↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/102

No.69活動記録:火力序列と、おっさんAIからの宿題




No.69活動記録:火力序列と、おっさんAIからの宿題




 十五階層から地上へと戻ってきた、その数日後。


 私たちは予定通り、サクラの新しい魔道書を追加で購入するため、再びストレージマーケットへと足を運んでいた。


 「スイちゃん、今日は本当におっちゃんAIはお留守番でいいの?」


 私の隣をトコトコ歩くサクラが、不思議そうに尋ねてくる。


 「ええ。前回の買い出しのときに、おっさんAIが『次に予算ができたらどれを買うか』の優先度リストをバッチリ作成してくれていたからね。私一人でも迷わず買えるわ」


 「なあスイ、ちなみに今回はどんな系統の本を買う気なんだ? サクラが持つものだから、やっぱりちょっと気になるわ」


 スズカが両手を頭の後ろで組みながら、興味津々に覗き込んできた。


 「前回、予算の都合で泣く泣く後回しにしたやつよ。補助(バフ)系が二つと、防御系が一つ、それと攻撃系が二つ。……ただ、おっさんAI曰く『攻撃系は一番最後で良い』って話だから、今回買うのは補助系の二冊ね」


 「その二冊の系統も、すでに具体的に決まっているのですか?」


 ヒマリが尋ねる。


 「うん。具体的には『防御力アップ』と『敏捷性(スピード)アップ』の二つ。おっさんAIが言うには、今の私たちのパーティーは攻撃力に関しては過剰なレベルで揃ってるから、これ以上火力を盛る必要はないんだって。それよりも、誰も怪我を負わないように守りを固めることこそが、この先も継続して安定した戦闘を行う上で一番大事なことらしいわ」


 そんな実戦的な作戦会議をしながらマーケットを進み、私たちは前回おっさんAIと一緒に訪れた、魔道書を専門に扱っている重厚な佇まいのショップへとやってきた。


 「すみません。先日も来店させていただいたものなんですけど……」


 私がカウンターの店員さんに声をかけると、丁寧な物腰の店員さんはすぐに顔を綻ばせた。


 「いらっしゃいませ。はい、よく覚えていますよ。あの、球体のドローンAIと一緒に来られたお客様ですよね?」


 「はい、そうです。その節はありがとうございました。それで、あのときに選ばせていただいたリストの中から、今回は一部を追加で購入したくて伺いました」


 「はい、かしこまりました。本日はどの種類の魔道書をご所望でしょうか?」


 「補助系の初級魔道書で、『防御力アップ』と『敏捷性アップ』の二冊をお願いします」


 「かしこまりました。すぐにレプリカ(閲覧・購入用サンプル)をお持ちいたしますので、少々お待ちください」


 店員さんは一礼すると、足早に店の奥のバックヤードへと引っ込んでいった。


 「……それにしてもさ。ここが『魔道書の専門店』だって聞いてたから、普通の大型本屋みたいに棚にずらーっと本が並べられてるのかと思ってたけど、驚くほど商品が表に出てねぇのな」


 スズカががらんとした綺麗な店内を見回しながら、率直な感想を漏らす。


 「あ、それ、私も最初にここへ来たときに全く同じこと思ったわ」


 「やはり、魔道書も一種の『危険物』の類いに指定されているからでしょうか?」


 ヒマリが納得したように顎に手をあてた。


 「そうみたいよ、ヒマリ。なんでも、魔道書に書かれている固有の術式や文字は、魔法系のスキルを持つ人が読めばその場で発動できちゃう場合もあるから、安全面への配慮が一番の理由なんだって。あとは、文字をその場でタダで丸写し(コピー)して、購入せずに帰っちゃう不届き者への防犯対策も兼ねているから、こうしてカウンター越しでしか実物を出さないんですって」


 「ねえねえ、スイちゃんスイちゃん! あそこにあるやつ、すっごくカッコいいね!」


 私たちの真面目な解説なんて一文字も耳に入っていない様子で、サクラが独自のセンサーで、店内のガラスケースの中に数点だけ展示されている立派な魔道書を指差した。


 「……サクラ、あらかじめ釘を刺しておくけど、あの展示品は絶対に買えないからね? 桁がいくつ違うかわかったもんじゃないわよ」


 「サクラ、そんな無理なお願いしないよぉ。そうじゃなくて、あれね、キラキラ光ってるの!」


 「光ってる? ……まあ、確かに装丁は豪華ね」


 金箔が贅沢にあしらわれているのだろうか。サクラの言う通り、魔力の残光というよりは物理的にキラキラと輝いて見える、美術品のような本だった。


 「大変お待たせいたしました。こちらがご要望いただきました補助系の魔道書二冊になります」


 そんな他愛のない話をしているうちに、奥から店員さんがトレイに二冊の本を載せて戻ってきた。


 「内容のご確認をお願いいたします」


 「はい、失礼します」


 私は受け取った魔道書をそっと開き、そこに記載されている呪文の効果やリキャスト時間などのステータスを一枚一枚読んでいく。


 「……うん、効果は記載通り。はい、間違いありません」


 「ねえねえ、スイちゃん」


 確認を終えた私の袖を、サクラが横からくい、くいと引っ張ってきた。


 「なにサクラ? 何度も言うけど、今日は他のおねだりはナシだからね?」


 「ううん、何か新しいのが欲しいんじゃなくて、その本に書いてある魔法って、具体的にどんなやつなのかなーって思って」


 「これ? さっきみんなにも説明した、補助系の魔法が記載された魔道書よ。『防御力アップ』と『敏捷性アップ』の二冊ね」


 「それってさ、お互いに重ね掛け(スタック)とかってできるの?」


 「重ね掛け? ええと……それは……」


 私が即答できずに少し言葉に詰まると、カウンターの向こうから店員さんがにこやかに補足してくれた。


 「他系統の補助魔法との併用ですね。そちらの二冊でしたら全く問題なく可能です。また、将来的に同じ系統のステータスに作用させる場合でも、全体に作用する『アップ系』だけでなく、単体に作用する『強化系』をさらに追加して重複して施すことも可能ですよ」


 「アップと、きょうか……? それって、何が違うの?」


 サクラが不思議そうに首を傾げる。


 「アップ系の魔法は、主に『範囲型』――つまり、パーティーメンバー全員に一度に効果を及ぼすことができます。対して、強化系の魔法は主に『単体型』、一人に対してより深く強力な効果を施す魔法を指しますね。もちろん、概念的な意味合いとしても明確な違いがございますが……詳細なご説明は必要ですか?」


 「うん! 知りたい!」


 サクラの元気な返事に、店員さんは嬉しそうに頷いて噛み砕いた例えを挙げてくれた。


 「わかりました。簡単に言いますと、アップ系の魔法は『そのものの質』を引き上げます。今回の場合は防御力、つまり守りの力ですね。お召し物などの防具に掛けた場合は、その素材の質がワンランク上がります。対して強化系の場合は、『構造そのものを強固』にします。そうですね……アップ系は『服の生地の質がシルクのように良くなり』、強化系は『服の縫い糸が鉄のように丈夫になる』とお考えください。今の説明で、お分かりいただけたでしょうか?」


 サクラは眉間にシワを寄せ、うーんと唸りながらしばらく宙を見つめていたが、やがてポンと手を叩いた。


 「……う~ん、う~ん、……あ、わかった!」


 「本当に? 結構難しい概念だったけど……」


 「うん! サクラ、すっごく良いこと思い付いちゃった!くししっ!」


 何を閃いたのか、サクラは満面の笑顔を咲かせ、楽しそうに瞳を輝かせるのだった。


 新しく二冊の補助魔道書を購入した私たちは、さっそくギルドの手続きを済ませてダンジョンへと探索を再開していた。


 今日の目標は、前回引き返した十五階層を越え、十六階層にある次の階層へと行くための次元門を目指すことだ。


 「なぁスイ。お前のことだから、新しく買った魔道書の試し撃ちとかで、また下の階層でしばらく足止めするんじゃないかと思ってたけど、今回はそのまま強行なんだな」


 スズカが意外そうに、肩に担いだランスの位置を直しながら言った。


 「それは私だって、安全な場所でじっくり試してから行きたかったわよ。でも、この間の件やおっさんAIの分析を聞く限り、私たちのパーティーって『攻撃力』に関しては現時点でもう万全(過剰)みたいなのよね。だから今、本当に必要なのは、未知のモンスターから受ける想定外の攻撃に対しての『防御・生存対策』くらいなの。……まぁ、その肝心の攻撃力が、一体どの階層まで通用するのかは私にもわからないんだけどね」


 『それに関しては、わてから直々に現在のパーティーの火力序列を説明したろうか? まず、我がパーティーにおける最強最大、一番の攻撃力という意味では、他を圧倒してスズカはん――』


 「お、オレか! へへっ、そうやってハッキリ言われると、やっぱり嬉しいもんだねぇ!」


 スズカが鼻の下をこすってニカッと笑う。


 『――やなく。スズカはんが契約しとる神霊の『ストーム』と『サンダー』の二柱(ふたはしら)やな』


 「……あ。いや、まぁ、そうだろうけどよ! おっさん、もうちょいオレ自身を喜ばせる言い方ってのがあんだろ!?」


 『そんで、次に火力として君臨しとるんがヒマリはん』


 「私ですか?」


 ヒマリがパチリと目を瞬かせる。


 『――が、契約者(オーナー)になっとる、隠し玉の魔道機人形の『ゴークくん』やな』


「ゴークくんは、基本的にはいつも私たちの後ろを頼ましく見守ってくれているだけで、ほとんど実際の戦闘では出番がありませんけどね……」


 ヒマリが少し困ったようにクスリと微笑む。


 『で、そこからランクがずっと下に落ちて、今度こそようやくスズカはん本人や』


 「おいちょっと待て! 『ずっと』ってどれくらい落ちてんだよ!?」


 スズカのツッコミに、おっさんAIはカメラレンズをチカチカと点滅させて例え話を始めた。


 『そうやなぁ。わかりやすく言うたら、神霊の二柱が「広範囲を焦土に変える天災」として、ゴークくんが「一撃で城を消し飛ばす超大型戦艦」。スズカはんが持つあの魔道ランスの一撃が、だいたい「戦車砲」くらいやな』


 「戦車砲って言われると強そうだけど、前の二つがスケールデカすぎて、わかるようでよくわからん例えだな……」


 『具体的な数値なんてもんは状況次第や。使い手の機転次第でいくらでも変わるからな。……そんで、そのスズカはんと同じくらいの出力位置にいるのが、実はサクラはんや』


 「うにゅ? サクラ? サクラ、スーちゃんと同じくらい強いの?」


 自分の名前を呼ばれたサクラが、不思議そうに目を丸くする。


 『まあ、純粋な身体能力やなくて「攻撃の総合力」としての話やけどな。サクラはんは魔道書の使い方がえらい奇抜……ごほん、型破りやからな。あの『強化の魔道書』があるとはいえ、初級クラスの魔法を無理やり中級クラスに引き上げて、それ以上の想定外の効果を叩き出しとる時があるから侮れんわ』


 「えへへー! サクラね、さっき店員さんのお話を聞いて、スイちゃんに買ってもらった新しい魔道書でまたすっごい使い方を思い付いちゃったんだよ! 後で見せてあげるね!」


 『そらまた……アドバイザーとしては楽しみな反面、システムバグを誘発されそうで末恐ろしさを感じるな……』


 自信満々に胸を張るサクラの言葉に、おっさんAIのカメラレンズが珍しく怯えるようにキュッと小さくなった。


 『……コホン。そんで、その次に位置するのがヒマリはんや。ヒマリはんの武器は「傘」いう非常に面白い形状の変則武器やけど、そこから繰り出されるスキル技は万能(オールラウンダー)に近い。範囲攻撃に状態異常を起こす単体攻撃、さらに範囲を守れるバリアに回復のオマケ付きまで網羅しとる。本当に隙がない優秀な構成やな』


 「ふふ、ありがとうございます」


 『せやけど、万能がゆえに「これ!」という爆発的な決定力(フィニッシャー)に欠けとるのが、惜しいところや』


 「なるほど、よく分かりました。これからの運用の参考にいたします」


 ヒマリが真摯に頷く。


 『――そんでもって、攻撃力序列の最後がスイはんやな』


 「まあ、薄々そうだろうなとは察してたし、自分でも直接的な攻撃力がないのは十分よく分かってるけどさ……」


 私はガックリと肩を落としてため息をついた。


 『そもそも、スイはんが最初に発現したんは「騎士」やそこに「支援」に特化したスキルやから発現やったからな。そこに攻撃の火力を期待してもしゃあない。その代わり、スイはんは常時発動型(パッシブ系)のスキルを多く持っとる。これにより、目に見えん形で味方全員のステータスを底上げする恩恵がめちゃくちゃデカい。個々の火力は歪(いびつ)やけど、全体として見たら、これ以上ないくらい絶妙なバランスのエエ優秀なパーティーやとは思うで』


 おっさんAIはそこで一度、言葉を区切るようにコホンと咳払いの音を鳴らした。


 『コホン。まぁ、これが現状のお嬢さんらの戦力分析としての、わてなりの判断や。そんで――こっからが、二十階層の『移動遺跡』攻略へ向けて、事前にお嬢さんらがやっておいた方がエエ、わてからのある種の「宿題」やな』


 「宿題」という、およそダンジョン探索には似つかわしくない不穏な単語が飛び出した瞬間、スズカとサクラの二人が露骨に嫌そうな顔をして身を引いた。


 『まぁまぁ、そう嫌そうな顔せんといてや。宿題言うても、なにも机にへばりついてドリルを解けっちゅうわけやあらへん。要するに、これからの戦いで「自分自身の強みをさらに尖らせて活かす方向」でいくか、それとも「自分に足りひん弱点部分を補う方向」でいくか、それぞれのスタンスを明確にして割り切ってほしいっちゅう違いや』


 「おう! それならオレは迷わず『自分の強みをトコトン活かす方向』だな! 火力こそ正義だろ!」


 「サクラもー! 強い魔法いっぱいドカンってやりたい!」


 『二人がそう言うなら、それはそれで役割がハッキリしててエエわ。実に分かりやすい』


 おっさんAIが呆れたようにレンズを回す。その様子を見ていたヒマリが、少し考え込むようにして挙手した。


 「あの、私はどう進むべきなんでしょうか? 私の強みの部分は、良く言えば『器用に何でもこなせること』ですよね。逆に弱みは、先ほどAIさんに指摘された『決定的な火力不足』……。もし私が強みを活かす方向に進むとすれば、より器用貧乏になる、ということでしょうか?」


 『器用貧乏ちゅうか、どんな状況にも一人で「まんべんなく」対応できるようになる、っちゅう方向性やな。ただ、それも中途半端に流されるんやなくて、きちんと自分自身で「こう動く」と見極めてから伸ばしていった方がエエ。わてが言えるんは、あくまで客観的なアドバイス程度やからな』


 「はい。しっかりと自分の立ち回りを考えてみます」


 「そうなると……私はどうすればいいの? やっぱり今まで通り、攻撃はみんなに丸投げして、防御面に全振りしながらサポートに徹する立場でいいかしら?」


 私が尋ねると、おっさんAIは少し真面目なトーンでレンズの発光を強めた。


 『確かにスイはんは、この凸凹パーティーを繋ぎ止める絶対的な「中心」や。「頭無くして足は動かん」とは言うけどな……何も、頭の役割っちゅうのは戦況を考えることだけやあらへんで?』


 「考える以外に、頭に何ができるのよ?」


 『そこをわてが今ここでヒントを出してもうたら意味がないねん。スイはんがじっくり悩み、自分自身の戦いの中から答えを出しぃ。……まぁ、どうしても煮詰まってアドバイスが欲しい時は、いつでも相談に乗ったるさかいな』


 「それはありがたいんだけど……急にどうしたのよ、改まって。まるでこの先に、とんでもない試練でも待ってるみたいな言い方じゃない」


 『……十五階層で「恐竜」なんてもんが出始めてきたから、なんとなく予想は付くかと思うけどな。二十階層へ近づけば近づくほど、もっと生態系のおかしなモンスターがウジャウジャ出てくるようになる』


 「おかしなモンスターって? 具体的には?」


 『……直球で言うたらスイはんが本気で嫌がるやろうからなぁ。あまり直接的な名前は言わへんけど、いわゆる「古代の生物」やな』


 「……それって、やっぱり、物理的にデカいの?」


 嫌な予感がして私が恐る恐る尋ねると、おっさんAIは残酷な現実を突きつけてきた。


『デカいで。平気サイズで五十センチとか、二メートルクラスのやつらがワサワサ居るからな。しかも――』


 「……ちょっと、私、本気で地上に帰りたくなってきたわ……っ」


 虫か、あるいはそれに類する異形の古代生物だろうか。想像しただけで鳥肌が立ってきた私に、おっさんAIは淡々と続けた。


 『まぁ、そのへんの恐怖症に関しては、ダンジョンに潜る以上は諦めてくれへんかとしか、わてからは言えへんなぁ。……で、そいつらの何が厄介かって言うとな、基本性質として「めちゃくちゃ死ににくい」ねん。生命力が異常でな、頭を叩き割ろうが切り落とそうが、平気で動き回って襲ってきよる。だから相対した時は、一見倒したように見えても、絶対に油断せんようにせなあかんで。――長ごうなったが、わてからの注意喚起(お話)としてはそんなもんや。とにかく油断せずに行け、っちゅうことや』






挿絵(By みてみん)

少しでも面白いと感じていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。 応援していただけると、とても励みになります!


【お知らせ】

今回、作品に挿し絵を追加しました!

よろしければ、本文と合わせてイラストも楽しんでいただけると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。