No.6活動記録:【検証】コテコテなサポートと、無駄にクオリティの高い棒人間
この作品には、この話以降、方言を使うキャラクターが多数登場します。
作者は方言に詳しいわけではありませんので、もし使い方に違和感や誤りがありましたら、ご容赦いただければ幸いです。
No.6活動記録:【検証】コテコテなサポートと、無駄にクオリティの高い棒人間
私たちはギルドの受付へと向かい、教えてもらった『記録用ドローンカメラ』を借りることにした。
レンタル料金自体は後払いで、もし探索中に重要な情報や希少な構造を記録して持ち帰れば、逆にギルドから報奨金が貰えるシステムらしい。ただし、壊したら当然ながら一発で罰金。保険があるとはいえ、今の私たちのなけなしの予算では一発で手痛い借金を背負うことになるため、絶対に無茶な戦闘で巻き添えにするわけにはいかない。
「へえー、このでっかいのがドローンカメラなんだ? バスケットボールくらいあるね!」
「高性能の最新モデルだと、それこそゴルフボールくらいのコンパクトな大きさのもあるらしいけどね。今の私たちにはそこまでお高いのは必要ないわ」
「その代わりに、この子には最新のサポートAIが搭載されているそうですよ。自動追尾での撮影だけでなく、アイテムの簡易鑑定から、遭遇したモンスターの情報まで音声で教えてくれるらしいです」
「おおっ! 君、見た目の割にすっごく優秀なんだねー!」
サクラが親しみを込めてドローンカメラのボディをポンポンと叩いた、その時だった。
カメラがブオン、と甲高い駆動音を立てて起動した。ゆっくりと宙に浮遊し、レンズの真ん中あたりに液晶の可愛らしいツリ目が現れたかと思うと、スピーカーからとんでもない声が響いた。
『おまっとさんでした! わて、このドローンカメラに搭載されてるサポートAIですわ。以後、よろしゅうたのんますで!』
「「「…………」」」
……もの凄いおっさん声だった。
コテコテの関西弁を喋るおっさんAIが、実に馴れ馴れしい口調で私たちの周りをブンブンと飛び回る。
「すごい! このカメラ、お喋りできるんだ! わたしサクラ、よろしくね!」
『サクラはんでっか。よろしゅうな! そっちのシュッとしたお二人さんは?』
「私はヒマリです。よろしくお願いします」
「……スイよ。ってか、最近のAIってこんなに流暢に喋れたっけ?」
『ああ、これでっか? そら無口で機械的に「了解しました」「機能を開始します」って言うだけでもええねんけど、それじゃつまらんやろっちゅう開発陣のニッチな要望でこうなったんですわ。まあ、お喋りが鬱陶しい言うなら、わて、だんまりモードになりますさかい。いつでも言うてや?』
「ええー、お喋りしようよ! サクラお喋り大好きなんだから!」
「……まあ、配信する上で邪魔じゃなければ、そのままでいいわよ」
『お、スイはんは配信者でっか! なら任せてや。わて、ええ画撮りまっせぇ!』
「期待しないで待ってるわ。……さて、カメラの件はこれで良いとして。次はダンジョンに入る前に、私たちの『初期スキル』の検証よ。まずは私の『騎士』に最初から生えてるスキル。確か『騎士道』って名前なんだけど……」
『おっ、スイはんはジョブありのスキル持ちでっか! その「騎士道」スキルはな、己の掲げた信念や行動規範に反しない限り、自身のステータスに持続的なバフ(強化効果)がかかる優秀なスキルでっせ』
「……スキルの詳細説明までできるの、あなた?」
『まあ、一般的にギルドに登録されてる知識の範囲内だけやけどな。それなりのデータは頭に入ってまっせ!』
「そうなの。それは本当に助かるわ」
『へへっ、お嬢ちゃんらの手伝いができたのなら、何よりですわ!』
「じゃあ、私の分はこれでよしとして……次はひまりね」
「はぁい。スキルを使おうと意識すると、頭の中に勝手に言葉が浮かんでくるんですよね」
「そうそう、それが魔法系の特徴よ」
『ほうほう、ってことはヒマリはんは魔法職系なんですな。魔法には攻撃、補助、回復、特殊と色々おますが、どの魔法職にも共通してるのは「言葉は浮かべど、その具体的な効果は実際に放つまで分からん」っちゅうことですわ。本番の戦闘でぶっつけ本番で使うより、まずはここで一回練習で使こうておいた方が、怪我なく安全に進めますで』
「というわけだから。ヒマリ、一発やってみて」
「はぁい。では……スキルさん、お願いします」
ヒマリは目を閉じ、自身の意識の内にだけ展開されているであろうステータス画面を見つめた。やがて、ヒマリはその画面をなぞるようにしながら、少し不思議そうに首を傾げた。
「あの……これ、文字数がずいぶんと長文ですね。まるで、現代詩のようです」
『文の長さや傾向はその人の資質によって変わるさかいな。ヒマリはんの魔法適正が、たまたま長文のタイプやったっちゅうことですわ』
「それでも、もし攻撃魔法ならありがたいわね。私だけの前衛じゃ対処しきれない敵が出てきた時、火力になってくれるでしょうから」
「わかりました。では、使ってみますね」
ヒマリは私たちから少しだけ距離を置き、背筋を伸ばしてその場に佇んだ。
そして、静かに、しかし凛とした透き通る声で、頭に浮かんだ呪文(詩)を口にし始める。
「――夜の底、静寂が支配する森で、一本の枯れ木が、ひそかに息をのむ。
星たちの冷たいまたたきを浴びて、心に宿る小さな赤が、かすかに震えた。
それは、あなたの中の静かな情熱、まだ誰も知らない、はじまりの火。
風が吹けば消えてしまいそうな、頼りない光かもしれないけれど、その奥には、世界を照らす熱が眠っている。
恐れずに、その胸の火を暗闇の向こうへ、解き放ちゆけ。大いなる自然が、夜を明かしてあなたを待っている。
あなたの歩む道は、やがて、美しく揺らめく、光の川になるから」
花畑の空間に、ヒマリの美しい朗読のような声が響き渡る。
「……。……ずいぶん、長いのね」
『いやいや、文が長ければ長いほど、そのぶん効果の威力も跳ね上がるっちゅう理屈でっせ。ただな……あの文脈から察するに、もしかしたら攻撃魔法やないかもしれまへんで』
「え、そうなの?」
『攻撃系の言霊はな、もっと「敵を倒せ」とか「いてこませ!」みたいな、ストレートで物騒な単語が多いんですわ。逆に補助系は、対象が「あなた」とか「心に宿る」みたいな、内面に語りかけるようなフレーズが多い傾向にありましてな』
「と言うことは、ヒマリのあの長い呪文の正体は……」
『十中八九、味方を強化する補助系か、傷を癒やす回復系でおまっしゃろな』
カメラの冷静な分析と同時に、ヒマリを包んでいた淡い光が収束し、彼女の唇から、その詩の最後を締めくくる『魔法名』が小さく紡がれた。
「――『焔の火種』」
ヒマリは呪文の最後のフレーズまで綺麗に唱え終えた。けれど、特に目立った変化は起きない。
『ヒマリはん。もしそれが対象に効果を及ぼすタイプの魔法やったら、スイはんかサクラはんに意識を集中させてみてください。そうすると、スコーンと発動できる感覚が湧いてくるはずでっせ』
「なるほど、意識の指向性ね。……ならヒマリ、私に試してみてちょうだい」
「わかりました、やってみます。ええっと……スイちゃんに意識を集中して……うーん、えい!」
ヒマリが可愛らしく気合いを入れると、一瞬だけ彼女の身体が淡い光を放った。そしてその光は矢のような軌跡を描いて私の方へと飛んできて、胸のあたりに吸い込まれるようにして消えた。
「……どうですか? スイちゃん」
「……うーん。特に体温が上がったとか、見た目が変わった感じはしないかな?」
『うむうむ。さっきの文脈から考えると、精神の高揚、ステータスのバフ、もしくは瞬間的な微回復あたりやと思うんやけど……スイはん、ちょっとその場で跳び跳ねてみたり、身体を動かしてみてくれまへんか?』
「わかったわ」
私はその場で軽く屈伸をしたり、シャドーボクシングのように腕を振ったりしてみた。
すると、その瞬間に明らかな『異変』を体感する。
「……っ!? すごいわ、これ……! 身体が、信じられないくらい軽い……!」
手足を動かすたびに、まるで見えない強力なサポーターを全身に装着しているかのように、ぐんぐんと力が湧き上がってくるのだ。
『ほうほう! ってことは物理ステータスの上昇でおますな。他になんか自覚症状はありまっか?』
「うーん……心なしか、なんだかやる気が満ち溢れてくるというか、精神的にもちょっと高揚してるかも?」
『なるほどなるほど、高揚効果もありと。まあ、あれだけ長くて立派な現代詩やさかいな。複数の効果がぎょうさんてんこ盛りになってるタイプ(複合バフ)の魔法なんですわな。あとは、この効果がどれくらい持続するか。しばらくは様子を見といた方がエエなぁ』
「わかったわ。ありがとう、ヒマリ。これなら実戦でも大助かりよ」
頼もしい魔法の効果に私がガッツポーズを浮かべていると、私達の横でずいぶん長いこと静かなままでいる、もう一人の幼馴染の存在に気がついた。
「――で、最後にサクラなんだけど。……あんた、さっきからずっと黙って何してんのよ?」
「んにゅ? お絵描き。見て見てスイちゃん! じゃじゃーん、パラパラマンガが出来たよ!」
サクラは先ほど買ったピンクのメモ帳を嬉しそうに掲げた。
サクラが親指でページの端をバラバラバラッ!と勢いよくめくると、そこには、白い紙の上を縦横無尽に走り回り、綺麗なフォームでバク転を決めるクオリティの高い『棒人間』の姿が、寸分の淀みもなく滑らかに描かれていた。
「あんた……なんでそんな変なところで無駄に高い才能を発揮してるわけ?」
「えへへ、すごいでしょー!」
『おぉ、うまいもんやでサクラはん! アニメーションの基本をバッチリ押さえてはるわ!』
「おっさんAIまで褒めないの!」
結局、まともな魔道書も無いままなので、サクラの『ブックマーカー』に関するまともな検証にはならなかったけれど、これでひとまず準備は万端整ったと言っていいだろう。
「よし! それじゃあ、次はいよいよダンジョンに潜って、本物のモンスターとの初戦闘よ!」
「おーっ! いよいよだね!」
「お~っ、怪我のないように頑張りましょう!」
『へへっ、初バトルの雄姿な、バッチリ特等席で録画させてもらいますわ。映像のクオリティは任せてぇな!』




