No.70活動記録:救援信号と、サクラの即席メテオラ
No.70活動記録:救援信号と、サクラの即席メテオラ
おっさんAIから提示されたそれぞれの「宿題」を頭の隅に置きつつ、私たちは十七階層へと続く次元門を目指していた。
――ただし、その足取りは極めて偏っている。
「大丈夫よね……? 近くにいないわよね、本当に……っ」
私は生まれたての小鹿のようにブルブルと膝を震わせながら、スズカの背後にぴったりと張り付き、彼女のジャケットの裾を掴んで十六階層のエリアを進んでいた。
「大丈夫だからオレの服を引っ張るなっての! 布が突っ張ってめちゃくちゃ歩きにくいんだよ!」
「そんなこと言ったって、おっさんAIが言ってたじゃない、古代の生物よ!? 現代の虫だって十分に気持ち悪いのに、その元祖の、さらにデカい歴史の生き残りみたいなのがウジャウジャいるかもしれないのよ!?」
『いや、だからなスイはん。この辺の階層に居るんは、お嬢さんが今想像しとるような生命力の塊みたいなGの類いやあらへんよ』
宙を浮遊するおっさんAIが、困ったようにレンズを明滅させる。
「古代の生物というと……地質学でいう古生代あたりの生物でしょうか?」
ヒマリが記憶を探るように人差し指を顎にあてた。
『せやな。地上の古生物学の連中が分析した話によると、『リニオグナータ』――デボン紀の約四億一千九百万年前の地層から見つかった、最古の昆虫の化石にそっくりなやつが野生化しとるっちゅう話や』
「四億年前の虫とか言われても、オレには全く想像がつかねぇな。サクラ、お前わかるか?」
「うにゅ? 四億年? ……うーん、恐竜とかなら、なんとなくテレビで見たからわかるよ!」
「だよな。オレも恐竜なら、なんか怪獣っぽくて強そうなやつってイメージが湧くけど、四億年前の虫はちょっとピンとこねぇわ」
『まぁ、余程の専門家かマニアでもない限りはわからへんやろうな。種類がどうとかは専門家に任せとけばエエ。ただ、今までの肉食獣系とは違って、昆虫系のモンスターは関節の構造からして人間の常識から外れたアクロバティックな動きをしてくる。とにかく見た目の不気味さに惑わされず、油断はせんようにな』
「油断なんて一ミリもしないわよ! おっさんAI、あんたは今すぐお喋りをやめて、持てる全システムを虫系の索敵に全振りしなさい! サクラは索敵に引っかかった瞬間にいつでも最大火力で迎撃できるように準備! ヒマリはサクラが万が一討ち漏らしたときのために、『桜花乱舞』の広範囲攻撃で跡形もなく仕留めて! それでももしダメそうなら、ゴークくんを……いいえ、最初からスズカに神霊を呼び出してもらって、この階層一帯を更地にしてもらった方が――」
『お嬢さん、恐怖のあまり手段を選ばなくなっとるな。なりふり構わん姿勢はトラベラーらしくて非常にエエねんけど……神霊の全力発動で階層ごと更地に変えるようなアホな行為は絶対に止めとき。もし周囲に別のトラベラーのパーティーが居たら、一瞬で巻き添えを食うて消し飛ぶで』
「巻き添えじゃないわ……。それは私の精神の平穏のための、尊い犠牲よ……!」
『……物騒極まりない考え方にシフトするんは止めぇなホンマに。ハァ、しゃあないな。スイはんの理性がプッツンして大量殺人犯にでもなったら敵わん。言われた通りに索敵範囲を最大まで拡張しまひょうか。その代わり、演算システムを全てレーダーに振り分けるよって、わてのお喋り機能は一時的にスリープするよって、そこだけは勘弁してな』
「良いわ。一秒でも早く機能を切り替えて、一匹たりとも不快害虫を私に近づけないで」
おっさんAIが「やれやれ」と肩をすくめるようなジェスチャーを見せると、その直後から彼独特の関西弁のお喋りがピタリと止まった。
頭上でのナビゲーション自体は淡々と継続されているものの、いつも絶え間なく軽口を叩いていたおっさんAIが完全に無言になると、なんだか酷く奇妙な、耳が寂しい感覚に陥る。
「……あ。本当に静かになっちまったな」
スズカが少し拍子抜けしたように呟く。
「おっちゃんAIが全然お話ししてくれないの、なんか変な感じだねぇ」
「ふふ、でも他のトラベラーの方たちのドローンAIの場合は、いつもこれくらい静かなのがデフォルトなんでしょうね。普段が賑やかすぎたのかもしれません」
「とにかく! お喋りしてる暇があったら、一刻も早くこの不快な十六階層を駆け抜けましょう!」
「駆け抜けんのは構わねぇけどよ、スイ。結局、さらに上の階層に行っても、今まで下の階層で出たモンスターって確率で混ざって出てくるんだから、今ここで急いで進んでもあんまり意味なくねぇか?」
「ううっ、頭では分かっているのよ! 分かっているけど、気分の問題よ!」
「スイちゃん、落ち着いて! そうだ、サクラがこの前スーちゃんが選んでくれた扇子で、いい匂いの風を送ってあげるね!」
サクラがポシェットから例の扇子を取り出し、バサッと開いて私の顔に向けてパタパタと扇ぎ始めた。
瞬間、上品でどこか懐かしい白檀の香りが私の鼻腔を優しく擽る。その不思議なアロマ効果のおかげか、焦りでパニックになりかけていた私の精神が、すーっと穏やかに落ち着いていくのが分かった。
「……ふぅ。ありがとう、サクラ。お願い、しばらく私の精神安定のために、そのまま横で扇ぎ続けて……」
「うん、わかった!」
「おいおい、あのジャンク魔道具の使い道としてそれが正解なのかは分からねぇけど……結果的に大役に立ったってことは、オレがあの時あれを選んだのは大正解だったってことだな!」
スズカがここぞとばかりに腕を組み、胸を張る。
「これ、サクラの『強化の魔道書』を一緒に使ったら、スイちゃんもっと一瞬で頭がすっきりして落ち着くかな?」
「おいサクラ、そいつは止めとけ。落ち着きすぎてスイの魂が天に召されるか、その場で悟りでも開かれて戦闘不能になられたらたまったもんじゃねぇからな」
「んー、わかった。じゃあ、普通にパタパタするね」
「ですが、こうして一見ただの日用品に見える魔道具でも、探索時の意外な場面で役立つことがあるのですね。そう考えると、また皆さまでストレージマーケットのワゴンセールに行って、掘り出し物を選んでみるのも良いかもしれません」
ヒマリの提案に、スズカが賛同する。
「だな。おっさんAIの話だと、中には鑑定しても使い方がさっぱり分からねぇような代物もあるらしいから、まさにピンキリだろうけどよ。宝探しみたいで面白いじゃねぇか」
「あ! サクラ、すっごく良いこと思い付いちゃった! セールのお安い魔道具をいーっぱい買ってさ、十階層にある『錬金釜』にまとめて注ぎ込んでみたらどうかな!?」
「おっ、そいつは最高に面白い考えだなサクラ! 二十階層の移動遺跡に挑む前の、ちょっとした運試しも兼ねて、みんなで大金を賭けてやってみるのもアリかもしれないぜ!」
「でも、必ずしも良い品に化けて変わるかは分かりませんからね……。セール品とはいえ、大量に買い込んで全部がゴミ同然になってしまったなんて結果になったら――それこそ、スイちゃんがショックでその場に卒倒しかねないですよ?」
「へーきへーき、一個くらいは超大当たりが出るだろうよ! なあ、良いだろうスイ? ……おい、スイ? 聞いてるか?」
私はサクラがパタパタと送ってくれる白檀の香りに身も心も委ね、目を閉じて、深い瞑想のような精神統一を行っていた。
「……え? ああ、うん。いいんじゃない? ガチャ、やったら……」
「……ちょっとサクラ。お前、本当に『強化の魔道書』使ってねぇよな?」
スズカが引きつった顔で私の様子を覗き込む。
「使ってないよー? ただ普通に扇いでるだけだよ?」
「ヒマリ、おっさんAIの話ではそこまで強力な精神安定効果はないって話だったよな……?」
「え、ええ……。極めて微量だと仰っていましたが……」
二人が不気味そうに私の「無」の表情を見つめていると、スズカがふと悪戯っぽい表情を浮かべ、前方の茂みを指差した。
「――あ、スイ。前方から、めちゃくちゃデカいムカデみたいな虫が出やがったぞ」
「きぃぃぁぃああああああああっっっ!? どこ!? どこに出たのよそれぇぇ!? サクラ! ヒマリ! 早く、早くそれを消し炭にして退治してぇぇぇっっ!!」
私は白檀のトランス状態から一瞬で現実へと引き戻され、スズカの肩を掴んで激しく揺さぶった。
「……ケッ、ただの自己暗示で精神を安定させようとしてただけかよ。安心しろスイ、嘘だから。何もいねぇよ」
スズカがケラケラと笑う。
「……え? 嘘? いないの? 虫、本当に一匹もいない……?」
「ああ、お前があまりに幽霊みたいに魂の抜けた顔してたからな、ちょっとからかっただけだ。いねぇよ」
「……スズカァァ!! 言って良い嘘と、悪い嘘があるでしょうがぁぁっ!! 本気で心臓が止まるかと思ったじゃないのよぉっっ!!」
「悪い悪い! 反応が良すぎてついな!」
私たちはそんな風に、きゃあきゃあと騒がしく声を響かせながら十六階層を進んでいく。
頼りになるおっさんAIが今は一言も喋らなくなってしまっても、私たちのパーティーがいつも通り騒がしくて賑やかなことだけは、どうやら何一つ変わらないようだった。
おっさんAIが沈黙を保ち、持てる全システムを広域レーダーに回してくれたお陰で、私たちは極力モンスターとの無用な接触を避けることができていた。だが、広大な十六階層をノーエンカウントで踏破し続けるのにも、やはり限界というものがある。
ずいぶんと長い間沈黙していたおっさんAIのスピーカーが、突如としてノイズを吐き出し、焦ったような声を上げた。
『――お嬢さんら、エエか!』
「うおっ!? びっくりした! どうしたのよ急に喋り出して、まさか緊急事態!? 虫!? 巨大な虫が出たの!?」
私は静寂を破る大きな声にビクッと肩を跳ね上げ、すぐさま身構えた。
『落ち着いてやスイはん。出た言うたら出たんやけど……ちょっと、想定外のパターンやな』
「いつものおっさんAIにしちゃ、やけに歯切れが悪いな。一体何があったんだよ?」
スズカが怪訝そうにドローンを見上げる。
『あったっちゅうか、現在進行形の話や。――この十六階層のすぐ近くのエリアで活動しとる、他のトラベラーのパーティーから『救難信号(SOS)』が発信されとる』
「ええっ!? 救援要請? それって……私たち、すぐに救助に向かった方が良いの?」
『お嬢さんらに余力があるんなら、人道的にぜひお願いしたいところや。ただな……』
「ただ、何よ? もしかして、救援を装って近づいたトラベラーを騙し討ちにするような、タチの悪い犯罪者パーティーかもしれないってこと?」
『いや、それはない。救援要請をダイレクトに発信しとんのは、ギルド支給品の正規のドローンAIからや。わざわざ人をハメるためだけに、行動ログが全部ギルドに筒抜けになる公式ドローンを使うアホは居らへんよ』
「だったら何が問題なんだよ、おっさん」
『……襲われとるモンスターがな、アースロプレウラっちゅう、超巨大なヤスデの一種の虫系モンスターやねん』
「「「……」」」
その名前が出た瞬間、全員の視線が突き刺さるように一斉に私へと集まった。
くっ……! 私だって、虫が苦手だからって、危機に瀕している人を見捨てて非人道を貫くほどの冷血漢じゃないわよ!
「……その人たち、今危ない状態なのよね?」
『まぁ、救援を出すくらいやからな。セイバーが駆けつけるまでは持たんことはないやろうけど……確実に重傷を負うレベルで追い詰められとるわ』
「すぅ――、はぁ――」
私は何度も深く深呼吸をして、腹をくくった。
「……よし。手の内を晒さないためにスズカの神霊の召喚は隠匿。必要があればヒマリちゃんのゴークくんを前線に投入します。おっさんAI! ターゲットまでの距離と方角は!?」
『ここから二時の方角、距離にして約一キロや!』
「みんな、全力で走るわよ! サクラ、さっき買った『敏捷性アップ』の魔道書を使って、少しでもパーティー全体の移動速度を底上げして!」
「「「了解!!」」」
私の号令と同時に、全員が地を蹴って行動を開始した。
救難信号が発信されている現場へと向かって、私たちは木々の間を猛スピードで急行する。
走るうちに、不思議と身体が軽くなり、地面を蹴る足にいつも以上の推進力が宿るのを感じた。これが、購入した補助魔法の効果だろうか。
「サクラ! これ、まだ『強化の魔道書』は重ねて使ってないわよね?」
「うん! まだ使ってないよ! スイちゃん、使った方がいい?」
「お願い、一刻を争うわ! 最大出力でブーストして!」
「わかったぁ! ええーい、ペラペラ~!!」
サクラが走りながら片方の手の強化の魔道書を綺麗に捲る。
その瞬間、私たちの身体を淡いグリーンの光の粒子が包み込み、グンッ!と爆発的に加速して景色が後ろへとぶっ飛んでいった。
『おおっ、時速に換算して大体三十キロ強っちゅうところやな! 競走馬並みのスプリントやで! もうそろそろ、遮蔽物の先に対象が見えてくるでお嬢さんら!』
「分かったわ! おっさんAI、私たちの接近と、救援に赴く旨を向こうの救難ドローンへテキストで飛ばせる!?」
『ドローン同士の通信や、そんなやり取りは朝飯前や。何て送る? できれば一瞬で読める短い単語で頼むな』
「『救援受諾。そこから全力で離れなさい』! これでいって!」
『即座に送信――戦闘の混乱中で気づくかどうか……あ、気づいたで! 向こうのパーティー、こっちのメッセージを見て一斉に後退を始めおった!』
「よし! サクラ、遮蔽物が開けたらすぐに広範囲魔法の準備!」
「ラジャー! 大きくてすごいやつ、いっくよー!」
「スズカとヒマリちゃんは、サクラの魔法で討ち漏らしが出た場合の残敵処理をお願い!」
「おうよ! どんと来いだ!」
「分かりました、迎撃態勢に入ります!」
『スイはん、向こうのトラベラー、完全に射線から離脱完了や!』
「サクラ、今よ! やっちゃいなさい!」
「サクラの新必殺技――! ペラペラ~!」
サクラが楽しそうにメモ帳を捲る。すると次の瞬間、巨大なヤスデの群れがうごめいていた上空の空間が歪み、巨大な――一塊ほどの岩塊が突如として出現した。
「そんでもって、新しく買った防御力アップを、ペラペラ~! さらにさらに、敏捷性アップを追加で、ペラペラ~!」
サクラは出現させた岩塊に対し、まずその『質』を高める防御力アップの魔法を掛け、硬度を極限まで上昇させた。そして直後、間髪入れずに敏捷性アップの魔道書を捲ったのだ。
「大きいお星さまが、ドッスンーー!!」
サクラの無邪気な声に合わせるかのように、上空の巨岩が凄まじい勢いで落下を開始した。本来の自然落下速度を完全に超越した、敏捷性バフによる「加速」を伴った質量兵器。
数十メートルの上空から高速で叩きつけられた巨岩は、この辺りを激しく揺るがすほどの凄まじい地響きと大音響を立てて、ヤスデの群れの真上へと激突した。
「よっしゃあ! ヒマリ、ペシャンコにならなかった討ち漏らしがいたら、片っ端から片付けるぞ!」
「はい、行きましょう!」
スズカとヒマリが武器を構えて土煙の中へと突っ込んでいくのを横目に、私は慌ててサクラの肩を掴んだ。
「ちょっとサクラ! いまの魔法、この間私が『禁止』って言った、あの同時発動のやつじゃないわよね!?」
「違うよー! 今のはね、禁止されたやつじゃなくて、順番に一個ずつ重ねて使ったの!」
『なるほどな! メモ帳で岩を空中に具現化させて、それが地面に落ちるわずかなラグの間に、防御力アップで「岩の硬度(質量)」を上げ、敏捷性アップで「落下の加速度」を上乗せしたんか。……術式としては一発ずつ独立した極めて一般的な使い方やけど、それを物理ドロップ魔法に全掛けして即席のメテオラ(質量兵器)に変えるなんて、初級クラスの魔法とは思えんな。これで強化の魔道書を使わずなんやから、さすがはサクラはんとしか言いようがないわ』
「えへへー! お店のお兄さんがね、『魔法に魔法を重ねられる』って教えてくれたから、試してみたんだよ!」
『いや、店員さんの言うとった意味合いとはかなりニュアンスが違う気がするんやけどな……。まぁしかし、これならこの間の同時発動みたいなシステムバグを誘発せえへんから、撃った後にメモ帳がフリーズするようなデメリットはない。その代わり、魔法の組み合わせによっては全く効果が出えへん「死に技」になることもあるから、そこはしっかり見極めて使わなあかんで?』
「んー、わかった!」
『……その元気な返事、本当に分かっとるんかいな? ――って、それはそうとスイはん。なして、さっきからそんな遥か後方に引きこもって、わての陰に隠れとるん?』
「……万が一、あの土煙の中から虫が這い出てきたときに、秒で回れ右して逃げ出せるようによ」
『……そこだけは、どんな状況でも徹底しとるな、自分』
私は、安全が完全に保障された戦闘空域の遥か後方から、スズカとヒマリちゃんが残敵を鮮やかに処理していく様子をハラハラしながら見守っていた。
時折、土煙の向こうからニョロニョロとした巨大な多足類のシルエットが見え隠れするたびに背筋に凍るような寒気が走ったけれど、私はできるだけ「あれはただの動く丸太だ」と自分に強い自己暗示をかけ、直視しないように必死に現実逃避を決め込むのだった。
巨大な岩が巻き上げた土煙が徐々に薄れ、戦闘が終わりを迎えたようだ。
遠くで見ていると、スズカが救援したトラベラーたちの元へ歩み寄り、何やら言葉を交わしているのが見えた。おそらく、危機を救ってくれたことに対する感謝の言葉でも述べられているのだろう。スズカのサバサバした性格からして、「礼なんて気にすんな!」と一言返してすぐに戻ってきそうだ。
――あ、そう思っている間に、案の定すぐ帰ってきた。
「おーい。スイ。向こうの奴らさ、倒したモンスターのドロップアイテムを全部持っていってくれって言ってきたんだけどよ。『別に礼が欲しくて助けたわけじゃねぇから、自分たちで持ってけ』って断ってきたぞ。良かったよな?」
「ええ、もちろんそれでいいわよ。スズカの言う通り、お礼目当てで助けたわけじゃないもの」
「だよな! スイなら絶対そう言うと思ったぜ!」
スズカは満足そうにニッと破顔すると、遠くのトラベラーたちに向かって大雑把に手を振ってみせた。
向こうのパーティーもそのジェスチャーだけで察したのか、こちらに向かって何度も深く頭を下げると、散らばったドロップアイテムを回収して、安堵した様子でその場を去っていった。
「さあて! 良いこともしたし、オレたちも先へ行こうぜ!」
スズカが機嫌良く愛用のランスを担ぎ直す。
「スーちゃんスーちゃん! サクラが使った魔法、どうだった? モンスター、ちゃんとやっつけられてた?」
サクラが尻尾を振る子犬のように、スズカの隣でぴょんぴょんと跳ね回る。
「おう! 何匹か端っこにいたやつを取り逃がしてはいたけどな、大概の奴らはペシャンコに潰れてたぜ。そんでもって、潰れきらなかったやつらが上半身だけうにょうにょと動き回っててよ――」
「いやぁぁああああああっっっ!! 聞きたくない聞きたくないっ!! その描写を具体的に話さないでぇぇっっ!!」
私はスズカの無神経な戦況報告を遮るように、金切り声を上げた。
「えー、聞いていけよスイ! オレとヒマリがそいつらをどう料理したかっていう、男前な活躍の話なんだからさ!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!! 聞きたくない言ってるでしょうがぁぁっ!!」
私はさらに声を張り上げ、両手で固く耳を塞いで全力で抵抗した。
スズカは嫌がる私の反応を面白そうに眺めながら、意地悪くさらに話を続けようとし、サクラは今度はどんな魔法を組み合わせてみようかと一人でポーズを決めて意気込んでいる。
ヒマリだけが、そんな私たちの大騒ぎを少しだけ呆れたような、苦笑交じりの優しい笑顔で見守っていた。
『……ハァ。お嬢さんら、騒がしい漫才もエエけどな。そろそろ目的地へ向けて足進めんとちゃいますか?』
呆れ果てたおっさんAIの声で、私たちは自分たちが十七階層へと向かう次元門を目指していた最中だったことを思い出した。
「そうだったわ……! 一刻も早く、こんな不快害虫のいる階層からはおさらばするわよ!」
私は耳から手を離すと、前線から逃げるように素早く歩みを進め、みんなで再び次元門を目指してダンジョンの奥へと足を踏み出していくのだった。
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今回、作品に挿し絵を追加しました!
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