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No.63活動記録:生ける災厄(ボーナスキャラ)と、初めての生中継




No.63活動記録:生ける災厄(ボーナスキャラ)と、初めての生中継




 「あら? 十王市のダンジョンって、確かスイ、貴女が配信で行ってるところじゃない?」


 「ん? どうしたの、お母さん」


 「ほら、ちょっとテレビ見てみなさいよ」


 リビングで荷物の整理をしていた私に、ソファでテレビを見ていた母親が緊迫した声をかけた。促されるまま画面に視線を向けると、そこには『臨時ニュース』の文字が躍っていた。


 『――速報です。本日未明、十王市ダンジョンの四十三階層にて、大規模なモンスターの異常発生(モンスターパレード)がありました。これを確認したダンジョンギルドは、直ちに有力なトラベラーおよび治安部隊を現地へ派遣。約六時間に及ぶ激しい戦闘の末、先ほどモンスターの討伐は無事に終了したとの報告が――』


 「貴女たち、本当に大丈夫なの?」


 心配そうに眉をひそめるお母さんに、私は苦笑交じりに手を振ってみせた。


 「大丈夫だってば。ニュースで言ってるのは『四十三階層』でしょう? 私たちが今いるのは、まだたったの『十階層』よ? 雲の上の上の、そのまたずーっと上の話だから関係ないって」


 「そう? まあ、何階層だろうと怪我だけは絶対にしないで頂戴ね。女の子なんだから」


 「しないしない。安全確認だけは毎回しっかりやってるから。今までだって、かすり傷くらいで怪我らしい怪我はしてないんだからさ」


 「なら、良いんだけど……」


 まだ少し心配そうな表情を残すお母さんに問題ないことを告げつつ、私はなおもテレビの画面を見つめていた。


 (大規模なモンスターの氾濫かぁ……。そう言えば私たちも一階層の時、出てくる四種類のモンスター全部に囲まれて袋叩きに遭ったことがあったっけな)


 今思えばあれも一種のミニ氾濫みたいなものだったのかもしれない。痛い思い出のはずなのに、今となってはずいぶんと懐かしい感じがするから不思議なものだ。私はそんな初心の思い出に、しばし浸っていた。


 そして後日。私たちは改めてダンジョンへとやって来た。


 例の四十三階層での氾濫があったばかりということもあり、低階層の探索者であっても警戒は絶対に怠らぬようにと、ギルドの受付窓口の人からもしつこいほど注意喚起を促された。


 それを頭の片隅に留意しつつ、私たちは最近のホームグラウンドである十階層の狩場で、いつも通りモンスター相手に地道な経験値稼ぎを行っていた。のだけれども。


 「あー……なんつっうかさ、ぶっちゃけ飽きたわ。こう毎日毎日、同じモンスターばかり相手にしてんのはよ」


 案の定というか何というか、ついに前衛筆頭のスズカがぼやきを吐き散らし始めた。大剣を肩に担ぎ、退屈そうに地面を蹴っている。


 「スイちゃん、サクラも同感ー。新しい“いんすぴれーしょん”が欲しいから、そろそろ別の、見たことないモンスターと戦いたいな!」


 次いで、サクラまでがスズカに便乗してブーブーと文句を言い出す。


 困ったものねと苦笑しつつヒマリちゃんに目を向けると、彼女はいつも通りにっこりと聖母のような微笑みを浮かべた。


 「私はスイちゃんのご指示にどこまでも従いますよ」


 そう言ってくれるのは本当にありがたいし救われるのだけれど、冷静に考えればヒマリちゃんにだってこの単純作業は退屈なはずだ。


 そこで私は、浮遊しているおっさんAIに向けて、私たちが次の十一階層に進んでもシステム的・実力的に問題がないかの確認を取ることにした。


 いつもなら、こちらが何か言えば「ぱっ」と小気味良い関西弁で即答してくるはずのおっさんAIだったが、今日に限ってはどうにも反応が芳しくなかった。レンズの光がどこか頼りなく明滅している。


 「ちょっと、どうかしたの? おっさんAI」


 『ん? ああ……これはえろうすまんへん。ちょいとばかり、個人的な考え事をしてましてな』


 「考え事? 私たちに何か問題でもあった?」


 『いやいや! お嬢さんらのことやあらへんから、そこは安心してや。まったく問題ないで』


 「ふーん……。もしかしてさ、この間ニュースになってたっていう、四十三階層のモンスターの氾濫のことか?」


 おっさんAIの上の空な反応から、スズカが野生の勘めいた鋭さで核心を突いた。


 『……まぁ、それ関連ちゅう言えば、モロにそれ関連ですわ』


 「……もしかして、現場は相当ヒドイことになってたの?」


 私が尋ねる。四十三階層なんて、今の十階層にようやく辿り着いたばかりの私からすれば、夢のまた夢、おとぎ話の世界のような場所だ。それでも、同じダンジョン内で起きた遠くの出来事だとしても、配信者として、トラベラーとして、どうしても気になってしまう。


 『いや、被害が酷いとかそういう物理的な話ではないんや。……んー、どうするかなぁ。これ、どこまで言うてええもんか……』


 「ギルドの機密とか、外部に話せない内容なら無理に聞かないけど」


 『話せないこともないんやけどな。まだ完全な確証がない、あくまでギルド上層部の「推測」の段階の話やから。下手に広まって、トラベラー間で余計な混乱が起きんようにしたいっちゅう大人の事情があるねん』


 「不確かな噂話には、リスクが伴うということですか?」


 『せや。ウワサ話には尾ひれが付き物やからな。「あそこに可愛い子犬が一匹おったで」ちゅう他愛のない話が、トラベラーの噂の回覧板を回るうちに、いつの間にか「最深部に巨大な地獄の魔犬ケルベロスが出現した!」なんて大騒ぎになってまう。そうなったらギルドも収拾がつかへんくなるからな』


 「おおっ、ケルベロス……! なんか響きがすっごくカッコ良さそう!」


「はいはい、サクラ。今は真面目な話の途中だからね。サクラはちょっとお口をチャックしてようか」


 無邪気に目を輝かせるサクラを制し、私はおっさんAIに向き直った。


 「話す相手も他にいないし、本当にただの推測の域の話なら、私たちは聞かなくても良いわよ。それより――」


 『さよか。そう言うてもらえると助かるわ、恩に着るで。……で、本題の話ってなんや?』


 「スズカとサクラが、この階層に出るモンスター相手じゃもう飽きたって言うのよ。だから、私たちの実力で次の十一階層に進んでも問題ないか、アドバイスを聞きたかったの」


 『ああ、そういう話か! それなら全く問題ないで。スイはんたちは新しいスキルこそまだ発現しとらんけど、スキルに頼らんでも完璧に立ち回れるだけの基礎技術は、十分この十階層で稼げたからな。次の階層に行っても何ら問題――』


 そこでおっさんAIの言葉が、文字通りブツリと途切れた。


 「どうしたの? おっさんAI、今度こそ本当に故障?」


 『……ちょい待ってくれ。全員、動きを止めろ』


 おっさんAIの声が、今までに聞いたことがないほど冷徹で緊迫したものに変わる。


 『今……めちゃくちゃおかしな「エネルギー波長」を、このすぐ近くで感知した』

 

 「おかしな波長? どういうことよ」


 おっさんAIのカメラレンズが、真っ赤な警告色でピカピカと高速点滅を繰り返す。


 『どこや……? どこが起点や……!?』


 浮遊する丸い機械の体をグルグルと激しく回転させ、周囲の空間探査(スキャン)をトランス状態で開始した。そして、ある一点に向けてピタリと動きを止める。


 『――あれや! あいつが現凶(ソース)や!!!』


 「え? どこ? 何の話をしてるの?」


 おっさんAIがどの対象を指しているのか分からず、私たちは彼のレンズが向いている方向を全員で見つめた。そこには、この階層ならどこにでもある、ごく普通の雑木林の木が一本立っているだけだったが――。


 ――ポンッ。


 その雑木の根元から、まるで煙が弾けるようにして、一体のモンスターがごく自然に姿を現した。


 「へぇー。モンスターのリポップって、間近で見るとああやって現れるもんなんだな」


 スズカが感心したように言うが、おっさんAIの叫びはそれを完全に否定した。


 『現象としては似とるが、根本的にちゃうわ! あれは自動の自然湧き(リポップ)やない……! あの化け物が、自身の力でモンスターを能動的に「産み出しとる」んや!! ――そおか、そういうことか! この間の四十三階層のモンスター氾濫、元凶はあいつの仕業かッ!!』


 「だからどういうことよ!? あの木からモンスターが出た現象が、どうして遥か上の階層のモンスター氾濫と繋がるのよ!」


 『前に! スイはんたちに、わてがストレージマーケットで「武器選びの講座」をした時のことを覚えとるか!?』


 「もしかして……ゴークくんをシスイさんの店から買い取った時の話?」


 『せや! その時に、召喚獣――「ガーディアン」の話も一緒にしたやろう?』


 「ええ。結局その時はゴークくんが圧倒的に強かったし、他のガーディアンは保留ってことになったやつよね」


 『そん時に、店先で「ミミック」の話をしたのを覚えとるか?』


 「あ……」


 おっさんAIに言われて、当時の記憶が鮮明に蘇ってきた。ヒマリたちにお買い物を頼んだのに、店先で店員さんに『パチモン掴ますな!』って凄い剣幕で怒っていて、実はそれはパチモンではなくて『ミミック』っていう珍しい隠蔽型のモンスターなんだよって、店主のシスイさんにドヤ顔で講責された時のあの話だ。


 『その通りや! ――おい見ろ、そんで、あの時のミミック特有の固有エネルギー波形が……まさに今、あの木に化けとる「アレ」と完全に一致しとんねん!!!』


 「……嘘。じゃあ、ミミックってモンスターを産み出す生態を持ってるの?」


 私が戦慄しながらみんなに視線を巡らせたが、スズカもヒマリもサクラも、全員「そんなの聞いたことない」と驚愕の表情で首を横に振る。


 『ただのミミックやあらへん! あれはミミックの亜種――この階層から必ず出る言うモンスターと違って、あいつはどの階層にもランダムに現れ、その階層に出てくるモンスターをほぼ無限に生み出し続ける生ける災厄、【モンスターボックス】ちゅう化け物や!!!』


 おっさんAIのスピーカーから、かつてないほどの激震を含んだ咆哮が響き渡った。


 ――のだけれども。当の私たちはといえば、それを聞いても完全に無反応だった。


 『……ちょっと待てぇい! なんで誰も驚かへんのや!? 生ける災厄やで!? ダンジョンを崩壊させかねん伝説のバグモンスターやぞ!?』

「えー……そうは言われてもねぇ?」


 私が困惑しながらみんなを見回すと、スズカもサクラもヒマリも、私と全く同じ「あー、うん……」という何とも言えない微妙なリアクションを返していた。


 『う、嘘やろ……わてが、わての感覚がおかしいんか? このまま放っておいたら、この間の四十三階層みたいな大氾濫がこの十階層でも……あっ!』


 そこでようやく、おっさんAIも自分自身の「前提条件の矛盾」に気がついたらしい。


 「そう。その『あっ!』よ。もしこれが上の高階層で、元々強いモンスターが無限に湧き出るなら国家規模の脅威かもしれないけどさ。ここ、まだ十階層なのよね」


 私は人差し指を立てて、のんびりと雑木林の木(モンスターボックス)を指差した。


 「つまり、あそこから湧き出てくるのって、どう頑張っても十階層レベルのモンスターなわけでしょ? 氾濫する前に私たちがその場でプチプチ間引いちゃえば、全然脅威じゃないのよね。むしろ、わざわざ広いフィールドを歩き回ってモンスターを探す手間が省けるから、私たちにとっては『その場で無限に経験値(ドロップ)を供給してくれる自動給餌器(便利モンスター)』にしか見えないんだけど」


 『……せやな。ホンマそうやわ。冷静に考えたら、今のお嬢さんらの火力なら完全にただのボーナスキャラやわ。……ほな、あれどないします? サポートAIの立場としては、これ以上増える前にとっとと討伐して欲しいんやけど』


 「それなんだけどね、おっさんAI。私、ちょっと思いついちゃったのよね」


 『ん? なにがや、スイはん。その不穏な笑みは』


 「あれ――この『十階層の新しい名物スポット』にできないかしら?」


 思い立ったら吉日。マンネリ打破の企画に悩んでいた私は、その場で急遽、元樹みどりのチャンネル史上初となる『リアルタイム生中継(ライブ配信)』を敢行することにした。


 覚えているだろうか。物語の最初の方で説明した通り、本来ダンジョン内は特殊な妨害のせいで、個人の端末からは地上のインターネットへ電波が届かない仕様になっている。けれど、ダンジョン内で起きた事故やトラベラーのデータは、リアルタイムで外のギルドへと送信されている。


 なぜそれが可能なのか? 理由は、ダンジョン内を無数に飛び回るギルド管轄の「撮影用ドローン」の存在だ。ドローン一機一機がWi-Fiの中継機の役目を果たし、バケツリレー方式で互いにデータを外へと繋いでいるのだとおっさんAIからも聞いている。


 今回、私はこのギルドの回線システムを強引に応用し、ドローンの映像出力を私のチャンネルへと直結させる形でライブ配信のセッティングを行った。ただ、これを行うにはギルドのオペレーター側にも多少のシステム手動変更の手間を取らせることになるため、普通の配信トラベラーは滅多にライブ配信なんて行わない。


 だからこそ、そんな「誰も普段やらない面倒なゲリラ生放送」を、泡沫配信者の私が突如として開始したらどうなるか――。


 『みなさんごきげんよう! 「元樹みどり」のダンジョンライブ配信、今から突発ではじまるよー! みどりの葉っぱ隊員のみんな、集まれー!』


 端末の配信開始ボタンを押し、カメラドローンに向かって満面の営業スマイルで呼びかける。


 すると次の瞬間、画面の向こうで信じられない現象が起きた。いつもの常連トップリスナー『OSSAN隊員』を筆頭に、あっと言う間に驚異的な数の葉っぱ隊員たちが、もの凄い勢いで配信ルームへと雪崩込んできたのだ。


 (……えっ、ちょっと待って。事前予告も何もしてないゲリラ配信なのに、この尋常じゃない集まり方は何なの……?)


 自分のリスナーたちの監視能力というか、画面への張り付き具合の異常さに、私は嬉しさを通り越してちょっとした恐怖すら覚えるのだった。我が隊員ながらストーカーの才能がありすぎる。


 スマートフォンの画面には、目視では追いきれないほどの濁流のような速度でコメントが流れていく。辛うじて拾えたのは、


 『ゲリラ生配信乙!』


 『今日はお嬢様どうした?』


 『暇人参上!!』


 『呼び掛けに応じ、我が命みどり様のために推して参る』


 といった、うん、相変わらず香ばしくてフリーダムな人たちのコメントだった。


 私は引き攣りそうになる頬の筋肉を必死に抑え、流れるコメントを流し読みしながら、まずは今回あえて生配信に踏み切った理由を語り始めた。


 『ふふ、みなさん急な集まりに感謝いたします。今回、私がわざわざ収録ではなく生配信の形を取らせていただいた理由ですが……実は今、この十階層のダンジョン内で、とんでもない歴史的発見をしてしまったからなのです!』


 『とんでもないもの……だと!?』


 『お嬢のとんでもないもの。きっと豊胸(パッド増量)だな。おっと誰かが来たようだ』


 『上の男、惜しい奴を亡くしたな(合掌)』


 『南無阿弥陀仏』


 怒涛のように流れるクソリプのせいで一瞬にして営業スマイルが崩壊しかけたが、私は平然を装いながら、努めてお上品に解説を続ける。


 『みなさん、画面の奥をよーくご覧になってください。あちらにある、一本の普通の木が見えますか?』


 『木? なんの木?』


 『気になる木』


 『見たこともない木ですから、見たこともないモンスターが湧くねんで』


 (ぐっ……! 昭和ソングでボケるんじゃないわよ!)


 思わず撮影しているおっさんAIに向かってツッコミの視線を投げそうになるのを堪え、私はめげずに説明を続けていく。


 『ふふ、あちら、ただの雑木に見えますけれど……実は、世にも珍しい「モンスターを生み出すモンスター」なのです! その名も――ミミックモンスターの亜種【モンスターボックス】です!』


 『今「モンスター」って何回言った?』


 『ゲシュタルト崩壊するわww』


 『お嬢、早口言葉?』


 『モンスター、モンスター、モンスター、もんちゅたー……失礼、噛みました』


 『様式美様式美』


 「……コホン。みなさん、おふざけが過ぎますよ? 話を先に進めますね?」


 私はピキピキと青筋が浮かびそうになるのをエレガントな笑顔で覆い隠し、カメラの角度をゆっくりと「モンスターボックス」へと向け直すのだった。


 私がカメラの向きを調整したその瞬間、狙い澄ましたかのように――ポンッ。と煙が弾け、木の根元から新たな十階層のモンスターが姿を現した。


 画面の向こうのコメント欄が一瞬で静まり返り、次いで驚愕の波となってざわつき始める。


 『と、みなさんご覧になりましたかしら? あのように、モンスターがまるで自然湧き(リポップ)するかのように次々と産み出されるのですわ』


 『うお、マジで今モンスター生まれたぞ!?』


 『無限経験値スポット発見じゃん!』


 『ここで一生芋ってればレベル上げ放題では?』


 『ズルい! お嬢の独り占めか!?』


 『独占禁止法違反! 俺たちにも解放しろ!』


 予想通りの反応に、私はカメラに向かって優雅に人差し指をチッチッと横に振ってみせた。


 『フフ、葉っぱ隊員のみなさん、ご安心あそばせ。私はこの素晴らしい発見を独占しようなどとは微塵も考えておりません。こちらの「モンスターボックス」の管理権利につきましては、発見報告と共にすべてダンジョンギルドの方にお任せする手はずになっております』


 カメラを一時的に私から、少し離れた場所で通信機を片手に待機してくれているギルドの職員さんへとパーンする。すると、隊員たちのコメントは一気にヒートアップした。


 『裏ですでにギルドの手先と手を結ばされたか……!』


 『俺たちのみどりお嬢様が汚された!』


 『これだから大人は汚いんだ!』


 「ちょっと! 人聞きの悪いことを言わないでください! ギルドからは正当な発見ボーナス以外の裏報酬的なものは一切いただいていませんからね!」


 思わず素の口調でキレそうになり、慌てて「おほほ」と、お上品な笑いで誤魔化す。


 『えっ? あの、がめついで有名なお嬢が、何も特別な汁を吸ってない……だと!?』


 『まさか!? 画面の前のコイツ、お嬢の皮を被った偽物か!?』


 「がめつくもありませんし偽物でもありません!私がこの広大なフィールドの一角をプライベートゾーンとして一人で独占したところで、警備も管理も行き届かないという現実的な理由もあります。……それよりも、全トラベラーがこの場所を利用できるようになれば、広大なダンジョン内を無駄に歩き回らずともその場でモンスターを討伐でき、安定して晶石やドロップアイテムを入手できるようになる。その方が十王市全体の発展に繋がると考えてのことです」


 『綺麗事乙! で、本音は!?』


 「今言ったのが嘘偽りのない本音ッ! 本当に失礼な人たちね!」


 声を荒らげる私をからかうように、コメント欄は妙な一体感で盛り上がり始める。


 『……待て。つまり俺たちの心が汚れていたってことか?』


 『すまねえお嬢、所詮俺たちは薄汚れた――って、アレッ!? 画面の端に映ってるの、あねごじゃね? あねごだろ!』


 『え? どこ? あねごいるの?』


 『画面の左端にチラッと映ってるwww』


 『あ、ほんとだ! 他にもいつものメンバー全員いるじゃん!』


 『エセじゃない本物の大正義お嬢様(ヒマリちゃん)おる!!』


 『サクラたんハアハア(成仏)』


 『お巡りさんコイツです』


 『まだ何も法に触れることはしてねえだろ!』


 画面の向こうの視線がスズカたちに集中し始めたのを察知し、私は無言でカメラドローンの画角を操作して、みんなの姿を完全に画面外(フレームアウト)へと弾き出した。コメント欄は阿鼻叫喚の嵐に包まれたが、知ったことではない。


 『鬼畜!』


 『せっかくの癒やし枠を消しやがった!』


 『ひんぬー!』


 『エセお嬢のドケチ!』


 「ふふっ♪ よし。今コメント欄で『貧乳』とか私の悪口を叩いたおバカさんたち、全員手動でアカウントブロック(ミュート)させていただきますわね?」


 私はカメラに向かって満面の聖母のような笑顔を浮かべたまま、手元の端末で冷酷無比にブロックボタンを連打した。画面の向こうの隊員たちが一瞬で静まり返る。


 『怖ぇぇぇえええ……ッ!!』


 『さすがお嬢、一切の容赦がないwww』


 『はい。というわけでございまして、今回の緊急ライブ中継は以上とさせていただきます。現在十階層におられるトラベラーの方、またこれから十階層へ来られようとするトラベラーの方々で、この安全な無限湧きスポットの正確な座標を知りたい場合は、後ほどダンジョンギルドの公式窓口にお問い合わせください。……それではみなさん、また次回の探索まで――ダンジョン・トラベルゥウウウッ!!!』


 バシッとカメラに向かって完璧なポーズを決め、配信終了のボタンをタップする。


 「ふぅぅううう……っ!!」


 すべての機材が停止した瞬間、私は魂が口から抜け出たような深い溜め息を吐き出し、その場にへたり込みそうになった。


 緊張から解放されて、ようやくみんなの方へと振り返ると――。


 スズカもサクラもヒマリちゃんもおっさんAIも、全員が口を手で必死に押さえ、顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。


 「ぷっ――く、くくく……っ! だ、ダメだスイ……! いつもの編集動画と違って、生放送で焦ってるお前のエセお嬢様ムーブ、生で見ると余計に笑いが……っ!」


 スズカが腹を抱えて地面を叩く。


 「スイちゃんが、スイちゃんが必死におすまししてたよぉ! くぷぷぷ、あははは!」


 サクラが涙目になって笑い転げる。


 「ぐぶっ……い、いえ! その、大変素晴らしい、気高さに満ち溢れた配信でしたわ、スイちゃん!」


 一番の良心であるはずのヒマリまで、上品なハンカチで口元を覆いながら肩を激しく揺らしていた。


 「…………」


 私は無言で天を見上げた。十階層の偽物の空は、どこまでも青く澄み渡っていた。


 ――私はもう二度と、絶対にライブ配信なんかしない。


 心の中でそう血の涙を流しながら固く誓った瞬間だった。





挿絵(By みてみん)

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【お知らせ】

今回、作品に挿し絵を追加しました!

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