカードの通りにしないと行けないの。他にもイベントカードが盛りだくさんなんだから!」
「……おっさんAI、世の中には、こんな無茶苦茶なボードゲームって存在するの?」
『……あるにはありますけど、なんや色んなジャンルがごちゃ混ぜに混ざり合って出来上がったカオスなゲームちゅう感じやな……』
「スイちゃん面白いよ! 一緒にやる?」
「いまは遠慮しておくわ。それに、そろそろショウコさんの作業も終わる頃でしょうから、サクラ、それは一旦片付けちゃいなさい」
「え~! せっかく準備したのに~……」
「また今度ゆっくりお付き合いしてあげるから、ね?」
「はーい……」
サクラは少し不満そうに口を尖らせながらも、渋々といった様子で広げた駒やカードをポシェットへと仕舞い込んでいった。
サクラがちょうど片付けを終えたその時、カチャリと静かな金属音が響き、ショウコさんの入っていた防音扉がゆっくりと開かれたのだった。
「待たせたね。……って、なんでスズカはそんな汗だくなんだよ?」
作業室から出てきたショウコさんは、壁際で汗を拭いながらストレッチを続けていたスズカを見て、呆れたように目を見張った。
「いやぁ、ちょっと暇だったからよ! 軽く身体を動かしてたんだ」
「そうかよ……。ほら、これが付与の終わったあんたら服だ。今回は『強靭付与』を施しておいたよ」
「『強靭付与』ですか?」
受け取った服を確かめようとすると、サクラの腕の中からおっさんAIが補足を入れる。
『強靭付与っちゅうのは、いわゆる敵からのノックバック耐性やな。強い攻撃や衝撃を食らっても、体勢を崩したり吹き飛ばされたりしにくくなるっちゅうことや』
「そうなんですね! それは私にとって凄くありがたいです……! 私はパーティの守り役でもあるので」
「そいつは良かった。……ああ、それと、私を信頼してまた付与を頼みたいと言ってくれたから、先に釘を刺しておくがね」
「はい、なんでしょうか?」
「私がこの服に付与できるのは、あと一回だけだ。同じ装備品に三回以上の付与を施すとなると、私の今のスキルレベルじゃ手に負えなくなる。それだけは頭に入れておいてくれ」
ショウコさんの丁寧で確実な付与が、今の防護服だとあと一回しか受けられないというのは少々残念な気持ちもある。けれど、そこまで正確に自分の限界を伝えてくれる姿勢こそが、信頼できる証拠だ。
「……そうですか。教えてくださりありがとうございます。今回も素敵な付与をありがとうございました!」
私が丁寧にお礼を言って深々と頭を下げる。
ショウコさんは「仕事だから気にすんな」と相変わらず男前な口調で手を振ると、自分の露店があるフリーマーケットエリアへと帰っていった。
「さて、これで一応予定していた買い物は終わりかな。予算的にも十分範囲内に収まってくれたわね。……となると、どうする? 約束通り、サクラの魔道書をもう一冊買っていく?」
私がサクラへ視線を向けると、サクラはしっかりと首を横に振った。
「ううん。サクラはこれで良いの! スーちゃんとスイちゃんの方は?」
「オレか? オレは最初から言った通り、新しい装備品とかの必要性を感じてねぇからな。それともなんか、オレにも必要なものってあると思うか? どうだ、おっさんAI」
『せやなぁ、スズカはんは攻撃面ではもう十分すぎるくらいや。防御面に関しても、いまショウコはんに付与してもらった装備で十分賄えるからな』
「んじゃ、やっぱオレは必要ねぇや!」
「私の方も特に何か欲しいって感じはしないけれど……おっさんAI、旗騎士って何か専用の装備品とかで必要なものってあるの?」
『いいや、いまのまんまで十分やな。旗騎士は旗槍を掲げて味方を鼓舞したりバフをかけたりするのが主な役目やが、スイはんにはまだそういった系統のスキルは発現しておらん。そっち方面のスキルが現れてから揃えても十分間に合うで』
「そっか。なら私も今は必要ないわね」
私は納得して頷くと、みんなの顔を見回した。
「だとしたら……サクラとヒマリちゃんの新しい装備品の扱いと検証を兼ねて、ダンジョンへ試しに行ってみる?」
「いいねぇ! そのまま二十階層の探索を進めようぜ!」
先ほどまでストレッチをしていたせいか、スズカはすっかり身体が温まっているようで、妙なスイッチが入ったようにやる気満々だ。
「そうですね。私もこちらの和傘と扇子をどのように扱えば効果的か、実践で試してみたいと思います」
ヒマリちゃんも今回はかなり気合が入っているようで、新装備を愛おしそうに抱え直している。
「サクラはまだ、新しい必殺技が思いつかない~!」
「良いのよ普通で。無理に新しい技を思いつかなくても、いつもの魔法で十分だから」
「ぶー……」
サクラはまだ自分の中で新しい魔法のイメージが固まっていないらしく、普通に使えば良いと言うと不満そうに頬を膨らませた。
『そんなら、慌てず焦らず、のんびり試し運転しながらダンジョン探索といきまひょうか、お嬢さんら!』
「「「おー!!」」」
おっさんAIの威勢の良い掛け声に合わせ、私たちは元気よく拳を突き上げた。
次なる目的地はダンジョン二十階層――移動遺跡が存在する、未知のエリアだ。
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