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No.76活動記録:描かれた巨腕と、圧倒的暴力




No.76活動記録:描かれた巨腕と、圧倒的暴力




 「ヒャッハー!! オラオラオラァ! スズカ様のお通りだぁッ!!」


 寒梅穿牙の凍傷効果を付与された光の穂先をぶん回し、スズカは襲いかかってくる恐竜型モンスターの群れを片っ端からなぎ倒していく。


 「……ちょっとあれ、ランスの使い方じゃないわよね!? なんで豪快に薙ぎ払ってるのよ! 突きなさいよ、ランスでしょうが!」


 「構わねぇだろ、結果オーライなんだからよ! ほらお前ら、モンスター共が凍りついて動けないうちに叩き潰せ!」


 「倒すのは良いけれど、なんだかなぁ……」


 恐ろしい勢いで無双するスズカの姿にどこか釈然としないものを感じつつ、私は作業のように凍結したモンスターに留めを刺していく。


 「……スーちゃんだけ活躍してずるーい! サクラも活躍したいー!」


 「サクラの場合は、メモ帳の残量もあるから攻撃系は控えてもらいたいのよね。……でも、そうね。この探索が終わったら、またサクラの魔道書を買いに行きましょうか」


 「えっ!? スイちゃんどうしたの!? この間、新しい魔道書を買ってもらったばかりだよ? 『金欠病』は大丈夫なの!?」


 「だから『病気』じゃないって言ってるでしょ! お金に関しては、おっさんAIが言っていた通り、一回の探索でかなりの額が入るようになってきたのよ。まあ、ここ最近はがっつり戦闘してないから百万単位とはいかないけれど、それでも普通の女子高生がアルバイトして稼ぐよりは遥かにお金が入るわよ」


 「そうなの!? スイちゃんってお金持ち!?」


 「お金持ちってほどじゃないわね。あくまで『普通の女子高生と比べたら』って話よ」


 「お? なんだ。だったら少し寄り道して、その辺のモンスターを倒しまくっていくか?」


 「それは二十階層に行ってからで良いんじゃない? ほら、移動型の遺跡を探しているうちに、どうせ嫌ってほどモンスターと戦うことになると思うのよ」


 「ふふ、そうなると……もっと継続して戦闘が行えるようにならないといけませんね。今の私たちだと、三十分も連戦が続くとサクラちゃんからの魔法援護が底をついてしまいますから」


 「そうなのよね。だからサクラに予備の新しい魔道書を持ってもらって、臨機応変に切り替えて戦ってもらうか――」


 「おおっ! じゃあサクラの新必殺技がもっと出せるようになるね!」


 「それは、まあ……過度な期待はしないで待っておくわ。あとはそうね、それこそ『ゴークくん』を本格的に戦力として運用するかどうか考えるところなのよね」


 魔道機人形のゴークくん。彼――あるいは彼女――は、いつも通り私たちの後ろを付かず離れずの絶妙な距離感でズシンズシンとついてきている。


 ……というか、私たちが頻繁にモンスターに遭遇する原因って、絶対にゴークくんの巨体も関係しているわよね? 両手と頭部がないとはいえ、全高五メートル近い巨体が歩いているんだから、目立たないわけがない。


 ほら、考えているそばからまた新しい恐竜型モンスターが現れた。


 「シャアオラッ! ホームラン!!」


 「だから! それはランスの使い方じゃないって言ってるでしょうが!」


 現れたモンスターを、スズカがフルスイングで彼方へと打ち飛ばす。


 「スイちゃん! ゴークくんも一緒に戦うの? ならサクラ、前から試してみたかったことがあるの! やってみて良い!?」


 「まだ戦力として一緒に戦うかは検討中だけど……そうね。ただ後ろをついてくるだけじゃゴークくんも暇でしょうし。主砲(エネルギー波砲)さえ使わなければ、この階層の間は好きに試してみて良いんじゃないかしら?」


 「わーい! じゃあゴークくん、一緒に戦おう!」


 サクラは嬉しそうに声を上げると、ポシェットから一本の筆を取り出した。


 あれはサクラのおじいちゃんが元トラベラーの知り合いから譲り受けたという、インク切れが起きずどこにでも文字や絵を描ける特殊な魔道具の筆だ。


 「さらさらさら~♪」


 サクラはゴークくんの巨体にすり寄り、その巨大な胴体の左右へとなめらかに筆を走らせていく。


 「……腕?」


 描かれたのは、どう見てもゴークくんの身体のスケールに合わせた巨大な『腕』のイラストだった。


 「そんでもって――『防御力アップ』の魔道書を、ペラペラ~っと!」


 サクラはポシェットから魔道書を取り出すと、ページを素早くめくった。


 発動した光の魔法効果は……ゴークくん本体ではなく、胴体に描かれた『腕のイラスト』へと吸い込まれていく。


 「そんでもって――『敏捷性アップ』の魔道書も、ペラペラ~!」


 防御力の魔道書をしまうと、間髪入れずに『敏捷性アップ』の魔道書を取り出してめくった。それも同じく、描かれた腕へと付与されていく。


 「最後に――『強化』の魔道書を、ペラペラ~!」


 サクラは服のホルダーから『強化』の魔道書を引き出し、迷いなくページをめくった。


 「ちょ、ちょっとちょっとサクラ! そんなにいくつも重ねがけして大丈夫なの!?」


 「うにゅ? スイちゃんが禁止した『同時にページをめくるやつ』じゃないから平気だよ!」


 「いや、同時並行じゃないのは分かってるんだけど……付与魔法って、そんなに短時間で重複させて大丈夫なものなの!?」


 「魔道書屋さんの店員さんが『大丈夫』って言ってたから平気だよ!」


 「……絶対に店員さんも、そんな破天荒な使われ方をするなんて夢にも思ってないと思うけれど……」


 サクラのトリプルバフ魔法が、ゴークくんの胴体に描かれた巨大な『腕の絵』へとすべて付与されたのだった。


 すべてのバフが付与されたというのに、ゴークくんはズシンと佇んだまま微動だにしなかった。


 「あれ……?」


 私たちが同時に首をかしげていると、私はハッと大切なことを思い出した。


 「そうだ! 契約者(オーナー)であるヒマリが命令しないと、ゴークくんは勝手に動けないんだった! ……ヒマリ、えっと……モンスターでも来たら命令を――」


 私が言いかけるや否や、まるで空気を読んだかのように、前方から唸り声を上げて新たな恐竜型モンスターが飛び出してきた。


 「はい、分かりました。ゴークくん、そちらのサクラちゃんが描いてくれた腕を使って、戦闘を行えますか?」


 ヒマリが静かに命令を下すと――顔のないゴークくんが、どこか自身の胴体に描かれた左右の両腕を見つめるような仕草を見せた。


 そして――。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 「……おおっ!? 動く……! こいつ、動くぞ!?」


 スズカが驚愕の声を上げた。


 なんと、胴体に描かれていたはずの巨大な『腕の絵』が、まるで立体として肉付けされたかのように、不気味かつ力強い重低音を響かせて蠢き始めたのだ!


 「ゴークくん、やっちゃえーっ!」


 サクラが元気いっぱいに声援を送ると、完全に具現化したゴークくんの巨大な両腕が、ダイナミックに駆動を開始した。


 勢いよく迫り来る恐竜型モンスターに対し、ゴークくんはその丸太のような腕を問答無用で豪快に振り下ろす!


 ドッッッッッッスーーーーン!!!!!


 まるで巨大な鉄槌を叩き落としたかのような凄まじい衝撃音が回廊に轟き、拳が直撃した地面が見事に陥没した。モンスターは叫び声を上げる暇すらなく、一撃で肉塊へと、光へと変えられてしまう。


 「……いや、主砲の威力を叩き出した時から分かってはいたけれど……ゴークくん、強すぎるでしょう!?」


 「すごーい! ゴークくん強ーい!」


 「やべぇな! なんだよその圧倒的な暴力は!暴力はすべてを解決するッてか! ガッハハハ! 笑えてくるぜ!」


 その後も、ゴークくんは次々と襲いかかってくるモンスター相手に、ただ巨大な拳を「殴る」「叩きつける」というシンプルな動作を繰り返していった。


 ドシン! ドシン!と、階層の地形そのものが変わってしまうのではないかとヒヤヒヤするほどの破壊力を見せつける。


 「……どうしよう。ゴークくんが本格参戦したら、本当に私たちがいらなくなるわ……」


 圧倒的すぎる戦力を前に、私は呆然と呟くことしかできなかった。


 おっさんAIが以前、「ゴークくんの戦力は巨大な戦艦並み」と語っていた意味を、骨の髄まで理解させられた一戦だった。


 戦闘が終わり、後に残されたのはクレーターのように大きく陥没したダンジョンの地面と、その中心にポツンと転がるモンスターのドロップアイテム。


 そして、その惨状の真ん中で異様な圧迫感を放ちながら佇むゴークくんの姿だった。


 「かっこいい~~~! ゴークくん、すごーい!」


 目を輝かせて大はしゃぎするサクラ。


 「いやぁー! 正直オレたち要らねぇなぁ! ガッハハハ!」


 豪快に笑い飛ばすスズカだが――笑い事ではない。本当にそれだと『私たちの存在意義って一体……?』ということになってしまう。


 「……ですが、この様子ですと、連戦でのゴークくんの戦闘参加は無理そうですね」


 ヒマリの落ちついた言葉に、私は「どうして?」と首をかしげた。


 ヒマリは静かにゴークくんの胴体を指し示す。


 「今の一戦だけで……サクラちゃんが描いてくれた腕の絵が、半分以上消えてしまっています」


 ヒマリの言葉に、私たちは一斉にゴークくんの胴体を注視した。


 先ほどまで実体化して暴れまわっていた巨大な腕の絵は、なんと肘のあたりから先が綺麗に霧散し、消えかかっていたのだ。


 ――確か以前、おっさんAIが「ゴークくんは最上級クラスの魔道具」だと話していたはず。


 それに対して、サクラの強化した魔法効果は、せいぜい中級クラスの下位程度の出力でしかない。


 「……なるほど。ゴークくん本体が出す圧倒的な出力に、サクラの描いた腕(魔法)が耐えきれずに崩壊しちゃった……ってこと?」


 「わーんっ!? ゴークくん、大丈夫ーー!?」


 サクラは消えていくゴークくんの両手を心から心配して、トテトテと足元へ駆け寄っていった。


 いや……サクラが描いた絵だから痛覚とかはないはずだし、そもそもゴークくんは魔道機人形――一種のゴーレムみたいなものだと聞いていたけれど。


 まあ、サクラにはそんな理屈は関係ないわよね。あの子は相手がロボットだろうが何だろうが、分け隔てなく心配する優しい子だから。


 それはそうと――。


 「……結局、パーツがすべて揃うまでは、ゴークくんは私たちの『ここぞという時の切り札』って位置づけになりそうね」


 パーツが足りない以上、通常戦力としての常用はどう頑張っても無理そうだ。


 これまで通り、本当に危ない局面や決定的な場面でのみ、ゴークくんの力を借りることにしよう。


 私たちはそう頷き合いながら、私たちは互いに頷き合い、クレーターの底に落ちたドロップアイテムの回収へと向かうのだった。









挿絵(By みてみん)

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