No.77活動記録:星海クジラと、イタズラ大好き
No.77活動記録:星海クジラと、イタズラ大好き
私たちはついに、十九階層へと続く次元門の前までたどり着いていた。
「ここを通れば十九階層。そして十九階層を踏破すれば――」
「「「二十階層!!!」」」
「目標まであと少しね。……で、どうするみんな? 今日はこれで一度地上に帰る?」
「サクラは、スイちゃんが魔道書を買ってくれるって言ったから、地上に帰りたいな!」
「オレはこの勢いのまま突き進みたいぜ!」
「ふふ、私はみなさんの決定に従いますよ」
「……見事に意見がバラバラじゃない。まあ、私たちらしいと言えば私たちらしいけれど」
どうしようかと腕を組み、ふと空中をふよふよと浮遊しているおっさんAIへと視線を向けた。
――そして、私はその場で目を点にした。
「……な、な……」
「スイ、どうしたんだ?」
「スイちゃん……?」
私の様子の異変に気づいたみんなが声をかけ、私の視線の先を一斉に見上げる。
そこには――雲の海のただ中に、悠然と泳ぐ『それ』がいた。
一階層で一度だけ偶然目撃した、あの幻想的な巨体。
「……っ、『星海クジラ』……!!」
二度目!
滅多に遭遇することが出来ないと言われている。あの星海クジラを、二度目も拝むことができるなんて……!!
「か、カメラ!? カメラどこ!? 私のカメラ!!」
「ス、スイちゃん落ち着いてください! AIさんに頼んで録画をしてもらいましょう!」
「そ、そうよ! おっさんAI! 録画! 今すぐ星海クジラを録画して!!」
私は興奮のあまり宙に浮かぶおっさんAIをがしっと引っ掴むと、その丸い金属の体をバンバンと叩いた。
「おっさんAI! おっさんAI! 録画!! 録画してぇぇぇ!!」
『――な、なんや!? スイはん!? 索敵ならさっきから完璧にやってますで!!』
「そうじゃなくて! 録画! 空! あれを録画して!!」
おしゃべりモードがオンになったおっさんAIに対し、私は空を泳ぐ星海クジラを必死に指さした。
『ほう……こりゃまた珍しいなぁ。星海クジラかいな』
「のんきに感心してないで早く記録を!! 録画ボタンを押して!!」
『や、やめ……揺らさんといて! わての体は結構デリケートなんでして――!』
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!!」
『あああーっ!? 揺らさんといてーっ! わての中身が……中身が漏れ出てまうーっ!』
おっさんAIとまるで漫才のような格闘を繰り広げている間に、星海クジラは前回と同じように、いつの間にか雲の彼方へとその巨体を滑り込ませ、姿を消してしまっていた。
「相変わらずおっきなクジラさんだったねぇ」
「そうですね。前回の時もそうでしたが、空を海のように漂っている姿は息を呑むほど迫力がありました」
「ガッハハハ! ありゃあすげぇや! 前にサクラと一緒に上の階層に見に行ったモンスター共と同じか、それ以上のデカさじゃねぇか!」
「おっさんAI……っ! 撮った……!? ちゃんと録画できたわよね!?」
『……スイはん。わて、さっきまで全力で索敵モードやったんやで』
「……撮れて……なかったって言うの……?」
またしても世紀の瞬間を納め損ねたのかと、私は絶望のあまりがっくりと膝を折った。
『まあ、おしゃべり機能以外は裏で普通に自動録画が起動してましたから、バッチリ撮れてますけどな! 良かったなぁスイはん! これで次回の配信映像に最高の色が添えられるで! 挙句に今のスイはんのテンパりっぷりも、葉っぱ隊員の連中には抜群に受ける映像になったわ! やったー! これで間違いなく高評価連発やで!!』
ドヤ顔でちゃめっ気を出すおっさんAIに、さすがの私もぶち切れた。
「このぉぉぉ……おっさんAIめぇぇぇぇ!!!(怒)」
『あああーっ!? やめてぇーっ! そないに乱暴に扱わんといて! わてはデリケートやって言うてますやんかーっ!!』
「知るかぁぁぁあああ!!!」
しばらくの間、私はおっさんAIをぶんぶんと振り回し、その全エネルギーをぶつけて怒りと歓喜の鬱憤を晴らすのだった。
おっさんAIの軽口に対しては盛大にお仕置き(シェイク)しておいたから、良しとしよう。
『良しやないんですわ……っ。こないに激しく揺らされて、わての精密回路は大丈夫かいな……?』
「ギルドに帰ったら、しっかりとメンテナンスでもしてもらいなさい。……それでおっさんAIに相談なんだけど」
『はいはい。わてはお嬢さん方の忠実なアドバイザーですからね。奴隷のごとくタダ働きしまっせ』
「……本当にAIのくせに根に持つわね。まあいいわ。いま私たち、十九階層の入口に来ているじゃない?」
『その通りですな。後ろを振り返れば次元門もありますから、このまま十八階層(回れ右して)引き返すのも、地上へ戻るのも自由やで』
「そこなのよ。十八階層を踏破してきて、モンスターの強さが上がってきたって感じるのよね。舐めプじゃないけれど、スズカのランスの火力を完全に解禁したり、ゴークくんを戦力として投入すれば全く問題ない話なんだけど……」
『スズカはんの件はともかく、ゴークくんを乱用し始めると自分たちが『いらない子』になってまう。だから自分らの力だけで安全に探索したいと、スイはんとしては、リスク回避も含めて一度地上へ戻り、装備品の見直しをしたい……ちゅうことですな?』
「まあ、そうね。無傷で無事に帰ってくるのが、私の探索における基本方針だから」
『せやな。その考えにはわても大賛成です。ダンジョンでいくらお宝を手に入れても、腕やら足やらを失くしましたじゃ洒落にならんからな。ここは一旦地上に戻って装備を見直すのもひとつ手や。移動遺跡を一番乗りで見つけなアカン……みたいな制限時間もないんやから、マイペースに行けばエエ。それに――そろそろお嬢さん方に『新しいスキル』が発現しとるかもしれませんしな』
「あ、そうか! 新しいスキルが発現しているかもってこと、すっかり忘れていたわ」
『……忘れんといて。お嬢さん方にとっては強くなるための大事な手段なんやから』
「そんなこと言われたって、ステータス画面なんて毎回見ているわけじゃないんだから仕方ないでしょう? 『新しいスキルが発現しました』みたいな通知でも出れば分かるけれど」
『それはわてに言われてもどうにもならんですわ。ダンジョンのシステムに文句言うてください。まあともかく、皆さん自分のステータス画面を開いてみたっえや。新しいスキルが増えとるかもしれへんから』
おっさんAIに言われ、私たちは各自でステータス画面を呼び出した。
……私の画面を確認する。――うん、変化なし。
ちょっと残念ではあるけれど、スキルの発現頻度には個人差があるって言うしね。
「私はなさそうね。みんなはどう?」
「オレはなんか……『ランスチャージ』っていうのが増えてるな。これなんだ? ランスのエネルギーチャージでもできるのか?」
『違いますわ。本来は馬なんかに乗って、スピードと体重を穂先に集中させて敵陣を中央突破する突撃戦法のことや。……まあ、乗り物にも乗らんと歩いて戦っとるスズカはんに、なんでそんなスキルが発現したんかはサッパリ分かりませんけど。……もしスズカはんの持つ『騎乗』スキルと合わされば、単騎での突撃力に関しては相当恐ろしいことになるな』
「そうか……! じゃあ、あいつらを呼ぶか?」
スズカの契約神霊のストームサンダー。神霊の名を冠するように、ストームサンダーはまさに神の如き力を有してる。それこそゴークくんなんて目じゃないくらいに。
「神霊である彼女たち自身の力をそのまま振り回したら、結局ゴークくんと同じで『彼女たちだけ居れば良い』って話になっちゃうからね。単に『乗り物』として乗り回す範囲なら、スズカの判断に任せるわ」
「おう、そうか! ちょっと考えてみるぜ」
「他に新しいスキルが出た人はいる?」
「残念ながら、私もありませんでした」
ヒマリもスキルの発現はなし、と。
あとはサクラだけだけれど……当のサクラは、なぜかぶつぶつと不満そうに口を尖らせていた。
――あの顔、もしかして……また妙なことになっているの!?
「……おっちゃんAIが、サクラに嘘ついたぁ」
『な、なんや急にサクラはん!? わてが何に嘘ついた言うんや!? わてはいつだってお嬢さん方には真摯にアドバイスを送っとるで!』
「……今度サクラに新しいスキルが出たら、みんなと同じようなかっこいいスキルになるって言ったもん!」
『……あー……言うた……かもしれませんな。でも、あれですやん! 『かも知れへん』って濁したはずで――』
「言った! サクラ楽しみにしてたのに! おっちゃんAIの嘘つき!」
『いやいや待ってぇな! 嘘やなくて……! スイはん助けてぇな!!』
「はいはい。……サクラ、どんなスキルが生えてきたの?」
涙目になっているサクラをあやすようにして、私は彼女に発現したスキルを尋ねた。
「……き」
サクラがボソリと呟くけれど、小さすぎて全く聞き取れない。
「……ごめんねサクラ、もう一度言ってもらえる?」
「……『イタズラ大好き』ってスキルだったぁぁぁ……っ!!」
「……」
……なんでこの子のスキルって、毎回毎回こうも妙な方向へ突っ走るのかしら……?
『ま、また……なんちゅうか、けったいなスキルを手に入れたなぁ。あ、いや……でもこれは、ある意味サクラはん向きのスキル言えばサクラはん向きなんか……?』
「どういうこと? 何か問題があるスキルなの?」
『問題があるスキルちゅう意味では、まったくあらへんよ。このスキルはマジック系――魔法のほうやなくて『手品』のほうな。そっちに分類されるスキル系統なんですわ』
「へぇ、手品系のスキルなんてカテゴリもあるのね」
『まあ、世界には色々とスキル系統がありますさかい。そこは一旦横に置いておいてやな……このスキル、実はめちゃくちゃおもろいことができるんですわ』
「面白いこと……?」
『このスキルはな、対象のスキルのクールタイムを一回帳消しにして、間髪入れずにもう一回発動させることができるんですわ』
「へぇ、凄そう……。でもそれって、連続で何回も発動できるの?」
『あー、スイはんはこの凄さをイマイチ分かってへんなぁ! あんな、このスキルの凄さは『どんな状況でもノータイムでもう一回撃てる』ちゅうところにあるんやで! これが何を意味するか分かってますか!?』
「ええっと……」
私は頭の中で想像してみるけれど、イマイチピンと来ない。すると横から、ヒマリがハッと息を呑んだ。
「……それはもしかして、サクラちゃんの持つ『メモ帳』であっても、同じように即座に再発動ができる……ということでしょうか?」
『せや!! ヒマリはん、ようわての言葉を理解してくれました!!』
「ふふ、ありがとうございます」
「えっ!? ってことは、サクラは魔法が撃ち放題になるってこと!?」
「うにゅ!? サクラ、魔法撃ち放題なの!?」
私とサクラが同時に目を丸くすると、おっさんAIはその丸い身体を左右にフリフリと振った。
『そこまで完全なチート級やあらへんよ。現状だと『一回分余分にスキルが使える』ちゅうくらいや。今後サクラはんが成長して、その『イタズラ大好き』が強化されたら、一日に二度、三度と連続で撃てるようになるかもしれへんけどな』
――まあ、どう成長するかは分からんけどな、とおっさんAIは付け加える。
それでも、ピンチの場面で「もう一度スキルが使える」という保険があるだけで、精神的な余裕は段違いだ。
「凄いわよサクラ! このスキルは、サクラの切り札になるわ!」
「うにゅ……? そうなの? サクラのスキル、凄いの……?」
「ええ、間違いなくね!」
『継続戦闘ちゅう意味では直接的な効果は薄いけど、土壇場での切り札(手札)が一つ増えるちゅう点では、ごっつエエスキルや』
「……そっかぁ。えへへ……おっちゃんAI、ごめんなさい。サクラ、勘違いしてた」
『エエよエエよ! 勘違いなんて誰にでもあるからな!(……ふぅ、なんとか機嫌を直してもらえて助かったわぁ)』
私とヒマリには新しいスキルが発現しなかったけれど、スズカには『ランスチャージ』、サクラには『イタズラ大好き』が新たに加わった。
これから踏破する十九階層、そして目標の二十階層に向けて、間違いなく心強い力となってくれるはずだ。
「スキルの確認も取れたことだし……どうする? 一度地上へ戻る?」
「「進む!!」」
さっきまでは「帰りたい」と言っていたサクラまで、スズカに同意するように元気いっぱいに手を挙げた。
こうなると、あとはヒマリだけだけれど――。
「ふふ、スイちゃんがお決めになって大丈夫ですよ」
見事に過半数が「前進」へと傾いた。
「はいはい、分かりました! それじゃあ十九階層に進むけれど、絶対に無理はしないで怪我のないように行くわよ!」
「「「おーっ!!」」」
『ほんなら、わてはまた索敵に全力を尽くしますさかい、おしゃべり機能はオフにしますよって』
おっさんAIが静かに沈黙し、センサーモードへと移行する。
私たちは意気揚々と、次元門を通り未知なる十九階層の探索へと足を踏み出すのだった。
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