No.65活動記録:主役(メイン)はサクラ!と、治らない金欠病
No.65活動記録:主役はサクラ!と、治らない金欠病
治安部隊のブランシュさんからもたらされた、二十階層に存在するという「移動型の古代遺跡」の情報。
ようやく十一階層に足を踏み入れたばかりの私たちからすれば、まだまだ先の話――と言いたいところだけれど、これまでの成長スピードを考えれば、決して届かない夢物語ではないのかもしれない。
ただ、私はリーダーだ。みんなに絶対に怪我なんてして欲しくないし、ましてや命の危険に晒すわけにはいかない。だからこそ、今日まで何よりも「安全第一」を掲げて慎重にダンジョンを探索してきたつもりだった。
これまでは、アドバイザーとして極めて優秀なおっさんAIもその方針に大賛成してくれていたからこそ、私は自信を持ってこのスローペースを維持してこられたのだ。
けれど、そのおっさんAIが「今の実力なら問題ない」と太鼓判を押し、パーティーのみんなも「スイの判断に任せる」と信頼の目を向けてくれている。
私は腕を組み、しばし深く考え込んだ。……よし。結論を出す前に、まずはリーダーとして現実的な課題をクリアにしておこう。
「……おっさんAI」
『なんや、スイはん』
「私たちが本気で二十階層を目指すとして――そのために必要な『具体的な準備』って、何かある?」
『せやな。薄々みんなも気がついとる段階だとは思うけど、九階層あたりから遠距離攻撃を仕掛けてくるモンスターが明確に増え始めとる。この先の階層へ進めば進むほど、その傾向はさらに顕著になっていくはずや。つまり、今以上の「徹底した遠距離・対空対策」。これをパーティー全体で底上げする必要があるな』
「遠距離対策、か……。ヒマリの『桜花乱舞』とか、サクラの魔法じゃダメなの?」
『アカン言うわけやない。ただ、ヒマリはんの桜花乱舞はいわゆる無属性の物理・魔力複合攻撃や。この先、特定の属性耐性を持つガチガチの堅物が出てくると、ちと決定力に欠ける。……対して、サクラはんの魔法は文字通りの千差万別。それこそサクラはんの脳内イメージ次第でどんな状況にも適応できる万能さがある。――が、いかんせん「五発撃ち終わったら何もできんくなる」っちゅうのは戦闘時においては致命的な弱点や』
おっさんAIが論理的にそう説明した、その時だった。
いつもなら、こういう真面目な戦術論には大して口を挟んでこないサクラが、ててて、とおっさんAIの前に進み出た。
「おっちゃんAI、おっちゃんAI」
『なんや、サクラはん?』
「サクラね、前におじいちゃんからもらったこのお筆で……あの『メモ帳』みたいに、お絵描きでポンって出来るんだけど」
そう言ってサクラがポシェットから取り出したのは、以前、彼女の祖父の友人から譲り受けたという、いくら使っても絶対に墨が切れない不思議な魔道具――『墨切れが起きない筆』だった。
おっさんAIは宙で静止し、光線の様なものをレンズから放ってその筆をじっくりと観察する。
『はーんなるほど。そいつはサクラはんのメモ帳と同じく、分類上は最低ランクに位置する生活系の魔道具やな。せやけどサクラはん、それでどないするんや? そいつはメモ帳とは違って、ただの「インクが出続けるだけの筆」や。魔法を具現化するような性質は一切含まれとらんぞ』
「んーとね。こうやるの!」
サクラは習うより慣れろと言わんばかりに、実演して見せるべく右腕を大きく振り上げた。
そして、何もない空間に向かって、迷いのない手つきでさらさらと筆を走らせる。
かつて私にも見せてくれた時のように、まるで空中に透明なキャンバスが存在しているかのように、サクラは鮮やかな一筆書きの要領で見事な絵を描き上げていく。
空中にとどまったその黒い墨の線画は、今にも動き出しそうなほど圧倒的な画力と躍動感に満ちていた。
「うわぁ……っ! すごい、めちゃくちゃお上手ですね、サクラさん!」
後ろで見ていた伊織さんが、その神がかった腕前に感嘆の声を漏らす。
「えへへー」と照れくさそうに笑うサクラ。けれど、いつも使っている『メモ帳』の具現化とは違い、描いた絵がただ空中に固定されたままで何も起きないことに、ちょっとだけ残念そうな表情を浮かべた。
しかし、今日のサクラはそこで諦めなかった。すかさず左手に携えた『強化の魔道書』のページをバサバサと捲り、空中の一筆描きに向けて精神を集中させる。
「動いて……っ!」
そう、まるで祈るように健気な声を絞り出した。
「…………」
数秒の沈黙。しかし、空中の絵はピクリとも動かない。
やっぱり魔法の性質が宿っていない、ただインクがで続けるだけの筆じゃダメだったのかな、と一同が少しがっかりして諦めかけた――その瞬間だった。
「……ん? おい、ちょっと待て! ――何か、今動かなかったか!?」
スズカが鋭く声を上げ、指を差した。
全員がハッとして再び空中の一筆書きに視線を注ぐと――信じられないことに、描かれた黒い墨の輪郭線が、まるで産声をあげるかのように、ほんの僅かずつ、もぞもぞと動き出そうと蠢いていたのだ。
『……な、なんやこれ!? 待て待て、ちょっと解析させろ!』
おっさんAIのカメラレンズが、驚愕のあまり目まぐるしく点滅を繰り返す。
『おかしい、理屈に合わんぞ……! 空中に絵が描けること自体は、サクラはん自身が持つスキル「お絵描き上手」の効果やろが。それはエエ。……問題は、なんでその絵が動こうとしとるんや!? 強化の魔道書はあくまで「対象が本来持っとる性質」を爆発的に強化するだけの本やぞ。メモ帳の具現化魔法とは違って、この筆には動く性質を与えるなんて一ミリも備わっとらん! となると、何が要因や!? サクラはんが持つ何が作用して、こんなデタラメな現象が起きとるんか……っ!?』
処理落ちを起こしそうなほどの速度で計算エフェクトを走らせていたおっさんAIが、やがて、一つの驚天動地な結論に行き着いたようにスピーカーを震わせた。
『――まさか、サクラはんの持つスキル、「賑やかし」か……っ!?』
「賑やかし?でもあれって」
私が思わずオウム返しに尋ねる。
『せや! あれは本来、ただその場の雰囲気を盛り上げるだけの、戦闘には一切役に立たんお遊び(・・・)スキルのはずや……。描いたモノを物理的に動かすような直接的効果は、本来の定義には絶対に存在せえへん。……存在せえへん、はず、なんやが……ッ!?』
おっさんAIが早口で捲し立て、そのレンズが、カッと光る。
『――「活性化」や……! 場の雰囲気を盛り上げる、つまり演出や余興の意味合いとして「描かれた絵に、命の躍動という意味を持たせた」んや! そのサクラはんの突拍子もない解釈に、あの強化の魔道書が最悪の形で……いや、最高の形で噛み合ってもうたんや! 理屈としてはアホほど無茶苦茶な超展開やが、現に目の前で現象が起こっとる! カッーー!! 相変わらずサクラはんの引き起こすことは、予測不能の突拍子もないことばかりやで!!』
頭を抱えるようにおろおろと浮遊するおっさんAIをよそに、サクラが描いた空中の一筆書きは、いよいよその動きを明確なものへと変えようとしていた。
空中に描かれた黒い墨の絵は、輪郭だけの線画でありながらも、不思議な立体感を保ったままその場にぐにゃりと顕現した。命を吹き込まれた線画が、まるで影絵のようにパタパタと空間を羽ばたいている。
「おお……! これって、いわゆる『召喚』分類に入る現象ですか!?」
伊織さんが目を輝かせ、サクラの起こした奇跡を興味深そうに凝視する。
『せやな。分類的には無から有を生み出す「創造系召喚」になるやろな。本来なら魔導師系スキルが使うような技や。サクラはんが持つ複数のスキルの噛み合わせと、最低ランクの魔道具によるハイブリッド効果……。世間からグズや外れやと言われてきたスキルでも、その発想と使い方次第でこうも大化けするとはな。いやはや、恐れ入ったで』
「えへへー! やったぁ!」
おっさんAIから最大級の賛辞を贈られ、サクラは本当に嬉しそうに胸を張って笑った。
サクラの才能が開花したのは純粋に嬉しい。だけど、私はこのパーティーの安全を預かるリーダーだ。今は感情論を脇に置いて、その新しい力が「これからの戦いでみんなを守るために使えるか」という冷徹な判断を下さなければならない。
特に、サクラが持つ『筆』も『メモ帳』も、本来は生活用の最低ランクだ。あの『強化の魔道書』が手に入るまでは、本当にお遊びレベルの出力しかなかったのだから。
「それで、おっさんAI。効果的にはどうなの? 実戦で通用しそう?」
『……あえて少しキツイ言い方になるかも知れへんけどな。現状のログを見る限り、あの墨絵が持っとるエネルギー量は「初級クラスの魔法」と大して変わらへん。魔道書で強化してやっとそのレベルや。二十階層を目指すとなると、今のままでは戦力としてはあまり意味がないと言わざるを得んな』
「じゃあさ、その魔道書で『何度も重ねて強化』すれば良いんじゃねえか? 二重三重にさ!」
スズカが単純明快なパワーレベリング論を提案する。
『スズカはん、残念ながらそれは難しいで』
「なんでだよ? 出力を上げれば強いだろ?」
『いくらエンジンを限界突破して馬力を上げてもな、受け止める車体のフレームまで強化されとるわけやないんや。あの魔道書の強化魔法は、あくまで魔法そのものの威力を乗算するだけ。ベースとなる筆で生み出されたもんは最低ランクのままや。そこにニトロを大量にぶち込んで無理やり走らせたら、どうなると思う?』
「……あー、なるほど。エネルギーに耐えきれずに破裂(暴発)するか。わかった、オレが無茶言ったわ」
『いや、謝ることはあらへんよ。そういう柔軟な考え方はめちゃくちゃ大事や。一つの固定概念にとらわれとったら、そもそもサクラはんの今回の現象だって起こせへんかったわけやからな』
「じゃあ……この方法、無意味になっちゃうの?」
『無意味なわけあらへん! メモ帳の具現化を使うのと一緒で、新しい選択肢が増えたんや。まだまだ化ける可能性は無限大やで。……せやけどな、こればっかりはアドバイザーのわてにも、進むべき明確な道を示してやれるだけの過去データがないんや。サクラはん自身が、これから手探りで少しずつ自分だけの魔法を開拓していくしかないねん』
未知の領域に挑むサクラの背中を頼もしそうに見つめていると、それまで静かに思考を巡らせていたヒマリが、控えめに挙手をして会話に加わってきた。
「あの、提案なのですが……私の持つ『桜梅桃李』の技法に、サクラちゃんの魔道書の力を上乗せして強化してもらう、というのはどうでしょうか?」
『……! 発想としてはめちゃくちゃおもろいな。けどヒマリはん、基本的には技術系(武技)スキルと魔法系スキルとでは根本的な系統が違うんや。あの魔道書はあくまで「魔法」を強化するための本やからな。……あ、いや、いかんいかん! わてが固定概念にとらわれてたらアカンな! サクラはんの柔軟さを見習わんと。すまへんヒマリはん、物は試しや、後で一回テストさせてもろてエエか?』
「ええ、喜んで!」
私たちがそんな風に、未知の戦力強化についてのディスカッションに熱を上げていると――ふと、申し訳なさそうに縮こまった伊織さんが、小声で口を挟んできた。
「……あのー、すみません。そういったトラベラーに関わるようなお話を、いくら私たち治安部隊とは言え、このまま横で聞いていて大丈夫ですか……?」
『せやな。スキルの正確な構成や新魔法のシナジーなんてのは、トラベラーにとっては命綱そのものやからな。隠せるなら他人に知られん方がエエ。悪質なトラベラーに手の内を知られて、PvP(対人戦)で悪用されたら敵わんし。……オタクらもセイバーとしての巡回があるやろうしな。ここに留まるか留まらんかは、リーダーのスイはんに聞いてや』
話を振られて、私はうーんと唸った。
確かに、私たちのパーティーは他人に言えない秘密が多すぎる。サクラの『強化の魔道書』は国家機密級の魔道書職人のジェナさんが作り出した。世界に一冊レベルの文字通り規格外の魔道書だし、スズカが契約している神霊『ストームサンダー』にいたっては、本気を出せば大災害を引き起こす神レベルの存在だ。
おっさんAIからは「誤魔化せる部分はシステム的に偽装するけど、見る人が見れば一発でバレる」とも警告されている。
(さて、どうしたものかな……。あんまり情報を開示しすぎるのも危険だけど、治安維持を守るクランだしな……)
私がどう切り出すべきか悩んでいると、ふと、伊織さんの背後にいるブランシュさんへと目が留まった。
ブランシュさんは先ほどから一言も喋っていない。なぜなら、その視線は未だに羊肉の包みに完全にロックオンされたままだからだ。じーっと肉を見つめるその口元は、今にもよだれが垂れそうな勢いで、完全に上の空だった。
私は苦笑しながら、伊織さんにそっとブランシュさんの方を指差してみせる。
「……あ」
伊織さんは察したように小さく声を漏らし、額を押さえた。
「……これは、私たちは早急に本部へ帰った方が良さそうですね。すみません皆さん、貴重なお時間を取らせてしまって。私たちはここで失礼させていただきます!」
そう言って、伊織さんはまだ肉に魂を奪われているブランシュさんの腕をぐいぐいと引っ張り、誘導するようにして森の奥へと去っていった。
ブランシュさんと伊織さんの二人が去ったあと。私たちは早速、おっさんAIの提案通り、ヒマリの『桜梅桃李』のスキルを、サクラの持つ魔道書で強化できるかどうかの実験を開始した。
その、驚くべき検証結果はといえば――。
『……あのアホ職人。ホンマに、なんてモンを作っとるんや、あの女は……』
おっさんAIが、レンズを力なく下に向けて深々と嘆息した。
製作者であるジェナさんからは、事前に「魔法を魔法で強化する魔道書」という説明を受けていたはずだった。
――のだけれども、実際に試してみたところ、魔法系ではなく純粋な技術系(武技)スキルであるはずの、ヒマリの『桜梅桃李』にさえ、魔道書の強化エフェクトがしっかりと上乗せされて発動してしまったのだ。
とは言え、ヒマリのこのスキルはすでに「中級クラス」に片足を突っ込んでいる。そのため、元の威力が高いぶん目に見えて跳ね上がるような爆発的な変化はなかった。
けれど、「技術系でもアクティブ(能動発動)系のスキルであれば、すべて強化対象に含まれるのではないか?」と思いつき、今度はスズカのスキルでも試してみることにした。
「あー……なんだろうな。オレの『払い落とし』も、なんとなくいつもより振りが重てぇっていうか、威力が上がってる気がするわ」
『実感が微かに湧くか湧かんかレベルの微増か。……なるほどな。やっぱり「中級クラスレベル」までは強制的に引き上がる仕様か。アホのジェナとは言え、そこらの安全弁の仕様だけはきっちり守って作りよったか』
ジェナさんが説明していた魔道書で強化出来る限界値は「中級クラスの下ぐらいまで」。
スズカとヒマリのアクティブスキルは、初級クラスの中でも上位に位置付けされるものだったため、中級レベルへの底上げによる恩恵(伸び代)が少なかったのだろう。
数値としては「爆発的な強化ではない」という結果報告だったけれど、それでも「発動型のアクティブスキルであれば、系統を問わず大概のものを強化できる」というのは、冷静に考えてチートが過ぎる代物ではないだろうか。私は一歩引いた目で戦慄してしまう。
「……ねえ、おっさんAI。今更だけどこの本、やっぱりチートが過ぎない?」
『いやいや、今更やで、その感想はスイはん』
「そうかしら?」
『わてとしてはな、この魔道書が最初に出来上がった瞬間に、それくらいの危機感とヤバさを感じてほしかったわ』
「あの時はなんか『すごいの出来たなぁ』くらいにしか思わなかったし、何より価値が『億』って言われたときのインパクトが強すぎて、性能に驚く暇なんてなかったのよ!」
『さよか。まぁ、その過去のゴタゴタは一旦横に置いとくにしてもや。この仕様が判明したとなれば、これからのわてらの戦略の幅は、一気に何倍にも広がるんやないか?』
「でも、私たちの中でアクティブ系のスキルを持ってるのって、今のところスズカとヒマリくらいしかいないわよ?」
『固い。頭がガチガチに固いで、スイはん。――無いんであれば、今から増やせばエエだけの話や』
「増やすって言ったって、トラベラーのスキルなんてそう簡単に新しく発現しないでしょ?」
『そら「トラベラー自身のスキル」ならな』
「トラベラーのスキルならって……、あ! もしかして――」
『ふふん、ようやく気がついたか? ここらでいっちょ、初期の基本方針に立ち戻ろうや。お嬢さんらは、スズカはんがパーティーに入るまでは、ほとんどまともな攻撃手段を持たへんかった。そこでわては最初、サクラはんの「ブックマーカー」のスキルを活かすために、各種属性の魔道書を買うルートを勧めたはずや。……しかし、その時の金欠絶頂期だったスイはんたちには、逆立ちしても買えるだけの予算がどこにもなかった』
「……で、予算を抑えるためにガーディアン系にシフトして、私たちはゴークくんを手に入れたのよね」
『せやな。しかし、今のスイはんたちの財布には、あの頃とは比べものにならんくらいの資金があるやろ?』
「あると言えばあるけど……ジェナさんが売ってるような、何億とかする魔道書は無理よ、さすがに」
『そこはわかっとる。何もそんな高価なもんは必要ない。ストレージマーケットで売っとる、最低価格の「初級魔道書」を何冊か買い揃えればエエねん。――サクラはん、ようやく念願が叶う時が来たで!』
「うにゅ? ねんだん……? おねだん?」
サクラが首を傾げる。
『値段やあらへん! 念願や! サクラはんが目指すべきだった本来の役割――【フィールドコントロール(戦場支配)】の役目やがな』
「…………おおっ!?」
サクラはパチクリと目を丸くした。
『……これ、もしかして本人すら綺麗に忘れとったな?』
「あ、あはは……。すっかり忘れてたわね……」
私が苦笑いして視線を逸らすと、サクラは慌てて両手を振った。
「サ、サクラは忘れてないよ! 魔法をバンバン撃って、みんなをドカーンって助ける役目でしょう!?」
『あまり何も考えずにバンバン撃たれたら、フィールドコントロールやのうて、フィールドデストロイ(戦場破壊)になるからな? 状況に合わせた的確な攻撃、防御、そして補助。それらを一手に引き受ける、パーティーの要の役目や』
「ああ、うん。おっちゃんAIが前に言ってた、なんか難しいやつだ!」
『思い出したか。つまり、二十階層攻略に向けての今回のメイン強化対象は、サクラはんちゅうことやな』
「おおっ! サクラのメイン回! サクラが、ついに主役……!」
サクラが瞳をキラキラと輝かせて拳を握る。
『まぁ、そのためには、まずは地上に戻ってマーケットで売っとる魔道書を何冊か買いに走らなあかんけどな』
「ねえ、どうせ買うならジェナちゃんのところで買わないの?」
サクラが無邪気に尋ねてくるが、私は全力で首を横に振った。
「……サクラ。あの人の所に行くのは無理よ。あそこは、一冊買うとしても最低価格が『億』からなのよ。いくら私たちが安定してモンスターを倒せるようになって、素材が美味しくなってきたからって、限度というものがあるわ!」
「……そっかぁ。スイちゃんの金欠病は、まだ治らないんだねぇ」
サクラが同情を誘うような目で私を見てくる。
「治らないんじゃないのよ! 上の階層に行こうとすればするほど、必要になる装備品や消耗品の類の値段は跳ね上がっていくの! 貯めたら貯めた分だけ、右から左へお金が出ていく構造になってるのよ!」
『まぁまぁ、落ち着きなはれスイはん。本来であれば、クラスの高い魔道書を買って戦力アップと行きたいところやけど……それは「普通のトラベラー」の話や。サクラはんには、あの天才アホのジェナが作った、『強化の魔道書』がある。――つまり、最低ランクの、初級クラスの魔法しか撃てへん安物の魔道書であっても、あの本と組み合わせれば――』
「……そっか。ベースが初級でも、中級クラスの威力にまで強制的に引き上げられるんだわ……!」
点と点がつながり、私はようやくおっさんAIの意図を完全に理解した。安価な初級魔法のバリエーションを揃えるだけで、サクラは実質、無数の「中級魔法」を使いこなす万能のコントロール魔導師へと変貌するのだ。
「……わかったわ。二十階層の移動遺跡、行く方向で進めましょう。――でも、準備だけは絶対に怠らず、完璧にこなしてからよ。おっさんAI、他にもサクラの魔道書以外で、今の私たちに必要になりそうなものがあったら全部言って。予算の許す限り、できるだけ用意するから」
『了解や。そんなら、二十階層への安全マージンを確保するために、今すぐ必要になりそうな物資と装備の補強案を、手当たり次第にリストアップしてくで!』
おっさんAIの頼もしい声を聞きながら、私たちは新たな大目標――二十階層の未知なる移動型遺跡に向けて、確実で、かつ徹底的な準備を開始するのだった。
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今回、作品に挿し絵を追加しました!
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