No.78活動記録:多重チャージ発進! 拾い屋スイの苦労録』
No.78活動記録:多重チャージ発進! 拾い屋スイの苦労録
スズカとサクラの意見を尊重し、私たちは十九階層へと足を踏み入れた。
「……何と言うか、十六階層あたりから薄々そうなんじゃないかとは思っていたけれど……」
「恐竜さんがいっぱーい!」
次元門を抜けた先は、見渡す限りの鬱蒼とした深い森林エリア。
木々の合間からぬっと首を覗かせるのは、どこをどう見ても太古の恐竜たちの姿だった。
「いやすげぇな! さすがのオレでも知ってる有名な恐竜がウヨウヨやががるぜ!」
「……Tレックスのような肉食の超大型恐竜がまだ出てきていないのが、唯一の救いでしょうか」
「……ヒマリ。お願いだからフラグみたいな言葉を口にするのはやめて」
「あら、何のことでしょう?」と首をかしげるヒマリ。……本当に自覚なく言っているから質が悪い。
「うう、ここを抜け切るの、相当大変そうね……」
「AIさんも先ほどから微動だにせず索敵を続けていらっしゃるようですし、ここはかなり危険なエリアなのかもしれませんね」
「そうね。一度地上へ戻って準備をし直したいけれど……」
「スイ! 何してんだ、さっさと行こうぜ!」
「スイちゃんスイちゃん! サクラもバンバン魔法を使っていい!?」
好奇心全開の二人を前にして「やっぱり帰りましょう」なんて言おうものなら、ブーブーと盛大に不満を垂れ流されるのは目に見えている。
「はいはい、落ち着いて二人とも! 十九階層は見通しも悪いし恐竜もわんさかいるんだから、ここは慎重に進んでいくわよ!」
「おう、わかってるって! だから早く行こうぜ!」
「スイちゃん、撃っていいの? ダメなの!?」
「スズカは少し落ち着きなさい! サクラは撃ち過ぎ注意よ、一回の戦闘につき一発までに抑えて頂戴!」
「えー!? こんなに楽しそうな場所なのにー!?」
「えーっ!? スイちゃん、撃っちゃダメなのー!?」
「はいはい! 二人とも私の言うことをちゃんと聞きなさい!」
まったく、時たま大きな幼稚園児みたいになるんだから。
そんな押し問答をしていると、静止していたおっさんAIがすっと動き出した。どうやら私の苦手な虫系がいない安全ルートの選別が完了したようだ。
「……モンスター、っていうか恐竜とはどっちにしろ戦うことになるんだから、怪我のないように行くわよ!」
「前衛は任せろ!」
「陣形は組んで進みますからね! スズカ、一人で突っ走らないでよ!」
「わかってるって! オラオラ、かかってきやがれぇ!」
……本当に分かっているのかしら、とスズカの行動に頭を痛めていると、すぐ隣を歩くサクラが小さく呟いた。
「えっと、最初にこっちの麻痺の魔道書で動きを止めて……そのあとで、こっちの毒の魔道書を使って……」
サクラは手元の魔道書を見比べながら、使う順番を一生懸命組み立てているようだった。
『フィールドコントロール』という役割をおっさんAIから提案されて以来、サクラなりに頭を使って戦術を考えるようになったのだ。成長したなぁ、と少し目頭が熱くなる。
「二人の攻撃力が高いのは頼もしいんだけど……ついていく私は大変よ」
「ふふ、スイちゃんもご自身の装備品を、今一度見直した方がいいのかもしれませんね」
「そうよねぇ……最初は騎士スキルが出たから防衛専門になろうとしたのに、アタッカーがいないからっておっさんAIに暗黒騎士を勧められて『戦術』スキルが出て、スズカが入ったら『旗騎士』をやらないかって言われて……役割が二転三転し過ぎなのよ」
「私は、今のスイちゃんの役割はとても適任だと思いますよ。スイちゃんは昔から、周りの人のことを誰よりもよく気にかけていますから」
「そう? う~ん、ならこのままサポート役に徹するのは構わないんだけど……いかんせん今のパーティは私たち四人しかいないじゃない? 戦術や陣形を使い回すのにも限界があるし、いっそ誰か新メンバーでもスカウトしてみようかしら」
「そうですね。あとはアイちゃんと一緒にいた方……ええっと、確か――」
ヒマリは自分の従姉妹とコンビのように組んでいた人物を思い出そうとしている。
「エリカのこと?」
私が先んじて名前を告げてあげる。
「ええ。そのエリカさんが使っていたスキルです」
「ああ……あのスケルトン召喚ね」
いま思い出しても、あのお化け召喚は鳥肌ものだ。うう、虫といいお化けといい、この先はそんなのばかり出てくるのかしら……。
「はい。ああいった『召喚』のスキルを発現できれば、純粋に戦力の人数を増やせるのではないかと」
「まあね、そんな都合の良いスキルが手に入ればありがたいけれど……『召喚』という意味じゃ、スズカの神霊たちも召喚の一種よね」
ただ、あの子たちは力の差がありすぎて、呼ぶと私たちが完全にいらない子に成り下がってしまう。だから本当に必要な時以外は呼び出さないようにしているのだけれど。
「オーイ! スイ!」
「ん? どうしたのスズカ?」
「ちょっとストームとサンダーの二人を呼び出していいか!?」
「唐突ね!? いきなりどうしたの?」
考え事をしていた私の元へ、スズカが目を輝かせて走ってきた。
「いやな! さっき新しいスキルに『ランスチャージ』ってあったろ!?」
「あ、試したいのね。……はぁ、それは構わないけれど、私たちからあまり離れないでね? 攻撃面ではスズカが一番頼りなんだから」
「わかってるわかってる! なぁに、ちょっくらこの辺の恐竜共をかき回してくるだけさ!」
スズカはニッと笑うと、すぐさま神霊ストームとサンダーの二柱を召喚!
「派手に突っ込むけど、ちゃんと戻ってくるから安心しろ!」
彼女たちは自身の体を変形させバイク形態へ、スズカは手慣れた足つきで跨がり、ランスの穂先をエネルギー物資へと変換させると、ジャキンと突き出した。
「よっしゃあぁッ! いくぜぇぇぇッ!!」
ブォォォォンッ!!と暴風と雷鳴を轟かせ、スズカは猛烈な勢いとかっ飛んで行った。
直後、前方から「事故でも起きたの!?」と疑うような凄まじい破壊音と悲鳴の様な声が断続的に聞こえてくる。
「……なんだか、モンスターが気の毒になってくるわね……」
前方では、木々が次々となぎ倒され、鳥たちが一斉に飛び立っていく。どう考えても「ちょっとの試し」の規模ではなかった。
暴走特急と化したスズカが駆け抜けた後には、まるで散らかったおもちゃのようにモンスターのドロップアイテムがそこかしこに転がっていた。
「……拾いながら進むのって、地味にかなり面倒よね。ドロップアイテムの自動回収機能がついた魔道具とか、どこかに売っていないかしら……?」
一つひとつしゃがんで拾い集めながら進んではいるけれど、草むらの影なんかに見落としがあるかもしれない。それほどの数のアイテムが、まるで道標のように延々と続いていたからだ。
そうこうしていると、前方から豪快な爆音とともにスズカが戻ってきた。
「スズカ、どこまで行ってたのか知らないけれど、後ろで拾い集める方の身にもなってほしいんだけど!」
私が愚痴をこぼすと、スズカは悪びれる様子もなく「悪い悪い!」と大雑把に笑うだけだった。その上――。
「いやさ、ランスのエネルギーが切れちゃってよ。代わりのチャージを頼もうと思って戻ってきたんだ!」
「分かりました。それでは――」
ヒマリが再びランスの充電代わりに自身のスキルを使おうと魔道傘を構えかけたが、スズカはそれを「待った」と制した。
「いや、今回はヒマリだけじゃなくてよ。サクラにも頼みたいんだ」
「うにゅ? サクラに……?」
サクラの魔法は強化すれば中級クラスまで跳ね上がるとはいえ、むやみな乱発は控えてもらいたいところなんだけど……。
「ちと、オレなりに考えがあってさ!」
「え!? スズカが……考えを……!?」
「……おいスイ、あからさまに絶句するなよ。オレだってオレなりに頭使うことくらいあるんだからな!」
「あはは、ごめんごめん! で、スズカの『考え』って?」
誤魔化すように苦笑いを浮かべる私に、スズカは少し目を細めたけれど、すぐにニッと不敵な笑みを浮かべた。
「……ま、いいや。ヒマリのスキルを吸収した時、凍傷付与までランス側で使えたろ? だったらさ、サクラの魔法で『麻痺』とか『毒』とか『睡眠』の付与魔法をこのランスにチャージしたら、それもまるっと再現できるんじゃねぇかと思ってさ!」
「あ……なるほどね」
スズカの持つランスはおっさんAIの話だと、魔法エネルギーなら基本的に何でも吸収・変換できる仕様だと言っていた。
「だろ!? だから凍傷と毒と麻痺を全部いっぺんに吸収させたら、とんでもねぇ『状態異常てんこ盛りランス』ができるんじゃねぇかと思ってよ!」
「……発想が完全に男子中学生のそれね……」
「えー! いけるだろ!? なあ、サクラ!」
「サクラもそれ考えてた! でもね、スイちゃんに前に『やっちゃダメ』って言われたやり方だから……えっと、スイちゃん、やっていいの……?」
サクラが気にしているのは、以前注意した『三種の魔道書の同時発動によるデメリット(ペナルティ)』のことだ。
今回スズカが言っているのは、サクラが同時に発動するのではなく、ランスに一個ずつ魔法を吸収させてランス側で複合発動させること。
「サクラが自力で同時発動するやり方とは違うから、多分大丈夫じゃないかしら? まあ、一応何か不具合があるかもしれないから、まずは二つの属性だけ吸収させてみて、平気そうなら次から本格的に試せば良いと思うわ」
「さすがスイ、話が分かるぜ! じゃあ悪いけど、二人から一回ずつもらうか!」
「わかったー!」
「ふふ、承知いたしました。では私から参りますね。スズカさん、ご準備はよろしいですか?」
「おうよ! 来やがれ!」
そうしてスズカは、ヒマリちゃんのスキルとサクラの魔法を順番にランスへ吸収させ、見事に多重チャージを完了させた。
「んじゃあ、またひと暴れしてくるわ!!」
言いや否や、スズカはストームサンダーを素早く反転させると、再び猛スピードで奥へと爆走していってしまった。
「……拾う方が大変なんだから、もう少しペースを落として倒してほしいんだけどなぁ……」
「大変なら、いっそ拾わないのも手だよ? スイちゃん!」
「 いま集めた分だけでも十万円近くになるのよ!? これを見落とすなんてもったいないじゃない!」
サクラの何気ない一言に、私が思わず熱い剣幕で捲し立てると、サクラは少し引いたように身を引いた。
「……スイちゃん、そこまでお金に困ってるの……?」
「困ってるんじゃないの! 必要経費でお金が湯水のごとく消えていくのよ!! 勘違いしないで、決して私が貧乏性とか守銭奴とかじゃないんだからね!?」
配信のリスナーである葉っぱ隊の連中にはよくイジられるけれど、パーティメンバーである仲間たちにまで本気で引かれたら、さすがの私も傷つくわよ!
「まあまあ、お金はあって困るものではありませんし、拾える分はしっかりと拾っておきましょう」
「ヒマリ……っ!」
静かに微笑むヒマリのフォローが、荒んだ心に深く染み渡る。
そんな私たちがゴミ拾いのように地道にドロップアイテムを回収しながら歩く前方からは、相変わらずモンスターとの激しい衝突音と、どこか楽しそうなスズカの豪快な高笑いが響き渡り続けていたのだった。
スズカの楽しげな暴走特急は、決して討ち漏らしたわけではないのだろうけれど、彼女の猛進から逸れたモンスターがたまにドロップアイテムを拾っている私たちの元へと襲いかかってくる。
「サクラ! ヒマリ! モンスターよ!」
私が短く声をかけると、二人はそれだけで私の意図をしっかりと把握し、即座に迎撃態勢へと移行する。
このあたりの連携の滑らかさは、さすが十九階層まで一緒に修羅場をくぐり抜けてきただけのことはある。まさに阿吽の呼吸で、二人とも落ち着いて対応して――。
「新必殺技、いっくよー!」
「あ! こらサクラ、待ちなさいってば!」
――たまにサクラがこちらの指示を無視して大技を破天荒に繰り出してくるのだけは、最早ご愛狂というやつだった。
それでも私たちは、これといった危なげもなくモンスターを撃退できている。
けれど、戦闘が終わるたびに私はつくづく思ってしまうのだ。
「……はぁ、本当に人手が欲しいわね……」
愚痴は言いたくないけれど、索敵をおっさんAIが引き受けてくれているからまだ回っているものの、モンスターを倒して、散らばったドロップアイテムを拾って、怪我の有無を確認して、使ったスキルの再使用時間を管理して……と、やることが山積みすぎる。
個人勢のトラベラー兼配信者だと、このあたりの階層がワンマンで管理できる限界かもしれない。大手企業と契約している有名配信者なら、サポートスタッフや専属の回収要因を連れてもっと上の階層までスイスイ行っているのだろうけれど。
「……弱小トラベラーの私たちに、大手の企業がついてくれるとは思えないしねぇ」
幸い、スズカのお父さんのおかげで地元の支援者さんがついてくれていて、支援金の面ではかなり助かっている。今回のような無茶な弾丸探索から帰還しても、装備品や魔道具のメンテナンス代で大赤字……なんて絶望的な事態にならずに済んでいるのは本当にありがたい。
「カツカツじゃないにしても、備えられる時にしっかり備えておきたいのは確かなのよね」
無い物ねだりだと分かってはいるけれど、どうしても回収の手間を考えてしまう。
「この子たちも、ゴークくんみたいにお手伝いできたらいいのにねぇ」
サクラが私の独り言を拾い上げたらしく、ポシェットから小さな『何か』を取り出した。
それは以前、魔道具のセール品で買ったアイテムだ。
駒数が少なく、遊ぶための盤面すらついていない代物。おっさんAI曰く「個人が趣味で作った、音声認識で動く自動遊戯用の駒」かもしれないやつだ。
手のひらに乗るほどの可愛らしい人型をした駒たちで、それぞれ和甲冑を着ていたり和風の着物を羽織っていたりと、チェスというよりは将棋の駒に近いデザインをしている。
「サクラ、気持ちはありがたいけれど、この子たちじゃ小さすぎるからね。もう少し大きかったら、ドロップ拾いをお願いできたかもしれないけれど」
私はこの駒たちが実際に動いているところを見たことがない。
遊ぶための盤面がないから動かないのか、それともパーツが揃っていないから起動しないのかは分からないけれど……猫の手も借りたいとはいえ、さすがに手のひらサイズの人形に頼るのは酷だろう。
サクラの気を利かせてくれた優しさを傷つけないよう優しく諭すと、サクラはしょんぼりとした顔になった。
「そっか……体が小さいから、拾うのは無理なんだね……」
サクラはそこから、なにやら「う~ん」と腕を組んで一生懸命に考え始めてしまった。
「ほらサクラ、考え事をするのは良いけれど、足元がお留守になると転ぶわよ?」
「はーい!」
私の注意に元気に返事をすると、サクラは一旦思考を中断して前を向いた。
……嫌な予感しかしない。あの子がああいう顔をすると、大抵ろくでもないことを思いつくのだから。
私はサクラがまた何かやらかすんじゃないかと頭の片隅で危惧しつつ、道端に落ちているドロップアイテムを一つひとつ拾い上げていく。
「……もうなんだか、ダンジョン探索っていうより『ゴミ拾いボランティア』よね。これ、配信の活動記録として本当に成り立つのかしら……?」
荒らされた恐竜の森でポツンとアイテムを抱える自分に、少しだけ深くて浅い疑問が生じてしまう私でした。
少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!
作品に挿し絵を追加しました!
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです




