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No.5活動記録:ストレージマーケットの掘り出し物




 No.5活動記録:ストレージマーケットの掘り出し物




 次なる本格的なダンジョン探索に向けて、私たちは自分たちの装備品を買い揃えるべく、ダンジョンギルド内にある『ストレージマーケット』へとやって来ていた。


 「すごーいっ! いろんな服や武器がいっぱいあるよー!」


 「へえ、もっとごちゃごちゃしたフリーマーケットみたいな場所を想像してたけど……まるで高級なブティックみたいに綺麗に陳列されてるのね」


 「そうですね。これならお目当てのジャンルを探して、色々見て回りやすそうです」


 白を基調とした洗練された店内には、実用的な防具から物々しい武器までが美しく並べられている。


 初めて見る本物の装備の数々に、私とヒマリが感心していると、奥の通路からさっそくサクラのテンション高めの声が響いた。


 「見て見て、スイちゃん! 黄金のディグ・クロー!!」


  振り返ると、サクラが陳列棚から取ったらしい、金ピカでごつい猛獣の爪のような武器を両手にガッチリと嵌めて、格闘ゲームのキャラクターのように格好をつけていた。


 「ばっ!? あんた何お店の商品を勝手にベタベタ触って持ち出してるのよ! 怒られるでしょ!」


 「あはは、大丈夫ですよ。そちらの商品はお手に取って試していただいても問題ないやつですから」


  焦る私をなだめるように、お店の店員さんがにこやかな笑顔で近づいてきた。


  「そう、なんですか……?」


  店内を見渡すと、ほとんどの強力そうな武器や防具はガラスのショーケースに入れられて厳重に保管されている。その中で、この爪だけが剥き出しで置いてあったのはどういう理由だろう。私の疑問を察したように、店員さんが人当たりの良い声で解説を加えてくれた。


 「そちらに並んでいるのは展示用のレプリカ商品なんです。とは言え、サイズや重さ、重心のバランスなどは全て本物の装備と全く同じに作られています。違うのは、ステータスが上昇するような『アイテム効果』が宿っていないことくらいですね」


 「なるほど! 身に付ける防具や武器は、実際に自分の体に合わせてみないと、サイズや使い心地が合うか分かりませんもんね」


 ヒマリがポンと手を叩いて納得する。


 「はい、おっしゃる通りです。ただ、中には装備すると自動で身に付ける人の体型に合わせてサイズが微調整される、魔法効果付きの高度なアイテムもありますので、すべてがこうして展示されている訳でもないんですよ」


 「はえー、色々とあるんですね。勉強になります」


 「ふふ、もし何かお探しのものや気になるカテゴリーがあれば、いつでもお声をかけてくださいね」


 「はい、ありがとうございます!」


 丁寧な店員さんにお辞儀をして見送る。さて、私の『騎士』用の軽鎧でも探そうかしら――と思ったその時。


 「スイちゃん、スイちゃん」


 「……今度はなによ、サクラ」


 服の裾をツンツンと引っ張られ、半ば諦め混じりに振り向いた私は、その場で硬直した。


 サクラと、そしてあろうことかあの冷静なヒマリまでが、全身ごつくておかしな組み合わせの重金属鎧ヘヴィアーマーを身にまとって直立不動のポーズを決めていたのだ。


 「見て、呪いの装備」


 ヒマリが至って真面目な顔で、ロボットのようなポーズをしながらポツリと言った。


 「……あんたら二人、魔法をメインに戦う後衛職(言霊士とブックマーカー)でしょうが!! なんでそんなガチガチの前衛職みたいな格好に身を包んでるのよ! ほら、紛らわしいから早く脱ぎなさい!」


 「はぁい」


「……ねえ、スイちゃん」


 「だから何よ?」


 「……サクラ、本当に呪われた。鎧が体にがっちり噛み合って、自力で脱げなくなった……っ! どうしよう、スイちゃん!? 教会! 教会に行って呪いを解いてもらわなきゃあああ!」


 「ああもう、レプリカなんだから呪いなわけないでしょ! 落ち着きなさい、私が後ろのベルトを外して脱がしてあげるから!!」


 まったく、騒がしいったらありゃしない。


 私は苦笑いする店員さんに頭を下げて平謝りしつつ、気を取り直して自分たちに合った装備品を探して回り始めた。


 「……くっ、わかっていたことだけど、やっぱりお値段が……っ」


  並んでいる商品の値札を買い出し用のノートと照らし合わせ、私は思わずめまいを覚えた。価格帯が、私の予想していた金額よりも綺麗に桁がひとつ、下手をすればふたつも高い。


 同好会のなけなしの準備金(私の貯金)を全て注ぎ込んでも、このままだと全員分どころか一人につき何か一つ買えるかどうかの瀬戸際だ。


 「ねえねえ、スイちゃん! サクラ、あれ買いたい! あの、なんか、もの凄く強そうなやつ!」


  サクラが意気揚々と指差したのは、ガラスケースの特等席に飾られた、ドクロの装飾がおどろおどろしい雰囲気を放つ重厚な本――見るからに高威力の闇魔法でも使えそうな魔道書だった。


 えーっと、お値段は、一、十、百、千、万、十万、百万……。


 「買えるかぁああ!!! 私たちの予算を考えなさい!」


 「えーっ。でもでも、ゲームだと初期装備にお金をかけた方が後々すっごく楽だよ?」


 「……わかる。言いたいことはもの凄くわかるんだけど! 現実にはお金がないのよ……っ!」


 「……スイちゃん。目から血の涙が出てるよ?」


 「出てないわよ! もうほら、私たちが買えるのはあっちのワゴンセール方面! できるだけ安くてコスパが良いのを選びなさい!」


 「はーい……」


  トボトボと安い初心者コーナーへ歩いていくサクラを見送り、私はガックリと項垂れた。そんな私の隣に、ヒマリが静かに寄り添って声をかけてくれる。


 「スイちゃん、私はどうしましょうか?」


 「そうね……。ヒマリの『言霊士』は、武器がなくても呪文(言葉)を唱えるだけで発動する魔法系のジョブだと思うから。ごめんね、しばらくは装備品やアイテムの購入は待ってもらっても良い……?」


  申し訳なさで身を縮める私に、ヒマリは「ええ、構いませんよ」と、少しも嫌な顔をせずに優しく微笑んだ。


 「それよりも、まずはスイちゃんの方の装備品を優先して整えた方が良いと思います。スイちゃんはパーティーの盾となる前衛職ですからね。もしお怪我をされたら大変です」


 「ヒマリ……! ありがとう……っ」


  その聖母のような優しさに全俺(私)が泣いた。私はヒマリの手をギュッと握りしめ、頼もしい相棒に指示を出す。


  「じゃあ、私は自分の防具を見てくるから、サクラの方の様子を見ておいてもらえる? あのこ、目を離すとすぐに脱線して変なレプリカに引っかかるから」


 「はぁい、わかりました。任せてください」


 ヒマリにサクラの監視を委ね、私は前衛用の防具コーナーへと足を向けた。


 予算的に全身を固めるのは無理だけど、せめて『盾』くらいは買っておかないと。事前調べによると、騎士系のジョブは盾を使った防御スキルの派生が多いって聞くし、まずはここからね。


 私は、できるだけ低予算で済ませられる『盾』のコーナーへと足を運んだ。


 一口に盾と言っても、その種類は実に豊富だ。手のひらサイズの小さなバックラーから、自分の全身をすっぽり隠せるほどの巨大なタワーシールドまで、ズラリと並んでいる。


 私がああでもないこうでもないと頭を悩ませていると、先ほどの親切な店員さんがそっと声をかけてくれた。


 「もしよろしければ、お客様に見合うものをお見繕いさせていただきますが?」


 「あ、よろしくお願いします! 実は、私はまだ初心者トラベラーで、これから配信活動もしたいと考えているんです。今はハンディカメラを使っているので、戦う時にできれば片手をフリーにできるような盾がいいなと思っていて……」


 「なるほど、配信者様ですね。ちなみに、自動で追従してくれる浮遊型のドローンカメラなどのご購入予定はございませんか?」


 「あるにはあるんですけど……ちょっと、今の私たちの予算じゃ手が出せなくて」


  恥ずかしながら予算不足を告げると、店員さんはポンと手を打って耳寄りな情報を教えてくれた。


 「それでしたら、ダンジョンギルドでトラベラー向けに実施している『記録用カメラのレンタル制度』を頼ってみてはいかがでしょうか?」


 「えっ!? レンタルなんてあるんですか?」


 「はい。ダンジョン内は未だ未知の領域が多く、ギルドとしてもトラベラーの皆様に生態系や内部構造の記録データを共有していただきたいのです。その際、撮影のために片手が塞がって命の危険に晒されては本末転倒ですから、現在は普及型の浮遊ドローンカメラを格安、あるいはデータ提供と引き換えに無料で貸し出しているんですよ」


 「そうなんですね! ありがとうございます、後で絶対に確認してみます!」


  思わぬ収穫に胸を躍らせる私に、店員さんは優しく微笑んだ。


 「はい、ぜひ。では、それを踏まえた上で、改めて盾のご要望はございますか?」


 「はい! だったら私は――」


 腕にガッチリと固定できて片手が自由になるシールドガンドレッドを、店員さんお勧めで小型の武器が内蔵できる頑丈な小型盾ソードインシールドを予算内で購入することに決めた。


  満足のいく買い物を終え、いざお会計という時。私は隣に並んだサクラの手元を見て、思わず目を丸くした。


 「……ねえ、サクラ。あんたなんで魔道書じゃなくて、そんなファンシーなメモ帳なんて買おうとしてるの?」


 「え? だってこれ、すっごく可愛いと思わない? ピンク色だし、サクラにぴったりだと思うの!」


 「……うん、色とかデザインね。ものが完全に女の子向けの可愛いメモ帳よね。……ねえヒマリ」


 「ごめんなさい、スイちゃん。サクラちゃんがどうしてもこれが良いってきかなくて、つい……」


 「甘やかしの親かあんたは! ハァ、どうするのよ魔道書の方は。そんなのじゃ魔法使えないでしょ?」


 「ふふん、甘く見ないでスイちゃん! これね、店員さんが言うには『いくらページを破っても中身が無くならない不思議なメモ帳』なんだって。凄くない!?」


 「えっ、紙がなくならないって……それ、普通に凄くない!? どこにあったのよそれ、ちゃんと予算内のものよね!?」


 「大丈夫だよ、サクラだってそこまでバカじゃないもん! ちゃんとスイちゃんが指示した安売りワゴンの中から発掘してきました。えっへん!」


 胸を張るサクラの横から、ヒマリが苦笑しながら補足を加える。


 「そのメモ帳、確かにいくら破っても紙はなくならないらしいんですけど……破り取った紙は、数分経つと光になって消えてなくなってしまうそうなんです。ですので、普通の記録用としては全く使い物にならない『訳ありのハズレ魔道具アイテム』だそうで……」


 「あ、うん。なるほど……。ずっと残るならともかく、数分で消えちゃうんじゃね。……まあ、それでも新しい紙を買い直さなくて済むのは、落書き用としては便利なのかな?」


 「魔道具としての有用性は、今のところ皆無に等しいですけどね」


 ヒマリもハズレだと分かっていながら、サクラに買い与えようとしていたらしい。まあ、ここでダメと言ったらサクラが「これが良い! これじゃなきゃイヤだぁ!」と床で大騒ぎしかねないし、何より予算内なら文句を言う筋合いもないのだけれど。


 「……でも、ダンジョン探索には一切必要なさそうね」


  私がジト目でメモ帳を見つめると、ヒマリが私の肩を優しく叩いてクスリと笑った。


 「まあまあ。何が役に立つかは分かりませんし、ゆっくりやっていきましょう、スイちゃん」


 「そうね……。よし、じゃあ会計を済ませたら、ギルドでドローンカメラを借りて、スキル検証してから、次こそ本格的な初戦闘バトルに突入よ!」









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