No.71活動記録:目指せ一攫千金! 錬金釜(ガチャ)への挑戦
No.71活動記録:目指せ一攫千金! 錬金釜への挑戦
私たちは無事に不快な十六階層を抜け、十七階層へと足を踏み入れた。
目標としている二十階層の『移動遺跡』まで、いよいよ残り三階層だ。
「……ねぇ、おっさんAI。念のために聞くけど……ここにも、あの巨大な虫っていたりするの?」
私は周辺の木々を警戒しながら、震える声で尋ねた。
『まぁ、下の階層にあれだけウジャウジャ居ったからなぁ。この階層でも確率で出くわす可能性は十分あるで』
「だったら、ここも一刻も早く急いで抜けましょう!」
私は一秒でも早くその場を離れたくて、思わずその場でジタバタと駆け足(足踏み)を始めた。
『……ハァ、しゃあないな。ほんなら、わてはまた索敵システムを最大観測モードに切り替えて、不快害虫の居らん安全ルートを案内していくわ。またしばらくお喋りはOFFになるけど、お嬢さんら、しっかり着いてきたってや』
おっさんAIはお喋りモードをスリープさせ、再び無言で索敵を開始した。私たちはその静かなドローンの後を追うようにして、しっかりと足並みを揃えて歩き出す。
おっさんAIが完璧なルート取りで虫系モンスターを綺麗に回避してくれているお陰だろう。私たちは道中、獣系や鳥系のモンスターのみを相手にしながら、一切のトラブルもなく探索を進めることができていた。
「よしよし、この調子ね。動物系のモンスター相手なら、この十七階層も問題なく安全に進めそうね」
「そうだな。まぁ、途中でいきなり熊が出てきた時はさすがにちょっとビビったけどよ」
「地上で出会っても普通は驚くわよ。それを『ビビった』なんて言ってた割には、迷わずランスで一発で突き刺して仕留めてたじゃない。見てるこっちが冷や冷やしたわよ」
「ハハッ! 『やられる前にやれ』ってやつだよ!」
スズカが爽やかに笑い飛ばす。
「でも、この階層に入ってからスーちゃんばかり大活躍してる! サクラももっと活躍したい!」
サクラがポシェットを叩きながら不満そうに頬を膨らませた。
「いやいや! お前もさっきから十分すぎるくらい派手に変な魔法使ってるじゃねぇか! なんだよ、巨大な手は!?」
「あ、あれには私も本当に驚きましたね。サクラちゃんの小さな手……が本物ではないんでしょうが、半透明の大きな手に変化して、襲ってきたモンスターをそのまま『むぎゅっ』と握りつぶしていましたから……」
ヒマリが思い出しながら、少し遠い目をする。
「くししっ! あれはね、サクラの新必殺技『ビッグハンド』だよ!」
「あんたは本当によくそんなおかしな魔法を次々と思い付くわよね……。まあ、それもあの何でも具現化しちゃう『メモ帳』ありきの魔法なんだろうけどさ」
「ねぇねぇスイちゃん、このメモ帳みたいな魔道書って、他には売ってないのかなぁ?」
「さあ? 前におっさんAIが話してくれた限りじゃ、メモ帳みたいな日用品の魔道具がそのまま魔道書に存在変化すること自体が、確率としてあり得ないレベルの奇跡らしいし。そもそも具現化系の魔道書って、あっても数が少なくて超高価らしいからね」
「そうなんだぁ。じゃあ、サクラたちがいっぱいお金を貯めて、ジェナちゃんに新しいのを作ってもらおうよ!」
「億単位のお金が掛かるのを気軽に貯めるとか言わないでほしいんだけど……。まあ、コツコツね。焦らずコツコツ貯めていきましょう」
もちろんダンジョンである以上、いつ強力なモンスターに襲われるかわからない危険は常にある。けれど、最初は一面の花畑だったエリアが、階層を上がるにつれて徐々に林になり、それが深くなって――今ではすっかり立派な森へと変貌を遂げていた。
緑の木漏れ日を浴びながら、私たちはどこかのほほんとした穏やかな雰囲気のまま、十七階層を進んでいった。
そうして歩みを進めるうちに、私たちは次の十八階層へ続く次元門へとたどり着いた。
「ここを越えれば十八階層。そして、十九、二十階層……。目的の移動遺跡も、もう目と鼻の先ね」
「おう、そうだな! ――あ、でもスイ。二十階層で遺跡を探す前に、まずは例の『ガチャ』をしに行こうぜ! 験担ぎにな!」
「はいはい。この前みんなで話してた『セール品の魔道具を買い込んで十階層の錬金釜につぎ込む』って話でしょう? 次元門へ直行ルートで進んできたとはいえ、モンスターもそれなりに倒してきたから、ギルドで素材を換金すればそこそこの金額にはなるはずだし。……そうね、次の休みの時にでも、一回十階層へ寄り道してみましょうか」
「わーい! ガチャ回す! ガチャ回すー!」
サクラがぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
「へへっ、今度こそ大当たりの激レア魔道具を出してやるぜ!」
「……期待しないで待ってるわよ」
私たちは顔を見合わせてクスッと笑うと、青く輝く次元門を潜った。
十八階層への到達を確認した私たちは、今回の探索をここで一度切り上げ、地上へと戻るのだった。
今日の私たちはダンジョン探索をお休みにして、ダンジョンギルド隣接にある『ストレージマーケット』へとやって来ていた。
目的は言わずもがな、セール品の格安魔道具の購入だ。
十階層の『未来遺跡』の施設内に設置されている錬金釜。通称『ガチャ』――に持ち込んだ品物を投入すると、別のアイテムへと変化(錬成)させてくれるという、まさにソシャゲのガチャのようなシステムを持つ物質合成機械。そこにぶち込むための「ガチャの弾」を仕入れに来たというわけだ。
「さぁって! 一体どんなお宝品を買ってやろうかな!」
スズカが腕まくりをしながら、ずらりと並んだワゴンセールの山をぎらついた目で見定めている。
「一応言っておくけど、買い占めるほどの予算はないからね。ひとり……そうね、十個までにして頂戴。それくらいなら私のお財布からなんとか出せるから」
「十個か……。ちょっと少ない感じもするが……まあいいや! 『これだ』って厳選したやつを選んだ方が、本番で凄いのが出るかもしれないしな!」
「スイちゃんスイちゃん!」
「なに、サクラ?」
「気に入ったやつがあったら、ガチャに入れないでサクラがそのまま使ってもいい?」
「それはサクラの自由にしていいわよ」
「わーい! わかったぁ!」
サクラは返事をするや否や、目にも留まらぬ速さでワゴンの山へと飛んで行った。
「あ、ズルいぞサクラ! 良いやつ買い占めるなよー!」
サクラの後を追うようにして、スズカも大慌てでワゴンへと向かっていく。
「……とりあえず、私たちも何か見つけましょうか」
「前回同様、何か実用的なものを探した方がいいですか?」
ヒマリが尋ねてくる。
「それも良いと思うけれど、たまには自分の趣味に走ってみるのも良いんじゃない? ガチャに投資するかどうかは本人の自由にさせるつもりだしね」
「ふふ、そうですか。分かりました、では私も自分の直感で選んでみますね」
ヒマリも上品に微笑むと、ワゴンの方へと歩を進めた。私もそれに続くようにしてワゴンへと向かう。
「……それにしても、見た目は本当にただの日用品よね。これで『魔道具』だって言われても、実際に使ってみるまで効果が分からないんだから……。文明の技術の進歩と言うべきなのか、ダンジョンから発掘されるアイテムの意味不明さに驚くべきなのか……」
ワゴンの中を覗き込みながら、思わず苦笑いが漏れる。
――なんで錆びたネジ一本だけがセール品に混ざっているのかしら? これで一体何をしろと言うの?
他には……シャープペンシルとかは、まだ文房具として理解できる。こっちは……ヘアーゴムかしら?
日用品というよりは、もはや怪しい雑貨品という表現の方がしっくりくる。私は品物を選ぶというよりも、乱雑に置かれた怪奇な品々の存在そのものに興味と驚きを覚え、手当たり次第に手に取って眺めていた。
夢中になってワゴンを見ていた私は、そういえばみんなに集合時間を伝えていなかったことに気がついた。店内を探し回りながら、「あと十分で集まってね」と声を掛けて回る。
――それから十分後。
スズカとサクラは予想通り、上限いっぱいの十個の品物をバッチリ見繕ってきたようだった。対照的に、ヒマリと私は数点しか選ばなかった。
「なぁスイ、おっさんAIに買い取ったやつの鑑定を頼まなくていいのか?」
スズカが両手いっぱいに抱えた怪しいガラクタを掲げながら言った。
「これから全部ガチャにつぎ込むんでしょう? だったら、事前に鑑定してもらってもあんまり意味ないんじゃないかしら」
「もしかしたら、この中に一発逆転のスゲェお宝が混ざってるかもしれないじゃないか!」
「そんなアイテムがセール品のワゴンに放置されてる方が驚きよ」
もし本当にそんなが混ざっていたら、このワゴンを作ったお店の担当者が無能すぎてクビになるレベルだ。
とりあえず私たちは選んだ品々の会計を済ませ、今回はこのまま直接ダンジョンの十階層へと向かうことにした。
「今回はトレーラーを使わないんだね?」
サクラがポシェットを整えながら聞いてくる。
「前回ショウコさんに頼んだのは一泊二日の遠征予定だったからね。今回は行ってガチャを回して帰ってくるだけだから、スズカに神霊を呼び出してもらって一瞬で行き来しましょう。行って帰るだけなら、彼女たちも文句は言わないと思うし」
「安心しろよ! もし文句を言われたら、オレがバシッと一言言ってやるからな!」
「……神霊相手にそんな口を叩けるのは、世界中探してもあんただけよ、スズカ」
そうして私たちは装備を整え、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。
「ダンジョン行くのにおっさんAIも無しか。あとで知られたら『わてを置いていくとは何事や!』って絶対文句を言ってきそうだな」
「ガチャをしに行くだけだもの。それだけのためにおっさんAIをレンタルするのも勿体ないでしょう。――じゃあ、スズカ、お願いね」
「おう! お前ら、来いっ!」
スズカが叫ぶと、彼女の掌に刻まれた雷と嵐を表す召喚紋章が眩い光を放ち、空中に立体的な魔法陣が展開された。
光の奔流の中から姿を現したのは、二柱の女神。雷鳴と嵐を司る、流線型のメタリックなボディを持つ神霊――『ストーム』と『サンダー』だ。
スズカが彼女たちに呼び出した理由をサッと説明すると、二柱は人型からもう一つの姿――巨大な魚を思わせる大型バイク形態へと滑らかに変形を遂げた。
私たちが曲芸みたいな感じで跨がると、彼女たちの持つ『空間航行能力』が発動する。
空間がグニャリと歪んだ次の瞬間――私たちは一瞬にして、十階層に存在する『未来遺跡』のすぐ目の前へと転移していた。
エレベーターが途中で切り取られたような、まるで漏斗を逆さにしたかのような異様なシルエットを持つ巨大遺跡。遠くから見上げれば、それは一つの巨大な山のようにも思えた。
私たちは前回と同じく、運搬用の通用入口から静かに遺跡内部へと足を踏み入れた。
「メーヴェちゃん、いるかなぁ?」
サクラがポシェットの紐をギュッと握り締めながら、きょろきょろと周囲を見回す。
「いくら自警団の人でも、こんなにだだっ広い遺跡に常駐してるわけじゃないでしょうしね。ちょっとした都市並みに広い場所なんだから、会えたらラッキーくらいに思っておいた方がいいわよ」
前回来た時に強烈な印象を残していったメーヴェさん。彼女――いや、彼にまた会えるかとワクワクしているサクラに、私は釘を刺しておいた。
なにせ『自分の種族そのものを変えてしまう』という、ぶっ飛んだユニークスキルの持ち主だ。ダンジョンに潜る時は見目麗しい『エルフ』の姿に変化し、中性的な美貌に時折混ざるオネェ口調。けれど本人は「歴とした男性」だと主張する……お世辞にもキャラ付けが飽和状態の、濃すぎる人物だった。
「あいつ、ノリが良くて面白かったからな! 会えるならまた会って話したかったぜ」
スズカがカラカラと笑う。
「……面白いで済ませていい人だったのかしら、あの人」
私は苦笑いを浮かべながら、メーヴェさんに教えてもらった記憶を頼りに足を進めた。
「えっと、確かこっちの方よね。錬金釜が設置されている施設は」
「ああ、そうだ。――それからお前ら、周りに気を付けて進めよ」
スズカが急に声を低くして言った。
「そうね。前にメーヴェさんも言っていたけれど、この遺跡にはタチの悪いトラベラーも潜んでいるみたいだからね。むやみに絡まれないように気をつけましょう」
「はーい!」
「分かりました」
「へっ、もし変な奴が絡んできたら、オレがまとめてのしてやればいいだけじゃねぇか」
「絶対に争わないでよ!? それに、この遺跡内で器物破損とか暴力を振るうと、即座に遺跡の防衛警備ロボットがすっ飛んでくるって話なんだから。穏便に済ませられることは穏便に行きましょう」
私がここまで慎重になっているのには理由があった。
この遺跡に足を踏み入れてからというもの、スズカの周囲に対する警戒心が露骨に上がっているのだ。私でさえ『新参の小娘たちがウロウロしやがって』という刺すような視線が周囲からチラチラと注がれているのを感じ取っていた。
前回は見るもの全てが珍しく、そうした陰湿な視線に気づかないまま変な輩に絡まれた、丁度お上りさんを見つけ、心配になったメーヴェさんがこっそりあとを着けて助けに入ってくれたからなんとかなったけど。今回もそう都合よく誰かが助けてくれるとは限らない。
案の定、不躾な視線にさらされてイライラを募らせているスズカに、私は前もってしっかりと釘を刺しておいたのだった。
そんな視線の嵐を突っぱねながら進むこと数分、私たちはついに『錬金釜』が設置されている施設へと到着した。
「うわぁ……相変わらずすっごい人だねぇ」
サクラが目を丸くする。
「一攫千金を夢見たガチのギャンブラーたちばかりね……」
「いいじゃねぇか! 男には夢が必要なんだよ!」
「……私は、全財産をここに注ぎ込んで破産するスズカの未来がハッキリ見えたわ」
「そんなわけねぇだろうが! 人が夢を見て動き続ける限り、その夢は絶対に終わらねぇんだよ!!」
「……どれだけ熱く力説しても、破産して路頭に迷ったらそこでおしまいよ」
鼻息荒く熱弁するスズカに、私は冷や水をぶっかけるように冷静に説いた。
私たちはゾロゾロと長蛇の列に並び、順番を待つ。
じわじわと列が消化され、いよいよ私たちの番がすぐ目の前へと迫ってくるのだった。
少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!
【お知らせ】
今回、作品に挿し絵を追加しました!
よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです




