No.61活動記録:降臨せし筋肉(てんし)さまと、深き虚無の検査場
知っている人は知っている。
ついにヤツが登場する。
そう――あの煽動のウサギが。
(※ネタバレ注意)
No.61活動記録:降臨せし筋肉さまと、深き虚無の検査場
スズカの空間航行能力をもつ神霊「ストームサンダー」のおかげで、三百キロメートルは離れていた未来遺跡から、文字通り「秒」で十階層の次元門まで戻って来ることができた私たちは、そのまま光の扉を潜り抜けて地上へと帰還した。
眩い転移の光が収まると、そこは出発時と同じ、ギルド本部地下の薄暗い巨大格納庫だった。
「おっさんAI、戻ってきたぞ。この後はどうするんだ?」
スズカがハンドルを握ったまま、インカム越しに問いかける。
『ちょい待ち。今ギルドの管理ホストに帰還連絡を入れたところや。キャンピングトレーラーの返却収容場所の確認を取るさかい、そのまま待機しときな』
おっさんAIの指示に従い、指定された駐車スペースへとトレーラーを滑り込ませるスズカ。手際よくブレーキを引き、エンジンを切った。
「よし、停車完了」
「お疲れさま、スズカ」
「運転ありがとうございます、スズカさん。」
「スーちゃん、おつかれー!」
「たいして運転してねぇし、疲れてねぇよ」
私たちは口々にお礼を言いながら、お世話になったキャンピングトレーラーから下車した。車を降りてからも、私たちの話題はさっきまでの「ガチャ(錬金釜)」のことで持ち切りだった。
「次は絶対に何か良いものを当ててやるからな!」
「うん! サクラも次は、画面がピカピカ光るような最高レアを引き当てたい!」
「はいはい、今度あの遺跡に行ったときにね」
そんな他愛のない小旅行の反省会で盛り上がりながら、地上へと上がるエレベーターの前にやって来た、その時だった。
「げぇっ!? なんでアンタたちがここにいるのよっ!?」
「あ、やっほー。おひさ、スイちゃんたち」
エレベーターの前で待っていたのは、白と黒のゴスロリファッションに身を包んだ、自称・お宝ハンターの和泉愛こと『アイリス』と、その相方である五十里恵梨香こと『エリカ』の二人組だった。
「あら、アイちゃん。エリカさんも、こちらにいらしていたんですね」
ヒマリが従姉妹の姿を見つけてにこやかに挨拶をするが、当のアイリスは世界の終わりでも見たかのように、もの凄く嫌そうな表情を顔全体に浮かべている。
「な、なによ……なんでアンタたちがこの地下格納庫にいるのよ。まさか追っかけてきたわけ?」
「まさか。私たちはこの連休を使って、十階層の奥にある未来遺跡に行ってたんですよ」
「アンタたちもぉっ!?」
ヒマリ言葉に、アイリスが素っ頓狂な声を上げて目を見開いた。
「『アンタたちも』ってことは、二人もあの遺跡に行ってたの?」
私が尋ねると、アイリスの後ろからエリカがひょっこりと顔を出して、ほくほくとした笑みを浮かべた。
「そうよー。あの遺跡に、いらないドロップアイテムを素晴らしいお宝に変えてくれる装置があるって噂を聞いてね、ちょっと足を延ばして行ってきたのよ」
「ちょっと、エリカ! そんなことまでこの子たちにペラペラ教えなくていいのよ!」
「ええ~、なんでよ。別に減るもんじゃなし、構わないでしょう?」
不機嫌の塊のようになっているアイリスとは対照的に、エリカの顔はどこからどう見ても「大勝利を収めたホクホク顔」だ。それを見たサクラが、鋭く反応して小首を傾げた。
「うにゅ? エリカちゃん、なんか良いことあったの?」
「うふふ~ん♥️ わかる? そうなのよぉ、実はね、あの『ガチャ』ってやつでね――」
「だから! 言わなくていいって言ってるでしょうがぁ!」
「あ、こらアイリス、やめなさい! 人の口を両手で塞ごうとするなぁ!」
相変わらず、どっちが先輩で後輩だか分からない変なじゃれ合いをしている二人だ。
そんなやり取りをしているうちに、チーンと小気味良い音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。私たちは互いに少し距離を取りつつ乗り込んだものの、密室になった途端、妙な沈黙がエレベーター内を支配した。
しかし、そんな大人の空気を一切読まない我がパーティの特攻隊長・サクラが、ズカズカとアイリスの目の前に詰め寄った。
「ねえねえ、アイリスちゃん。あのガチャで一体何が出たの? 教えてよ!」
「だから、教えないって言ってるでしょう! 私がアンタたちに手の内を明かす必要なんてないわ!」
「ちぇー、ケチ。……ちなみにサクラたちは、ただの晶石しか出なかったんだよ」
サクラの自爆とも言える報告を聞いた瞬間、アイリスの口元が醜悪なほどに歪んだ。
「ふぁっふぁっふぁっ! さすがね! 日頃の行いが悪かったんじゃないのぉ!?」
「……アイちゃん?」
ヒマリが意地悪はメッてすよ、と言うように、静かな声でアイリスの名前を呼んだ。
その瞬間、アイリスはビクゥッ! と全身を硬直させ、まるで軍人のように直立不動の姿勢を取って口を噤んだ。
――あ。
私は心の中で合点がいった。メーヴェさんの案内の時、前方の錬金釜の方から聞こえてきた「ふぁっふぁっふぁっ!」という妙な笑い声。どこかで聞き覚えがあると思っていたけれど、あれはアイリスの笑い声だったのだ。
「サクラ、そんなに心配しなくても、何が出たのかはすぐに分かるわよ」
私がクスリと笑いながら言うと、サクラは不思議そうに目を丸くした。
「うにゅ? どうして、スイちゃん?」
「だって、ほら――」
ちょうどエレベーターが地上階へと到着し、金属の扉が左右に開いた。
目の前に広がっていたのは、ダンジョン内や格納庫からの違法な魔道具や装備品の不正持ち込みを防ぐための、ギルドの「検疫検査門」だ。そしてそこには、厳しい目を光らせた検査員の職員さんたちがずらりと待ち構えている。
「格納庫への出入りの時は、必ずここで厳重な持ち込みチェックを受けなきゃならないでしょう?」
私の言葉に、サクラは「あ、そっか!」と手をポンと叩いて納得の声を上げた。
同時に、隣のアイリスの顔が、今度は別の意味で引き攣り始めるのを、私は見逃さなかった。
私たちは係員の指示に従い、順番に金属探知機のような検査門を潜り抜けていく。もちろん不正な持ち込みなどあるはずもないので、全員何の問題もなくすんなりと通過した。
そうしてロビーの端へと移動し、続けて検査を受けるアイリスとエリカの様子を見守るようにして待機していると――。
「ちょっとぉ! アンタたち、自分たちの検査が終わったなら、さっさと帰りなさいよ!」
私たちの視線に気づいたアイリスが、あからさまに顔を強張らせてキーキーと捲し立ててくる。
「いやぁ、アイリスちゃんたちが一体あのガチャでどんなお宝を手に入れたのか、オレどうしても気になっちゃってさ」
スズカがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべる。
「たいしたもんじゃないから! 本当にただのゴミみたいなアイテムだから! だから見なくていいから早く帰りなさいよ!!」
アイリスがどうしても私たちには戦利品を見せたくないという意思をありありと示していたけれど、私たちは完全にそれをスルーして、そのまま黙って彼女たちの手荷物検査を観察し続けた。
職員さんも、そんな私たちの身内のじゃれ合い(?)に心底呆れ顔をしつつも、淡々とプロフェッショナルな手際で職務を実行していく。
手荷物検査からボディチェックへと進んでいった、その時だった。
アイリスのゴスロリ衣装の胸元に飾られていた、見慣れない一つのアクセサリーに職員さんが精密検査機をかざすと、――ピピピピッ! と鋭い警告音が鳴り響いた。
「――お手数ですが少々よろしいですか。こちらのアクセサリー、魔道具反応が出ています。事前の突入記録には存在しなかった物品ですので、詳細な確認を取らせていただきます」
「……流石に盗みとかじゃないだろうから、あれが例のガチャで引き当てたアイテムってことよね?」
私が呟くと、サクラが身を乗り出す。
「なんだろうね? ワクワクするよ、スイちゃん!」
「んー……白い、小さな人形か? あれ?」
スズカが目を細め、職員さんの手元にある白い立体的なチャームのようなものを覗き込もうとしていた。
『ふむ、わてのエネルギー波形センサーから見て、あれは「召喚物」の類に近いな。多分やけど、あれを媒体にして何かしらの存在を現世へ呼び出すタイプの発動型魔道具ちゃうか?』
「へぇ。スズカのストームサンダーみたいに、手の平に直接刻印が刻まれるタイプじゃないのね」
『そう言うのもあるけど、こういうアクセサリーの形としてドロップするのも定番やからな』
おっさんAIが解説しているうちに、検査機のデータ解析が終わったのか、職員さんが顔を上げた。
「結果が出ました。過去の盗難届やギルドの格納庫から不正に持ち出された魔道具ではありませんね。正規のダンジョン産ドロップ品と認められます」
「ふん、当然よ! これはワタシが十階層のあの錬金釜のガチャから正真正銘、実力(運)でもぎ取ってきた魔道具なんだから!」
アイリスがこれ幸いとフンスと胸を張り、自信満々に語る。
「エネルギーパターン・琥珀。神聖系と思われます。エネルギー出力、一千DPオーバー。中級クラスの『召喚系魔道具』に分類されます」
魔道具の波形を調べていた別の職員さんが報告を上げると、責任者らしき職員さんが深く頷いた。
「確認、ありがとうございます。――和泉様、大変申し訳ございませんが、ギルドの保安規定に基づき、さらに一点だけ確認を取らせていただきます。こちらの召喚魔道具ですが、今後『ギルドへの買い取り品(換金)』として提出される予定でしょうか? それとも、ご自分たちでそのまま登録して『お使いになるアイテム』でしょうか」
「自分たちで使うに決まってるでしょう! 私のコレクションよ!」
「わかりました。それでは――大変恐縮ですが、こちらの召喚物から『一度だけ、この検査場内で実際に召喚』をしてみていただけますか?」
「えッ!? な、なな、なんでよ!?」
アイリスが突如として、裏返った声を上げて飛び退いた。
「中級クラスとはいえ、特殊系統の、かつ『攻撃性』のある召喚物である場合、地上の安全基準を満たしているかどうかの規定処置を行わなければならない規則になっておりますので」
生真面目な職員さんの説明を聞きつつ、私は隣のおっさんAIに首を傾げた。
「ねえ、規定処置って何のこと?」
『要はな、スズカはんの神霊ように召喚者自身に危険が迫ったときに勝手に出てくるタイプやと、万が一暴走して街とうに被害が出る可能性を考え、地上の行動時にギルド認定の「専門の護衛者(お目付け役)」を強制的に同行させるかどうかの審査の話や』
「でも、こんなロビーみたいなところで急に呼び出して、もしもの時は大丈夫なの?」
『そのための設備や結界は、この検査場にばっちり整ってある。まあ、スズカはんのストームサンダーみたいな、規格外の神霊クラスを完全に押さえつけるのは無理やけどな。中級クラス程度なら、指一本動かさせずに余裕で圧殺できるだけの防衛機構がここにはあるで』
私たちがヒソヒソとそんな話を展開している間も、アイリスはこちらをチラチラと、生きた心地がしないといった様子で気にして見ていた。
(……あれ? なんであんなに嫌がってるのかしら。よっぽど見た目が変な、おぞましい召喚物が現れるのかしら?)
「あんなに嫌がってるから……例えば、もの凄く巨大なナメクジとか、ドロドロした軟体生物とかが出てくるのかな?」
サクラの言葉に想像してみて身震いした。
「……もし本当にそんな気持ちの悪いモンスターだったら、私はこの場から一目散に全力で逃げるわ」
私は真顔で一歩下がった。
『いや、神聖系と言うとるし、波形のエネルギーパターンから推測するに、そういう不浄の系統やないな。これは間違いなく「天使系」のカテゴリーや』
「天使……。本当にダンジョンって、何でもいるのね」
「天使さんですか! まあ、なんだか高貴で素敵ですね。アイちゃんにとても似合いそうですわ」
ヒマリが嬉しそうに微笑むけれど……。
(……うーん、ヒマリには悪いけど。多分アイリスは、「似合う」とか「可愛い」とか、そういうポジティブな理由で私たちの目線を気にしてるのではない気がする……)
『エネルギー出力から鑑みても、中級天使――「能天使」か、いっても「力天使」クラスやろうな。ああ、それとお嬢さんら、先にひとつ言うおくで』
「え? なに?」
『「天使」を、お嬢さんらが普段アニメとか絵本で想像しとるような美しい形で思い浮かべん方が身のためや、ちゅうことや』
「どういうこと?」
『お嬢さんらが想像する天使言うたら、白い鳥の羽が生えた、金髪の美しい人間の姿やろう?』
「そうではないのですか?」
ヒマリが不思議そうに小首を傾げる。
『あれはあれで、後世の人間が勝手に作った想像やから間違いとは言わんけどな。本来、ダンジョンに現れる「天使系モンスター」の姿は……まあなんと言うか、見た目は完全にグロテスクなモンスターそのものやからな』
「どういうことだ、おっさんAI。もっと分かりやすく言ってくれ」
『いやな、ダンジョンにある遺跡の文献や聖書そのものに書かれとる「本来の天使の記述」通りの姿をしとるねん。目が無数にある巨大な車輪だったり、頭が四つある異形の化け物だったりな。人間の常識から外れた、奇っ怪な宇宙生物みたいな感じのビジュアルや』
「……天使って、本当はそんな恐ろしい姿なの?」
私の顔が強張る。
『お嬢さんらが知っとる今の美しい天使の姿は、後世の人間が多分、「これじゃ全然可愛らしくないし崇められない!」っちゅう都合のええ理由で、人の姿に変えて広めたんやないか。……まあ、知らんけどな!』
「知らねぇのかよ!?」
スズカが盛大にズッコケる。
『しゃあないやろ! 政治と宗教の話は、わてのプログラミングの「禁則事項」にガッツリ引っ掛かるねん! だからこれ以上は詳しく解説できへんのや。……と、そんな無駄話をしとる間に、あっちのアイリスはんの覚悟が決まったようやで。お嬢さんら、いよいよ「答え」が見れるわ』
おっさんAIの言葉に、私たちは再びアイリスへと一斉に視線を戻した。
ギルド職員に囲まれ、検査場の強化防壁(結界)の真ん中に立たされたアイリスは、もはやヤケクソといった様子で、握りしめていた白いアクセサリーを天高く掲げ、短い召喚の言葉をキッと告げた。
「――来なさい、我が下僕! 『アジテージ・ラビット』!!!」
アイリスが叫ぶ。その瞬間、検査場全体の光量が不自然にガクンと落ちた。
急激に薄暗くなった空間に、どこからともなく、妙に艶っぽいムーディーなジャズ音楽が流れ始める。そして、天から差し込むスポットライトのような鋭い明かりが、アイリスの姿をピンポイントで照らし出した。
「……なんか、もの凄く過剰というか、場違いな演出じゃないか?」
スズカが呆れたように呟く。あんたのストームサンダーも色んな意味で呼び出すとき演出過剰だけど、これはまたベクトルが違うというか、明らかにオカシイ雰囲気を全力で漂わせていた。
次の瞬間、スポットライトの光の渦の中から、上空を切り裂くようにしてズバァンッ! と一本の太い「脚」が降りてきた。
「……あし?」
「おおっ! 筋肉モリモリだ!」
サクラが目を輝かせて叫ぶ。そこに現れたのは、これでもかと鍛え上げられた大腿四頭筋。ギリギリと音を立てて引き締まった腹直筋。
「その腹筋、板チョコーーーッ!」
『広野のように広がる大胸筋や! 胸がケツになっとるで!』
「いや!? なんでアンタら、いきなりボディビルの大会みたいな変な掛け声出してるのよ!?」
スズカとおっさんAIの怒涛のコールに、私は思わずツッコミを入れた。
「何言ってるんだスイ。相手が自慢の筋肉を披露してるんだ、全力の声援を送るのがマナーであり常識だろう?」
「そんな私が非常識みたいなこと言われても困るんですけど!?」
「スイちゃん、私もそのコールに加わりたいのですが……初学者にはどのような掛け声がよろしいのでしょうか?」
「ヒマリまで毒されないで!?」
私たちが大混乱している間も、アイリスが召喚した「それ」は、スズカたちの熱い声援に応えるように、次々と滑らかなポージングで自慢の肉体を披露していた。
筋骨隆々の凄まじいマッチョボディ。……だが、その頭部には、申し訳なさそうにペコリと二本の「ウサギの耳」が生えている。一応は人の姿に近いウサギの化け物――いや、ウサギの皮を被った筋肉の塊だ。
「というか、さっきのおっさんAIの『天使』の話はどこ行ったのよ!?」
私が絶叫すると、ウサギマッチョはフンッと鼻息を鳴らし、誇らしげにその分厚い背中を私たちに向けた。そして、丸太のような指先で、鬼の顔が宿る自身の広背筋の一部をツンツンと指差す。
そこには、彼の巨体にはあまりにも不釣り合いな、スズメの羽むしり残しのような、小さな白い鳥の羽が一対だけピコピコと生えていた。
「申し訳程度にも程があるじゃないっ!?」
天使要素、そこだけ!?
もう何がなんだか分からなくて、先ほどまでおっさんAIと真面目に語り合っていた神秘的な天使の知識など、頭から綺麗さっぱり消し飛んでしまった。
「……和泉様。こちらの召喚された個体は、一体どのような能力をお持ちですか?」
私がこれだけ脳をバグらせているというのに、ギルドの職員さんはピクリとも表情を崩さず、完全に虚無の目で職務を忠実にこなしていた。流石はプロだ。
「あ、ええと……。ちょっとアンタ、何ができるの? ガチャから引き当ててから、性能テストするの忘れてたからさ……」
アイリスが慇懃無礼にウサギマッチョに問いかける。ウサギはポージングをピタリと止め、アイリスの耳元でフガフガと何かを囁いた。どうやらスズカとストームサンダーの時のように、契約者間でしか伝わらない意思疎通の方法があるらしい。
やがて、ウサギの話を静かに聞き終えたアイリスの顔が、急速に絶望へと染まっていく。
「……うわぁ、最悪。マジで使えないわコイツ。やっぱりアンタ、今後の戦闘ではただの『デコイ(壁役)』確定ね……」
「和泉様、ギルドの書類に記載いたしますので、どのような特殊能力があるのか具体的に説明していただけますか?」
職員さんが淡々と促すと、アイリスは魂の抜けたような声でボソリと答えた。
「……筋トレを、正しく教えることができるそうです」
「「「…………」」」
検査場に、この日一番の深い静寂が訪れた。
「…………左様ですか」
職員さんはさらに深い虚無の表情で一言そう述べると、手元のタブレットにサラサラと記録を書き込み、他の職員に向けて短く告げた。
「――殺傷性および有害な攻撃能力、皆無。地上の安全基準、問題なし」
お墨付き(?)をいただいた。
私たちは、アイリスが召喚したウサギマッチョが骨盤を横に向け、後方の手で前方の腕の手首を掴み、上半身を正面の観客側に向けて強く捻り、「胸板の厚み」や「腕の太さ」を強調する。「サイドチェスト!」と言わんばかりのポーズのまま光の粒子となって消えていくのを見届けた後、可哀想なものを見る目でアイリスに手を振り、速やかにその場を後にした。
「……なんと言うか、ダンジョンから出てくるものって、本当に色んな意味で予測不能ね……」
私は今日、身をもってその教訓を深く学び、充実しすぎた今回の連休ダンジョン探索を、今度こそ本当に終わりにするのだった。
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