No.62活動記録:清楚系エセお嬢様のテコ入れ会議
No.62活動記録:清楚系エセお嬢様のテコ入れ会議
「――そうなんですよ。十階層の遺跡にある『錬金釜』っていう設備あるんですけど、不要なアイテムを入れると別のアイテムに変化するんです。現地にいた他のトラベラーさんたちは『ガチャ』って呼んでいましたね。……はい? はい、もちろんです、私も挑戦いたしましたよ! でも、残念ながら良いものは当たりませんでした……。えっ、『課金した?』ですって? ゲームではないですから課金なんて無理ですよ、あははは……」
私たちはいつものように、ダンジョンギルドに隣接するレストラン街のフリーテーブルに集まっていた。
卓上にスマホの画面から、前回の連休中に探索した内容を編集した動画、私の――『元樹みどり』の配信チャンネルでリスナーと雑談を交わしていた映像を見ていた。
画面のコメント欄には、私の「お嬢様口調ぽい」のをからかうようなリスナー――通称『みどりの葉っぱ隊員』たちからの愛ある(?)ツッコミが次々と流れていくが、まあ、それなりに距離感近く仲良くやれているとは思う。
同時視聴者数こそ爆発的ではないものの、チャンネル登録者数は少しずつ、確実に上がっている。ありがたいことにスポンサーの方々からも途切れることなく支援をいただいていた。
「順調?」と問われれば、劇的なバズがないぶん、ちょっと首を捻るところではあるけれど、大きなトラブルもなくダンジョン配信者としてもトラベラーとしても、一歩一歩やっていけているのは間違いなかった。
「……なーんて、自分で『順調』とか口にしてフラグを立てちゃうと、面倒な厄介事が起きそうな気がするわよね」
配信を切り、いつもの口調に戻った私がハァとため息をつくと、向かいで肉に喰らいついていたスズカが顔を上げた。
「なんだ? スイ、何か厄介事に巻き込まれてんのか?」
「違うわよ。あえて言葉にすると、本当にそういう事件が引き寄せられそうだなっていう、ただの配信者としての直感」
「平穏無事な配信より、ちょっとの刺激があった方が視聴者も喜ぶだろう?」
「私としては、一分一秒のトラブルもなく、安全第一で順調にダンジョン配信者としてステップアップしていきたいの。それが本音よ」
「……それ、動画としてつまんなくねぇ?」
「……うるさいわね。わかってるのよ、そんなことは。それでも平和がいいって話!」
スズカの痛いところを突いたセリフに、私は思わず声を荒らげた。
でも、実を言うと自分でも薄々感じていたのだ。最近の私たちの配信、どこか「マンネリ化」してきている気がする。何か新しい変化が欲しいのは確かだった。かと言って、危険な賭けをして大事な仲間たちに怪我なんかさせたくない。あーもう、リーダーとしてどう舵を切ったら良いんだろう……。
「ふふ、スイちゃんにとっては平穏無事かどうかの瀬戸際かもしれませんが、私たちはこのまま次の階層へ進まれるのですか?」
ヒマリが上品にハーブティーを啜りながら、小首を傾げて尋ねてきた。
「そうなのよねぇ。前におっさんAIが言っていたように、十一階層からはただの探索じゃなくて、純粋な『トラベラーとしての資質』が求められるって話だし。他の有名配信者の動画を見ていても、急激にモンスターのレベルが上がるわけじゃないんだけど、ギミックとか連携の面で明らかに大変そうっていうのは見て取れるのよね」
「なるようになるんじゃねぇの? おっさんAIも言ってたろう。オレたちのポテンシャルなら、二十階層くらいまでは余裕で行けるってさ」
「それは、スズカ自身やゴークくん(魔道機人形)とか、スズカの神霊のストームサンダーをフル活用しての話でしょう?」
「えー! ゴークくん出番なし? かわいそうだよぉ」
サクラが不満そうに頬を膨らませる。
「いや、別に出番なしって意味じゃなくてね? ゴークくんのエネルギー波砲のぶっぱなしを頼りっきりになっちゃうと、私たちの実力が伸びないんじゃないかなって。……今だって正直、直接的な攻撃面に関してはスズカ一人に頼りっきりな部分があるし」
これこそが、最近感じているマンネリ化の根本的な原因の一つだった。
スズカの戦闘力は、私やヒマリちゃんに比べたら、頭一つどころか二つも三つも飛び抜けている。彼女の火力で大抵の戦闘が一撃で片付いてしまうのだ。
「じゃあサクラが、新しいド派手な新必殺技を次回披露しちゃおうか!?」
「サクラのオリジナル(アニメや漫画からの参照)魔法は、ハマれば凄まじいけど、当たり外れのギャップが激しすぎて見てるこっちの心臓が持たないわよ」
サクラの常識に囚われない発想力は天才的だけど、見た目だけが派手で中身が伴っていない時もあり、下手をするとチーム全体を危険にさらすんじゃないかと毎回ヒヤヒヤさせられる。
「こういう時は、あのおっさんAIにアドバイスでも聞いてみたら良いんじゃねぇか?」
スズカの提案に「確かに」と頷いた私たちは、今後の活動方針の相談を持ちかけるため、ギルドの受付からおっさんAIをレンタルしてきて、卓上に置いて、起動させ、事の経緯を説明した。
『はー、なるほどな。要するにお嬢さんらは、配信の「テコ入れ回」をしたいっちゅうわけやな?』
バスケットボールサイズの丸い球体から、相変わらずの関西弁が響く。
「その通りなんだけど、もうちょっとオブラートに包んで頂戴。身も蓋もないわね」
『いやいや、スイはんたちがトラベラーとして、良くも悪くも安定して戦闘をこなせるようになってきたからこそ出てきた贅沢な悩みや。それは成長の証拠やで』
「何か良いアイデアはある?」
『せやな。他の大手ダンジョン配信者らの傾向をデータ分析するに、マンネリ打破のために取られとる手法は、大きく分けて【三つ】ある』
「三つ……。それはどんな方法?」
『ひとつは、今の自分らの実力より明らかに「格上のモンスター」と戦うことや。命のやり取りをするひりついた極限状態の映像を見せて、視聴者をハラハラ湧かす、一番手っ取り早い王道の方法やな』
「へぇ、おもしれぇじゃねぇか。オレはいつでもいけるぞ」
スズカが拳を鳴らし、挑戦的な笑みを浮かべる。
『もうひとつは――先に言うとくけど、わてのセクハラやないからな? 「エロ方面」に走ることや』
「……エロ方面、ですか? 流石に配信でそのような、公序良俗に反する破廉恥な映像を流すのはどうかと思いますが……」
ヒマリが眉をひそめ、至極真っ当な常識論で非難の声を上げた。
『もちろん、直接的なピンク映像を流せばアカウントが一発でバンされていろんな意味でアウトや。そうやなく、ちょいと露出度の高い過剰な戦闘衣装を身に纏うとか、ビジュアル的な路線変更で男の視聴者を釣るちゅう方法やな』
「あ、可愛い衣装ならサクラがいくらでも作れるよ!」
サクラが元気良く手を挙げる。
私はといえば、おっさんAIが提示する極端な二つの方法に、うーんと難色を示していた。どれも私たちのカラーには合わない気がする。
しかし、おっさんAIはさらに淡々と、最後の方法を口にした。
『んで、最後に「炎上商法」や』
「却下。他人に迷惑をかけるような真似だけは、絶対に御免だわ」
『やろうな。実質、まともな選択肢としては前の二つになるわけやが……実は、わてとしてはそのどちらの方法もお勧めはせぇへん』
「え? じゃあ、なんでわざわざ言ったのよ?」
『こう言った安易な方法に逃げる配信者も多いちゅう、ただの悪い例や。最初に言った「格上との戦闘」の場合、映像の引きはええが、当然ながら命のリスクが跳ね上がる。ダンジョンは怪我もせん安全な遊び場やなく、一歩間違えれば命を落とす危険地帯やからな。お嬢さんらの安全を第一とするサポートAIとしては、口が裂けても推奨はできへん』
「耳にタコができるほど聞いた話だな」
スズカが退屈そうに頬杖をつく。
『わてとしては何遍でも言うたるよ。それがお嬢さんらの命を守るための初期プログラミングやからな。――そんで二つ目の「エロ方面」に走ることやけど、これは麻薬と一緒で、一度やれば観客はもっと過激なものを求めて、どんどんエスカレートしていく。最終的に行き着くところまで行ってまうことになる。そうなれば、刹那的に別の意味で話題をかっさらうことは出来るが、人間としての尊厳や人生がそこで終了や』
「……じゃあ、私たちには何も変化を起こせないってこと?」
私の言葉に、おっさんAIはカメラレンズの光をパチパチと明滅させて笑った。
『何も出来へんってことはないで、スイはん。変化を起こす前に、まずはスイはん自身の、つまり「元樹みどり」という配信者としての根本的な“傾向”からロジカルに考えるんや』
「私の?」
『そうや。配信者「元樹みどり」は――清楚系エセお嬢様を気取ったキャラクター性が売りの配信者やろ?』
「『エセ』って言うな! あれでも私は毎回、必死でお上品なお嬢様を頑張ってるんだから!」
『いや、それは葉っぱ隊員の全員が最初から理解しとるオープンな秘密(お約束)や。配信中の言葉の端々や、ちょっと焦った時の素のリアクションから、「ああ、この子めちゃくちゃ無理してお嬢様ムーブしとるなぁ」ってな』
「くぅぅ……!」
的確すぎる指摘に、私は言葉に詰まって胸をかきむしった。
『まあまあ、悔しがる必要はあらへんよ。隊員らはな、その不器用な部分も含めて、一生懸命お嬢様を演じながらダンジョンに挑んどる「元樹みどり」ちゅう一人のトラベラーを、微笑ましく応援しとるんやからな』
辛口なデータ分析の後に、おっさんAIの口から紡がれたのは、思いがけず暖かみのある言葉だった。
「……まぁ、その、ありがとう」
私は少し気恥ずかしくなって、そっぽを向きながら小さくお礼を言った。
『おおきに。――そんでな、それを踏まえた上で「元樹みどり」が今後のマンネリ打破として取れる現実的なアプローチを、わてなりに新しく【三つ】考えてみたわ。まずひとつは、「リアルタイムのライブ配信」や。今までは収録した探索動画を編集して、それをリスナー(葉っぱ隊員)と一緒に視聴しながら対話するスタイルやったろ? それを、探索そのものを生中継でやるんや』
「ううっ、ライブ配信かぁ……。ただでさえ無理してお嬢様言葉使ってるのに、生放送なんてやったら絶対にボロが出て、今まで以上にイジられまくる未来しか見えないわよ」
『二つ目。そのライブ配信中に「視聴者参加型」の企画にする。リアルタイムで葉っぱ隊員の連中からその場でお題を募って、それをダンジョン内で達成していく……いわゆる、リスナー発注のクエスト系配信やな』
「絶対に嫌! 変な鬼畜ミッションが来るに決まってるわ!『害虫系モンスターを百匹素手で倒せ』とか、そういう嫌がらせみたいなやつ!」
『楽そうで見応えありそうやけどな。スイはんがプライドかなぐり捨てて「きゃあきゃあ」言いながら、涙目で逃げ惑う姿……葉っぱ隊員の連中なら、きっと画面の前で大爆笑しながら投げ銭乱舞やで』
「ふざけるな! 私はお笑い芸人じゃないのよ! 清楚なお嬢様が売りなトラベラーなのよ!」
『そなら三つ目や。他の配信トラベラーとの共闘――「コラボ配信」をやってみるんや』
「……あ。それは、その……」
おっさんAIの提案に、私は急に口ごもって指先をいじり始めた。
「私……あんまり、他の配信者さんとかトラベラーの人と親しくない、っていうか……」
『えっ、ぼっちかいな!?』
おっさんAIのスピーカーから、心底驚いたような声が響く。
「ぼっち違うわよっ! 学校にはちゃんと普通に友達いるし! ただ、ダンジョンの探索中って、モンスターとの戦闘とかルートの都合とか色々重なるから……他のトラベラーとはすれ違いざまの挨拶くらいしか出来ないのが普通なの! だから連絡先とか知らないだけで、ぼっちじゃ、ない……っ!」
『さよかさよか、必死の言い訳痛み入るで。――なら、戦闘系から一歩離れて「ダンジョン飯」配信なんかはどうや?』
「ダンジョン飯? ダンジョンの中でご飯を作るの?」
『そうや。地上から普通に持ち込んだ高級食材を優雅に調理するお嬢様姿でもエエけど、わてが考える「撮れ高重視」のアイデアとしてはな、ダンジョンで狩ったモンスターからドロップする“食材系アイテムのみ”で調理を行う縛りプレイや。あ、調味料だけは地上から持ち込み可、っちゅうルールでな』
「いや、アイデアは面白いけど……私たち、そんなに食材系のドロップって出したことないわよ? 今までで記憶にあるのって、あの十階層にいる『コリーダの牛肉』くらいじゃない?」
「ああ、あれか! あれ、めちゃくちゃ旨かったな! スイ、もう一回あの牛がドロップするまで十階層に引きこもるか?」
スズカが肉の味を思い出して目を輝かせる。
「サクラもね! あの美味しいお肉、もっかい食べたい!」
「ふふ、でも……特定の食材がドロップするまでモンスターを狩り続けるとなると、かなり時間がかかりそうですね」
ヒマリが現実的なタイムスケジュールを考慮して苦笑する。
『おおっ、ヒマリはんのその「時間」という言葉で、わて、もうひとつ極悪な企画を思い浮かんだわ。この間の十階層の遺跡。あそこにあったガチャ(錬金釜)で、【レアの当たりが出るまで絶対に帰れません!】配信。これ、やるか?』
「絶対にダメ。私たち全員、平日は学校とか仕事とかがあるんだから! そんな何日かかるか分からない長期の軟禁企画、絶対に許可しません!」
「だけどさ、いつかはそういうお祭り企画もやってみてぇな」
「うん! サクラもキラキラのレアアイテムがほしい!」
「ははは、やるにしても、そのうちね。そのうち……」
おっさんAIから次々と飛び出す過激な企画提案に対して、あーだこーだと全員でツッコミを入れながら賑やかに話し合っているうちに、気がつけば良い時間になっていた。
結局、今日は丸一日ディスカッションだけで、ダンジョンへ探索に行くこともなく活動終了となった。
まぁ、たまにはこういう作戦会議だけの日があっても構わないのだけれど。リーダーとしては、今後の配信のテコ入れについて、そろそろ真剣に何か具体的なアイデアを考えておかなきゃダメよね。
マンネリを打破できて、みんなが怪我をせず、安全に楽しく盛り上がれる……そんな都合の良い、企画はないかしら?
☆★☆★☆
――ダンジョンギルド十王市支部、最下層・特別研究室。
地上の賑やかさとは無縁の、薄暗い研究室内。無数に並んだ大型モニターには、複雑に変動するエネルギーの波形パターンが映し出されていた。
その光に照らされながら、白衣を着た研究員・大文字は、手元のキーボードを叩きつつポツリと独り言を呟いた。
「まぁ、スイはんの配信の企画云々に関しては、最終的には本人のやる気と好みの問題もあるさかいな。わてが裏からどうこう誘導して強引に進めても、しゃあないことやし……」
モニターの波形パターンは、微量ながらも絶え間なく、世話しなく変動し続けている。大文字はそれが「想定の範囲内」であることを確認するように、鋭い視線を向け続けていた。
「……それとも、裏ルートで葉っぱ隊員の奴らに声をかけてやな。『配信でこれやってくれ、あれやってくれ』って、公式要望の形でスイはんに凸するように仕向けてみるか? ――いや、でもなぁ。あいつら、色んな意味で『紳士』やからな、タガが外れたら一番おもろい方向に暴走するで確実に。そんでいたいけな現役女子高生に対して、ここぞとばかりにおかしな鬼畜要望を送りまくるに決まっとる。……うん、やっぱり止めておこ」
ろくな未来が想像できず、大文字が首を横に振ったその時、研究室内にパッと電子音が鳴り響いた。ロックが解除され、自動扉が開くと、一人の若いギルド職員が書類の束を抱えて入ってくる。
「失礼いたします、大文字さん。例の、頼まれていた資料の集計が終わりましたので持ってきました」
「おお、ご苦労さん。おおきにな。その辺の空いとるスペースに適当に置いといてや」
「適当って……。また机の上が散らかって。というか大文字さん、なんでまたこんな奇妙なアンケートを全職員に向けて実施したんですか?」
職員は呆れ顔で書類をデスクに置きながら、怪訝そうに尋ねる。
「まぁ、わてのちょっとした趣味みたいなもんや。気にせんでええよ」
「いや、質問の意図が全く分からなくて、配られた時に困惑している職員が凄く多かったんですよ? 何ですかこれ。『トラベラーに対して、ギルド側から仕掛けてほしい企画(お題)』って? まさかギルド主導で、トラベラーたちを集めた大規模な催し物でも企画されているんですか?」
「催し物、か……。昔の地上のテレビでやっとった、昭和とか平成初期の破天荒なバラエティ番組みたいなことをダンジョン全体でやったら、おもろいんちゃうかなと思ってな」
大文字が画面を見ながら職員と会話をしていると一瞬だけ波形がはね上がる現象が起きた。
(……ここのところやけにこう言った現象が起こるな、なんぞあるんか?)
「……冗談はやめてください。今のトラベラーたちは、そんなことさせられたら何の意味があるのか分からなくてブチ切れますよ。下手をすれば、ギルド本部に対して大規模な抗議デモが起きます」
「んーそうか? 事前にちゃんと『お祭りやで』って告知してやれば、意外とみんなノリノリで楽しんでくれるんちゃう?」
大文字は波長が落ち着いたことから、問題ないと認識を示す。
「ですから! 参加する側に何のメリットや意図があるのか分からないから困惑する、と言っているんです。はぐらかさないで、本当の意図(目的)を出してください、意図を」
詰め寄る職員に対し、大文字は椅子の背もたれに体を預け、わざとらしく天井を見上げた。
「いやなぁ、最近のトラベラーは個人主義が過ぎるやろ? やから、そういうイベントを通して、トラベラー同士の横の繋がりとか交友でも深められればええなぁ、なんてな……」
「嘘ですね」
「即答すんなや! 傷つくだろ!」
「あなたのようなマッドサイエンティスト崩れの合理主義者が、そんなハートフルなことを考えるはずがありません。どちらかと言えば、『何をするのかも事前に告げずにトラベラーたちを特定のエリアに放り込んで、新型か、未知の魔道具のテスター(実験台)として都合よく使い潰すため』と言われた方が、まだギルドとしては納得がいきます」
「おいおい、人聞きが悪いな。鬼やないで、わては」
「――まだダンジョンに出てくるモンスターとしての『鬼』の方が、実害が予想できるぶん可愛げがありますよ。あいつらは倒せば、確実に何かしらのドロップアイテムを落としますからね」
「鬼は鬼でも、それ、モンスターの『オーガ』のことやないかい!」
大文字がベタなノリツッコミを入れた、まさにその瞬間だった。
――ウィーーーン! ウィーーーン! ウィーーーン!
突如として、研究室内の照明が赤く染まり、けたたましい非常アラート音が鳴り響いた。
先ほどまでのふざけた空気は一瞬で霧散する。二人は文字通り弾かれたように緊張した面持ちになり、大文字は即座に目の前のキーボードへ凄まじい速度で指を叩き込んだ。メインモニターに緊急データが展開される。
画面の中の波形が異常な波長として現れたいた。
「――チッ、四十三階層の『G13エリア』にて、トラベラーからの緊急救難信号(SOS)を受信! 周辺の魔力濃度が異常上昇しとる……大規模な『モンスターパレード』や! 警備班、セイバー及び一線級の戦闘系職員は、大至急現場へ急行させろ!」
「了解しました! すぐに第一非常招集をかけます!」
職員は書類のことなど完全に忘れ、弾丸のような速さで研究室から飛び出していった。
状況の初動指示を終え、あとは現場の戦闘プロフェッショナルたちに委ねるしかなくなった大文字は、ふぅ、と深い溜め息を吐きながら、事務椅子の背もたれに深く深く寄りかかった。
「……ハァ。こういうリアルな『催し物』だけは、ホンマに心臓に悪いから勘弁してもらいたいもんやな……」
激変する四十三階層のモニターの数値を睨みつけながら、彼は前髪をくしゃりと掻きむしるのだった。
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