↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
79/102

No.79活動記録:二本目の傘と、サクラの魔道書




No.79活動記録:二本目の傘と、サクラの魔道書




 私たちが地道にドロップアイテムを拾い集めながら進んでいると、いつの間にか目的地である二十階層へ続く次元門の前までたどり着いていた。


 先回りして待っていたスズカは、光が消え、穂先のないランスを肩に担ぎ、誇らしげな笑みを浮かべて立ち尽くしている。


 「案外、あっさりと早く着いたな!」


 「一直線……かどうかは分からないけれど、今回も一切寄り道せずに進んできたからね」


 本来なら、各階層にある遺跡を探したり探索範囲を広げたりして、もっと膨大な時間がかかるはずなのだから。


 「何にせよ、だ! これで次はいよいよ二十階層だな!」


 「そうなんだけど――二十階層へは入らず、一旦ここで地上へ戻るわよ」


 「あぁ!? なんでだよ!? このまま行こうぜ!」


 スズカは私の言葉に驚き、不満の声を上げるけれど、これにはちゃんとした理由がある。


 私たちはスズカの目の前に、パンパンに膨れ上がったドロップアイテムの収集袋をどさりと提示した。


 「この大荷物を抱えたまま二十階層に行くのは、さすがに厳しいわ。一度地上へ戻って換金したいのよ」


 「うぐっ……けっこうな量だな……」


 「ええ、スズカの『おかげ』でね」


 私が少し皮肉を込めて言うものの、当の本人にはまるで響いていないご様子だ。


 仕方がないので、私は別のアプローチで伝えることにした。


 スズカにそっと近づき、周囲に聞こえないよう耳元で囁く。


 「……私のためにやってくれたんだろうけれど、私だってトラベラーとしてそれなりの覚悟を持ってここに立ってるのよ。一人で突っ走らないで頂戴」


 私がぽつりと呟くように告げると、スズカは拍子抜けしたように目を丸くした。


 そして、悪戯が見つかった子供のような、少し弱り切った苦笑いを浮かべる。


 その顔を見て、私はふっと肩の力を抜いて息を吐いた。


 ありがた迷惑……とまでは言わないけれど、過保護にも程がある。


 どうせ、この前十階層の遺跡で起きたトラブルの件で、おっさんAIから「年長者なんだからもう少ししっかりしや」とお説教されたのを気にしていたのだろう。


 だからといって、今回の十九階層の立ち回りはあまりにも極端だ。


 何がと言われれば――今回の十九階層では、ただの一度も『虫系統』のモンスターと遭遇しなかったのだ。


 おっさんAIがいくら索敵精度を最大にしているとはいえ、いままで階層で一匹も出くわさないなんて事はなかった。


 それを先走って暴走していたスズカが、私に見せる前に片っ端から倒して回っていたとしか考えられなかったのだ。


 ……まったく、いくら苦手だと言っても、遭遇すれば私だってちゃんと戦えるわよ。


 ただ、戦ったあとに私のSAN値(精神力)がゴリゴリと削られて瀕死になるだけで……。


 (……ううっ、遭遇した時のことを想像しただけで、ちょっと胃が痛くなってきたわ……)


 落ち込みそうになる気分を振り払うように、私は大きく息を吐き出して全員に向き直った。


 「とにかく! 一旦地上へ戻ります。どれだけ駄々をこねても先には進みません。良いですね?」


 私が二人に……というか、主に暴走コンビに念を押すように言うと、


 「まあ、しゃあねぇな。このパーティのリーダーはスイだしよ」


 「えーっ!? 帰るのー!? 移動する遺跡ってこの次じゃないのー!?」


 「まあそうだけどさ、楽しみは取っておこうぜ。それに地上へ戻れば、スイが新しい魔道書を買ってくれるんだろ?」


 スズカに言われ、サクラはハッと目を見開いた。


 「そうだ!! スイちゃんが新しい本を買ってくれるんだった! 早く帰ろう!!」


 今の今まで完全に失念していたらしく、手のひらを返して帰還を提案してくるサクラ。


 みんなで顔を見合わせて苦笑しつつ、私は今も沈黙して索敵を続けてくれているおっさんAIに声をかけた。


 「おっさんAI、聞こえてる? おしゃべり機能をオンにして」


 呼びかけると、空中のおっさんAIがぶるりと身体を揺らした。


 『なんや? 呼びましたか、スイはん?』


 久しぶりに聞くその関西弁の声に、どこかホッとするような妙な安心感がある。それだけ私たちにとって、おっさんAIの軽妙な語り口が身近な日常になっているのだろう。


 「今日のダンジョン探索はこれでおしまいにして、地上へ戻ろうと思うの」


 『そうでっか。まあ、無理のない安全第一の探索が一番やからな。お嬢さん方が決めたんなら、わては異論なしですわ』


 「それで地上へ戻ったら、サクラにおっさんAIと一緒に選んだ魔道書を買って、それからみんなの装備品を改めて見直したいの」


 『心機一転、強化を図りたいわけやな。……っと、こんな場所で語っとったら日が暮れてまいますな。一旦地上へ戻って、どっかで腰を落ち着かせて話するか?』


 「ええ。みんなもそれで良いわよね?」


 確認すると、ヒマリもスズカもサクラも、力強く頷いてくれた。


 こうして私たちは二十階層の直前という切りの良いポイントで、一旦地上へと帰還することにしたのだった。


 地上へと戻ってきた私たちは、ギルドに隣接するレストラン街へと足を運んだ。


 「フハハハハハッ! 再び相まみえるとはな……! さあ、我輩の供物を存分に堪能するが良いぞ!!」


 レストラン街に入ると、いつぞやの独特すぎる癖のある喋り方をする、ロシアンたこ焼き屋の店員さんが威風堂々と立っていた。


「スイちゃん! サクラ、たこ焼き食べたい!」


 サクラがお腹を空かせた様子で袖を引っ張ってくるので、小腹を満たすにはちょうど良いかとお財布を取り出す。


 「……あの、ロシアンじゃない、普通のたこ焼きってありますか?」


 「あるにはあるが……それではつまらんだろう? 我輩の厳選した食材はどれも絶品だぞ!?」


 「いや、つまらないとかじゃなくて……この前いただいた時に、ちょっと個人的に食べづらくて。できれば普通のでお願いします……」


 決してマズくはなかったのだ。マズくはなかったのだけれど、たこ焼きの中から激甘チョコレートが出てくる恐怖を再び味わうのは勘弁してほしい。


 回避するために普通のたこ焼きを注文すると、店員さんはどこか非常に残念そうな顔をした。……いや、気のせいだと思いたい。


 無事にたこ焼きを二舟購入した私たちは、空いているフリーテーブルを見つけて腰を下ろした。


 『さて、食べながら話を進めていこか。まず最初に買うもんはもう決まっとるんか?』


 おっさんAIが空中からふよふよと降りてきて尋ねる。


 「まずはサクラの魔道書ね。残りの防御系と、攻撃系のやつ」


 『バリアタイプの魔法と、広範囲攻撃、それに貫通力のある威力特化系やな。それ以外で買う予定はあるか?』


 「みんなの装備を見直して、予算に余裕があるならもう一冊くらい予備で買っても良いかなって思ってるわ」


 『なるほどな。装備品について、各々なんか希望はあるかお嬢さん方?』


 おっさんAIがカメラレンズをくるりと巡らせる。


 「オレはこのままでも全然良いぜ!」


 「さふらはねぇ――」


 「……サクラ、口の中のものを全部食べきってから喋りなさい」


 たこ焼きを口いっぱいに頬張ったまま話そうとするサクラを注意すると、サクラはモグモグとしっかり飲み込んでから言った。


 「サクラはね、新しいお洋服を作っても良いよ!」


 「新しい服ねぇ。そうなると、まずは耐久性のある素材選びから見直した方が良さそうね……」


 『今の防護服でも大きな怪我はせぇへんと思うけど、安全面にはいくら気ぃ使っても使いすぎることはないからな。そこはわても大賛成や』


 「そうなると、またショウコさんにお願いすることになるかしら」


 今着ている服も、スズカの知り合いである虎杖笑子(いたどり・しょうこ)さん――ストレージマーケット内のフリーマーケットエリアで、トラベラー向けの装備品や珍しい資材を扱っている、堅気とは思えない女性にお願いしたものだ。


 彼女が施してくれた「打撃耐性」の付与は本当に優秀で、これまで何度も私たちのピンチを救ってくれている。


 『まあ、完全に新調せんでも、いま着とる服に新しく別の付与(エンチャント)を重ねるのも手やな。そこはゆっくり考えたらエエ』


 「そうね。お金も無限にあるわけじゃないし」


 装備の補強が決まったら、次は攻撃面かしら。


 ――あ、そうだ。その前に聞いておきたいことがあったんだわ。


 「おっさんAI、ちょっと聞きたいんだけど」


 『なんやスイはん? わてに聞きたいことって?』


 「……ドロップアイテムを『自動回収』できるような便利な魔道具って、売ってなかったりする?」


 『……あるにはあるけど、めちゃくちゃ高いで? 最低でも『八桁』からやな。出せるか?』


 「……ごめんなさい、無理です。今の言葉は綺麗さっぱり忘れて頂戴」


 ……数千万円単位なんて出せるわけがない。結局、地道に手で拾い集めていくしかないのね。


 「……自動回収がダメとなると、次は攻撃面の強化ね。スズカは……まあ、今のところは要らないわよね?」


 「なんか面白ぇ武器があれば別だけど、特に不満はねぇぜ!」


 「サクラは新しい魔道書を買うから、それで決まりね」


 サクラはいつの間にかたこ焼きを一舟きれいに平らげ、満足そうにお腹をさすっていた。


 「そうなると、私かヒマリだけど……どちらかと言うとヒマリの装備を優先したいわね」


 「私は構いませんが……スイちゃんは宜しいのですか?」


 「私は今の盾籠手や旗槍でもまだ十分戦えるし、それよりヒマリの前衛性能を上げた方が全体の戦力になると思うのよ。だってヒマリ、みんなにバフを掛け終わった後は前線で一緒に戦うことが多くなってきたでしょう? だから、今の『魔道傘』も気に入っているとは思うけれど、攻撃性能としてはどうなのかなって」


 『ほなら、傘自体の強度を上げるか……今のビニール傘っぽい見た目やなくて、ヒマリはんに似合うような本物の『和傘』の魔道具なんてどうや?』


 「あ! それはすごく良さそうね! どうかしら、ヒマリ?」


 「そうなると……こちらの今使っている傘はどうすれば良いのでしょうか?」


 『その傘は一応『魔道具』ちゅう枠組みには入っとるけど、基本的には現代の科学技術で作られた超・頑丈な傘なだけやからな。日用品として普段使いで持ち歩く分にはギルドの規定にも反せぇへん。……それかもしくはや、宮本武蔵やあらへんけど、『二本持ち』で立ち回れるんなら、それはそれで戦い方に大きな幅が出るんやないか?』


 「二本持ち……! それは例えば、一本の傘で『桜花乱舞』を発動しつつ、もう一方の傘で『寒梅穿牙』を同時に繰り出せる……ということですか?」


 『試してみんことには分からへんけどな。スキルの使い方は一つやあらへん。サクラはんみたいに柔軟な発想で応用することこそが、真の意味でスキルを使いこなすちゅうことですわ』


 「なるほど……」


 今回の探索でスズカがランスに複合属性を付与するやり方を思いついたように、ヒマリもまた、自分自身の新しい戦い方のイメージを膨らませているようだった。


 みんなでああだこうだと言い合いながら、その日は解散となり、後日改めて買い出しへと出かけることになった。


 『今回はわてを置いていかへんかったな』


 「だから根に持ちすぎだってば!」


 『アハハハ! まあ許したってな。そんじゃお嬢さん方、まずはサクラはんの魔道書を買いに行こうか』


 私たちはストレージマーケットへと向かい、魔道書が並ぶエリアを目指して歩いていた。すると道中―― 


 「おや? そこ行くお嬢さん方。今日は買い物かい?」


 声をかけてきたのは、イロモノ……じゃなかった、様々な珍しいアイテムを取り扱うショップ『ユニアム』の店主、水鏡橙愛(みかがみ・とあ)さんだった。


 「トアさん、こんにちは!」


 「こんにちは。みんな揃って仲が良いねぇ。今日は何を買いに来たのかな? 出来れば僕のお店でも何か買っていってくれたら嬉しいな」


 中性的な雰囲気のトアさんは、どこか凛とした男性のような立ち振る舞いを見せる。


 ……メーヴェさんとは真逆よね。メーヴェさんは男性なのに、どこか妖艶で女性っぽいし。いやあの人はわかっててやってるんだった。そう思うとなんかメーヴェさんはタチ悪い感じがする。いい人なんだけど。


 「あ、そうだ! トアさんのお店って、和傘って置いてあったりしますか?」


 「和傘かい? あるにはあるけれど、用途はなにかな?」


 「あ、はい。以前トアさんのお店でヒマリの武器を探していた時に、ヒマリが傘を見つけて買わせていただいたんですけれど」


 「ああ、あったねぇそんなこと。もしかして、あの時買ってもらった傘が壊れちゃったのかい?」


 「いえ、壊れてはいないんです! ただ、もう一本購入できればと思って……それで、出来ればヒマリに似合うような和傘が良いなと」


 「なるほど、戦力アップのためってわけだね。良いよ、後でお店に寄ってくれるなら、奥に眠っている和傘を出しておくよ」


 「ありがとうございます!」


 私たちはトアさんにお礼を言うと、一旦その場を後にした。


 「良かったわね、ヒマリ! 和傘、ちゃんとありそうで」


 「なんだか申し訳ない気がしますね……私だけ装備品を更新していただいているようで」


 「なぁに、サクラだって新しい魔道書を買うんだ。オレとスイは今は必要ねぇって言ったんだし、気にすることねぇよ!」


 「そうよヒマリ、遠慮することはないわ。ヒマリの戦力が上がってくれるなら、私たちにとってもこれ以上助かることはないんだから!」


 「そうですか……? ……ふふ、分かりました。では遠慮なく選ばせていただきますね」


 実はヒマリも、新しい傘を持てるのが内心すごく嬉しかったらしい。パッと表情をほころばせる姿を見て、私までホッと温かい気持ちになった。


 「スイちゃん! スイちゃん! ここのお店だよね!」


 サクラはこの前新しい魔道書を買った専門店の前で、ぴょんぴょんと跳ね回りながら私を呼んでいた。


 「そうよ。慌てなくても、本は逃げたりしないんだから落ち着きなさい」


 「え~……でも、逃げなくても『ご本』盗られちゃったし……」


 ぐっ……! それは半分、私が奪い返せなかった責任もあるけれど……サクラがきちんと持っていなかったからとも言えなくて、なんだか切ない。いいえ違うわね。全部あの窃盗犯が悪いの。私たちは悪くない。よし。


 『まあまあ、落ち着きなはれサクラはん。スイはんが言う通り本は逃げへんし、なんせ店に置いてある魔道書はただの『レプリカ』や。本物はギルドの厳重な金庫で管理されてますからな。まして地上で魔道具類を盗もうなんて考え起こす奴がいても、一瞬で治安維持部隊に取り押さえられて牢屋行きですわ。心配せんでも平気や平気!』


 「そうなの……? んー、わかった!」


 おっさんAIの解説を聞いて、ようやく落ち着きを取り戻したサクラ。


 その様子を見届けてから、私たちは新しい魔道書を手にするために店の中へと足を踏み入れるのだった。






挿絵(By みてみん)

少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!


作品に挿し絵を追加しました!

よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。