No.60活動記録:ダンジョンの課金兵と、回る錬金釜』
No.60活動記録:ダンジョンの課金兵と、回る錬金釜
ダンジョン治安隊クラン『セイバー(Saviour)』。
それは、トラベラーの有志によって結成された、ダンジョン内におけるトラベラーの救援や、無法者同士のいざこざ、犯罪行為などを解決する防犯組織だ。その実績と実力は折り紙付きで、あのギルドからも厚い信頼を寄せられていると聞く。
「セイバーって……じゃあ、もしかして、ブランシュさんと伊織さんのクランですか!?」
私は以前、二階層の探索時に知り合った二人組の顔を思い浮かべた。
「あら、ブランシュと伊織を知ってるのねぇ。だったら話が早いわ。その通り、ワタシも彼女らと同じ『セイバー』の一員なのよ」
「おおっ! つまり……この綺麗なおっちゃんはお巡りさんなんだね!」
「うわぁあ、ちょっとサクラっ!!」
サクラが本日二度目のストレートすぎる爆弾(綺麗なおっちゃん)を投下し、私も本日何度目かも分からない平謝りのために頭を下げようとした。――けれど、メーヴェさんはクスクスと楽しそうに肩を揺らすだけだった。
「良いのよ、スイちゃん。おっさんなのは年齢的にも事実だしね。……ただ、出来れば『メーヴェ』って名前で呼んでくれると、お姉さん――じゃなくて、先輩としては嬉しいかな?」
「わかった! メーヴェちゃん!」
「グラッチェ! 素敵な呼び方ね、サクラちゃん」
メーヴェさんは嬉しそうに長い睫毛に縁取られた目を細めながら、サクラの頭を優しく撫で回した。その手つきは驚くほどスマートで、やっぱりどこか大人の男としての包容力を感じさせる。
「それでね、さっきロビーのところで貴女たちを見かけたんだけど。この巨大遺跡に初めて来たばかりのピチピチのトラベラーさんみたいだったから、ちょっ~と心配になっちゃってさ。実はこっそり後ろをつけてたのよ」
「え!? あ、後をつけてたんですか……っ!?」
私を含め、スズカすらも全くその尾行に気がついていなかった。流石は治安維持に携わっている実力者だ。
「ええ。そうしたら案の定、さっきのタチの悪そうなナンパ野郎に引っ掛かってたから、ワタシがちょっと強めにしゃしゃり出てきちゃったってわけ」
「そうだったんですか……。私たちのためにわざわざ、ありがとうございます」
職務的な動機、あるいはボランティアとしての見守りだったと言われれば、尾行されていたことにも何となく納得はできる。できるのだけれど……やっぱり言葉通りに受け取ると、少しだけ複雑というか、監視されていたみたいであまり良い気分は――。
「ウフッ♥️」
思考がネガティブに傾きかけたその瞬間、メーヴェさんが完璧な角度でパチンとウインクを飛ばしてきた。……うん、まぁいっか! 助けてもらったのは事実だし、こんな美人に微笑まれたら細かいことはどうでもよくなってしまう。
「もし貴女たちが良ければなんだけど、ワタシも一緒にこの遺跡の探索に少し付き合ってもいいかしら?」
「え? それは、私たちは全然構わないですけど……」
私はみんなに確認するように視線を巡らせてみた。スズカもヒマリもサクラも、特に拒絶する様子はなく「いいんじゃない?」といった風に頷いている。
「ああ、急に同行を申し出た理由ね。ほら、さっきのチャラ男は一人だったからワタシの脅しだけで済んだけど、このエリアには集団で新入りをハメようとしてくるおバカな連中も時々いるのよ。だから、ちょっとした臨時の『護衛』だと思って気楽に構えていてちょうだい」
「はい。重ね重ね、本当にありがとうございます」
「良いのよぉ。ワタシとしても、貴女たちみたいな可愛い子たちと一緒に歩けるのは役得だし、モチベーションも上がっちゃうからね」
「はは、はぁ……」
スタイル抜群の美人さんで、仕草も話し方も完全に綺麗なお姉さんなのに、中身は「女の子が大好きな正真正銘の男の人」……。なんだか、会話しているだけでさっきから別の意味で私の脳のゲシュタルトが崩壊しそう(バグりそう)だった。
こうして、臨時の護衛兼マスコット(?)としてメーヴェさんを仲間に加え、私たちは改めて巨大な未来遺跡の内部探索へと出発したのだけれども。
「……うーん。本当に行くところ行くところ、生産ラインみたいな無機質な場所ばかりね」
しばらく歩いた後、私は代わり映えのしない金属の通路を見渡して溜め息をついた。
『だから、最初からしゃあない言うてますやん、スイはん。お嬢さんらが求めるような、壁をぶっ壊して隠し金庫から未知のオーパーツ発見! みたいなロマン溢れる場所は、ギルドから渡されとる既知のマップデータには一切ないんやから』
「まあ、頭ではわかってるんだけどね……」
配信の画面を確認すると、定点カメラの映像はただロボットが動いているだけのシュールな光景だ。そして案の定、我がパーティの「二名」が、あからさまに飽き始めていた。
「おー……すげぇな、サクラ……。ほら、あそこの歯車が回ってるぞ……」
「そうだね……スーちゃん……。さっきの部屋と同じように、ロボットさんがばしばし規則正しく働いてるよ……。すごーい……」
スズカとサクラは、死んだ魚のような目で、通路の脇で淡々と作業をこなすアームロボットを眺めながら、中身の全くない会話をゾンビのように交わしている。
そんな私たちの様子を見て、メーヴェさんがクスリと可笑しそうに喉を鳴らした。
「あはは、なるほどね。これだと、血気盛んなトラベラーちゃんたちにとっては、ちょっ~と刺激が足りなくて退屈かしら」
『おっ、ならメーヴェはん。あんたはんは、どこかしらこの下層プラントで、お嬢さんらが喜びそうな当て(隠しスポット)でもあるんかいな?』
「この遺跡はね、上が一般の居住区で、下が完全に管理された生産プラントに区分されてるから、おっさんAIの言う通り『普通の探索』という意味での面白味は初見だけなのよね。……でもね、ちょっとだけ『面白い場所』ならワタシ知ってるわよ?」
「面白いところ!? メーヴェちゃん、サクラそこ行きたい!」
「マジか!? オレも行く! 頼む、この退屈な社会科見学からオレを救ってくれ!」
完全に死にかけていた二人が、メーヴェさんの言葉を聞いた瞬間にシャキーンと効果音が聞こえそうな勢いで食いついた。現金なやつらである。
「……ハァ、ちょうど良い退屈しのぎになりそうですし、メーヴェさん、よろしければその場所への案内をお願いできますか?」
「良いわよ~、任せなさい! さあ、こっちよ。みんなワタシについてらっしゃい!」
おっさんAIに代わり、今度はメーヴェさんが長い髪をなびかせながら先頭に立って歩き出した。私たちはその頼もしい(けれどセクシーな)後ろ姿を追いかけながら、再び遺跡の奥へと歩みを進めるのだった。
メーヴェさんの後に続いて私たちがやってきたのは、それまでのお堅いプラントとは全く異なる、活気に満ちた一角だった。
「おお? なんだ? 今まで見てきた無機質な場所とは随分と空気が違うみてぇだが」
「ええ。こちらは、人が少なからずいらっしゃいますね」
先ほどまでのおっさんAIの案内ルートが「全自動の清掃と生産」という無人環境だったのに対し、ここは何かの装置の前に人だかりができていて、そこかしこで歓声やため息が漏れている。
「貴女たち、『ガチャ』って知ってるかしら?」
メーヴェさんがニヤリと笑いながら問いかけてくる。
「ガチャ? あの……街のデパートに置いてある、お金を入れてハンドルを回してオモチャが出てくるアレですか?」
「サクラはねぇ、よくゲームのスマホでガチャってるよ! 回して回して、でも出なくて……お母さんにもよく怒られるの……」
うん、それはあんたが課金し過ぎるからだよ、サクラ。
そんな苦笑モノの反応をする私たちに、メーヴェさんは肩をすくめて優しく微笑む。
「そう。まさにその『ガチャ』ね。あそこにあるのは、あれと似たようなものなのよ」
『似たような? ……おいおい、まさか。あそこに鎮座しとるのって「錬金釜」か!』
おっさんAIが、珍しく驚いた様子で声を上げた。
「錬金釜? サクラ知ってるよ。樽って言ったり、爆弾投げたりして、いろんな物を作るやつだよね!」
『……サクラはんが言うとるやつとは、ちょいと時代背景と意味合いが違うんやけどな。要は、投入した物質を分子レベルで分解させ、触媒と魔力を使って別の物質へと強制的に「再構築」させる高技術装置のことや』
「それがなんで『ガチャ』なのよ?」
「モンスターからドロップしたアイテムを釜に放り込んで、別のアイテムを生成するのよ。でも、レシピ通りの『決まったモノ』が出てくることもあれば、確率で全く違うモノが出てくることもあるの。だからワタシたちは、親しみを込めてあれを『ガチャ』って呼んでいるのよ」
メーヴェさんが説明している最中、前方の装置の前から「ふぁっふぁっふぁっ!」と、どこかで聞き覚えのある変な笑い声が上がった。
「あら、誰か大当たりを引いたみたいね」
「へぇ、あれってオレたちも出来るのか?」
「出来るわよ。ただ、順番やマナーを守って頂戴ね。ワタシを出動(トラブル対応)させないでよ?」
それは冗談めかしつつも、治安隊としての「お前ら節度を守れよ」という釘刺しでもあった。
「スイ! オレたちもやってみようぜ! 何が出るかワクワクするだろ!」
「スイちゃん、サクラやりたい! やりたい!」
退屈していた前衛二人組が、現金な勢いで食いつく。
「はいはい。そうなると思ったけど……私たちには、その錬金釜に放り込むための『素材』が何一つありません」
「え~、無いのかよ! せっかく面白そうなのに!」
スズカが肩を落とす。するとサクラが「あっ!」と何かを思いついたように腰のブックホルダーからメモ帳と魔道書を取りだし。
「そうだ! サクラの持ってるこの『メモ帳』と『魔道書』、入れたらどうかな!」
サクラが取り出したものを見た瞬間、私は血の気が引いて顔が青ざめた。
「……やめなさい!! それ、いくらするものだと思ってるのよっ!」
メモ帳はまだしも、あの魔道書は億、億単位の価値があるんだから! 今度ジェナさんに頼んでもタダで作ってくれるわけじゃないんだから、釜に入れてゴミになったらどうするのよ!
私の剣幕に、サクラは「あ、ごめんちゃい」と、自分が何をしようとしていたのかようやく理解して小さく謝った。
「まあ、やりたいって言うなら、外に出てモンスターを倒して、ドロップアイテムを集めてから戻ってきましょうか」
「それが良いですね。こちらの遺跡には特に探索すべき未踏破エリアもなさそうですから、丁度いい狩場になるでしょう」
「そうだな。そうと決まれば、さっさと外へ行こうぜ!」
「あら、そうなると、残念だけどワタシはここまでね。治安維持のパトロールが残ってるから」
「そうでしたか……。ここまで案内していただいて、本当にありがとうございました、メーヴェさん」
「良いのよ~。また困ったことがあったら、その時は遠慮なく声をかけてね。……お嬢ちゃんたち」
メーヴェさんは最後に、私たちの頭上でふよふよと浮いているおっさんAIと、私たちに向かって投げキッスを一つ飛ばしながら、人混みの中へと消えていった。
『そんなら、わてらも外へ出まひょうか! 宝探しは無理でも、モンスター狩りならお嬢さんらの本領発揮やろ!』
私たちは、巨大な未来遺跡に設置された「ガチャ(錬金釜)」を回すというささやかな野望のため、外を徘徊するモンスターを討伐するべく、再び遺跡の外へと向かうことにした。
そうして私たちは遺跡の外へと出た。おっさんAIの的確な索敵案内のもと、一泊二日のこの小旅行は「モンスターを倒して倒して倒しまくる」という、ひたすらストイックな狩猟の時間へと変貌した。
帰還時間は、スズカの神霊「ストームサンダー」の空間航行能力があるから、まあ一瞬で済む。その猶予を込みにしても十分に遊べる時間になった頃、私たちは再び遺跡の中へと舞い戻った。
「よっしゃー! 良いのを出すぜ! 今度こそ大金星だ!」
「出ろー! 超レアアイテム~!!」
スズカは豪快に拳を突き上げ、サクラは叫び声と指パッチンという独自の儀式を経て、錬金釜の前に立った。
「なんかこう……福引きのガラガラをしに来た気分ね」
商店街の買い物で渡される補助券を必死に集めて、行列に並んでガラガラを回すあの感覚。
『感覚的には同じもんやで。まあ、ここには「ハズレ」ちゅうハズレも無いはずやけどな』
「レシピ通りに材料を入れるならともかく、私たちは晶石以外に目ぼしい素材を拾えなかったわよ? 本当に平気なの?」
「なにスイ、心配するな! 当たれば良いんだよ、当たれば!」
「そうだよスイちゃん! 当たるまで回せば、それはもう当たりなんだよ!」
うん、なんか二人とも、ギャンブル沼に沈んだ人間特有の危険な発言をしている気がする。
「ふふ、私も楽しみです。こう言ったことはしたことがないので」
「うそっ!? ないの、ヒマリ!」
「はい。ですからワクワクします」
「おーい、二人とも! 話も良いけど、さっさとやろうぜ。……おっさんAI、これどうすれば良いんだ?」
『ほいほい。ちょいと説明するで。この真ん中の装置に「基礎」となるアイテムを置くんや』
「おう、こうだな」
『そんで、左右の装置にアイテムを必ずひとつは置くんや』
「これでいい?」
スズカとサクラが指示通りにアイテムを配置する。
『そんでそこにあるレバーをガチャンコすれば、あとは勝手に出来上がるで』
「……なんと言うか、錬金術というより、お手軽料理すぎる感覚ね」
「よっしゃー! 回せ回せ!」
「回せー!」
二人が勢いよくレバーを引くと、装置が重低音を響かせて動き出した。中に置いたアイテムが光となって溶け込み、そのまま装置の周囲で円を描くようにぐるぐると回りながら、次第にひとつの塊へと凝縮されていく。
そして光が収まって現れたのは――。
「……晶石、ね。入れたアイテムも晶石だから、変化なしってことかしら?」
『いや、正確に言うといつもの晶石よりエネルギー密度が高い「品質の高い晶石」や。まあランクアップするほどやないけど、ギルドの交換所に出せば、いつもより高く買い取ってくれるで』
「次だ次! 回せ回せ!」
「回転だ!黄金のエネルギーだ!」
「うわ、完全にガチャに取り憑かれた人になってる わ、あの二人……」
とは言え、いくら大量の素材を持ち込んでも、そうそう大当たりが出るものでもないらしい。その後、私やヒマリが試してみても、大差のない結果が続いた。
「スイちゃん~、もう一回……もう一回だけ~」
「うおぉおおっ! なんで当たらねぇんだよ!」
「はいはい、もうおしまい! 後ろに行列ができてるんですからね。それに、もう帰る時間です。地上に戻りますよ」
泣きつくサクラと、破産したギャンブラーのような顔をしたスズカを連れ、私たちは地上へと戻る準備を始めた。
「次こそは、次こそは当ててやるからな!」
「あいしゃるりたーん!」
「はーい、帰りますよ!」
駄々をこねて床を転がる二人のお尻を一人ずつ叩いて促し、私たちの小旅行は、ささやかな未練を残したまま終わりを迎えた。
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今回、作品に挿し絵を追加しました!
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